落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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135話 カルガリー村の赤毛熊討伐任務1(2021.08.18改)

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 ゴブリンの軍勢は、すでに目と鼻の先まで迫っていた。
 目が覚めたら町が燃えて無くなっていた、なんてことにならないためにも、今日はリレイアスト王国の兵士たちが滞在する、町の広場のテントで休むことにした。
 アルトゥールさんたちも気を使ってくれたのだろう。僕が泊まるテントはモーソンと一緒で、他の人に見られないならと、早速モーソンが大好きなスライムたちを、従魔の住処から呼び出した。
 モーソンは、僕の幼馴染だけあり魔物に対して抵抗がない。今も自分の体の前にいたグリーンさんを抱えて、プニプニとその感触を楽しんでいる。

「ねールフト、スライムたちも眠ったりするの?」
「うーん、僕の従魔になってからは同じように寝るようになったかな……でも睡眠をとってもとらなくても、体調には影響ないみたいだよ」
「へー凄いんだな、スライムって」

 グリーンさんを、指で優しく押しながらモーソンは感心したように呟く。
 それを聞いたホワイトさんが黒板を取り出し『私たちの睡眠という行為は、主の真似をしているだけなので寝なくても平気なんです。お二人は気にせず眠ってくださいね!何かあったら起こしますので』と書いて見せる。他のスライムたちも〝そうだ、そうだ〟と言わんばかりに、体を伸ばして頷く様に何度も体を揺らした。

「僕らの話していることが分かるなんて、みんな賢いんだね」

 スライムたちを褒めるモーソン、スライムたちが褒められるのが自分が褒められることのように嬉しい。
 〝そうだ、ルフトには見せておきたいモノがあるんだ〟と、何かを思い出したように、モーソンがおもむろに上着とシャツを脱ぎ始める。
 上半身裸になったモーソンの左肩には、獣のような赤茶色の毛が生えていた。本人も何の生き物の毛かは分からないらしい〝名も無き村〟に対して、モーソンが疑念を抱きはじめたのは、この肩に起きた変化が原因のひとつなんだという。

 肩を見せるとモーソンは、自分の身に起こったことについて話しはじめる。
 三か月前の出来事だ。

 プリョードル兵士長率いる第五兵団は、ここカスターニャの町からも近い、カルガリー村に任務で訪れていた。
 依頼の内容は〝村の近くの森で目撃情報が増えている。赤毛熊退治〟村から少し離れた森から、異常繁殖でもしたのか多数の赤毛熊が現れ、人や家畜を襲うようになったのだ。
 本来、増え過ぎた害獣の討伐は、町や村それぞれが行うものなのだが、あまりも赤毛熊の数が多く、村単体での討伐が困難になった町長は、外に助けを求めた。
 この手の討伐依頼の多くは、最初は、国ではなく冒険者ギルドに出されるはずだ。魔物ではない赤毛熊の討伐に冒険者たちがうまみを感じなかったのか、村側が依頼料を出し渋ったのかは分からない。この依頼は国に回ってきた。

「熊退治に、こんな大人数で来る必要あったんすかね」

 村から離れた森の中を歩きながら、兵士の一人が不満そうに漏らす。

「アリツィオ大樹海のゴブリン共が活発に動き出したって噂もあるからな、兵士長も俺らに実戦経験積ませたいんだろうさ」

 兵士たちは、武器を手に森の奥に進みながら出くわした赤毛熊を狩っていく。ここはアリツィオ大樹海のような魔物がうろつく森ではない、村の人々が狩りや薬草採取を行う普通の森だ。
 プリョードル兵士長とダンブロージオと一緒にモーソンは、森の探索部隊には同行せずにカルガリー村で留守番をしていた。三人は建物の中には入らず、森がよく見える場所で村人たちが運んだテーブルを囲み話をする。
 いつもならお茶はモーソンが準備するのだが、今は村人たちが代わる代わるやって来ては、お茶やお菓子や果物を運び三人をもてなしていた。

「すみませんねー、兵士の皆さんにこんなことをさせてしまって」

 村の女が、プリョードルの空になった木製のコップに、お茶を注ぎながら言った。

「こちらこそ、いろいろご馳走になってしまい、すみません」

 プリョードルはお茶を飲みながら、そう言葉を返す。
 そんな和やかな雰囲気を壊すように、森の方から木や草を揺らしながら何かが近付いて来る。

「何頭か逃がしたか、後で説教が必要だな」

 プリョードルは、テーブルに立てかけておいた剣を取ると鞘から抜いた。村の女も、すぐにプリョードルの反応を見て家に向かって逃げていく。
 ダンブロージオとモーソンもそれぞれ剣を抜いた。木や草を掻き分ける音が少しずつ近付いて来る。しかも、その音は一つではなく複数だ。
 モーソンは緊張して荒くなった呼吸を、深呼吸を繰り返して整える。狼とは戦ったことはあるが、実戦経験はほぼゼロに近い。

「そー緊張するなって、相手は獣だ訓練通りやれば何とかなる」
「ありがとうございます。ダンブロージオさん」
「お前ら、来るぞ!!」

 気を引き締めろと言わんばかりにプリョードルが叫ぶ、森の中から二匹の獣が飛び出してきた。その獣は、赤毛熊に比べ体が細く、腕と爪が異様に長い。
 大きさは熊と変わらないが、体つきは熊と犬の中間……しかも、頭も良いようで二匹は三人を前に、すぐ襲うでもなく様子を窺いながら距離を保つ。

「厄介だな、魔物化ってやつか……」

 以前から動物の群れの中に、その動物の特徴によく似た魔物が混ざっていることが度々あった。
 今までは、それを特別変異や魔力溜まりが引き起こした偶然の現象だと考えていたのだが、それを〝ボッチテイマー〟と呼ばれる冒険者の少年が、動物を魔物化して連れていたことで、動物も魔石を食べることで魔物に変わることがあると、魔物化は常識となったのだ。
 それは、どの動物にも起こり得る現象だと……。
 しかも、冒険者ギルドには、テイマーたちが残したとされる魔物の進化や動物の魔物化に関する資料が多数残されており、資料が意図的に隠されていたことも判明したのだ。
 リレイアスト王国ではそれがちょっとした問題となっている。テイマーを不遇職にしようとする何らかの意図が裏にあったんではないのかと……。

「モーソン、お前の友人には感謝しなくちゃいけねーな、おかげで動物たちの中に魔物が居ても慌てずにすむ様になったんだ。相手は魔物を喰らった赤毛熊の可能性が高い。二人とも気を抜くな」
「ハイ」
「了解だ隊長」

 プリョードルの言葉に、ダンブロージオとモーソンがそれぞれ返事をする。
 進化や魔物化で生き物は別の存在には変わる。体が大きくなるモノ、新たな技能スキルを得るモノ、凶暴化するモノ、知識や言葉を得るモノと。変化の形はみな違う。
 目の前の赤毛熊は、魔物化により機敏な動きと、あの長い腕と爪を得たのだろう。
 予想通り魔物は素早かった。
 二匹の魔物は、剣を爪で弾きながら一定の間合で戦い続ける。厄介なことに、剣を持った三人よりも腕の長い二匹の魔物の方が、間合は広い。

「賢くなりすぎだろー」

 ダンブロージオがたまらず愚痴る。三人には、単に魔物を倒すだけでなく村を守る使命もある。
 二匹を逃がさない様に戦うのも、思った以上に大変だった。
 二匹の魔物も、最初は互いに連携して戦っていたのだが、いまは三人を引き離すように……徐々に距離を空けはじめる。一匹をプリョードルが、もう一匹をダンブロージオとモーソンが相手をする。
 魔物たちは知っているんだろう。目の前の三人を殺すより村で暮らす武器を持たない人間を殺した方が早く餌にありつけることを、明らかに二匹は、三人を倒すのではなく三人を抜けて村に行くことだけを狙っていた。
 
 
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