王子に溺愛された、平凡な少女の話

ハルノ

文字の大きさ
6 / 55
第一章

06.

しおりを挟む
 しばらくしてリゼットは目を覚ました。自分の寝室にいることに気づき、小首を傾げる。
 そうして、ベッドサイドに椅子に腰掛けてこちらを見るレオンに気がつく。

「レオン……!」

 リゼットは半身を起こしレオンにしがみついた。

「レオン、わたくし、わたくしは……」
「もう大丈夫だ。毒は指輪が消してくれる」

 それは淡い紫色の宝石が埋め込まれており、金の細工が施された指輪だった。
 その指輪をリゼット右手の中指にはめると、ほんのりと光り輝いた。
 少しだけ、何かを話したい気持ちは治まった。
 レオンはベッドサイドに腰掛け、リゼット右手と、自分の左手を絡ませた。

「助けに来てくれてありがとう、本当にごめんなさい」
「ごめんって、もう何回も聞いた。効果ないのか?」
「違います!これは本心です。……王家の指輪?」
「そうだ。いつかリゼットに送ろうとしてた指輪。まさかこんなに早くなると思わなかった」

 繋いだ手を、レオンは口元持って行き、愛おしく口づけをした。

「レオン……先程のあの、あれもですけど……なんだか情熱的……に、」

 言いかけた言葉は、レオンの口づけで封じられる。
 リゼットの頬にレオンの金髪が触れる。

「だって、言わなくていいこと話しそうだし。それに前はリゼットは嫌かなと思って……」
「いや、というか……」
「嫌いじゃない?」
「……!」

 繋いだ手と反対の腕が、リゼットを引き寄せて体を密着させる。そうして、また、深く、隅々までリゼットの口を甘く愛おしく味わう。

「……ずっと、こうしたかった」

 レオンはリゼットの頬や耳朶にも口付けをし、その度に、リゼットから甘い吐息が漏れる。

(い、嫌じゃないけれど……恥ずかしくて身の置き場がありません……!)

「あの~、お嬢様、レオナード様、お医者様が着きましたけど、通しても問題ないですか?」
「……っ、も、問題ありません!」

 赤い顔のリゼットがレオンの胸元を押し、レオンは不満顔に眉を歪め、マノンに入るよう促した。

(医師を呼び出したのはレオナード様では?)

 突っ込むべきかマノンは苦悩したが、リゼットが思ったより元気そうで安堵した。

 医師が問診をし、リゼットの顔や血圧を診た。特に悪いところもなく、指輪の効果でほとんど毒は消えたようだった。
 しいていてば、今夜だけ様子を見るほうがよいとのこと。

 それは、毒というより、今日の出来事を考慮してのことだった。

「添い寝しようか?」
「だ、だだだ駄目です!」

 軽いノリのレオンと、全力で抵抗するリゼット。
 マノンも「まだ未成年ですからね~」と肯定はしなかった。
 ただ、隣室にレオンを泊まらせておくことは、リゼットの父から許可をもらったそうだ。

「お茶会の時の髪飾り、あれも毒消しや魔除けの効果があったんだけど、壊されてしまったね」
「……そんな効果があったんですね。すみません」
「リゼットが謝ることないよ。魔力を施してたから、簡単に壊されるものじゃなかった。まさかブランティーヌに闇の魔力を持った『配下』がいると思わなかった」
「配下?」

「ああ。あまり公にはしていないが、悪魔と呼ばれるものが『配下』だよ」

 その時、リゼットの脳裏に、灰になる瞬間のヴィルデが浮かんだ。
 可愛らしい笑顔のまま、灰になって崩れた姿が。
 強い頭痛が起こり、リゼットは頭を押さえる。
 リゼットの名を呼ぶレオンの声が、遠くから聞こえるが、そのまま気を失った。
 その途端、リゼットの腕からピキピキとひび割れるような音がする。

「……っ!これは!」

 レオンはリゼットのドレスの袖をまくり、驚いた。

「鱗……?」

 リゼットの手首から二の腕の皮膚は、魚の鱗が生えていた。
 鱗は虹色に光っていた。
 レオンは指先で触れてみたが、とても硬く、ただの魚の鱗には思えなかった。

 マノンは医師を呼び戻しに、部屋を飛び出す。
 レオンはリゼットのドレスを整えて、キルトをかける。
 リゼットの頬に手をあてて、そっと撫でる。まだ頬は温かみあり、柔らかい。

「……また、あの呪いなのか?」

 独言と共に、大きな溜息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...