18 / 35
婚礼衣装
しおりを挟む
愛麗は大きな鏡の前で、着せ替え人形のように婚礼衣装を着せられていた。
「お似合いですよー、愛麗様」
「ほんとにお美しい」
仕立て屋と侍女と三、四人に囲まれて、婚礼衣装を選んでいる。
愛麗は別に一番最初に着たシンプルな白い衣装でよかったのだが、仕立て屋も持ってきたものすべて着てみて欲しいと言わんばかりの勢いで、若い侍女たちも憧れの婚礼衣装にきゃぴきゃぴ大騒ぎで、本人よりも周りの者たちのほうが積極的だった。
正直どれでもいいのだけど……と愛麗は思いつつ、周りが言うことに、そうね、とにこやかに相槌を打っている。
「旦那様になられる方はどのようなお色を着られるの?」
侍女の一人が仕立て屋に訊いた。
「青ですねぇ。やはり私どもの国の色ですから」
「それは素敵だわ」
「蒼国の貴族の方ですものね」
「そうです、本日は色合いを見られるのに良いかとちょうどお持ちしてるのですよ」
そう言って仕立て屋が持ってきた大きな箱へ衣装を取りに行く。
愁陽が待ってるのに……
部屋で待たせてしまってる彼のことが気になって仕方がない。忙しい政務の合間をぬって来てくれてるのだろうに。
ああ、早く部屋に戻りたい。
なかなか言い出せない自分がもどかしかった。
子供の頃の愛麗なら迷わずさっさと出ていったに違いない。いや、とっくに一着目を着る前に飛び出していっただろう。
勇気の出ない自分に内心ため息をついた。
侍女がこの衣装にはこの髪飾りがいいと思います、と言いながら、薄桃色の髪飾りをつけ、耳飾りも揃いのをつけていく。髪飾りも耳飾りも今ついてるのだから、まとめてこれでいいじゃない。もう今着ているこの薄桃色のでいいって、仕立て屋が戻ってきたら今度こそ、そう言おう。
そうしているうちに、仕立て屋が新郎の衣装を手に戻ってきた。
「っ!」
見た瞬間、思わず愛は息をのんだ。
仕立て屋が持ってきたのは、愁陽にとても似合いそうな淡く綺麗な水色の衣装だった。
彼が着たら、よく似合いそう……
つい彼が着ている姿を思い浮かべてしまう。
仕立て屋が気を効かせて、薄桃色の衣装を着た愛麗の横に新郎の水色の衣装を持って並び立つ。
鏡にうつる薄桃色の衣装を着た自分と水色の新郎用の衣装。
愛麗と愁陽の姿が重なる。
一瞬ときめいてしまった。
けれど、これを着て並んで立つのは自分たち二人ではない。この衣装を着るのは別の男。それも顔もよく知らない話しすらしたこともない自分より十以上離れている男だ。
縁談の話があったときに、絵姿を持ってきたことがあったが、ちらっと見ただけであまりよく見なかったから、どんな顔だったか記憶も残っていない
どうして愁陽じゃないのだろう……
この衣装を着て、隣に立つのが彼だったら、どんなに良かっただろうか。
現実に引き戻されて胸が苦しく感じた。顔から作った笑みも消えて、頬が強張っていくのがわかった。
知らない男に嫁ぐなんて……嫌だ。
初めて、そんなことを思う。姉の代わりだと言われて、結婚の話をされたときも、わかりましたと、何の感情もなく受け入れることが出来たのに。
愁陽がよかった……
自分の気持に気づいてしまったら、もう鏡を見ることが出来ない。
愛麗は両手で顔を覆ってしまった。
急に落ち込み泣き出してしまった愛麗に、まわりの侍女達は慌てた。
「あらまあ!どうしました?愛麗様?」
「まあまあ、結婚前の花嫁にはよくあることですよ」
というのは、心得ているとばかりに仕立て屋だ。
「そうそう、嫁入り前は感情が不安定になるって言いますからね」
「愛麗様、きっと結婚式の日を想像して感激しちゃったんですわ」
「まあ、気の早いこと」
「素敵な殿方ですものね」
みんな違うのに。どうしてわかってくれないの?
