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連載
190話 大穴突入2(2021.08.25改)
しおりを挟む故意じゃなかったとはいえ、大きな音を立てて寝ている人を叩き起こしてしまったんだから当たり前なのかもしれない。でも……どうしてこうなったんだろう。
僕とナファローネはダンジョンの中で、大勢の人たちに囲まれながら正座をしている。膝に感じるゴツゴツした岩の感触が、なんとも痛い。
移動する僕たちの前を、道を塞ぐように大勢の冒険者たちが武器を手に並んでいた。ペリツィアたちから降りた僕は、ナファローネを連れて謝罪をするために彼らのもとへと向かった。
「こんな時間に大きな音を立ててしまって、すみませんでした」
この場にいる全員に聞こえる様に声を張って謝った……そのまま深く頭を下げる。ナファローネも僕を真似をして一緒に頭を下げる。
そんな僕らの前に一人の男が近付いてきた。
「俺は、このキャンプ地にいる全パーティーを仕切っているラッサナてモノだ。あんたら大穴に来るのは初めてか?」
ラッサナと名乗った男は、この中で一番年上ってわけでもなく一番強い様にも見えない……リーダーってことは人望があるのかな?
「はい……大穴に潜るのは今日が初めてです」
このタイミングだと思ったんだろう、駅馬車と同じ様にナファローネがギルドカードに手をかけた。
「デカいの、ここじゃーそれは通用しねーぞ、後ろの魔物を見る限りあんたらは強い冒険者なんだろう……でもな、ここにはここのルールてものがあるんだ。あんたらが強かろうが弱かろうが最低限のマナーは守らなくてはならない。まずはそこに座れ……」
僕は、従うべきなのかと一瞬躊躇する。
「座れ!!」
「はひ」
一度めよりも大きく力強い声でラッサナさんが怒鳴る。彼の雰囲気が変わった、身に纏うオーラが変化したというべきか、何も感じない呑気な男という印象からベテラン冒険者が纏う剣呑な雰囲気へと変化する。
僕はその場に正座した……ナファローネもそれに続く、ラッサナさんの変化には驚いたが、それでも目の前に三十人近くいる冒険者を見ても恐怖は感じない。みんな、本当に強くなったんだなー。
かといってトラブルは嫌だし……ここは大人しく従おう。
「さっきも言ったが、ここにはここのルールがあるんだ。あんたらも冒険者なら分かるだろう?魔物がいる場所での睡眠がどれだけ危険で大事なものなのかを、寝不足で戦えば命を落とす確率も上がるんだ」
どんなに危険な場所でも従魔の住処で好きなだけ寝ているなんて……みんなに起こされなければたまに昼過ぎまで寝ちゃうことがあるなんて……モーソンなんて僕と違って、誰からも起こされないことをいいことに、週三は寝坊だもんな。絶対言えない!
「上を見ろ」
言われるまま上を見た。文字?図形だろうか、ダンジョンの天井に奇妙なマークが描かれている。
「大穴の中にあるキャンプ地の天井には、あんな感じのマークが幾つも書かれているんだ。大体キャンプ地から二百メートル前後にわたり等間隔で書かれている。あの高さに書くのはすげー苦労するんだぜ。あんたらにはあれが何を意味しているのか分かるか?」
「分かりません……」
「だろうな、知っているならあんな大きな音を響かせて、俺らの前に来たりはしねーだろう」
(主様、大丈夫か?)
フローラルが、僕だけに念話を飛ばす。
(大丈夫だよ。少し様子を見るから、フローラルたちはそこから動かないで)
「お前、人が大事な話してるのに、なに口をモゴモゴと動かしているんだ。文句があるならハッキリ言え」
念話に慣れていないせいか、口も一緒に動いてしまった。
「違います。文句とかじゃありません!緊張すると口をモゴモゴ動かしちゃうのが癖なんです」
怒られるのが嫌で咄嗟に嘘をついた。そうは言ったものの、癖って……苦し過ぎる言い訳だよね。
「癖なら仕方ねーか」
信じてもらえた。ラッサナさんは凄くいい人なのかもしれない!
「何度もこんなことをされたらたまったもんじゃないからな、大穴のルールについて教えてやるよ」
後ろから〝そいつらを許すのか?〟とか〝眠いしリーダーに任せるわ〟とか〝明日も早いからもう寝る〟そんな冒険者たちの声が聞こえたかと思うと、ラッサナさんを残して他の冒険者たちは散っていった。
「大穴の中には、複数のパーティーが集まって休むためのキャンプ地がある。キャンプ地の場所は決まっていて上にあるあのマークがその目印だ。ここには独自のルールがあってな、あのマークがある場所では夜大きな音を立てずに静かにする。日中であればこの場所に湧いた魔物はキャンプ地を使う冒険者たちが優先して狩る。この二つだ、簡単だろ。まだ、ここは大穴の入口だ。奥に行けば行くほど冒険者たちもピリピリしている、睡眠を邪魔するってことは殺し合いになっても可笑しくないんだ。あんたらだって気持ちよく寝ているのを邪魔されたら怒るだろ」
うん、気持ちよく眠っているのを邪魔されれば僕だって怒る。ラッサナさんの言っていることは正しい。
「はい、眠るのを邪魔されるのは嫌です」
僕の答えを聞いてラッサナさんは満足そうな顔をした。
「初めてだし今回は注意だけにしよう。二度と今回みたいな真似はしないでくれよ」
「分かりました。今回は本当にすみませんでした」
ラッサナさんは、僕の頭をごしごしと撫でた。子供だから許してもらえたのかな?
「分かってくれればいいさ、ところで君ばかり話をしているが、そっちのデカいのは口がきけないのか?」
「ああ、彼は口が不自由なんです」
ナファローネには、魔物だとばれないためにも、人前では話をしない様に言ってある。
「そうか、まー冒険者ならそういうこともあるだろうな」
上手く誤魔化せた。ラッサナさんは何度も頷きながらもナファローネに同情的な表情を見せる。
僕はもう一度、今度は声を抑えてラッサナさんにウルサクしたことを、眠りの邪魔をしてしまったことを心から謝った。
それで立ち去ろうとしたんだけど……足が痺れてそのまま地面に盛大に頭から突っ込んでしまった。涙目になる僕をナファローネが持ち上げると、何度もラッサナさんに頭を下げながらその場から立ち去った。
ラッサナさんの生暖かい視線と苦笑のせいで、ますます恥ずかしくなり頬を染めて顔を伏せる。
そこからは、ダンジョンの天井を見て注意深く進んだ。
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