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連載
201話 地底湖の底 2(2021.08.26改)
しおりを挟む新しく仲間になったエビゾメゲンゴロウのゲンコが湖に潜ってから、かなり時間が経つのだが一向にゲンコは戻って来ない。
焦る気持ちとは裏腹に、湖はとても静かだった。
風一つない湖の上、船に使った木材が軋む音だけが耳に残る。
心配して何度も湖を覗き込んだか、百メートル近い深さがあるんだ見えるわけがない。
ゲンコが戻らないまま、刻一刻と時間だけが過ぎていく。
別の召喚の壺を開けて、出た魔物にゲンコを探しに行ってもらった方がいいだろうか、でも……下手したら助けに行った従魔までもが戻ってこない可能性だってある。(どうすればいいんだ……)
考えがまとまらないまま、時間は刻一刻と過ぎていく、日が落ちるのが近いのか、少しずつ地下世界を照らす明かりも弱くなってきていた。なんとかして助けないと……ゲンコは家族の一員なんだ。
「フローラル、水の妖精っていたりするのかな?」
(水の妖精ですか、主様申し訳ございません。私たちフェアリーは、フェアリー種以外の妖精には詳しくないのです。もちろん妖精同士ですから、会えば話は出来ると思いますが)
申し訳なさそうな顔でフローラルは〝お力になれず、すみません〟と頭を下げる。フローラルは真っ赤な鎧を身に纏うお爺さん妖精だ。妖精は、祖先の記憶を引き継ぐ特性を持っており、フローラルは生まれてからまだ十年も経っていないのに、もの凄く博識だ。引き継いだ記憶の量で妖精たちの見た目が決まるのかもしれない。
「僕の方こそごめん、水の妖精がいるならゲンコも探せるんじゃないかって……ごめん」
水の中で活動出来る魔物を仲間にすれば、湖の探索が楽になると考えたのが間違いだったのかもしれない。
(主ドン主ドン、水の中ならウオルルがいるはずゲコ。カエルの他にもサンショウウオやイモリやヘビのウオルル、水辺にはイロイロなウオルルがいるんだゲコ)
「本当!?」
僕の期待のこもった声に、ゲコタは……目を逸らし〝たぶんゲコよ〟自信無さげな声のトーンで応える。それでも、可能性が少しでもあるなら試したい。
ゲコタは、遠くのウオルルたちにも聞こえるようにと、カエルの両頬を大きく膨らませていく。その時だ。風もなく静かだった湖面が、急に大きく波打ちはじめた。僕らの乗る船を激しく左右に揺らす。
湖に住まう妖精たちの仕業なんだろうか?確認するようにゲコタを見たが〝ゲコゲコ〟と苦しそうに彼はただ咽ていた。ひとしきり咽ると〝主ドン、ワシはまだ何もやっていないゲコ〟と慌てる。
「えっ……じゃー何が起きているの?湖がこんなに波打っているんだよ、湖面も青白く光ってるし」
(知らないゲコ、この光はウオルルとは全然関係ないんだゲコ)
ゲコタは違う違うと首を左右に大きく振った。いまは、船から振り落とされないようにしないと……。
「みんな、船に掴まって」
大声で叫ぶ中。湖面の光は徐々に強くなっていった。
そして……目の前が真っ暗になった。
波はおさまり(ここは、どこだ?)僕らは船と一緒に、一面群青の広い洞窟の中にいた。
広い空洞の中央には池があり、僕らの乗る船は、その池に浮かんでいる。
我に返った僕らは周囲を見回した。音がする……高速で羽ばたいている虫の羽音。
「ゲンコ、良かった無事だったんだね」
背中の羽根を広げてゲンコが僕ら目掛けて飛んでくる。パッと見怪我はしていない、本当に良かった。
ゲンコが落ち着くのを待ってから、ナナホシが話を聞いた。
調査のために、湖の中に飛び込んだゲンコは、一気に湖底へと潜り、意を決して階段と思しき人工物が見えた穴の中に飛び込んだんだそうだ。
階段に足を乗せて数歩、急に入って来た穴が閉じてしまい出られなくなってしまった。何度も何度も穴のあった壁を叩くも開くことは無く、仕方なくゲンコは先へ進んだんだという。
はじめは暗かった階段も、下りていく途中徐々に明るくなりこの場所に辿り着いた。
ゲンコが指差した場所には、天井から地面まで伸びる長い長い階段が見えた。
