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196話 地下世界の入口(2021.08.25改)
しおりを挟む穴を下り進む。遠くから聞き覚えのある声がした。
「もう無理ですよ……限界です。これ以上はもう……」
モーソンの声だ。声はとても苦しそうに聞こえる。
みんなにも聞こえていたんだろう、僕たちは声のする方へと走り出した。ついに出口が見える。穴の先からは明かりが差し込んでおり、出口に近付くにつれて、外から大勢の騒がしい声が聞こえてきた。
苦しそうなモーソンの声に……僕は焦っていたんだと思う。外の状況を確かめる前に、武器も持たずにその穴からただ飛び出していた。
「……」
複数の黒い影、黒い肌をした人型の生物……宴会中?
「限界ですよー、もーこんなに……」
口いっぱいに食べ物を詰め込まれ、リスのように両頬が目いっぱいに膨らませるモーソンがそこにはいた。
僕は目の前の光景に思わず呆れてしまった。走り出す僕をみんなが止めなかった時点で気付くべきだった。ドングリは僕よりもずっと耳が良いから、彼女はすぐにモーソンが無事だと気付いたんだろう。
見覚えのある黒いゴブリン王の横で、大きなイノシシのモモ肉を口いっぱいに突っ込まれて、幸せそうに頬を膨らますモーソン。あんなに心配していたのに、当の本人は楽しく宴会……モーソンのお腹はまん丸に膨らんでいる。
これじゃあ確かに限界だよね。
「あひゃふとやっほきたんたふぁねみてほここいのししおいひいいよ(あ!ルフト、やっと来たんだね。見てよこのイノシシのお肉美味しいよ)」
「おーやっぱりルフトのとこの魔物だったか、なかなかこねーから待ちわびたぞガハハハハ」
勢いよく笑い出すリザスさんの横で、モーソンは、口に物がはいっているせいか、何を言っているのか分かりにくい。リザスさんは、イノシシの丸焼きを両手に抱えると、そのまま丸ごと頭から齧り付いた。身長四メートルはあるゴブリンの王様だ。イノシシを丸ごと食べてもおかしくないだろう。それより今は、モーソンだ。
「モーソン何やってるの!凄く心配したんだよ」
(本当よ、ここまで急いできたんだから)
(一番下っ端の分際でお父様を困らせるなんて万死に値しますわ)
「ガウガウガウ」
「……」
(まーまーみな落ち着け、モーソンだって大変だったはずじゃ)
僕の後に続いて、レモン、ローズ、ドングリがモーソンの座るテーブルに詰め寄る。ブランデルホルストも仕方なく僕たちのノリに付き合った。それを必死に宥めようとするフローラル。そんな、僕らを見てリザスさんは食べかけのイノシシをテーブルの上に置いた。
「お前……あの時の鎧か!進化したのか。すげー強そうじゃねーか、手合わせしようぜ。まーその前にまずは食べろ」
なんだろう……ブランデルホルストを見るリザスさんの目が、前回僕と戦った時以上にキラキラしている。かなり怖い、本当に戦いが好きなんだな、この人。
更にモーソンを問い詰めようとした僕の前に、一匹のゴブリンが現れた。体の大きさ的にゴブリンジェネラルだろうか?
「お久しぶりですルフト様、実はモーソン殿は私たちがここまで連れて来たんです」
ゴブリンらしくない丁寧な口調。
どこで会ったんだろう?〝お久しぶりです〟と言われたものの全く覚えていない。それに……どうして、見ず知らずのゴブリンジェネラルから僕はルフト様なんて呼ばれているんだろう。
「あのルフト様……聞いておいでですか?」
黒いゴブリンは、額に汗を浮かべながら、固まる僕に困ったように聞いてくる。
「すみません。以前どこかでお会いしたでしょうか?」
その言葉に明らかにショックを受ける目の前のゴブリン、可哀想だが僕は本当にこのゴブリンを覚えていない。
「え!会ったじゃないですか……リザス様とルフト様が戦った時に一緒にいましたよ。話もしましたし」
「あの時は僕も必死で……すみません。まだゴブリンさんたちの顔の区別ががつかないんです」
僕の言葉に黒いゴブリンは目を潤ませる。リザスさんと違って真面目でいい人そうだもんな……傷つけてしまっただろうか。早く魔物たちの顔も見分けられるようにならないと、従魔師なんだし、魔物の顔を区別出来るスキルくらいあってもいいと思うんだけど。
「それよりも、どうして僕はルフト様なんて呼ばれ方をしているんですか?」
「あなたはリザス様の主様なのですよ!様を付けるのは当然です」
ん……リザスさんの主様って一体?僕は問いただそうとリザスさんを睨んだが、大げさなくらいに顔を逸らされてしまった。確信犯か……確信犯なのか!
そして、ダメ押しのように。
「一週間ほど前にこの集落をいつ旅立ってもいいようにと、リザス様は王位を次の王へと引継いだんですよ」
ゴブリンの一言に、僕は唖然とする。
「あのリザスさん、何勝手に話を進めちゃってるんですか!」
僕がリザスさんに抗議するも、食べるのに夢中なふりをして取り合おうとしない。
「ルフト、このイノシシの肉おいしいよ!食べてみなよ」
引き千切った猪の肉をモーソンが僕の口に無理矢理押し込んだ。モーソンはすでにリザスさんに買収されているのかもしれない。
「もほぉふほぉどはなふのじゃまをほしなひで(モーソン話の邪魔をしないで)」
でも……たしかに美味しい……味付けは塩だけだよね?口に無理矢理入れられたイノシシ肉を咀嚼して、口の中に溢れる肉汁を存分に味会う。少し苦みのある塩だからか、逆にそれが肉の脂の甘みを引き立てている。
(主様まで食べ物に釣られないでくだされ、今は先に話すことがあるのではないのですかな)
食べ物に釣られかけた僕を、フローラルが引き戻す。それを見たリザスさんが、舌打ちをした。
結局この日は話が進まず、僕らはそのまま黒いゴブリンたちの宴会に参加することになった。従魔の住処からみんなも呼んでイノシシ肉をご馳走になる。このイノシシの魔物は、地下世界でしか手に入らない固有種ということだ。
僕らは、大穴ダンジョンを探索しているうちに、いつの間にかリザスさんたち黒いゴブリンの暮らす、地下世界ブエルシバースに迷い込んでいた。
※黒いゴブリンたちは、地下世界のことをブエルシバースと呼んでいますが、他の種族も同じ呼び方をしているのかは不明です。
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