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第一章
07.
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リゼットが目を覚ましたのは、深い青の景色だった。
天から光が降り注ぐけれど、リゼットのところまではよく届いていない。
足元がよく見えず、目を凝らす。
どうやら、深い水の底にいるようだった。息ができていることに、不思議はあったが、自分と水の間に薄い膜が張られているようだと気がついた。
自室で着替えたままの、ラフなドレスのままだっった。
右手の中指にはレオンから贈られた指輪があり、安堵した。
「誰かいますか?」
問いかけても返っては来ない。
とりあえず、周囲を歩いてみる。
足元は水草も生えず、岩場になっていた。
真横を見てもそれが坂になっておらず、とても広い水の世界のようだった。
どちらに歩けば良いのだろう、少し悩んでいると、前方から何か光るものが近づいてきた。
胸元に手を当てて、それが味方であることを祈る。
「誰じゃ」
よく響く声がした。
腰まで伸びた青い髪を揺らし、金色の目をした美しく妖艶な女性。
「わたくしはリゼット・レイシーモルドと申します」
丁寧にお辞儀をして名乗る。
青髪の女性は、満足気に笑った。
「よく知っておる。そなたが幼い頃に、ここに来た事があるのだが、記憶はあるか?」
「ここはどこですか?記憶?」
リゼットはこの場所に、初めて来たはずだった。
もう一度辺りを見回すが、何も思い出せない。
「ふむ。ここは、王国の湖の底じゃ。記憶無しのままでは話にならん」
女性は右手を軽く振る。
すると、女性とリゼットの間に、唐突にレオンが立っていた。
「レオン!?」
「……リゼット?」
レオンは驚いた顔でリゼットを見つめた。
「レオナード・フォルトデリア」
女性の方をレオンが向く。その姿を見て、だいたい察する。
「ディーフィート・シルヴメルティ様、お目にかかれて光栄です」
レオンは片膝をついて、女性に頭を下げた。リゼットもそれに倣う。
「堅苦しいしきたりは不要じゃ。顔を上げよ。わたくしのことも、ディーと呼ぶが良い。長い名前など煩わしい」
「わかりました」
「ところで、リゼットはここの記憶がないのじゃ」
レオンがちらりとリゼットをみる。リゼットの腕には、鱗がない。
ここには呪いが及んでいないようだ。
「それについては、こちらからも伺いたいことがあります。ただ……」
「リゼットがここにいることが、アレのせいなのだろう。すべてを話さなければ、解決はしない」
ピシャリと言い放つディーに、レオンは覚悟を決めなければいけなかった。
リゼットを引き寄せて、抱きしめる。額に軽くキスをし、申し訳なさそうな顔で見つめる。
リゼットは、どうしたら良いかわからない。
「…… レオンは、わたくしに何か隠し事があるのですか?」
「隠し事というか、リゼットにとって辛いことを、思い出させてしまう」
「わたくしにとって……?」
「リゼットの母のことだ」
「お母様のこと?お母様は、わたくしが小さい頃に、病気で亡くなったではありませんか。亡くなる直前まで、わたくしとレオンでお見舞いをしたことはよく覚えていますよ」
「……ちが、ぅ」
リゼットは戸惑った。
レオンと一緒に、庭で咲いた花を母の寝室に持っていったことは、確かに現実だと思っていた。
レオンはリゼットを力強く抱きしめて、ためらうように言葉を放った。
「目の前にいるディーが、リゼットの母だ」
「え?え?」
リゼットはディーを見た。
思い出の母と、ディーに共通するものなど、どこにあるのだろうか。
顔貌も、髪も、目も、話し方にすら面影などない。
「まったくっ!腹を痛めて産んだというのにのう」
ディーは両手を腰に手を当てて、眉をハの字にした。そうして、両手を広げる。
レオンはリゼットの手を取り、ディーのそばに連れていく。そうして、リゼットの背中を押した。
未だ混乱が続くリゼットを、ディーは両手で柔らかく包み込んだ。
「久しぶりじゃの。10年も経つと抱き心地が違って、大人のレディじゃないか」
「えええ?」
「異性だったらセクシャルハラスメントですよ」
「そんなこと言いおって。レオンだって抱きしめたりキスしたい放題じゃろ?」
「放題ではないです。一応、自制はしていました」
「……あの、え?本当に、どういう事なのか、教えてください」
ディーに抱きしめられながらい、幼児のように頬擦りされて、リゼットの混乱はピークを迎えていた。
「あ、そうだった。えーっと、どこから話したらいいかな?ここは現実とちょっと違う空間なんだ」
「そうじゃな。……いや、もう話し方も戻そう。その方が良い」
後はディーに促す。
ディーはリゼットの両腕を優しく掴み、視線を合わせた。
「少し長い話になる。貴女の失くした記憶と、私の話。立ちっぱなしも疲れるから、ソファに座って」
ディーが右手をサッと振ると、ソファとテーブル、暖かい紅茶と菓子が用意された。
皆が座ると、ディーは話を続けた。
◇◇◇
どこから話したらいいかしら。
とりあえず、記憶の部分だけ話すわね。
もし、具合が悪くなったら、いつでも言って頂戴。
貴女が6歳の頃になるわ。
まだ私が貴女のお母様で、そばにいた頃よ。
あ、まだちゃんと元気よ!
