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連載
130話 内通者3(2020.08.18改)
しおりを挟む席を立つ僕を呼び止めたのはプリョードルさんだった。
「すまんルフト君、待ってくれないか」
「何でしょうか?」
プリョードルさんとは初対面だし、ナゼ呼び止められたのかも分からない。
「そう強張らんでくれ、君に会わせたい奴がいる。うちの部隊には君と同郷の少年兵がいてな、名をモーソンと言うんだが良ければ会ってくれないか」
モーソン……モーソンだって、目を見開く。そんな僕をプリョードルさんはまじまじと見つめた。
「顔と名前しか覚えていないんです。でも僕が唯一覚えているのがモーソンで……大切な友達だったんだと思います」
急に涙が溢れてきそうになった。歯を必死に食いしばり堪える。声を出すのがやっとだ。
「そりゃー良かったアイツも喜ぶよ、ダンブロージオ、ルフト君をモーソンのいるテントまで案内してやってくれ、この時間アイツは備品のチェックでもしているだろう。備品のチェックは明日でもいいと伝えてくれ」
「隊長も、モーソンにはゲキアマだな」
ダンブロージオさんは笑い、プリョードルさんは顔を赤らめる。
「ウルサイ、とっとと行け」
「ヘイ、ヘイ」
アルトゥールさんも砕けているけど、ダンブロージオさんはそれ以上に砕けた印象を受けた。兵士と言うよりはどこにでもいる近所のおじさんって感じだし。
兵士たちは、カスターニャの町の広場にテントを張りそこで寝泊まりしている。
カスターニャの町には幾つかの広場がある。普段はイベントや緊急時の避難場所として使われているのだが、今回のように沢山の冒険者や兵士を集める際には、広場には寝泊まり用のテントが設置されて、宿泊施設として開放される。宿屋に比べて強盗にあう可能性は高くなるが、これだけ多く兵士が集まるテントに手を出すバカはいないだろう。
ダンブロージオさんが案内してくれたのは、リレイアスト王国の第五兵団の兵士たちが使う区画で、兵士たちは馬の世話をしたり装備の手入れをしたりと忙しそうに動いている。モーソンはこの部隊で備品の管理を担当しているそうだ。
「すぐにモーソンを呼んで来るから、ここで待っていてくれ」
僕が案内された場所は、壁はないが屋根代わりに日除けの布が張られた、木製のテーブルとベンチが置かれた休憩室だ。モーソンとの再会を前に緊張して喉がからからだ。従魔の住処から水筒とコップを取り出して喉を潤す。
しばらくして一人の少年が歩いてくる。僕はその顔を覚えていた。僕の記憶に比べてだいぶ大人びてはいたけど、くすんだこげ茶色の髪と少し垂れた目、優しそうな顔は記憶と変わらない。彼の名はモーソン、僕が覚えている唯一の幼馴染。
「ルフト!ルフトーーーーよがった……やっと会えた」
モーソンは走り出し真っ直ぐ僕に抱き付いた。その突進をナイトスリーが止めなかったのは、モーソンから僕に似た何かを感じたからかもしれない。
僕は立ち上がりモーソンを受け止めたものの、何と言葉を掛けていいのか分からなかった。僕にはモーソンの顔と名前の記憶はあっても、彼と遊んだ思い出が一切残っていないのだから。
「久しぶりだね、モーソン」
再会の挨拶と言えばこれかな?頭の中にある言葉を選んで口に出す。
「僕の名前覚えていてくれたんだね、嬉しいよルフト」
僕以上にモーソンの瞳はまっすぐでキラキラだ。僕には眩しすぎるくらいに……嘘はつけないよね。正直に話すことにした。
「モーソンごめん、僕は君の顔と名前しか覚えていなんだ。それだけなんだよ」
僕の言葉にショックを受けて俯くモーソン。それでも、何かを決心した様に彼は顔を上げる。
「あれだけの量の薬を飲ませられたんだ。僕の顔と名前を忘れなかっただけで十分だよ」
顔を上げたモーソンは、自分の頬を両手で挟む様に叩くと気持ちを切り替えたのか、しっかりとした目で僕と向き合った。
「ルフト、僕は君に話したいことがあるんだ。僕たちの暮らした村について」
他の人に話を聞かれたくないんだとモーソンは言った。その深刻な顔に、僕は、冒険者ギルドの職員寮に彼を連れて来たんだけど……モーソンは今スライムたちと戯れている。
何故こうなってしまったんだろう……それはモーソンのこんな一言からだった。
