落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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3巻

3-1

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 第一章 ルフトの過去と未来



 僕ルフトは、自分より弱い生き物しか従魔にできない役立たずのテイマーだ。
 そのせいで冒険者パーティに入れてもらえなかった僕は、一人ぼっちの冒険者〝ぼっちテイマー〟と呼ばれてしまっていた。
 冒険者になってからなんの成果も残せない日々が続いていたが、ある時、僕は一匹の妖精に出会った。キンギョソウという花の妖精フローラルシャワー。赤いよろいに身を包んだおじいさん騎士だ。
 彼との出会いを皮切りに、僕は多くの魔物を従魔にすることができた。
 シロミミコヨーテという動物から、シルバーウルフという立派な銀色の狼の魔物へと進化したドングリとアケビ。
 フローラルと同じ花の妖精のレモンクィーン。
 元気でワンパクなコボルトの兄弟テリアとボロニーズ。
 赤青緑白と色とりどりのスライムたち。
 そうそう、ニュトンたち五匹の職人妖精も忘れちゃいけない。
 ソードラビットといううさぎの魔物レッキスは……ペット枠かな?
 しかし、いろんな仲間を得て冒険者生活を頑張っていこうと思っていた矢先、予想外の出来事が起こった。
 冒険者ギルドからの依頼〝ゴブリンの町への襲撃作戦〟で功績を上げた僕に、とある冒険者が〝ぼっちテイマーにはめられて功績を横取りされた〟とデマを流したのだ。
 それが原因で僕は一年に及ぶ〝大樹海の西に広がる未開の地探索任務〟を命じられ、カスターニャの町を離れなくてはならなくなってしまった。
 でもなんだかんだ、僕にとっては良かったんだと思う。
 見つけるのが困難と言われていた新ダンジョンを百年ぶりに二つも見つけたし、幻の魔物と呼ばれていた恐竜とその生息地も発見した。
 ファジャグル族という優しくて楽しい小人たちとも出会えたし、むしろ順風満帆じゅんぷうまんぱん万々歳ばんばんざいって感じだ。
 ダンジョンでは新しい仲間もできた。
 宝箱に入っていた種から育てた植物の魔物ローズと、同じく宝箱から出てきたアースドラゴンのきばから生まれたスパルトイのブランデルホルスト。
 それに、召喚しょうかんつぼから出てきた空飛ぶサメのアルジェント。
 石の体を持つトカゲの魔物ストーンとも出会えた。
 あまり知られていないが、従魔が進化したりアイテムで召喚したりと、テイマーが自分より強い魔物を使役する方法はたくさんあるんだよね。
 そして、最も驚いたのが、マルコキアスさんとイポスさんとの出会いだ。彼らは最強の魔物を表す〝魔物の王〟という称号を持っている。そんなすごい魔物の二人だが、マルコキアスさんの方はなんとアケビと結婚することになったのだ。
 マルコキアスさんは純白の毛を持つ狼の姿をしており、背中には四枚のわしに似た翼が生えている。
 マルコキアスさんから、僕はすでにお父さんなんて呼ばれちゃっているんだけど、変な感じだ。


 多くの困難を乗り越えた僕は現在、アケビの結婚式の料理に使う食材を求めてヘリュマントスの山という場所に来ている。そして、ひょんなことから魔物の王であるイポスさんと一緒に鍋を囲んでいるところだ。

「イポスさんはとても強いんですよね? ならなんでこんな山奥にこもっているんですか?」

 僕は一心不乱いっしんふらんに鍋を食べ続けるイポスさんに尋ねた。
 彼の力なら、このあたり一帯の地域を支配するのも簡単だろう。
 口の中のものを呑み下したイポスさんは、僕に顔を向ける。

「私は自分とその眷属けんぞくが静かに暮らしていける場所さえあればいいんだ。だから支配地域をヘリュマントスの山の頂上付近に限定しているんだよ」

 ヘリュマントスの山の周りには他にもたくさんの山が集まっていて、巨大山地を形成している。
 この山地は、その中で最も大きなヘリュマントスの山の名前を取って、ヘリュマントス山地と呼ぶのだそうだ。山の詳細を説明したイポスさんはさらに言う。