貴女とお庭を駆け回っていたわよ、うふふ。
私の家系は、この湖の女神様と縁があると言われていたの。だいたいが成人した女性に、女神様の力を継承するの。
女神様との継承されると、その後はほとんどをこの湖の底で過ごすことになるの。
家族と日々過ごせなくなって、ある意味で『呪い』よね。
私が成人した頃に、それを継承した。成人後に、お父様と結婚して、貴女が生まれた。
貴女が成人するまでの間に、継承まで色々教えるつもりだった。
でも、その前に、貴女がこの場所の道をみつけてしまったの。
貴女をそそのかした、闇の配下がいたの。
昨日、『それ』に会ったでしょう?
ええ。灰になる、『それ』
貴女が、ここーー湖の底ーーに来ることで、闇の配下が力を奪おうとしたの。
私が気がついて、ここに戻って来た。貴女たちがいたわ。
私は全力で闇の配下を倒して、貴女たちをお父様のところに戻した。
そして……私は、少し寝込んでしまったけれど、湖の主として生きることになったの。
今の姿が、私の本当の姿よ。
ああ、人間としてはね。もう一つ、ちゃんとした姿があって、それはきっとびっくりさせちゃう。
でも、見てみる?
◇◇◇
ディーはクスクス笑って立ち上がり、右手を振った。そうして、一瞬姿が見えなくなる。
リゼットたちが瞬きしたくらいで、目の前に大きな龍がいた。
竜になった母。
「これが本当の私。ねぇ、びっくりしちゃった?」
女性の声から、野太くチリチリと焼けるような声に変わる。
「はい……。とってもびっくりしました」
リゼットは正直に答えた。
そしてまた、瞬間に、人間の姿のディーに変わる。
「その時に、貴女にも龍の力が現れたのよ。まだ継承してないはずなのに。あの時の貴女は竜になりかけていた」
あの時ディーが見たのは愛おしい娘は、手足が竜の鱗で覆われていた。
この場所ーー湖の底ーーが、竜の血を呼び起こしたのか?
