落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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126話 西の砦の戦い5(2021.08.17改)

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 一年前、苦戦したゴブリンの上位種をみんな従魔が圧倒する。
 今回の僕の目的は、ナナホシの魔法『イリュージョンゴブリン』の強化だ。
 中には、魔法使いのクラス持ちとおぼしき杖持ちのゴブリンまでいるし、戦いの後のナナホシからの報告が今から待ち遠しい。
 コボルトやゴブリンやオークといった人型の魔物は、進化の幅が広い。人間の様に戦士にもなれれば魔法使いにもなれる。もっとも人間に近しい魔物。
 ただ……魔力量はフローラルやレモンといった妖精種に比べて落ちるのか、ゴブリンたちが使うマジックミサイル魔法の矢の矢の数は、一度に三発が限界みたいだ。
 新しく従魔になったビセンテロックジャガーペルハプラントパイソンの二匹も、ここぞとばかりに張り切っている。
 ビセンテは岩の体を感じさせない軽快な動きで、ゴブリンを翻弄し喉元に喰らい付く。喰らい付いた箇所はゆっくりと石化していき、喉を噛まれたゴブリンは呼吸が出来なくなり、そのまま苦しそうに地面を掻きむしりながら死んでいく。僕はイリュージョンゴブリンを呼び、死にかけのゴブリンを殴らせた。
 許されない行為なのかもしれない……でも新魔法だよ新魔法!神様に、今回だけ大目に見てくださいと心の中で謝罪しながら、イリュージョンゴブリンの標的探しに僕は集中した。
 ビセンテの石化は触れている間しか発動しないため、喉全体を石化するとなると五秒前後は噛み続けなきゃならない。
 ペルハの倒し方もかなり無慈悲だ。ゴブリン数匹を一度に大きな口で飲み込むと、そのまま消化液を使い生きたまま体内で溶かしていく。蛇の鱗に似た全身に茂る葉が、時折不規則に揺れるのは、飲み込まれたゴブリンたちが中で暴れているためだろう。
 ゴブリンたちも体内から剣で切り裂こうとしいるみたいだけど、切り口から剣だけが外に吐き出されてしまい。開いた穴は蔓と葉が生い茂りすぐに塞がっていく。
 みんな生き生きとしている。ずっと、従魔の住処から出してあげられなかったから、暴れ足りなかったのかもしれない。

 僕は、途中からみんなの戦いを見守る観客と化した。みんなの成長が誇らしい……ドングリとビセンテとペルハが連携してゴブリンたちを一か所に追い込み、集まったゴブリンたちを、残り三体になったイリュージョンゴブリンと、一体ずつとなったイリュージョンベアとインスタントマッドゴーレムが逃がさないように取り囲む。
 ゴブリンたちも視界が狭くなっているのか、ドングリとビセンテとペルハが後ろに下がったのにも気付かず、目の前にいる作りモノの魔物を倒すのに必死だ。
 フローラルとレモンが魔法を唱える。先に魔法を完成させたのはレモンだった。逃げられないゴブリンを包む様に、アイスストーム氷雪の嵐が吹き荒れる。吹雪に混じった氷の破片がゴブリンの体を切り裂き、急激な気温の低下が凍傷を引き起こす。ゴブリンを一か所に止めていたイリュージョンゴブリンたちも魔法により砕けてしまった。
 辛うじて生き残ったゴブリンに、今度はフローラルの魔法 ファイアーストーム炎の嵐が炸裂する。高熱の炎に焼かれて漂う焼けた肉の臭い。
 戦いはみんなに任せて、僕は情報収集のために死体に『鑑定』魔法を使った。

【ゴブリンソルジャーの死体】
補足:戦闘に特化したクラスを得たゴブリンの死体。
【ゴブリンシャーマンの死体】
補足:魔法に特化したクラスを得たゴブリンの死体。ゴブリン王ラガンの従魔。

 死んだ魔物は『鑑定』魔法に抵抗出来ず、死んだ時間に近いほど得られる情報も多くなる。『鑑定』魔法で従魔師の情報まで手に入るとは思いもしなかった。これでゴブリン王が従魔師テイマーだという確証が得られた。

 テリアとボロニーズは、ひときわ大きな二匹のゴブリンと向かい合っていた。テリアとボロニーズよりもゴブリンの方が背が高い。片腕のテリアと、コボルトチーフに進化していないボロニーズにとって、二匹は格上の相手になる。
 それでも僕は、一対一で戦いたいという二匹の気持ちを汲むことにした。魔物の王の一匹マルコキアスさんとの出会いで、魔物はより厳しい戦いを経験することで、進化により早く近付けることを知ったから、みんなの背中を押してあげたい。危なくなったら、ブルーさんとグリーンさんレッドさんが助けに入ってくれるだろう。

