2度目の人生は、公爵令嬢でした

一色

文字の大きさ
67 / 74
第二章 学園生活

60話 苛立ちの夜

しおりを挟む

 別棟の自室に戻ったリリアは、勢いよく扉を閉めた。

 胸の奥で渦巻く感情が収まらない。

(なんで……どうして、私はいつもこうなの?)

 部屋の隅に置かれた姿見に映る自分を睨みつける。

 疲れ果てた顔。服には戦闘の跡が残り、髪も乱れていた。


 伐訓練での出来事が何度も脳裏に蘇る。

 班のメンバーが言い争い、負傷者が苦しむ中、自分は何もできなかった。

 クリスティアが現れ、当然のように全てを解決していった。

 「なんで、あんなに強いのに治癒までできるんだよ……」

 誰かが呟いたその言葉が、耳にこびりついて離れない。

(私だって……治癒魔法は使えるのに……!)

 リリアは布団を蹴飛ばし、ベッドの上で拳を握りしめた。

(クリスティアがいなければ、私がみんなを治したのに!)

(私の方が家の中ではずっと苦労してきたのに……ずっと報われないままなの?)

 悔しさで唇を噛む。

 手を伸ばして、机の上にあったガラス細工の飾りを掴む。

 かつてセシルが贈ってくれたもの。

「……こんなの、いらない」

 ポイッとベッドの上へ投げたが、壊れる音はしなかった。

 壊れなかったことに、どこかホッとする自分がいるのが癪だった。

 そこで扉がノックされた。

「リリア……少し話せるかしら?」

 セシルの声だった。

 リリアはしばらく黙っていたが、苛立ちを隠すことなく「勝手にすれば?」とだけ返す。

 扉が静かに開き、セシルが入ってくる。

「……疲れているでしょう? 何か食べる?」

「いらない」

 即答すると、セシルは少し寂しそうに微笑んだ。

「討伐訓練、大変だったでしょう?」

「……」

「あなたの班のことは、学園の先生方から少し話を聞いたわ」

 リリアはぎくりと肩をこわばらせた。

「別に、何もなかったわ」

「……そう」

 セシルは優しく微笑む。その顔を見るだけで、なぜかリリアは苛立ちを覚えた。

「そんな顔しないでよ……まるで、全部分かってるみたいに」

「いいえ、分からないわ。ただ、あなたが傷ついていることだけは分かる」

「……別に傷なんてついてない」

「そう?」

 セシルはリリアのそばにそっと腰を下ろす。

「…あなたは、無理をしてしまう子だったわあの人が死んで実家に帰って兄にも逆らえない私に何も言わないんだもの」

 母の優しい声が、どこか遠く感じる。

 心の奥で何かがチクリと痛んだ。

「……リリア、あなたがどんな気持ちでいるのか、無理に聞き出したりはしないわ。でもね、話したい時にそばにはきてくれる人がいるってことをわかっていて欲しいの」

「……」

「あなたは、私の大切な娘だから」

 静かな声。

 その言葉を聞いて、リリアの胸がギュッと締め付けられる。

 喉まで込み上げてくる何かを、必死に飲み込んだ。

「……もう寝るから」

「……分かったわ。おやすみなさい、リリア」

 セシルは静かに立ち上がり、部屋を出て行った。

 残されたリリアは、何も言えないまま、ただ天井を見上げていた。

(私のこと、大切に思ってくれてるのは分かってる……)

(でも、クリスティアには、もっとたくさんの人がいて……私は……)

 消えない劣等感と苛立ちが、リリアの胸の中で渦巻いていた。

—————————————————————————————————————————————————————————————————
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!もしよかったら、キャラの行動やストーリーの展開について、皆さんの感想を聞かせていただけるとうれしいです!気軽にコメントしていただけると励みになります!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...