2度目の人生は、公爵令嬢でした

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第二章 学園生活

43話 不吉な夢と旅立ちの朝

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森に生徒たちの悲鳴が響く……どうして? どうしてこんなことになったの?

「クリスティア様! お逃げください! 早くっ……ぐっ、あぁぁっ!」

ブチブチッ──肉が裂け、腕がちぎれる音がする。視線を巡らせば、□□に喰われている生徒たちがいる。血に塗れた地面、逃げ惑う仲間たち、崩れる木々、炎が上がる空──

「あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!」

──そこで、意識が引き戻された。

「……何、今の……?」

クリスティアははっと目を覚ました。心臓が激しく脈打ち、汗がじっとりと額に滲んでいる。夢の内容は断片的にしか覚えていないが、ひどく不吉なものだったことだけは分かる。

「……あぁもう! どうして重要なところが抜けてるのよ!」

自分の曖昧な記憶力に頭を抱えたが、夢の中で見た血まみれの光景が心にこびりついて離れない。

コツ、コツ、コツ──

「お嬢様、失礼いたします。」

扉が開く音と共に、馴染みのある声が部屋に響く。

「おはようございます、クリスティアお嬢様。今日は早起きですね。」

「ノリス! おはよう。今日、変な夢を見ちゃってちょっと早く目が覚めちゃったの。」

「? どのような夢だったのか、お聞きしてもよろしいですか?」

「えぇ、いいけど……あんまり覚えてないのよ。なんだか大きな魔物がキャンプに侵入してきて、森に火がついて、生徒たちが逃げ惑っていたの……」

「ごめんね、ノリス。朝からこんな話を聞かせちゃって。面白くもないし、信憑性のかけらもないただの夢よ。」

「いいのですよ、お嬢様。」

ノリスは微笑んで、そっとクリスティアの手を取った。

「お気づきではなかったでしょうが、先ほどまでお顔が真っ青でしたよ? こういうことは、あまり溜め込むものではありません。」

ノリスの温かい手のひらが、夢の不安を少しだけ和らげる。

「……ありがとう、ノリス。」

「お嬢様、こちらをお持ちください。」

ノリスが差し出したのは、透明な石──まるでダイヤモンドのように美しく輝く宝石がトップについたネックレスだった。

「ノリス、これは?」

「私が屋敷に働きに来る時に、父からもらったものです。困った時も、これがあれば何だか助けられているような気がするのです。」

「そんな大事なもの、どうして私に……」

「少しでもお嬢様の心が軽くなるのであれば、持っていてください。このネックレスがきっとお守りになります。」

ノリスはクリスティアの手にネックレスを握らせ、さらにその手を優しく包み込む。そして祈るように頭を下げた。

「私のお祈りなど気休めにすらならないかもしれませんが、お嬢様が少しでも安心できればと思います。」

「ノリス……」

「さぁ、お嬢様。朝食の準備もできている頃ですよ。持ち物確認はその辺にして、参りましょう。」

「クリスティ、今日行きたくなかったら行かなくてもいいんだよ? ほら、危ないし。それに……危ないからね!」

朝食の席に着くなり、父であるオルベルティス公爵は心配そうに眉を寄せた。

「父上、同じことを二度言ったところで、クリスティアの意思は変わりませんよ。」

兄のリュカが冷静に指摘する。

「それに、魔物討伐訓練はクリスティアにとっても良い経験になるのではないでしょうか?」

「だが、クリスティアに危険が及ぶのはなぁ……」

父は明らかに気乗りしない様子だ。

「父上、だからこそ準備を万全にしたのでしょう? クリスティアには実践の場で学ぶ機会が必要です。あれほどの鍛錬を積ませ、さらに魔石や武器・防具まで買い揃えたのですから。」

リュカが冷静に説得する。確かに、つい先日も「学園の備品で借りようと思う」と言ったら、「そんなものより良いものを買う!」と大騒ぎになり、魔石や装備を新調させられたばかりだ。

「ぐっ……仕方ないかぁ……。うん、クリスティア、行っておいで。」

父は渋々と許可を出しつつも、最後に念を押す。

「でも、危険だと思ったらすぐに逃げるんだ!」

「分かってるわ、お父様。私、危険だと思ったらすぐに逃げますから、安心なさってね。」

「本当に逃げるんだぞ! 変な意地を張るなよ!」

「ええ、ええ。」

父の心配性には呆れるが、それが愛情ゆえのものであることも分かっている。

「それでは、行ってまいります。」

家族の視線を背に、クリスティアは堂々と屋敷を後にした。

──不吉な夢は気になるけれど、考えすぎても仕方がない。

これはあくまで”訓練”なのだから。

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