聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

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第42話 舞踏会なんて、眩しすぎて無理です

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私は、アレクシス様……、アレク様の執務室で机の向こうに座る彼を前にして固まっていた。

「え?いま、なんて言いました?」
「だから舞踏会を開くと」
「その次です!」
「お前も出るといい」
「いや、無理です」
「は?」
「こっちが、は?ですよ」
前のめりに言う私に、空色の目を丸くしているアレク様。その隣で、ルーセルが肩を揺らして笑っている。

「大体、私踊れないですし、お姫様でもないのに場違いですよ、そんなきらびやかな場所、眩しすぎてです」
「なぜだ?言っている意味がよくわからん」
アレク様は怪訝そうに眉間に皺を寄せている。
「ふつう女はパーティーやドレスと言ったら、好きなのではないのか?」
「それはパリピや陽キャな女子ですよ。オタクはそうでもありません」
「オタク?……てなんだ?」
「………………」

オタクとは?生まれて以来、きらびやかな世界しか知らない王子様に、どう説明したらいいのだろう。
それは私のことです!……というのも、説明には難しそうだ。

「あ!では、メイドとして給仕をさせてください!」
「それはダメだ」
アレク様はきっぱりと否定する。
「はい?言っている意味がよくわかりません」
「…あはは、アレクが振られている」
「ルーセルは煩いぞ」
隣で身体を曲げて、さらに笑っているルーセルをアレクが睨む。
今日も私はレイとともに城に出勤してメイドの仕事をしていたところ、アレク様の執務室に呼ばれて何かと思えば、舞踏会に出ろなんて、とんでもないことを彼は言ってきた。

私もルーセルを無視して、アレク様に言う。
「アレク様が舞踏会を開かれる意味はわかりました。前国王様が病で退位された今、国王不在の王室が、不安定であることを隠さなければならない。今なお王室は変わらず強固たるもので、その存在は揺るがないものであるということを、国の内外及び臣下にも示す必要がある。さらに、王の後継者がアレク様であり、病でせっているという噂を払拭ふっしょくする目的がある。ということですよね」
「まあ、そうだ」

アレク様には、先日のアンジェリカ姫の他に、何人か兄弟がいて、アレク様が王となることをよく思わない王子やその一派が存在する。いわゆる派閥にわかれた後継者争いで、今の王室には不穏な空気が漂っている。
北の魔法使いが目覚めたところに、王室が後継者争いなんかで内輪揉めして、揺れている場合じゃないのだけど。
ほんとは一致団結してほしいところだ。

まして、アレク様は呪いで陽にあたることが出来ない。だから、日中の明るい中での業務が出来ないし、他人に姿を見せることが難しい。あまり人前に姿を見せない第一王子は病で臥せっているという噂が、流れてしまっているのだ。
確かに、陽の下に出ることの出来ない国王では業務を行うことは難しいし、国王になるのは厳しいと思う。だけど、アレク様を中心にルーセル、レイがこの国のこと、この世界の人たちのことをすごく大切に考えていることは、よく分かる。
それに、ルーセルやレイだけでなく、タリアンさんやエリザ、他にも城勤めをする人の中には、アレク様のことを慕っている人が多いってことが、この数日間だけど、私にもわかった。

性格はときどき?クソ王子様なんだけど。

「舞踏会を開かれる理由は理解しますけど、それで私が出るというのは、関係ないですよね?」
「いや、ある。お前はもう一つの世界からの客人だ」
「はい?」
「せっかくだから、美味いものでも食べていけ」
美味しいもの……?
うーん、レイの家でも美味しいものは、いっぱい食べさせてもらってるのだけどなぁ。
思わず、アレク様の意図がわからなくて、きょとんとしてしまう。

そんな私に、ルーセルがにこやかに言う。
「ミツキ。アレクはね、パーティーにご招待して、キミに美味しいものをご馳走したいんだよ」
そして、バチンと音がしそうなウインクをした。
いやいや、ウインクされても?
「ほら、アレクはキミを連れて夜の居酒屋には行けても、昼間の可愛いカフェや人気のレストランには行けないでしょ?だから舞踏会でご馳走したいなんて、ほんと我が儘だよね~」
「おい!そこまで言ってない!」
アレク様が思わず立ち上がって抗議する。

「まあ、ミツキ」
アレク様はコホンと咳払いをして、にやりと笑った。あ、嫌な予感……
「これは、だ」
「え!?」
「お前、タダ飯は申し訳ないので、仕事したいと言っていたな。給料はずむぞ?」
「そんなぁ!」

え、ええーーーっ!
そんな、ズルイです。
こんなところで、聖女召喚を邪魔した代償がくるなんてっ

何も言えなくなってしまった私に、勝ち誇るかのような表情かおでアレク様は嬉しそうに言った。
「決まったな」

心底楽しそうなアレク様に、脱力と敗北感を感じてしまう。
使う側と使われる側……
勝ち組と負け組……
俺様とコミュ障……
次期国王様とメイド……
スパダリと腐女子……

いろんな言葉が頭の中をぐるぐる回るけれど、高みで笑うアレク様と地でひれ伏す私の図は残念ながら消えることはなく、どう考えてもその図をひっくり返すことは出来ないのだろう。

舞踏会中はルーセルが一緒に居てくれるっていうし、私は壁に張り付いてご馳走だけ食べていればいいよね。
ほんと舞踏会なんてキラキラしい想像しかない。
オタク女子にはその場に存在すると考えただけでも、ハードルが高すぎるんだけど……

考えただけで、つい溜息が出てしまいそうになるけど、考えても仕方がない。
私はこちらの世界にいる間、楽しむんだって決めたのだし。
それに考えてみたら、舞踏会なんて私達の世界に戻ったらご縁のないもの。これは、今後私が趣味の創作したりネット小説書いたりするのに、いい経験ネタになる!

そう考えると、単純だけど私のテンションも少し上がった。

舞踏会用のドレスもアレク様が用意してくれるらしい。
私には、舞踏会なんてどうしてよいのかわからないし、アレク様に言われるがまま、おまかせすることにした。
まあ、ドレスだけど、今回の舞踏会という業務のためのということでいいよね。
……なぁんて、軽く考えていた私は、あとで反省することになる。
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