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マルと山神さま
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今日は久しぶりになるだろうからと愁陽に言われて、マルは自分の実家がある山へ一泊二日で里帰りをさせてもらっていた。先程まで妹や弟たちに賑やかに囲まれて、質問攻めにあって大騒ぎだった。みんな都の街や宮廷など、まだ行ったことのない外の世界に興味津々なのだ。
マルは質問攻めから逃れるため、いや、もとい山神さまにも久しぶりに顔を見せようと、今は山神さまが住んでいる山の奥のほうへ向かって歩いていた。
マルのいう山神さまというのは、ここらいったいの山々を守る山の神さまだ。山の奥深くにある小さな庵に一人で住んでいる。
容姿は仙人のようで、白く長い髪を緩く背中で結わえて長い顎髭を蓄えている。その風貌で見た目は老人に見えるが、実際には身体能力はそんな年寄りだと感じさせない。いや、そこいらの若い者になど負けはしないだろう。
山神さまといわれる神様をやっているだけに生まれたのは、はるか二百年以上前だが(神様にはほんの二百年前だ)、谷川では俊敏に素手で魚を取り、滝も岩場をぴょんぴょんといとも簡単に駆け登って行くことなど朝飯前だ。
それもそのはずで山神さまはマルの師匠であり、マルはそんな山神さまが大好きだ。愁陽のもとに行くまでは、一族の中でも一番懐いていて、いつも傍にくっついていた。
「あ、山神さま!」
マルが山の神が住まう場所に辿り着いたとき、山の神は小さな庵の前の庭で、落ち葉などを燃やしながら何やら焼いていた。
「おや、マルかぁ。久しぶりじゃの」
あ、喋り方は相変わらずおじいちゃんだ。
久しぶりに聞いたらマルは、そんなことを思った。なんだかもうこの喋り方が懐かしくて嬉しい。
「元気そうですね!山神さま」
「まあ、神が風引いたとか嫌じゃろう」
「ははは、確かに!」
マルは庭先で燃やされている落ち葉の山に近寄った。
「ところで何、焼いてるんです?」
「たけのこじゃ」
「わあ、焼きたけのこ!」
そういったらお腹がずいぶん空いてきた。ぐうぅぅぅ……お腹が鳴った。
「はっ、はっ、はっ!お前も一緒に食べるかの」
「はい!いただきます」
「ついで今朝、川で捕れた魚も焼こうかの」
「わあ~い、しあわせ~」
そう言って、マルはふと先日自分が言ったことを思い出した。愛麗は小さくても幸せを感じることがあるのだろうか。
ちょっとしたマルの不安を感じ取った山の神が、どうかしたのかと尋ねた。
マルは最近、愛麗に会ったこと、そして自分が感じたことを話した。
山の神は難しい顔をした。
「そうかぁ。しかし、まだそのときではないのじゃよ」
「そのときって?」
「彼女にはこのさき試練が待っておるやもしれん」
パチッ、小枝か何かが火に爆ぜる音がした。
「試練って、なんですか?」
「それは、わしにもどうなるかわからん」
「そんな」
「マル、そのときはお前の勘を信じるが良い」
「ボクの……」
「あちあちあち……っ」
山の神がたけのこを指した枝を熱そうに焚き火から取り出す。それを山の神はふうふうして、パクっと食べた。
「ぅほうっ、ほぅっ、美味じゃのう」
「あ、山神さま、美味しそう!ボクもくださいっ」
「ああ、もちろんじゃ。ほれ」
あちちちちち……と山の神は言いながら焚き火から枝に指したたけのこをマルに渡してやった。
マルも山神さまを真似て、ふうふうして、パクっと口にした。
「ぅほうっ、おいひぃぃぃ!」
山の神は次に竹串に刺した焼き魚に手を延ばした。
香ばしい焼き魚の匂いがする。さっき塩もぱらりとかけてから焼いておいた。
マルの鼻がヒクヒクと魚に引き寄せられていく。
「う~ん!山神さま、とっても幸せな匂いがしますぅ」
山の神はふぉっ、ふぉっ、と笑いながら、焼き魚の串をマルに渡してやる。
「わあ~、いただきます!」
目を輝かせながら受け取ると、魚さん、ありがとう!とマルはパクついた。
「お前のよいとこじゃ。まっすぐで素直なとこが良い」
あ、愁陽さまにも似たようなこと言われたっけ……
マルはふと、そんなことを思い出した。
山の神は微笑ましそうに、マルが石に腰掛け魚を美味しそうに頬張る様子を見ていた。
この純粋で無垢な可愛い弟子もいつか試練に立ち向かわねばいけないのだろう。
けれどそれは必要なことであり、そしてこの笑顔に救われる者も多く、この若いオオカミは重要な存在となるだろう。
「なあ、マル。先のことはこのわしにもわからん」
「?」
「誰にもわからん」
「はい」
「ただ本人たちが選んで、自らの足で歩んで行くしかないんじゃよ。道は用意してやれても、歩くのは本人次第なんじゃ」
「愛麗さまのことですか?」
「うむ。もしものときは、わしも力は貸そう。だが出来るのは貸すだけじゃ」
「山神さま……」
「お前はお前が仕えておる主を頼んだぞ」
マルは山神さまの言葉の意味を考える。この先、何か起こるのだろうか。
けれど、もしそうだとしても自分は誓ったのだ。かつて愁陽に助けられた時から。