「ルフトってテイマーなんだよね!スライム従魔にいない」
「ん?いるけど」
――と、ブルーさん、グリーンさん、レッドさん、ホワイトさんを従魔の住処から呼んだところ、モーソンがスライムたちに抱き付いてこうなってしまった。彼はスライムマニアだったようだ……いや目覚めたてかもしれない。僕のスライムたちは可愛いから……。メロメロにもなるさ。
「お前たちプニプニでかわいいな!」
スライムたちも僕と似た匂いがするモーソンに抱き付かれて悪い気はしないのか、一切抵抗もせずにされるがまま。ホワイトさんは手持ちの黒板を出し『主様、この方はどなたでしょうか?』と書き込み聞いてくる。
「僕の幼馴染だよ、モーソンっていう名前なんだ」
兵士の仕事に追われて普段自由に遊ぶ時間も無いんだろうと、僕はモーソンが飽きるまで待とうと思った。でも……すでに一時間近くこんな感じだし、大事な話があったんじゃないのか。
没収だな……うん没収だ。僕はスライムたちにモーソンの手元から逃げるように命じる。
「るふとおお、スライムちゃんに触らせてくれよーー」
本気で泣きそうな顔で僕を見るモーソン。
「モーソン、大事な話があったんじゃないのか?スライムに触るのはその後だ」
「相変わらずルフトは厳しいな、ああーーわかったよ、もうっ!」
何故か逆ギレする友人を前に頭を抱えながら、僕は昔厳しい人間だったんだろうか?と考える。
モーソンが落ち着いたところで、改めて話を進めた。
モーソンの大事な話というのは、僕らの育った村、名も無き村についての話だった。何度か聞いた言葉であるけれど、この時初めて自分の故郷の名前が〝名も無き村〟であると、僕の心の大事な部分にストンと収まった。
僕は先にモーソンから貰った『ディアラとヴォラベルに気を付けろ』と書かれた手紙のお礼を言った。モーソンもこの手紙をナゼ書いたのかはハッキリとは分からないらしい、それでもモーソンは過去の僕との約束を覚えていて、この手紙を書いたそうだ。
「これは、僕が偶然聞いてしまった話なんだ」
モーソンは、以前兵士たちが話していた内容を僕にも教えてくれた。
モーソンの記憶では、十歳を迎えた子供たちの中で、村で不要な子供だけが集められてリレイアスト王国へと売られていくとなっていたのだが、名も無き村の子供たちが、前にこの国に来たのは七年も前のことなんだそうだ。
名も無き村には、ある噂話がある。
攫うのか、買うのか、集め方は知らないが、名も無き村と呼ばれる施設には、世界中から小さな子供たちが集められて、魔法や薬で人体実験を行い、改造しては、特殊な能力を持った人間として様々な国に売られているという、都市伝説。……僕は覚えていないけどモーソンは、みんなの髪の色や肌の色がバラバラだったことを覚えているそうだ。自分たちの記憶すら全て作りモノなんじゃないかと泣きそうな顔で言った。
僕はモーソンの話を聞いても驚かなかった。イシザルの長老からも、僕からはエントの珪化木の香りがするって言われたし、人体実験っていうのは、あながち間違っていないんじゃないかと思う。でも今は、そのこと以上に今はモーソンの気持ちが気になる。
「ねーモーソン。モーソンはその話を聞いてどう思ったの」
「僕は、みんなを助けたいって思ったんだ。もし、噂が本当なら名も無き村から僕らと同じような境遇の子供たちを解放してあげたいって」
モーソンの目は何処までも真っすぐだ、でも、もし子供たちを解放したとして、その子供たちはどうなるんだろう。子供は親がいないと育たない。
「ルフト僕を手伝ってくれないか、名も無き村の情報は隠されていて僕はまだ何も掴めていない。それでも絶対手掛かりを見つけてみせる。だから、君にも手伝ってほしいんだ」
モーソンは僕の手を握る。
「モーソンはそのために全てを捨てるの、もし名も無き村のことを国が隠しているのなら、それは 今のままじゃいられなくなるってことなんだよ」
「第五兵団のみんなは僕にとって大切な家族だよ、別れたくない……でも僕は、それ以上に同じ境遇の子供たちがいるなら助けたいんだ」
モーソンが絵本に出てくる勇者に見えた。
それでも僕は答えを出せずに、少し考えさせてほしいとモーソンに言った。
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