ディーは力を使い、娘を元の姿に戻したと言う。
「お父様のところへ送った後、貴女はしばらく眠って、その時のこと全て忘れたのよ。お父様もそのままで良いと話したわ」
ディーはソファに腰掛け、二人にも促した。
「レオンは、全部見ていたのよね」
「ああ。リゼットがすっかり忘れていたから、思い出さなくてもいいと思った」
「お父様も変わっているけど、貴方も変わっているわ。竜は、けっこう面倒よ?」
「わかっています」
「ところでリゼット、あの時のことは何か思い出したかしら?」
リゼットはふるふると首を振る。
「何も。でも、闇の配下は、お茶会で見た……のかも。あの、灰になって……」
「それ以上言わなくていいわ。『それ』はまた貴女を狙っているのね。それと、ここに来たきっかけも、貴女の力が起こされたのね」
「っ、それでまた竜になりかけているのか?でもここでは鱗は出ていない」
レオンが見たリゼットの鱗は、ここでは消えている。
「ここは私の力で溢れているからね。でも、向こうは変わっていない。私がまた治してみるから、屋敷に戻りましょうか」
ディーはにこりと笑うと、また右手を振った。瞬間、リゼットの自室に戻っていた。
天から光が降り注ぐけれど、リゼットのところまではよく届いていない。
足元がよく見えず、目を凝らす。
どうやら、深い水の底にいるようだった。息ができていることに、不思議はあったが、自分と水の間に薄い膜が張られているようだと気がついた。
自室で着替えたままの、ラフなドレスのままだっった。
右手の中指にはレオンから贈られた指輪があり、安堵した。
「誰かいますか?」
問いかけても返っては来ない。
とりあえず、周囲を歩いてみる。
足元は水草も生えず、岩場になっていた。
真横を見てもそれが坂になっておらず、とても広い水の世界のようだった。
どちらに歩けば良いのだろう、少し悩んでいると、前方から何か光るものが近づいてきた。
胸元に手を当てて、それが味方であることを祈る。
「誰じゃ」
よく響く声がした。
腰まで伸びた青い髪を揺らし、金色の目をした美しく妖艶な女性。
「わたくしはリゼット・レイシーモルドと申します」
丁寧にお辞儀をして名乗る。
青髪の女性は、満足気に笑った。
「よく知っておる。そなたが幼い頃に、ここに来た事があるのだが、記憶はあるか?」
「ここはどこですか?記憶?」
リゼットはこの場所に、初めて来たはずだった。
もう一度辺りを見回すが、何も思い出せない。
「ふむ。ここは、王国の湖の底じゃ。記憶無しのままでは話にならん」
女性は右手を軽く振る。
すると、女性とリゼットの間に、唐突にレオンが立っていた。
「レオン!?」
「……リゼット?」
レオンは驚いた顔でリゼットを見つめた。
「レオナード・フォルトデリア」
女性の方をレオンが向く。その姿を見て、だいたい察する。
「ディーフィート・シルヴメルティ様、お目にかかれて光栄です」
レオンは片膝をついて、女性に頭を下げた。リゼットもそれに倣う。
「堅苦しいしきたりは不要じゃ。顔を上げよ。わたくしのことも、ディーと呼ぶが良い。長い名前など煩わしい」
「わかりました」
「ところで、リゼットはここの記憶がないのじゃ」
レオンがちらりとリゼットをみる。リゼットの腕には、鱗がない。
ここには呪いが及んでいないようだ。
「それについては、こちらからも伺いたいことがあります。ただ……」
「リゼットがここにいることが、アレのせいなのだろう。すべてを話さなければ、解決はしない」
ピシャリと言い放つディーに、レオンは覚悟を決めなければいけなかった。
リゼットを引き寄せて、抱きしめる。額に軽くキスをし、申し訳なさそうな顔で見つめる。
リゼットは、どうしたら良いかわからない。
「…… レオンは、わたくしに何か隠し事があるのですか?」
「隠し事というか、リゼットにとって辛いことを、思い出させてしまう」
「わたくしにとって……?」
「リゼットの母のことだ」
「お母様のこと?お母様は、わたくしが小さい頃に、病気で亡くなったではありませんか。亡くなる直前まで、わたくしとレオンでお見舞いをしたことはよく覚えていますよ」
「……ちが、ぅ」
リゼットは戸惑った。
レオンと一緒に、庭で咲いた花を母の寝室に持っていったことは、確かに現実だと思っていた。
レオンはリゼットを力強く抱きしめて、ためらうように言葉を放った。
「目の前にいるディーが、リゼットの母だ」
「え?え?」
リゼットはディーを見た。
思い出の母と、ディーに共通するものなど、どこにあるのだろうか。
顔貌も、髪も、目も、話し方にすら面影などない。
「まったくっ!腹を痛めて産んだというのにのう」
ディーは両手を腰に手を当てて、眉をハの字にした。そうして、両手を広げる。
レオンはリゼットの手を取り、ディーのそばに連れていく。そうして、リゼットの背中を押した。
未だ混乱が続くリゼットを、ディーは両手で柔らかく包み込んだ。
「久しぶりじゃの。10年も経つと抱き心地が違って、大人のレディじゃないか」
「えええ?」
「異性だったらセクシャルハラスメントですよ」
「そんなこと言いおって。レオンだって抱きしめたりキスしたい放題じゃろ?」
「放題ではないです。一応、自制はしていました」
「……あの、え?本当に、どういう事なのか、教えてください」
ディーに抱きしめられながらい、幼児のように頬擦りされて、リゼットの混乱はピークを迎えていた。
「あ、そうだった。えーっと、どこから話したらいいかな?ここは現実とちょっと違う空間なんだ」
「そうじゃな。……いや、もう話し方も戻そう。その方が良い」
後はディーに促す。
ディーはリゼットの両腕を優しく掴み、視線を合わせた。
「少し長い話になる。貴女の失くした記憶と、私の話。立ちっぱなしも疲れるから、ソファに座って」
ディーが右手をサッと振ると、ソファとテーブル、暖かい紅茶と菓子が用意された。
皆が座ると、ディーは話を続けた。
◇◇◇
どこから話したらいいかしら。
とりあえず、記憶の部分だけ話すわね。
もし、具合が悪くなったら、いつでも言って頂戴。
貴女が6歳の頃になるわ。
まだ私が貴女のお母様で、そばにいた頃よ。
あ、まだちゃんと元気よ!