「ヘリュマントス山地は、ルフトのいるリレイアスト王国と西にあるトリストレーゼ王国をへだてる壁の役割を果たしていて、この地の平和にも一役買っているんだ」

 イポスさんは誇らしげだ。
 魔物の王が平和を誇るというのも不思議な感じがしたが、これがイポスさんなのだろう。
 ヘリュマントス山地の山々は、イポスさんの暮らすヘリュマントスの山ほどではないものの、どの山も少なからず魔力を宿しているらしい。

「この山にはないが、他の山にはダンジョンもあったと思うぞ」

 イポスさんはそんな興味深い話も聞かせてくれた。
 アケビの結婚式の準備があるため今回は無理だが、時間ができたらいつか他の山にあるダンジョンにも挑戦してみたいな。


     ✿


 イポスさんと一緒に鍋を囲んだ翌日――
 僕たちは結婚式に出す料理の食材である猪の魔物の住処すみかへと狩りに向かった。
 茂みに隠れながら、僕は猪の魔物の群れを見る。
 アリツィオ大樹海の中域に生息するワイルドボアの近縁種きんえんしゅだろうか? 山吹色やまぶきいろの毛が日に当たると金色に見える。
 イポスさんによれば、ヘリュマントスの山にいる猪は〝黄金の猪〟と呼ばれているそうだ。恐らくこの毛の色が所以ゆえんなんだろう。
 僕たちが近くの茂みに潜んでいるにもかかわらず、猪の群れはこちらに気付かず地面に落ちた熟した柿の実を夢中で食べ続けている。
 イポスさんの体から染み出る魔力の影響で、山頂に近づくほど魔物たちの警戒心はにぶくなると聞いていたが、ここまで鈍いと野生の魔物としてどうなんだろうと思ってしまうよ。

あるじ様、私とレモンがいきますぞ)

 フローラルとレモンが一斉に『魔法の矢マジックミサイル』を放ち、スライムのグリーンさんはその魔法に合わせて弓で矢を放った。
 しかし、全弾命中したのにもかかわらず、猪の魔物はぴんぴんしている。こちらに気付いた猪は怒り狂って、僕たちの方へと向かってきた。
 あんな大きな猪に正面から突っ込んでこられては大怪我してしまう。
 しかし――

「アルジェント!」

 僕が叫ぶと、空を飛んで様子をうかがっていたアルジェントが、群れの中でも一際大きな猪の首にみつき、そのまま宙へと持ち上げた。
 さらにローズとブランデルが群れの中に飛び込み、次から次へと猪を仕留めていく。
 後はボロニーズとスライムのブルーさんが盾で受け止めていた猪を、残りのみんなで手分けして倒した。
 それほど大きな群れではなかったので、十分も経たないうちに全ての猪を倒し終えた。

「ほとんど出る幕がなかったな……」

 僕は思わず頭をかきながら呟いた。
 日に日に僕と従魔のみんなとの力の差は開いていくけど、こればかりは焦っても仕方がない。人間は運動能力ではどうしても魔物に劣ってしまうからだ。

「僕がみんなより勝る部分といったら、これくらいかな……」

 僕は、みんなが運んできた猪の死体を、次から次へと愛用の包丁で解体していく。
 猪の魔物の解体は、以前町の肉屋のフラップおばさんから丁寧に教わったことがあるし、何度もやっているから手慣れたものだ。
 解体の途中、僕はふと猪の種族が気になり『鑑定』魔法を使った。


