最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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心配

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もしかしてユリウスが戻ってきたのか、慌てて奥の方に向かった。

棒のようなものに足が持っていかれて、またまた転んだ。

口を閉ざして耳をすまして、相手の行動を慎重に探る。

足音と共に笑い声が聞こえてきて、しばらくすると去っていった。
どうやらユリウスではなく、知らない人だったようでホッと胸を撫で下ろす。
もう、さすがにユリウスはいないよな…俺の心臓が持たない。

ずっと同じ事を繰り返していたら、倉庫から出られなくなる。
このままここに住むしかなくなるのか、それは避けたい。

「フォルテくんってば、大胆なんだから」

「え?……あああごめんっ!!」

下の方からラウルの楽しそうな声が聞こえて、下の方を向いた。
ラウルを押し倒している格好になって、顔を覆って照れている仕草をしている。

ユリウスは誤解だが、これは完全に俺がしてしまった事だから慌ててラウルから離れようとした。

その瞬間、カシャという機械音と目の前が眩しくなった。

ラウルの方を見ると、俺の前でなにかを構えていた。

四角い箱のような機械から一枚の紙が出てきた。

ラウルが手にする前に、それを掴んでマジマジと見つめる。

これって、もしかして写真?この世界にも写真があるのか?

ぼんやりとしか映らない紙は、だんだんとはっきりと見えてきて写真に変わった。
この世界がどういう技術でやっているのか分からない。
中は前世の世界とそんなに変わらないのかもしれない。

「凄いよねぇ、こんなものまで昔の天才達は開発するんだからさ」

俺の手から写真を取って「間抜けな顔ー」と言っていた。
人の顔を勝手に撮っておいて、酷い言われようだ。

不意打ちに写真を取られたから決めポースなんて出来ない。

俺から写真を奪うと、手をヒラヒラと振っていた。
「出て行け」って事だろうな、言われなくても行くよ。
ラウルに庇ってもらったが、俺とラウルはこのくらいの距離感だ。

倉庫から出ると、空は夕陽に染まっていて長居し過ぎたんだと分かる。

もうさすがにユリウスも諦めただろうと、寮に向かって歩き出した。

新入生のために、あちこちに寮への看板が設置してあり迷う事はなかった。

たどり着いた寮は大きな洋館のようで、ファンタジー丸出しだなと苦笑いする。

扉の横で誰かがしゃがんでいるのが見えて、近付くと人影がはっきりしてきた。

「カノン」

「っ、フォルテ!」

下を向いていても、その人がカノンだと分かり声を掛けた。
勢いよく顔を上げたカノンは、俺のところに駆け出した。

「どうしたんだ?」と言おうとしたが、遮られるように抱きしめられた。

服越しでも、カノンが長時間ここにいた事は分かる。
冷えている身体を温めるように、背中に腕を回して抱きしめ返した。

「カノン、ごめん…心配掛けた」

「今朝の事があったのに、フォルテを一人にした私が悪いんだ」

「カノンは悪くないって、クラスも違うしずっと一緒は無理だって」

カノンの抱きしめる力が少しだけ強くなった気がした。

外で男同士が抱き合うと、寮に帰ってくる人の注目の的になっていた。

寮の中に入って、とりあえず暖まろうと思った。

寮監室の前に通ると、寮長さんがいて名前を伝えると鍵を渡してくれた。

寮は大部屋で6人部屋だから、カノンとも同室になる。
他に誰かいるか分からないけど、カノンがいるなら大丈夫だ。

部屋に入ると、他の人に聞かれるかもしれないから談話室に移動した。

談話室なら、皆それぞれの時間を楽しんでいるから俺達の事を気にする人はいないだろう。

談話室には数人しかいなくて、ほとんど上級生みたいだ。
同級生は皆新しい部屋に行っているのかな、何となくホッとした。

談話室の隅にある椅子に座って、カノンが小さくため息を吐いた。

「何をしてたのか聞いても?」

「その、新入生歓迎会の時にユリウスと会って」

「なにかされたのか!?」

カノンが珍しく声を荒げていて、びっくりして目を丸くする。
すぐに「すまない」と謝られて、びっくりしただけで大丈夫だと言った。

ユリウスに殴られた時に切れた口内は、血が止まっているから大丈夫だとは思う。
カノンが俺の袖をジッと見つめていて、すぐに左手で隠した。

黒い制服だからバレないと思っていたけど、シャツは白いから口を拭った時に少し付いていたのかな。

ユリウスに追われて、いろいろあったからシャツまでは見ていなかった。

カノンはなにかに気付いているけど、俺が話してくれるまで待ってくれた。

「ユリウスに殺されかけて、倉庫に隠れてた」

「それは大丈夫と言わない」

「でも、誤解を解く事しか回避出来ないから」

「…関わらないだけでは、彼を見たら無理そうだね」

ユリウスを突き落とした人物をラウルは知らないと言った。
他に知っていそうな人に心当たりが全くない状態だ。

ユリウスは、本当に俺を見たのか?ちゃんと見たのか?
見ていたら、俺が突き落としたわけではない事も分かりそうなものなんだけどな。
ラウルのように、曖昧な記憶が俺への恨みで変わっていたとすれば証拠を出せばどうにかなる。

でも、なにが証拠になるんだろう…かなり昔の話だから当時のものは何も残っていない。
それに、ユリウスが認める証拠じゃないと意味がない。

話すだけなら、まともな会話が出来ない今無理だ。

カノンは「私なら話を聞けるかもしれない」と言った。

確かにカノンはユリウスとの因縁はないが、俺の友人だと一緒にいた時に知られている。
それだけで、ユリウスにとっては敵のようなものだ。

俺の時のように暴力的にならない保証は何処にもない。

カノンになにかあったら、俺こそ冷静でいられなくなる。
俺のために言ってくれるのは嬉しいけど、カノンは悪役出身の俺とは違うから傷付けられたら悲しい。

「カノンも危ない事しないでよ、他の方法考えよう」

「…そう言っても、過去に戻れる力でもあれば話は別だけど」

この世界はファンタジーだけど、俺や多分カノンもそんな力はない。
どうせ悪役なら最強設定でもあれば良かったけど、フォルテは悪魔族に憧れていたが魔法を使う事が出来なかった。
持って生まれた才能だからどうしようもないけど、フォルテは才能がないのを周りのせいにして暴れていた。

カノンの言葉のおかげで、俺にしか出来ないある事を閃いた。
勢いよく立ち上がると、カノンは目を丸くして驚いていた。
カノンに「ちょっとトイレ行ってくる!」と言って、談話室を出た。
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