我慢できずに、とうとう涙が溢れてしまった。
鏡に映る二つの衣装が涙で滲んで見えない。
結婚式当日、どうしよう。また愁陽のことを思い出してしまったら。
笑顔でいられるか、わからない。
このあとどんな顔をして、愁陽に会えばいいというのだろう。
今日はもう会えない……
「お似合いですよー、愛麗様」
「ほんとにお美しい」
仕立て屋と侍女と三、四人に囲まれて、婚礼衣装を選んでいる。
愛麗は別に一番最初に着たシンプルな白い衣装でよかったのだが、仕立て屋も持ってきたものすべて着てみて欲しいと言わんばかりの勢いで、若い侍女たちも憧れの婚礼衣装にきゃぴきゃぴ大騒ぎで、本人よりも周りの者たちのほうが積極的だった。
正直どれでもいいのだけど……と愛麗は思いつつ、周りが言うことに、そうね、とにこやかに相槌を打っている。
「旦那様になられる方はどのようなお色を着られるの?」
侍女の一人が仕立て屋に訊いた。
「青ですねぇ。やはり私どもの国の色ですから」
「それは素敵だわ」
「蒼国の貴族の方ですものね」
「そうです、本日は色合いを見られるのに良いかとちょうどお持ちしてるのですよ」
そう言って仕立て屋が持ってきた大きな箱へ衣装を取りに行く。
愁陽が待ってるのに……
部屋で待たせてしまってる彼のことが気になって仕方がない。忙しい政務の合間をぬって来てくれてるのだろうに。
ああ、早く部屋に戻りたい。
なかなか言い出せない自分がもどかしかった。
子供の頃の愛麗なら迷わずさっさと出ていったに違いない。いや、とっくに一着目を着る前に飛び出していっただろう。
勇気の出ない自分に内心ため息をついた。
侍女がこの衣装にはこの髪飾りがいいと思います、と言いながら、薄桃色の髪飾りをつけ、耳飾りも揃いのをつけていく。髪飾りも耳飾りも今ついてるのだから、まとめてこれでいいじゃない。もう今着ているこの薄桃色のでいいって、仕立て屋が戻ってきたら今度こそ、そう言おう。
そうしているうちに、仕立て屋が新郎の衣装を手に戻ってきた。
「っ!」
見た瞬間、思わず愛は息をのんだ。
仕立て屋が持ってきたのは、愁陽にとても似合いそうな淡く綺麗な水色の衣装だった。
彼が着たら、よく似合いそう……
つい彼が着ている姿を思い浮かべてしまう。
仕立て屋が気を効かせて、薄桃色の衣装を着た愛麗の横に新郎の水色の衣装を持って並び立つ。
鏡にうつる薄桃色の衣装を着た自分と水色の新郎用の衣装。
愛麗と愁陽の姿が重なる。
一瞬ときめいてしまった。
けれど、これを着て並んで立つのは自分たち二人ではない。この衣装を着るのは別の男。それも顔もよく知らない話しすらしたこともない自分より十以上離れている男だ。
縁談の話があったときに、絵姿を持ってきたことがあったが、ちらっと見ただけであまりよく見なかったから、どんな顔だったか記憶も残っていない
どうして愁陽じゃないのだろう……
この衣装を着て、隣に立つのが彼だったら、どんなに良かっただろうか。
現実に引き戻されて胸が苦しく感じた。顔から作った笑みも消えて、頬が強張っていくのがわかった。
知らない男に嫁ぐなんて……嫌だ。
初めて、そんなことを思う。姉の代わりだと言われて、結婚の話をされたときも、わかりましたと、何の感情もなく受け入れることが出来たのに。
愁陽がよかった……
自分の気持に気づいてしまったら、もう鏡を見ることが出来ない。
愛麗は両手で顔を覆ってしまった。
急に落ち込み泣き出してしまった愛麗に、まわりの侍女達は慌てた。
「あらまあ!どうしました?愛麗様?」
「まあまあ、結婚前の花嫁にはよくあることですよ」
というのは、心得ているとばかりに仕立て屋だ。
「そうそう、嫁入り前は感情が不安定になるって言いますからね」
「愛麗様、きっと結婚式の日を想像して感激しちゃったんですわ」
「まあ、気の早いこと」
「素敵な殿方ですものね」
みんな違うのに。どうしてわかってくれないの?
我慢できずに、とうとう涙が溢れてしまった。
鏡に映る二つの衣装が涙で滲んで見えない。
結婚式当日、どうしよう。また愁陽のことを思い出してしまったら。
笑顔でいられるか、わからない。
このあとどんな顔をして、愁陽に会えばいいというのだろう。
今日はもう会えない……
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
神楽囃子の夜
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌
双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。
最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる