2度目の人生は、公爵令嬢でした

一色

文字の大きさ
31 / 74
第一章

24話 皇帝への進言に向けて

しおりを挟む


 私は明日の進言に向けて、話す内容を箇条書きにしてまとめ、それを基にプレゼン用の資料を作成していた。
 だが――

 (やっぱり根拠が薄いですわ……!)

 勉強の詰め込みすぎが良くないというのは、なんとなく分かるけれど、ただの個人的な意見では説得力に欠ける。陛下を納得させるためには、具体的な事例や証拠が必要だ。

 そこで、私は屋敷の使用人たちに少し時間をもらい、過去に似たような例がないか話を聞くことにした。

過去の悲劇————————-

 「――そんなことが、本当にあったのですか?」

 話をしてくれたのは、昔学園に通っていたという使用人だった。

 「ええ、私もその頃、学園に通っていましたので……」

 彼が語ったのは、ある少年の悲しい物語だった。

 ――昔、彼は親から厳しく抑制され、失敗は許されないものだと教え込まれて育った。笑うこともなく、ただ勉強だけに励む日々。

 そして学園に入り、彼は二年目にして初めて一位の座を逃した。

 二位――それでも十分に素晴らしい成績だった。
 だが、彼の両親はそれを許さなかった。

 「なぜ一位でないのか。お前には勉強しかないのに、それすらできないとは何事か」

 少年は、努力を続ければいつか両親に褒めてもらえると信じていた。
 だが、その日は一度も訪れず、彼は絶望の末に命を絶った――。

 「……そんな、ひどい。」

 「その後、ご両親は教会に送られ、分家の方が家督を継いだと聞いています。」

 「罰としては軽い気もしますが……。」

 私は衝撃を受けながらも、感謝の気持ちを伝えた。

 「貴重なお話を聞かせてくださって、ありがとうございます。」

 (やるしかない……! 時間も資料も少ないけれど、今まで培ってきた知識を総動員して、納得のいくものを作り上げるしかない!)

 「――かっ、完成しました……!」

 ようやく作り終えた資料を前に、私はぐったりと机に突っ伏した。

 「この体では、すごく疲れましたわ……もう寝ます……。」

 「ですが、お嬢様。明日は陛下にお会いする日ですので――」

 「明日、明日お風呂に入りますから、早めに起こしてください……。」

 「かしこまりました、お嬢様。」

 そして、私はベッドに倒れ込むようにして眠りについた。

 ――しかし、これが翌朝の地獄を招くことになるとは、このときの私は知る由もなかった。


 「――っ!? ちょっと、まっ……!」

 朝、私はいつもより四時間も早く叩き起こされ、問答無用でお風呂に入れられた。

 「お嬢様、隅々までお綺麗にいたしましょうね♪」

 「きゃっ!? ちょっ、あまり強く擦らないでくださいまし!」

 容赦のないメイドたちの手により、私は徹底的に丸洗いされる。

 (これ、お風呂に入らなかった罰ではなくて!? ただの拷問ではなくて!?)

 髪を丁寧に洗われた後、香油を塗り込まれ、ドライヤーで乾かされる。

 「はぁ……これで終わりです……?」

 と思いきや――

 「お嬢様、お体のケアも大切ですよ♪」

 クリームを塗られながらマッサージを受ける羽目になった。

 「……わ、私は本日戦いに赴くというのに、なぜエステのフルコースを受けねばならないのですか……。」

 「お嬢様が最高の状態で陛下にお会いできるようにするためですわ!」

 (あぁ……私はただ、ラインハルト様のために頑張ろうと思っていただけなのに……。)

 少し離れたところでは、メイドたちが豪華なドレスを用意しているのが見えた。

 (……どう考えても、あれを着せられる流れですわね。)



 「さぁ、お嬢様、お着替えいたしましょう♪」

 「……っ!」

 満面の笑みを浮かべたメイドたちが、じりじりと私に迫ってくる。

 (ひっ……! 逃げ道がない……!)

 そして、あっという間にドレスに着替えさせられ――

 「まぁ、大変可愛らしいですわ、お嬢様!」

 「本当に! これでは、お城にいらっしゃる殿方の視線も釘付けになってしまいますわ!」

 「……ありがとう。でも、そんなに褒められると恥ずかしいですわ。」

 メイドたちが満足げに頷いたのを見届けた後、彼女たちはそれぞれの仕事に戻っていった。


 身支度を整えた後、私は朝食前の短い時間を使ってマナーの最終確認をした。

 (完璧とまではいかなくても、ある程度のレベルまでは仕上がったはず……!)

 そして、ついに馬車へ乗り込む時間がやってきた。

 久しぶりの馬車移動に少し緊張していると――

 「ほら、クリスティア。こっちへ来い。」

 「はい――わっ!?」

 乗り込むや否や、お父さまの膝の上に乗せられてしまった。

 「お、お父さま!? もう私はお膝に乗るような年齢では――」

 「いいから乗っておけ。かわいい娘が目の前にいるのに、膝に乗せない親がいるか?」

 (え、普通にいますわよ!?)

 しかし、お父さまは頑として譲らず、そのまま私を膝に乗せたまま馬車が発進した。

 (……せめて馬車の揺れで落ちないように、しっかり支えていただきたいですわ。)

 こうして、私は城へ着く前からすでに疲労困憊になったのだった。

 次回――ついに陛下との謁見へ! 果たしてクリスティアの進言は無事に届くのか!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...