最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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正義の結果

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もう一人の先輩が何処かに行って、二人で周りを見張っていた。

「おい!そこで何してる!」

突然隠れていたユリウスが立ち上がって、先輩達に向かって大声を出していた。
いつもなら面倒事が嫌いなユリウスが、なんで今日に限って正義感に熱くなっているのか分からない。

俺も出ようと思ったが、立ち上がる事が出来なかった。
後ろを振り返ると、枝に服が引っかかっていた。
思いっきり引っ張るが、頑丈な枝で折れる事はなかった。

枝と葛藤していたら怒鳴り声が聞こえた。

後ろを振り返ると、ユリウスが一人の生徒に捕まっていた。

何されるか分からない、腕を伸ばして俺がいる事もアピールした。
これで俺に注意が向けば、その間にユリウスが逃げる事が出来たら…

「おい、見て来い」

一人が俺に向かって歩く足音が聞こえた。

先輩が来るのを待っていたら、もう一人の先輩が戻ってきた。

二人の先輩は急がすように、戻ってきた先輩に「水をあげろ!」と声を上げていた。
戻ってきた先輩はバケツの中にある水をユリウスに向けてぶちまけた。

この人達が何をしているのか、この時は分からなかった。

俺はもう一人の先輩に首を掴まれて、引っ張られた。
無理矢理やったから、服がビリビリに破けた。

そんな事はお構いなしで、先輩を押し退けてユリウスに向かって走った。
ユリウスのすぐ後ろに巨大な影が見えて、足を止めた。

人間一人丸呑みしてしまうほど大きな花がそこにあった。
ゆっくりと開く蕾には鋭い歯のようなものが見えた。

ユリウスは何故かそこから逃げようとしなかった。
先輩達は、もうユリウスを拘束してはいなかった。
何をしているんだ、後ろに花があって気付かなくても逃げられる筈だ。

ユリウスに駆け寄って、腕を掴むと顔色が見えた。

その顔は絶望に満ちていて、俺を無視したのではなく聞こえていない様子だった。

身体が震えているのは、水を掛けられて寒いだけではない。

湖でのトラウマが蘇っているようだった。

ユリウスの中の恐ろしい記憶が呼び覚まされていた。

「おい、早く逃げろよ」

「コイツの食事くらいには役に立てよ」

先輩達の嫌な笑い声が聞こえてきて、花を見つめた。

先輩達は俺達を逃がそうとしている、捕まえたのは先輩達なのに。

もしかして、逃げる相手を食べる花なのかもしれない。

ユリウスと花の前に立ち、両手を広げた。

ユリウスを運んで花から逃げるほど、俺の体力は持たない。
ここは植物園だ、他の人が気付いてくれるまでの時間稼ぎくらいになればいい。

先輩達は全く動かない俺に、イラついた様子だった。
なにかを花に向かって投げていて、花はそのまま食べた。

その瞬間、激しく暴れ出して限界まで花びらを開いた。
後ろからユリウスの小さな声が聞こえて、ホッと胸を撫で下ろした。

ユリウスに声を掛けようと思ったが、花からなにかが出てきた。

とっさにユリウスを横に押して、ユリウスの身体は倒れた。
その瞬間、俺の身体がなにかに貫かれて地面に突き刺さった。
あのままユリウスがいたら、ユリウスにまで刺さっていた。

良かった、俺が引き付けている間にユリウスが…先生を…呼ん…

「お前、なんで…」

ユリウスが驚いていて、これもトラウマになったら嫌だなと思って大丈夫だと言おうとした。
声が出る事はなく、血が口から出て制服を濡らす。

花から出てきたのは雄しべなのか何なのか分からないが、動いている。
腹の中がぐちぐちと音を立てて、吐き気がこみ上げてくる。

ユリウスは触手を掴んで、千切ろうと両手で伸ばしている。
いや、俺はいいから先生を呼んできてほしいのに伝えられない。

「何だよこれ、どうすれば…」

ユリウスは優しいから、俺を置いて行く事を考えていないんだろうな。
どくどくと、心臓の鼓動がだんだん早くなってきた。

刺されてまだ生きている事に驚いていたが、さすがにこれはヤバい。
意識が遠くなってきて、呼吸もだんだん浅くなる。

最後に見たのは、俺を飲み込もうとする大きな花の影だった。

俺の人生これからなのに最後がこんなの、絶対に嫌だ。
せめて花をどうにかしたくて、何も考えられない頭で手を伸ばした。
俺の意識はそこで、真っ暗に覆われて消えていった。

「俺を食べたいなら、食べさせてあげる…耐えられるか知らないけどね」
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