「もちろんです!」
マルは胸を張って、はっきりとした声で答えた。
ぱちっと、小枝が爆ぜる音がした。愛麗にも、愁陽にもこの美味しいたけのこと魚を食べさせてあげたい、とマルはそう思った。
マルは質問攻めから逃れるため、いや、もとい山神さまにも久しぶりに顔を見せようと、今は山神さまが住んでいる山の奥のほうへ向かって歩いていた。
マルのいう山神さまというのは、ここらいったいの山々を守る山の神さまだ。山の奥深くにある小さな庵に一人で住んでいる。
容姿は仙人のようで、白く長い髪を緩く背中で結わえて長い顎髭を蓄えている。その風貌で見た目は老人に見えるが、実際には身体能力はそんな年寄りだと感じさせない。いや、そこいらの若い者になど負けはしないだろう。
山神さまといわれる神様をやっているだけに生まれたのは、はるか二百年以上前だが(神様にはほんの二百年前だ)、谷川では俊敏に素手で魚を取り、滝も岩場をぴょんぴょんといとも簡単に駆け登って行くことなど朝飯前だ。
それもそのはずで山神さまはマルの師匠であり、マルはそんな山神さまが大好きだ。愁陽のもとに行くまでは、一族の中でも一番懐いていて、いつも傍にくっついていた。
「あ、山神さま!」
マルが山の神が住まう場所に辿り着いたとき、山の神は小さな庵の前の庭で、落ち葉などを燃やしながら何やら焼いていた。
「おや、マルかぁ。久しぶりじゃの」
あ、喋り方は相変わらずおじいちゃんだ。
久しぶりに聞いたらマルは、そんなことを思った。なんだかもうこの喋り方が懐かしくて嬉しい。
「元気そうですね!山神さま」
「まあ、神が風引いたとか嫌じゃろう」
「ははは、確かに!」
マルは庭先で燃やされている落ち葉の山に近寄った。
「ところで何、焼いてるんです?」
「たけのこじゃ」
「わあ、焼きたけのこ!」
そういったらお腹がずいぶん空いてきた。ぐうぅぅぅ……お腹が鳴った。
「はっ、はっ、はっ!お前も一緒に食べるかの」
「はい!いただきます」
「ついで今朝、川で捕れた魚も焼こうかの」
「わあ~い、しあわせ~」
そう言って、マルはふと先日自分が言ったことを思い出した。愛麗は小さくても幸せを感じることがあるのだろうか。
ちょっとしたマルの不安を感じ取った山の神が、どうかしたのかと尋ねた。
マルは最近、愛麗に会ったこと、そして自分が感じたことを話した。
山の神は難しい顔をした。
「そうかぁ。しかし、まだそのときではないのじゃよ」
「そのときって?」
「彼女にはこのさき試練が待っておるやもしれん」
パチッ、小枝か何かが火に爆ぜる音がした。
「試練って、なんですか?」
「それは、わしにもどうなるかわからん」
「そんな」
「マル、そのときはお前の勘を信じるが良い」
「ボクの……」
「あちあちあち……っ」
山の神がたけのこを指した枝を熱そうに焚き火から取り出す。それを山の神はふうふうして、パクっと食べた。
「ぅほうっ、ほぅっ、美味じゃのう」
「あ、山神さま、美味しそう!ボクもくださいっ」
「ああ、もちろんじゃ。ほれ」
あちちちちち……と山の神は言いながら焚き火から枝に指したたけのこをマルに渡してやった。
マルも山神さまを真似て、ふうふうして、パクっと口にした。
「ぅほうっ、おいひぃぃぃ!」
山の神は次に竹串に刺した焼き魚に手を延ばした。
香ばしい焼き魚の匂いがする。さっき塩もぱらりとかけてから焼いておいた。
マルの鼻がヒクヒクと魚に引き寄せられていく。
「う~ん!山神さま、とっても幸せな匂いがしますぅ」
山の神はふぉっ、ふぉっ、と笑いながら、焼き魚の串をマルに渡してやる。
「わあ~、いただきます!」
目を輝かせながら受け取ると、魚さん、ありがとう!とマルはパクついた。
「お前のよいとこじゃ。まっすぐで素直なとこが良い」
あ、愁陽さまにも似たようなこと言われたっけ……
マルはふと、そんなことを思い出した。
山の神は微笑ましそうに、マルが石に腰掛け魚を美味しそうに頬張る様子を見ていた。
この純粋で無垢な可愛い弟子もいつか試練に立ち向かわねばいけないのだろう。
けれどそれは必要なことであり、そしてこの笑顔に救われる者も多く、この若いオオカミは重要な存在となるだろう。
「なあ、マル。先のことはこのわしにもわからん」
「?」
「誰にもわからん」
「はい」
「ただ本人たちが選んで、自らの足で歩んで行くしかないんじゃよ。道は用意してやれても、歩くのは本人次第なんじゃ」
「愛麗さまのことですか?」
「うむ。もしものときは、わしも力は貸そう。だが出来るのは貸すだけじゃ」
「山神さま……」
「お前はお前が仕えておる主を頼んだぞ」
マルは山神さまの言葉の意味を考える。この先、何か起こるのだろうか。
けれど、もしそうだとしても自分は誓ったのだ。かつて愁陽に助けられた時から。
「もちろんです!」
マルは胸を張って、はっきりとした声で答えた。
ぱちっと、小枝が爆ぜる音がした。愛麗にも、愁陽にもこの美味しいたけのこと魚を食べさせてあげたい、とマルはそう思った。
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