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連載
114話 帰還(2021.08.11改)
しおりを挟む西門で野次馬たちに囲まれた出来事を思い出す。改めて思う、目立つと碌なことがないと……。
町を抜けた僕は、森の中に入り、人目のつかない場所で従魔の住処に入った。
遅く起きたせいもあり、ベッドの中に潜ってもなかなか眠くならない。せっかくなので、町長のルアーノさんから聞いた話について眠くなるまで考えることにした。
従魔師のクラス持ちゴブリンが生まれたことにより、たった一年足らずでゴブリンの数が急激に増えたんじゃないかとルアーノさんは疑っていた。でも……テイマーの能力は魔物を仲間にする力で、魔物を増やす力じゃない。
成人のゴブリンだけを、故意に増やす方法なんてあるんだろうか?
ひとつあるかも!ダンジョンを利用したんじゃ……ダンジョンは、中の魔物を全て狩り尽したとしても、三カ月経てば何事もなかったように復活する。これはあくまでボスを倒す場合だ。
ボスを倒さずに、他の魔物の湧きを待つだけならもっと早いし、湧くのは大人の魔物だけ、この方法なら、ゴブリンの出現するダンジョンさえあれば、いくらでも仲間のゴブリンが手に入る。まー、仲間にできる従魔の数にも上限があるから、そう上手くはいかないと思うけど、ルアーノさんにも話してみるか。
✤ ✿ ★
日の出とともに、従魔の住処は明るくなる。
僕も従魔たちも日の出と共に目を覚ます。ごく一部一日中寝ている従魔もいるけど……みんなで畑仕事と洗濯を終え、朝食を食べてから町に向かう準備をはじめた。
問題は、町に誰を連れていくかだよなー。冒険者ギルドとの口約束ではあるけど、町で連れ歩く従魔は人型の魔物一匹にしてほしいって言われたし。
ローズが、さっきから僕の周りをやたらウロウロしているのは、一緒に行きたいです。とアピールしているのだろう……といってもローズはBランクの魔物だし、町に連れて行くのはいろいろ不味いよね。僕の表情からお供落選を感じ取ったローズが、頬っぺたを膨らませながら抗議する!
テリアとボロニーズも大きくなっちゃったからな、町の中に入るだけで住人たちがちょっとしたパニックになりそうだ。
従魔登録はまだだけど、見た目が人に近いレッサースパルトイがいいだろう。一緒に行けず拗ねる従魔たちにぺチぺチ叩かれながら、『二』の番号が入ったレッサースパルトイと、その兜の上にとまる、隠れるのに特化した特技『背景同化』のスキルを持つカエルの妖精のゲコタ、アオハナムグリの妖精のハナホシを手提げバックに忍ばせる。見えなければ三匹でも大丈夫だよね!(アオハナムグリはコガネムシの仲間の甲虫である)
町を目指して歩く僕とは逆に、朝早くから魔物討伐の依頼を受けてアリツィオ大樹海へ向かう冒険者たち。
(人間たちは、働き者でゲコね)
「いまは、ゴブリンも増えてるからね」
念話で話しかけるゲコタに、独り言でも呟くように小声で答える。
西門に到着すると、野次馬たちで賑わっていた昨日とは打って変わり、やや眠そうな顔の二人の兵士が立っているだけだった。
「おはようございます。昨日は騒がしくしてすみませんでした」
僕を真似してレッサースパルトイも頭を下げる。
「ああ!ルフト君か話は聞いているよ……ところでー、後ろの鎧姿の方は知り合いかい?」
兵士は、探るような視線をレッサースパルトイに向けた。注目されることに慣れていないレッサースパルトイが照れるようにモジモジする。感情が無いはずなんだけど……他の従魔の真似でをしているんだろうか?
「彼も僕の従魔で、スパルトイって魔物なんです」
「えっ!スパルトイだって?竜の牙から生まれるあのスパルトイかい?ルフト君は竜の牙まで手に入れたのか」
そうだった、竜の牙ってなかなか手に入らない素材だった。どうしよう……。
「違います。竜じゃなくて……偶然手に入れたワイバーンの変異種の牙を埋めてみたらこの子が生まれて、ですので正式な種族はレッサースパルトイになります」
誤魔化せたかな、誤魔化せたよね?
