落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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132話 ナナホシの新魔法(2021.08.18改)

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 雨が降ってきた……雨を気にせず一匹のネズミの魔物ナイトワンドリング一つ目の黒ネズミが、数時間前まで戦場だった場所で一生懸命に何かを探している。
 ネズミは第六兵団に所属するテイマーゴドフの従魔だった。彼は主の命令に従い、こっそりヴォラベル魔導中隊の後をつけていたのだ。
 戦闘の間、じっと身を隠していたネズミは、ゴブリンたちが去るのを確認すると、襲われてバラバラになったヴォラベル魔導中隊の馬車の中を探しはじめる。
 ほとんどの死体は持ち去られてしまっていたが、やっと一つ死体を見つけた。ローブの胸元から軍事国家ヴォラベルの紋章が刺繍された部分を切り取ると、口に銜えて走り出した。

 ヴォラベル魔導中隊が出て行った翌日、早朝から降り出した雨の中。カスターニャの町は防衛戦の準備に追われていた。
 カスターニャの町の偉い人たちは、こうなることを予想していたんだろう。食料の備蓄も十分にあるし、倉庫の中には、どこから集めてきたのかカタパルト投石機バリスタ巨大弩といった攻城兵器が並んでいる。冒険者たちは手分けしてそれを倉庫から取り出すと、台車に乗せて運び、滑車を使い壁の上へと引き上げた。
 恐らく、ゴブリンたちは先に西門と東門を落とそうとするはずだ。
 しかし、垂直の壁をも登るアントライダーと呼ばれる蟻の魔物を駆るゴブリンの存在が判断を鈍らせる。
 ゴブリンたちが攻め込む箇所を絞れないことに、人々は頭を悩ませた。

     ✿

(おーいルフト……ルフト、聞こえているんだろう!)

 ナナホシテントウのスプリガン虫の妖精のナナホシが、僕が横になる枕の横で容赦なく飛び跳ねる。風邪を引いてしまったのか、単に疲れただけなのかは分からないけど、朝から体がだるくて僕はベッドから起きられずにいた。
 みんなは、そんな僕に気を使ってくれたんだけど……ナナホシだけは僕の体調お構いなしで騒いでいる。
 今日は雨みたいだし、ゆっくりするには丁度いいと思ったんだけどな。わざとらしく溜め息をついてみるも、ナナホシには効かない。

(ナナホシ、お父様は体調を崩しているんです。静かにしてください!ですわ)

 ローズが、僕の腹の上で遊ぶナナホシの頭を二本の指で掴み持ち上げる。

(いたい、放せよローズ、いたーい)

 ローズの手の中バタバタと暴れるナナホシ、こうウルサイんじゃゆっくり眠ることも出来やしない。まずは、ナナホシの話を聞いてから、もう一度眠ったほうが良さそうだ。

「まー落ち着いて、でナナホシどうしたの?そんなに慌てて」

 ローズから解放されて僕の腹の上で遊ぶナナホシを指でつつく。動かなければ人形に間違える程小さなナナホシが、体をこれでもかと反らして胸を張る。
 ナナホシは、今日も元気だ。

(ふふーん、教えてほしい?ほしいか?

 正直、相手をするのがかなり面倒くさい。


(棒読みだしー。気持ちが籠ってなーい!!でも今回は特別教えてやるよ、また俺の魔法が増えたんだぜ)

 忘れていた!そうだ、『イリュージョンゴブリン』の魔法が増えたことに感激した僕は、後から来たゴブリンの止めも積極的にイリュージョンゴブリンたちに任せたんだった。あんなにも楽しみにしていたのに、モーソンとの再会が衝撃過ぎて忘れていた。

「おおお!ねーねー何が増えたの」
(チッチッチ、そうガッツくなって、今見せてやるから)

 ナナホシは、自慢げに僕に新しい魔法を見せてくれた。
 詠唱が終わり、目の前に一匹のゴブリンが現れる。いつものイリュージョンゴブリンと同じで目の部分が黒く窪み眼球がない。ただ、明らかに今までのイリュージョンゴブリンより体が一回りは大きかった。
 見覚えのあるゴブリンだ。先日戦ったゴブリンソルジャーに瓜二つ、装備も今までのイリュージョンゴブリンとは違い、棍棒と盾ではなくショートソードを持っている。鎧も革鎧ではなく、蟻の魔物の素材で作ったジャイアントサンドアントアーマーに似ていた。一個目の新魔法は『イリュージョンゴブリンソルジャー』で間違いない。装備は、倒した時装備している物が選択されるんだろう。
 イリュージョンゴブリンソルジャーを消した後、ナナホシが次の魔法を唱える。現れたのは木の杖に深緑のローブを纏った眼球の無いゴブリン。
 ゴブリンシャーマンだと一目で分かった。使える魔法はひとつだけで、一度に三本の魔法の矢を飛ばす。マジックミサイル魔法の矢LV三を習得済み。
 『イリュージョンゴブリンシャーマン』自体の魔法のレベルアップで、マジックミサイルのLVも上がるのか、他の魔法も使える様になるのかが、気になるところではある。

 魔法を披露したナナホシは満足したらしく、僕は誰にも邪魔されず一日ゆっくり休むことが出来た。

 疲れていただけだったんだろう、一日寝ただけで体調は回復した。
 朝一番で冒険者ギルドに顔を出す。冒険者ギルドにある掲示板には、仕事の依頼や仲間募集の他に、ゴブリンについての新着情報が貼り出されるコーナーが作られていた。
 この日掲示板に新しく貼り出され内容が、冒険者たちに衝撃を与える。
 南のキャンプ地へ向かう途中、ヴォラベル魔導中隊がゴブリンに襲われて全滅したというニュースだった。
 冒険者たちからは〝ゴブリンに襲われないとか、怪しい秘術に頼るからこうなるんだ〟とか〝あいつらが内通者だったんじゃないのか?金でゴブリンと揉めて殺し合いになったんだろう〟と批判の声ばかりが聞こえてくる。
 僕は、そんな話を聞きながら、ヴォラベル魔導中隊のことよりも、ディアラがどうなったのか、それだけが無性に気になってしまった。
 
 
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