ゲンコが今度は別の場所を指で示す。洞穴の奥には巨人ですら潜れそうな、高さ十メートルを超える巨大な扉があった。扉は壁や天井と同じ群青色の鉱石で出来ており、〝扉〟と意識して見ない限りすぐには気付けないほど、周囲の景色に馴染んでいた。
無理だとは思いつつもゲンコはその扉を押したが、結局、一ミリも動かなかったそうだ。
途方に暮れて広場の中をただ歩いた。そして、何かに躓いた。
足元からは急に壁や天井と同じ鉱石で出来たテーブルがせり上がり、テーブルの中央にはキレイな石がはまっていた。
石には奇妙な魅力があり、見惚れて顔を近づけると、頭の中に〝会いたい者を思い浮かべろ〟と声が響いたんだという。そこでゲンコは僕らを強く思い浮かべた。
直後、部屋の中央が青白く光り、僕らを乗せた船が現れたと……。
一人未知の空間に閉じ込められたことで疲れたのか、僕らを見て安心したのか、ゲンコはその場にへたり込んでしまった。
今いるのがダンジョンの中だというのは、何となく分かる。気配とでもいうんだろうか、ダンジョンには特有の匂いがある。
僕らはまず乗っていた船を池の岸に移動して地面に降りた。
ゲンコが回復するのを待って、キレイな石がはまっているテーブルまで進む。
キレイな石の前に立った瞬間、僕の頭にも声が響く。
〝お前が代表者〟かと……僕は頷く。〝ようこそ挑戦者たちよ〟この言葉は僕以外のみんなにも聞こえたんだろう。どこからか聞こえてくる不思議な声に、みんなも驚ろき、首を左右に動かし周囲を見渡していた。
質問してもいいのかな?そう考えただけだった。〝好きにしろ〟……思いもよらず答えが返ってくるもんだから驚いてしまう。僕の考えていることまで分かるなんて凄いや。
ダンジョンには本当に意志があるのかもしれない。
そんな突拍子もない仮説も、こうして話ができているんだ。案外、的外れってわけじゃなかったのかもしれない。
最初に名前を聞いてみた。……ないとのことなので僕はこのダンジョンの創造主と思われる相手を〝ダンジョンさん〟と呼ぶことに決めた!
ダンジョンさん曰く、ここは地底湖の底にあるダンジョンで間違いないとのことだ。
しかも、僕らはこのダンジョンの初の挑戦者になる!そう、お宝ザクザクの初攻略者だ。そんな感情を読み取ったのか、ダンジョンさんは少しだけ引いていた。(あくまで僕の主観である)
何故ダンジョンに挑む気でいるのか?
それは、このダンジョンに挑戦しない限り外に出ることが出来ないからだ。攻略ではなく挑戦と言ったのは、この地底湖ダンジョンには、十個のエリアがあり、そのエリアを一つでも突破すれば、僕らはここから解放される。
もちろん、湖の底にそのまま放り出されては溺れてしまうので、きちんと湖の上まで運んでもらう約束も取り付けた。〝ダンジョンさんその約束は絶対忘れないでくださいね!〟と心の中でしつこいくらいに反復した。
フローラルにレモンにアルジェント、デスアーマーたちもいるから、エリア一つくらいなら何とかなるとは思うんだけど……修行組のみんなも呼んでいいって話だし……呼べるって分かっているのに呼ばなかったら、後でみんなに怒られるよね。
罰として……毎晩デーモンソーンのサクラを枕元に置かれたりしたら、睡眠不足になる自信がある。サクラはデーモンソーンなんて物騒な種族名に反して優しい子だ。ただ、魔物の心臓である核の入れ物が、目をくり貫かれた女性の生首と瓜二つなのが笑えない。先日初めてサクラの核の周囲をじっくり見たんだけど、くり抜かれた目の部分からは血液にしか見えない赤い樹液が出ていて妙にリアルだった。
うん、怖いから呼ぼう……急にローズたちが抜けたとしても、リザスさんたちがワーウルフに後れを取ることはないだろう。
なぜ、そんな楽しそうな場所に俺を呼ばなかったんだと、小一時間、リザスさんからお小言確定かもしれないけど、それは後で考えることに……。
急にローズたちがいなることで、けが人が出たとか因縁をつけられて、従魔契約を無理矢理押し切られる未来がありそうで怖いけど……そんなことにはならないと、リザスさんにも良心があると信じよう。
僕はダンジョンさんにお願いをして、ローズたち修行組のみんなも呼んでもらうことにした。
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