【ヘリュマントスサンライトボアの死体】
 特徴:柿をはじめとした果物を好んで食べる猪の魔物。脂には甘みがあり美味しい。


 これは期待できそうだ。
 肉質も悪くないし嫌な臭いもしない。むしろ果物を主に食べているためか、肉からはフルーティな甘い香りがする。脂のつき方も良い感じだ。
 これならアケビの婚約相手であるマルコキアスさんも、尻尾をブンブン振りながら喜んでくれるかもしれないな。
 そんなことを考えつつ、僕はひたすら解体を続ける。
 背骨の両脇のロースと呼ばれる部位の肉もあばらについたバラ肉もとても美味しそうで、肉を切りながら思わずよだれが垂れそうだ。
 ちなみに、脂身は多めだが、首周りのトロ肉と呼ばれる箇所は歯ごたえがあり、僕の好きな部位の一つである。
 猪の魔物は内臓部分も食べられる部位が多い。コリコリとした歯ごたえがあり、癖はあるもののマニア受けする。
 しかも、ヘリュマントスサンライトボアは、内臓からも嫌な臭いがしない。
 市場に出回っている猪の内臓は臭いが強くて、調理法が限られてしまうんだけど、これなら様々な調理法を試せそうだ。
 僕は一通り解体を終えると、部位ごとに殺菌作用のある葉に包み、魔石で動く冷凍庫の中へと肉を運んだ。魔石とは魔物を倒すと手に入る魔物の核だ。
 残念だったのは、急所である首を狙って倒した猪が多かったため、状態の良いトロ肉があまり採れなかったことかな。

「まあ、食材は十分集まったし良しとするか!」

 僕は気を取り直して、戦闘を終えて休んでいるみんなのもとに戻った。


 その後も僕たちは小さな猪の群れを狙い、狩りを続けた。
 効率を考えて僕は戦闘には参加せずに、みんなが運んでくる猪を次から次へと解体していく。
 ただ、狩りのぺースが速すぎて途中から解体が追いつかなくなったので、ニュトンたちを呼んで解体を手伝ってもらった。
 なんとか目標の三十匹に達した時には、さすがにへとへとになっていたよ。

「すぐにでもベッドに飛び込みたいけど、夕食にはイポスさんも招待しているし、もうひと頑張りだよね」

 僕は気合を入れ直して解体した猪の調理法を考える。
 結婚式用の食材とは別に、今日の夕食にも猪肉を使おうと思っている。
 肉屋のフラップおばさんは〝美味しいお肉は、シンプルに焼いて食べるのが一番〟っていつも話していたよな。
 それでも何かひと工夫はしたい。
 塩コショウを振るだけでも十分美味しいとは思うけど、せっかくだし小人たちからもらった味噌みそという調味料を使ってみるか。
 僕はテイマーだけが使える〝従魔じゅうま住処すみか〟という空間に入る。
 ここはその名の通り従魔のみんなが過ごす場所であり、僕自身の家のような役割を果たしている。どこからでも自由に入れる僕の部屋という感じかな。
 従魔の住処に入った僕はキッチンに移動した。
 まずは、味噌に小人の村産の果実酒とはちみつを合わせてかき混ぜ、すりおろしたニンニクを入れる。途中、合わせた味噌を指ですくい舐めてみた。
 もう少し甘味があってもいいかもしれない……僕は味見をしながらハチミツを足していく。

「こんなものかな……」

 甘みがついたニンニク味噌に、今度はヘリュマントスサンライトボアのバラ肉を厚めに切り漬け込んでいく。後は焼く直前までこのまま寝かせておこう。
 次の仕込みは、大きめに切ったロース肉と、同じように切ったオレンジ色の三角錐さんかくすいの形をした根菜バースニップとタマネギを順番に串に刺していく。
 今回はみんなで焼きながら食べるのもいいかと思い、串焼きを作ることにした。
 従魔の住処を出て夕食を取るのに適した場所を探すと、近くにちょうど良く開けたところを見つけたので、テーブルと椅子を出してみんなで並べた。
 強大な魔力を持つイポスさんが一緒なら魔物が近づいてくることもないだろう。
 従魔の住処で火を使う際には、魔道具のコンロにフライパンや鉄板をせて焼くのだが、せっかく外で食べるんだし炭を使う。
『ストーンショット』の魔法用に貯めてある大きめの石をコの字型に積み上げて網を載せれば、即席の釜戸かまどの完成だ。
 山火事にならないように釜戸周辺の草は念入りに刈っておいた。