「下等なコボルトが一対一で戦うだと、どの種族にもバカがいるものだな」

 ゴブリンはテリアを笑う。あのゴブリンも人の言葉が話せるようだ。

「おいら、ばかじゃないもん」

 テリアは頬を膨らませながら、ブンブン腕を振り回して抗議した。

「頬を膨らませるとか器用な犬だ。俺はゴブリンチーフのグルゴ、この部隊の副隊長をしている」

 グルゴの装備はブロードソードに小ぶりの盾と、動き易さを重視した肩当の無い鎧。鎧の素材も鉄ではなく魔物の素材だ。

「てりあ、こぼるとちーずはいうぉりゃー」

 テリアは戦いを前に緊張しているのかカミカミだ。思わず僕も笑ってしまった。

「チーズって食べ物かよ、まぬけだな」

 グルゴと名乗るゴブリンの声も若く、言葉遣いには幼さも見える。コボルトよりも口の形が人に近いせいか、喋りも人間と変わず流暢だ。

「うるさいうるさい、うるさーい」

 先に動いたのはテリアだった。
 新調したばかりのバスタードソードを思いっきり上段から振り抜いた。グルゴはそれを正面から剣で受け止めたが、予想以上に一撃が重かったのだろう顔を顰める。
 テリアの連撃だ――何度も何度も休むことなくテリアは剣を振り続けた。グルゴは剣を弾くのが精一杯な様で、少しずつ後ずさりをする。テリアの剣の腕はブランデルホルストとの稽古で間違いなく上達している。

「てりにい、がんがれー」

 ボロニーズは、目の前に立つゴブリンから目を離してテリアに声援を送ってしまった。ボロニーズはお兄さんであるテリアが大好きなのだ。
 ゴブリンもその隙を見逃さない〝目を逸らしてんじゃねーよ〟とグルゴと同じ装備のゴブリンはボロニーズに斬りかかる。
 タワーシールドを前に出し、ボロニーズは辛うじてその一撃を受け止めた。

「意外にやるな、ヘボルト」
「おいらは、ぼろにーずだい」

 反撃とばかりにボロニーズは、腰に吊るしていたメイスを手に殴り掛かるが、その攻撃はあっさりとゴブリンに防がれてしまった。
 〝むーー〟ボロニーズが不満そうに声を漏らす。

「ボロニーズといったか、俺はダバン、ゴブリンチーフのダバンだ」

 一方、片手のため不利に思われたテリアとグルゴの戦いは、テリア有利で進んでいた。両者の剣がぶつかる度に火花が散り、グルゴはその度に大きくバランスを崩す。転ばない様に踏ん張るのがやっとといった感じだ。
 この戦いを分けたのは恐らく経験値の差だろう。
 毎日の様にローズやブランデルホルストとの模擬戦でシゴかれているテリアにとって、グルゴは弱く見えたのかもしれない。

「ぐるご、よわい?」
「弱かねーよ、てめーがコボルトのくせにおかしいんだ」

 グルゴはイライラしながら剣を振るった。何かに八つ当たりする様に何度も何度も、徐々に剣筋は雑になり、その全てをテリアが簡単に弾く。
 魔物ランクも身体能力も恐らくグルゴの方が上である。されど、自分より弱い魔物としか戦って来なかったグルゴの剣では、死線をくぐりぬけてきたテリアの首には届かない。

「もう、いいや」

 剣を大きく弾きグルゴのバランスを崩すと、テリアは体を回転させながら勢いを付けて、一撃でグルゴの首を斬り落とした。

 ボロニーズは苦戦していた。〝わっ〟ダバンの攻撃を受けてボロニーズの手からメイスが落ちる。
 魔物としてのランクの差が大きすぎるのか、ボロニーズは防戦一方だ。今は盾で攻撃を必死に防いでいる。それでも、ボロニーズは諦めていない。

「守ってばかりじゃ、勝てねーぞヘボニーズ」
「へぼにーずちがう、ぼろにーず」

 ゴブリンの特徴でもあり弱点となるのが、相手をいたぶるのを好む性癖だ。これは全てのゴブリンが持つ特性のひとつで、武器を落とし防戦一方になるボロニーズを見て、ダバンは愉悦の気持ちが抑えきれずヨダレを垂らしながら口元を歪める。
 出来るだけ戦いを長引かせようと、わざと手を抜いている様にも見えた。
 大きな音がした。
 グルゴが地面に倒れる音だ。ダバンは、音の発生源を確認するためにボロニーズから目を離した。ダバンが目にしたのは地面に血を流し倒れる頭を失ったグルゴの死体。ダバンは攻撃の手を止めてグルゴの死体に見入ってしまった。 
 それを見たボロニーズは盾を前に全体重を乗せてダバンへと突っ込む。縺れ合いながら転がる二匹、先に起き上がったのはボロニーズだ。
 ボロニーズは倒れたダバンを盾で殴った。何度も何度も盾で殴る。最後はダバンが落としたブロードソードを拾い、ダバンの口の中へと突き刺した。
 
 
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