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連載
118 話 冒険者ギルドの職員寮へ2(2021.08.12改)
しおりを挟むカストルさんから貰った地図を頼りに、冒険者ギルドの職員寮を目指して歩く。
用事がある時以外はいつも町の外にいた。寝るのも従魔の住処だし……細道、脇道、冒険者ギルドと知り合いの店にしか行かなかったからな。迷子だ。地図を貰ったのに迷いに迷い目的地に到着する頃には日も暮れはじめていた。
寮の前に到着すると、カストルさんがあんなにも自信満々にこの寮は安全だと話していた理由も分かる。
迷ったのに……寮の場所は、昨日立ち寄った西門の兵士宿舎のすぐ側にあったのだ。地図には近道を書いてくれたんだろうけど、西門の兵士宿舎の近くって一言言ってもらったほうが、絶対早かったよ。
冒険者ギルドの職員寮の警備も、西門を守る兵士たちが担当している。警備体制は完璧だ。
しかも、門の前にいるのは顔見知りの兵士。
「お!ルフトじゃねーか、ウーゴの旦那にでも用か?」
「いえ、ここに用事があって」
僕は、冒険者ギルドの職員寮を指差しながら、未開の地の探索で新ダンジョンと恐竜の生息地を発見したこと、ギルドマスターのカストルさんから誰にも話さない様にと口止めされたことを、詳しい内容を伏せつつ話しはじめる。
「そんなわけで今の僕は、情報欲しさに他の冒険者たちから狙われる可能性があるんですよね」
「なるほどな、ここなら俺たちもいるし兵舎も近い。冒険者ギルドのギルマスも安全だと考えたんだろう」
話してる途中に顔を一瞬後ろに向けたのは、それとなく何者かに尾行されていることを兵士に伝えるためだ。
「まー……あれだけ派手に恐竜で登場したらこうなるわな、恐竜は金になる魔物なんだ。ちょっとは自重しろよ」
反省しろよと言わんばかりに、兵士はきつめに僕の頭をグリグリと撫でながら顔を僕の耳元に近付ける〝で、後ろのはどうすんだ?〟兵士は声を潜めた。
尾行に不慣れな冒険者だったんだろう。気配を消しきれず、僕の首の振りひとつで見張りの兵士にも見付かってしまった。
「何もしなくてもいいと思います。ゴブリンとの大きな戦いの前にこんなことで冒険者の数が減るのも勿体無いですし……僕がここに籠れば彼らも諦めると思うんです」
「ははは、ガキのくせにそんなことまで考えてんじゃねーよ……念のためウーゴの旦那には、ルフトがトラブルに巻き込まれそうだってことは伝えておくよ」
「お願いします」
「外には常に兵士の誰かが立っている。何かあったらすぐに声を掛けろよ」
職員寮の玄関の扉には鍵が掛かっており、押しても引いてもビクともしない。〝鍵穴が無いのに、どうやって開けるんだろう?〟と、扉と格闘を続けていると、鍵をドアノブ付近に近付けただけで〝ガチャリ〟と鍵が開く音がした。
カストルさんから受け取った鍵に付いた札を近付けることで開錠される仕組みだったようだ。〝玄関まで魔道具か……〟仕掛けは鍵の開錠だけで、ダンジョンボスの部屋の様に入口が自動で開いたりはしない。
恐る恐る中に入る……玄関を抜けても建物の中は暗いままだ。〝自動で明かりは点かないのかな?〟足元に気を配りながら前に進んだ。すると、一番近いランプが淡い光で発光する。〝ランプまで魔道具なんだ〟人が近付くことで明かりが点くランプの魔道具。流石に冒険者ギルドの職員寮といったところか、建物の中には魔道具が惜しげもなく使われている。
入り口近くの部屋には、管理人が住み込みでいるとのことなのだが、ゴブリンの侵攻に合わせていまは町を離れており、カストルさんからは〝ルフト君すまない。寮の料理人も管理人が兼任でね、食事だけは自分で何とかしてほしい〟と言われていた。