「あるじ、こっちも、できた!」

 コボルトのボロニーズが元気良く叫ぶ。
 僕たちが石の釜戸を三つほど組み上げた頃に、イポスさんたちはやってきた。

「ルフト、お招きありがとう。ご馳走ちそうになりに来たよ」

 イポスさんは黒いローブをまとう人間の姿だ。本当は魔物の見た目をしているらしいけど、見たことはない。彼の後ろを眷属であるたくさんのソウコウムシたちが並んで歩いている。

「イポスさん、もうすぐ準備が終わるので椅子に座って待っていてください。そうだ、ソウコウムシってどんなものを食べるんですか?」

 僕が尋ねると、イポスさんはふむとあごに手を当てながら考え事をするように目を閉じる。

「うちの子は、野菜や果物や落ち葉が好きかな。柿なんかも好きでよく食べているよ」

 それならばと、僕は従魔の住処の中にある畑から、テリアとボロニーズにリンゴを採ってきてもらうように頼んだ。
 従魔の住処で採れるリンゴは美味しいって評判だからね。
 そうそう、柿にも大きな種が入っているんだけど、試しに食べ終えた柿の種を従魔の住処に植えてみたところ、たったの一日でもう芽が出てきていた。従魔の住処の土にはいつも驚かされるよ。
 この調子なら二、三ヵ月もあれば柿の木に実がなって収穫もできるんじゃないだろうか?
 魔力のある土を好む品種みたいだし、なえを多めに育てて小人たちにも配るのもいいかもしれないな。
 そんなことを考えていると、テリアとボロニーズが従魔の住処から戻ってきた。
 彼らは採りたてのリンゴをソウコウムシたちに配っていく。
 ソウコウムシたちは思っていた以上に器用で、たくさんある手脚(?)を使いリンゴを持ち上げてはムシャムシャと美味しそうに食べている。気に入ってくれたみたいだ。
 リンゴを配るテリアたちの横で兎の従魔レッキスは、バースニップが山盛りに入った木桶を両手で抱え、バースニップの布教活動に励んでいる。
 ストーンはレッキスに洗脳されたのか、最近リンゴ派からバースニップ派になったんだよね。従魔の住処の畑で採れるバースニップは生で食べても甘いから気持ちはわからなくはないんだけど。
 兎とイグアナがソウコウムシたちと並んでばりぼりとバースニップをかじる光景は、見ているだけでいやされる。
 一方僕は、汗だくになりながら即席の釜戸の前で〝ヘリュマントスサンライトボアのニンニク味噌風味の焼肉〟と〝ヘリュマントスサンライトボアとバースニップとタマネギの串焼き〟を休むことなく焼いた。
 みんな最初は、僕が木皿に載せた料理を受け取りテーブルに運んでから食べていたんだけど、途中から自分たちで釜戸の網の上で焼き、その場で立って食べるようになった。
 串焼きを自分で焼いて口に運ぶ魔物たち……こんな光景は滅多めったに見られないんじゃないかな。
 外でみんなで肉を焼きながら食べるというのは、冒険者をしていれば珍しくないんだろうけど、従魔の住処がある僕にとっては、とても新鮮で楽しい経験だ。
 ただ、炭は魔道具のように火加減が自由自在とはいかず扱いが難しい。がしてしまった食材も多く、上手く焼くには慣れが必要みたいだ。


「そうだ、イポスさん。僕について何かわかったことはありましたか?」

 食材もあらかた尽きてきた頃、僕は気になっていたことを尋ねた。
 イポスさんには過去と未来を見る力がある。
 自分でもなぜだかわからないのだが、僕は冒険者になる前の記憶を失っている。自分の過去を知りたくて、以前鍋を囲んだ時にそれとなくイポスさんに相談していたのだ。

「そのことか……少しだけ収穫があったよ。まずは未来についてだ。未来は日々変わるものだから確実にそれが訪れると約束はできない。ただ君に強く影響を与える出来事が二つ見えた」