「ワイバーンの変異種なんているのか、流石は未開の地だな」
〝ふー助かった……〟僕は二人に手を振りながら門を抜ける。
昨日は暗くてよく見えなかったけど、一年ぶりに訪れたカスターニャの町は大きく変わっていた。店主が避難しているのか閉まったままの店も多い。一番の変化は、外で元気に走り回る子供たちの姿がないことだろう。
冒険者ギルドに行く前にメルフィル雑貨店に立ち寄る。
メルフィルさんも町を離れるんだろう、従業員たちは忙しそうに店の商品を大きな木箱に片付けている。引っ越しの準備かな。
「これはこれはルフト様お久しぶりです。背も伸びましたね」
店の奥からメルフィルさんが姿を見せる。僕の成長を確認する様に顎に手を当てながら〝ほー本当に大きくなられた〟と僕の全身を眺めながら感慨深げに呟く。
「お久しぶりですメルフィルさん。ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ。町を離れる前にお会い出来て良かったです。我々も数日中にこの町を離れる予定でして、本当に運が良い。ルフト様奥で少しお話をしでもどうでしょう?」
「はい、喜んで」
「皆さん、私は少しの間ルフト様と話があるので席を外します。後片付けはお任せしますね」
「「「お任せください、メルフィル様」」」
従業員たちは声を合わせて返事をする。
僕は、メルフィルさんの後について店の奥に向かった。
「本当に会えて良かったです。この町はいま色々と面倒なことになっておりまして……」
「面倒なことですか?」
「はい、これは商人ギルドからもたらされた情報なのですが、ゴブリンキングと通じる冒険者がこの町にゴブリンを手引きしようと動いているらしく、有力者の多くは、すでにカスターニャの町を離れたと噂がございます」
「……」
急な話に驚く僕に、メルフィルさんはハーブティーを淹れてくれた。ハーブティーの中にはリンゴのジャムが溶かしてあり、甘い香りが僕の気持ちを落ち着かせてくれる。
裏切者の冒険者……話の出所は町長のルアーノさんだろうか?
「ルアーノ様は、裏切者の冒険者を泳がせて、この町に攻めて来るゴブリンたちを一網打尽にするおつもりなんでしょう」
「ナゼそんな大事な話を商人ギルドは知っているんですか?」
僕の知らないところで一体何が起きているんだろう。不安になる。
「私自身も不思議に思っております。こんな需要な情報がどうして?我々商人の耳に入ってきたのか……もちろん故意に流された可能性もございます」
「本当なら町の人たちをすぐに逃がさないと」
「申し訳ございませんルフト様……私たちはこの話を公にすることが出来ないのです。この話が私から漏れたと知られれば、私はこの国で商売が出来なくなってしまいます」
本当に申し訳なさそうな顔をするメルフィルさんに、僕はそれ以上何も言うことが出来なかった。
「そうそう、ルフト様にお渡ししたいものがあります。これは、魔術師ギルドの導師たちが早々に町を逃げ出したことで没収されずに済んだ物です」
僕の前に置かれたのは二冊の本だった。
「この本は、魔法生物の核となる魔法回路の設計図が書かれた書物です」
僕は声を失った。何でこんなものがここにあるんだと……。
魔術師の手により生み出される魔法生物の代表格と言えば、レッサーガーゴイルと呼ばれるゴブリンに似た姿の、羽根の無い木や石で作られた動く偶像、人工の魔物だ。
レッサーガーゴイルをはじめとした魔法生物は兵器利用されており、魔法回路の設計図の多くは軍事機密扱いとなっている。
魔法生物の心臓たる魔法回路は、魔法の言葉が幾重にも刻まれた石板に魔石を嵌めこむことで動き出す。
僕の前に置かれた二つの設計図は、軍事機密とまでは行かないモノのかなり貴重な品物だった。
メルフィルさんが、この二冊の本を手に入れたのは偶然だったという。
「一月ほど前、腹を空かせた旅人が店の前で倒れまして、私はその旅人に食事を振る舞いました。すると、旅人はせめてこれだけでも受け取ってほしいと、この二冊の本を私の前に差し出したのです。元々代金などいただくつもりはありませんでしたので、私は本を返そうとしたのですが、ほんの少し目を離した隙に旅人は消えておりました」
本に目を通す。遠い北の大陸で人々の生活の助けるために造られた二種類の魔法生物の設計図。
一つは藁の体に藁の頭、帽子を被った一本脚の魔法生物【案山子】、もう一つは、木の板に四本の足が付いた奇妙な魔法生物【歩く椅子】の二種類だ。
「この二冊の本は、町から離れる際に紛失してしまったことにしようと思います」
「それって、どういう……」
「これはルフト様が使ってください、きっと何かの役に立つはずです」
リレイアスト王国では、魔法生物に使う魔法回路の設計図は取引禁止とされている。僕に渡したことがバレればメルフィルさんも罰を受けるだろう。本当に貰ってもいいんだろうか?
悩んだ末、結局僕は、メルフィルさんから二冊の本を受け取ることにした。
※修正にあたり2021.08.11【歩く椅子】の仕様を変更しました。
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