冒険者ギルドの職員たちは、まだ仕事中なんだろう。建物の中には僕の足音とレッサースパルトイの甲冑の擦れる音だけが響いている。
今回、僕が借りた部屋は三階の一番奥の部屋だ。
三階は特に空き部屋が多いとのことなので、他の人を気にせずに過ごせるのはありがたい。
〝この鍵はここで使うのか……〟カストルさんから借りた部屋の鍵を鍵穴に差し込む。流石に部屋の鍵まで魔道具とはいかないらしい。
部屋はカーテンが閉め切られていて暗く家具には白い布が掛けられている。窓際のベッドには布団も無く、長く使われていない印象を受けた。
新鮮な空気を取り込もうと窓を開けると、床や家具に積もっていた埃が風に吹かれて宙に舞い、その埃に思わず咳き込んでしまう。
外から従魔の姿が見えても困るので、レッサースパルトイを従魔の住処に入れると、体の形状を自由に変えることが出来るスライムたちを呼び、背を低くしてもらいながら箒や雑巾を手に一緒に掃除をはじめた。
スライムたちは、道具を使わずとも床を転がり体に付着したゴミやホコリを消化すれば掃除が終わるのだが、彼らはいつも僕と同じように道具を使って掃除をしている。
掃除が終わると、ホワイトさんが手持ちの黒板に『主様、布団はどうしますか?』と尋ねてきた。スライムたちは念話が使えない、ミニ黒板を用いた筆談が僕と話すための手段だ。
「布団はいらないかな、寝る時には従魔の住処に入るしね」
部屋を使わないのにわざわざ掃除を?と思うかもしれない。僕がここにいることは、ウーゴさんの耳にも届いたと思うし、滞在中に誰かが訪ねてくる可能性だってある。その時のために部屋を掃除したのだ。
部屋の外側のドアの取っ手に『従魔の住処にいるのでノックをしても聞こえません。御用の方は伝言をこの黒板に残してください』と……予備のミニ黒板とチョークを一緒に吊しておいた。
部屋の掃除を終えると、すぐに僕らは従魔の住処へ入った。
最近、ブランデルホルストに剣を教わりはじめた。
この時ばかりは主従関係は忘れてもらい、僕らは師匠と弟子として剣を打ち合う。正直、ウォリアーリング頼りの僕の剣の腕前ではブランデルホルストには手も足も出ない。それならばと、僕は背中に吊るした生樹の杖に魔力を流す。
この時点で、剣の稽古なのに反則だろうと一部の従魔が笑いながらブーイングをするが、何が何でも勝ちたい僕はブーイングを無視する。
生樹の杖は、単なる武器ではなく杖そのものが生きている。魔力を取り込むことで形状を変え、杖の一部が木の枝の様に伸びて地面に突き刺さり、従魔の住処から魔力を吸って今度は細く鋭い枝をブランデルホルストへと懸命に伸ばした。
地面に潜った枝がブランデルホルスト足元から槍の様に突き出す。不意を突いたはずの攻撃も、何度か対戦しているうちに手の内を読まれてしまっているのだろう、すべて簡単に避けられてしまう。それでも僕は諦めずに木剣を手にブランデルホルストを向かって突っ込んだ。お互いの剣がぶつかり合い、その度に剣を持つ手に痺れが走る。何度も何度も打ち込むが僕の剣は簡単に弾かれ、最後はブランデルホルストの剣先が僕の喉元に止まり勝負がついた。
「ありがとうございました」
頬を膨らませながら不満顔で礼をする。荒い息を吐きながら練習場の端に移動して腰を下ろす。そのまま次のテリアとボロニーズの手合わせを見つめた。従魔の住処が広くなったおかげで、こうした実戦を想定した手合わせも出来るようになった。
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