 イポスさんが教えてくれた二つの出来事のうち一つ目。
 今から一年以内に、リレイアスト王国の王がゴブリンキングを倒すためにゴブリンの町に攻め入る決断をするらしい。それが僕の未来にも大きく影響するんだという。
 僕もリレイアスト王国がそうするだろうと予想していたが、予定よりも少し早いと思った。
 前回のゴブリンの町への襲撃作戦で、ゴブリンたちは大きく戦力をがれたはずだ。リレイアスト王国の兵士長アルトゥールさんは〝これで数年は何も起きない〟と言っていた気がするんだけど……イポスさんは人間とゴブリンの戦争は確かに起きると言うし、変化が起きているんだろうか。しかも、僕もそこに冒険者として参加することになるそうだ。
 そしてそこでモーソンという名の僕の過去を知る少年に出会うらしい。

「モーソン……うーん、全く聞き覚えがない名前だな……」

 すると僕の顔を見たイポスさんはニヤリと笑って、意味深な一言を添える。

「モーソンについてはすぐに思い出せるはずさ」

 続けてイポスさんは二つ目の出来事を教えてくれた。
 それはさらに先のことで、僕がゴブリンキングとの戦いで生き残った場合に起きる未来の話らしい。
 そんな前置きをするイポスさんだったが、ゴブリンキングとの戦いで死ぬ可能性もあると遠回しに言われたみたいで複雑だ。
 とにかく僕は、アリツィオ大樹海の深域へやむなく足を踏み入れることになるんだそうだ。そこでとても怖いものと出会うらしい。
 大樹海の深域にいる怖いもの……新たな魔物の王だろうか。
 その出来事への対策として、自分の眷属を一匹連れていけとイポスさんは言った。
 あまりにもざっくりとした忠告に僕は言葉を失うが、詳しくは話せないルールだと言われてしまい、それ以上尋ねることはできなかった。
 イポスさんは僕に、自身の眷属であるソウコウムシの子供を渡す。
 このソウコウムシが、僕を危機から救う鍵になるのだという。
 イポスさんにどんな未来が見えているのか、僕にはさっぱりだ。
 悩む僕の反応などお構いなしに、彼は続ける。

「次は過去だ。これについては邪魔が入ってね……多くを見ることはできなかった。それでも君の役には立つはずだよ。失った記憶を見るということで良かったかな?」
「はい」

 僕は頷く。
 未来については、これから起こる僕の人生の分岐点となる出来事を教えてもらった。
 過去は消えた記憶に関する手がかりが欲しいのだと、事前にイポスさんには話してある。
 イポスさんは僕の目を真っすぐ見つめて話す。

「君の過去についてだが、君の記憶にはそれを隠すための魔法がかけられているようだ。しかも、魔物の王である私の能力をも防ぐ強力な魔法が……私が何を言いたいのかわかるかい」

 僕にそう質問したイポスさんの顔はどことなく楽しそうで、生徒に問題を出す先生って感じだった。
 僕は首肯する。

「はい。それだけの魔法を使えるということは、僕の記憶を消した人たちの中にイポスさんと同等の力の持ち主がいるってことですよね」
「そんなところだ。私の力を防ぐほどの相手だ、恐らく同じ魔物の王あたりだろう。それでも君は失った記憶を求めるのか」

 僕は無言でイポスさんの言葉に頷いた。
 知りたかった。僕の家族や友達のことを、そして僕が何を失ってしまったのかを。
 ここからは誰にも邪魔されない場所で行う必要があるとイポスさんに言われ、僕はテーブルや椅子、食器を片付けて従魔の住処へと戻った。
 僕はベッドに横になりその瞬間を待つ。
 ベッドを囲む従魔のみんなの表情は不安そうだ。
 イポスさんは落ち着いた声で僕に説明する。

「では目を閉じて体を楽にするんだ。君がこれから見る過去の景色は、今とは違う時間の中にある。好きなだけ自分についてのぞいてくるといい。そこから一つだけ記憶を持ち帰ることができる。慎重に選ぶんだよ……いいね?」

 目をつむっている僕の顔の上に、イポスさんは手をかざしながら奇妙な言葉をつむいでいく。僕はそのまま急な眠気に襲われて深い闇の中に落ちていった。


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