2度目の人生は、公爵令嬢でした

一色

文字の大きさ
37 / 74
第一章

30話 お兄さまと

しおりを挟む


 朝日が昇り始める頃、クリスティアは訓練場に立っていた。冷たい風が頬を撫でるが、彼女の額にはすでに汗が滲んでいる。

 目の前に立つのは、彼女の兄であるリュカ。そして、その隣には厳しい表情をした師匠ヴォルフが立っていた。



「今日は模擬戦をする。リュカと戦ってもらう。」

 ヴォルフの言葉に、クリスティアは小さく息をのむ。兄との模擬戦は初めてだった。

 リュカは洗礼の儀での結果を踏まえ騎士になるべく鍛錬を積んでおり、学園の剣術大会でも先輩を抑えて優勝している。それに比べれば、自分はまだまだ未熟。だが――負けるつもりはない。

「お手柔らかにお願いしますわ、お兄さま。」

 クリスティアは木剣を構えた。

「ティアこそお手柔らかにね」

 リュカも軽く木剣を構えるが、その隙のなさにクリスティアは思わず身を引き締める。

「クリスティア構えが甘いぞ!」

 ヴォルフが指摘する。

「お前はまだ ‘受け’ の姿勢が強い。攻めるつもりで構えろ。最初から守りに入るような奴が勝てると思うな。」

「……はい!」


「始め!」

 ヴォルフの号令と同時に、リュカが素早く間合いを詰めてきた。

(早い!)

 クリスティアはすぐに木剣を振るい、横薙ぎに来た攻撃を受け止める。しかし、衝撃が腕に響く。兄の剣は決して重いわけではないのに、的確な力の入れ方をしているため、受けるだけで体勢を崩されそうになる。

「隙あり!」

 リュカが一歩踏み込み、剣を振り下ろす。

(まずい!)

 クリスティアは咄嗟に横へ転がってかわし、間合いを取り直す。

「……逃げたね?」

 リュカがフッと笑う

「違いますわ、お兄さま。戦略的撤退です。」

 クリスティアは息を整え、今度は自分から仕掛ける。


 クリスティアが最近重点的に学んでいるのは、戦いの流れを読む ことだった。

 剣術には型や技があるが、それをただ機械的に振るうだけでは勝てない。相手の動きを見極め、次の一手を予測し、攻撃の流れを作ることが重要なのだ。

(お兄さまは、私が守りに入ると強気に攻めてくる。でも、私が攻めに転じたときは、少し様子を見る傾向がある。)

 ならば――最初に大きく仕掛け、引いて見せる。そこから、もう一度畳みかければ――!

 クリスティアは素早く踏み込み、リュカの右側を狙って剣を振るった。

「……っ!」

 リュカは木剣で受け止める。だが、クリスティアは続けてもう一撃、そしてもう一撃と立て続けに攻めた。

「……やるね!」

 リュカの口調に少し楽しげな色が混じる。

 だが、次の瞬間――

「甘い!」

 リュカの剣がカウンターのように鋭く振るわれ、クリスティアは咄嗟に後ろへ跳んで回避した。

(くっ……攻めに集中しすぎた!)

「調子に乗るな、クリスティア。」

 ヴォルフの声が訓練場に響く。

「お前は ‘流れ’ を作ることに成功したが、その後の詰めが甘い。攻めの中でも守りの意識を忘れるな。」

「……はい!」

 クリスティアは歯を食いしばる。あと一歩だったのに――でも、まだ終わりじゃない!


 クリスティアはもう一度仕掛けるが、最終的にリュカに剣を弾かれ、木剣を地面に落としてしまった。

「私の勝ちだね?ティア」

 リュカは木剣を収める。

「……悔しいですわ。」

 クリスティアは悔しさを滲ませるが、リュカは満足そうに微笑んだ。

「ティアは想定より強かったよちゃんと毎日鍛錬していたことが伝わる剣だったよ」

「……ありがとうございます。」

 クリスティアは地面に落ちた木剣を拾い、握りしめる。

(まだまだ……もっと強くならなくては家族を安心させることなんてできないわ)

 その思いを新たにした瞬間——

「では、次は俺とだ。」

 クリスティアとリュカが同時に固まる。

「さすがに今日は――」

「言い訳するな。負けたままで終わるのか?」

 ヴォルフは木剣を持ち、構えた。

「……お願いします!」

 クリスティアは気を引き締め、再び木剣を構えた。

 こうして、彼女の武術訓練は続いていく――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...