貴女とお庭を駆け回っていたわよ、うふふ。
私の家系は、この湖の女神様と縁があると言われていたの。だいたいが成人した女性に、女神様の力を継承するの。
女神様との継承されると、その後はほとんどをこの湖の底で過ごすことになるの。
家族と日々過ごせなくなって、ある意味で『呪い』よね。
私が成人した頃に、それを継承した。成人後に、お父様と結婚して、貴女が生まれた。
貴女が成人するまでの間に、継承まで色々教えるつもりだった。
でも、その前に、貴女がこの場所の道をみつけてしまったの。
貴女をそそのかした、闇の配下がいたの。
昨日、『それ』に会ったでしょう?
ええ。灰になる、『それ』
貴女が、ここーー湖の底ーーに来ることで、闇の配下が力を奪おうとしたの。
私が気がついて、ここに戻って来た。貴女たちがいたわ。
私は全力で闇の配下を倒して、貴女たちをお父様のところに戻した。
そして……私は、少し寝込んでしまったけれど、湖の主として生きることになったの。
今の姿が、私の本当の姿よ。
ああ、人間としてはね。もう一つ、ちゃんとした姿があって、それはきっとびっくりさせちゃう。
でも、見てみる?
◇◇◇
ディーはクスクス笑って立ち上がり、右手を振った。そうして、一瞬姿が見えなくなる。
リゼットたちが瞬きしたくらいで、目の前に大きな龍がいた。
竜になった母。
「これが本当の私。ねぇ、びっくりしちゃった?」
女性の声から、野太くチリチリと焼けるような声に変わる。
「はい……。とってもびっくりしました」
リゼットは正直に答えた。
そしてまた、瞬間に、人間の姿のディーに変わる。
「その時に、貴女にも龍の力が現れたのよ。まだ継承してないはずなのに。あの時の貴女は竜になりかけていた」
あの時ディーが見たのは愛おしい娘は、手足が竜の鱗で覆われていた。
この場所ーー湖の底ーーが、竜の血を呼び起こしたのか?
ディーは力を使い、娘を元の姿に戻したと言う。
「お父様のところへ送った後、貴女はしばらく眠って、その時のこと全て忘れたのよ。お父様もそのままで良いと話したわ」
ディーはソファに腰掛け、二人にも促した。
「レオンは、全部見ていたのよね」
「ああ。リゼットがすっかり忘れていたから、思い出さなくてもいいと思った」
「お父様も変わっているけど、貴方も変わっているわ。竜は、けっこう面倒よ?」
「わかっています」
「ところでリゼット、あの時のことは何か思い出したかしら?」
リゼットはふるふると首を振る。
「何も。でも、闇の配下は、お茶会で見た……のかも。あの、灰になって……」
「それ以上言わなくていいわ。『それ』はまた貴女を狙っているのね。それと、ここに来たきっかけも、貴女の力が起こされたのね」
「っ、それでまた竜になりかけているのか?でもここでは鱗は出ていない」
レオンが見たリゼットの鱗は、ここでは消えている。
「ここは私の力で溢れているからね。でも、向こうは変わっていない。私がまた治してみるから、屋敷に戻りましょうか」
ディーはにこりと笑うと、また右手を振った。瞬間、リゼットの自室に戻っていた。
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