戦場のガゼルアイン 少年兵トマ=アデライドの選択。

たゆ

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2話 ザイン=ゼルケ

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 日記の内容が衝撃過ぎたのだろう、信じていた物が全部崩れてしまって、何を信じていいのやらと、なかなか寝付けない。
 隣で横になる、俺と同じ日に第百五十三小隊への配属となった同僚トマ=アデライド、こいつは本当に不思議な奴だ。
 俺たち千の蜘蛛に所属する少年兵と少女兵は、物心ついた頃には魔導銃マドウガンと呼ばれる遺跡から発掘された武器を渡されて、その扱いに慣れるよう訓練を受ける。
 この武器は、ひとつの遺跡から百~千単位で見つかることが多く、反政府組織でも比較的簡単に手に入れることが出来る武器だ。殺傷力も高く、力のない子供でも大人を簡単に殺すことが出来る。だが、魔導銃マドウガンは十五歳の魔力転換期大人になるとで急に使えなくなる特異な性質を持っている。ごく稀に使える大人がいるそうだが、それは奇跡的な確率なんだそうだ。
 魔導銃マドウガンには様々な形状タイプの物があるのだが、俺らが使っていいのは、もっとも威力が弱い短銃型のモノだけだ。作戦によっては長距離射撃が可能なライフル型を使うことも許されるのだが、作戦が終わればすぐに回収されてしまう。
 今回は整備とはいえ、あれだけ多い数のライフ型魔導銃マドウガンと、汎用型で最も数が多いとはいえ魔導人形マシンドールである亀を預けられたのは、第百五十三小隊がそれなりに信用を得たという証拠なのかもしれない。今までは整備といっても短銃型魔導銃マドウガンと人員運搬用の車両が主だったからだ。
 それが今回は亀二匹に、砂嵐の中でも移動出来るキャタピラ付魔導人形マシンドール輸送車まである。

 そうそう、トマ=アデライドは出会った頃から既に不思議な存在だった。本人は知らないだろうが、彼は千の蜘蛛の少年兵の中で一番の有名人である。
 あれは俺たちが十一の頃、いつものようにバルガス王国の食糧輸送車を襲撃した時だ。第百五十三小隊の他にも四つの小隊が作戦に参加。相手は護衛も碌にいない三台の輸送車両だ。一、二時間もあれば作戦は完了すると思われた。
 しかし、これは罠だった。
 食糧輸送車が積んでいたのは、食糧ではなく同じように魔導銃マドウガンを持った少年や少女たち、しかも相手は訓練を受けた王国の正規兵、貴族の少年少女を含んだエリート部隊だ。
 武器も普通の人工遺物アーティファクトじゃない、連射が効くマシンガン型の物まで持っている。しかも、犬と呼ばれる背に人を乗せてバイクのように走る小型の魔導人形マシンドールまで、応援部隊も待機していたようで包囲網が着々と完成されていく。ああこれは詰んだなと思った。
 俺たちは包囲網から逃げるように砂漠を歩いた。

 この出来事が、トマ=アデライドという名の少年を〝千の蜘蛛〟の子供たちの間で一躍有名にする。

「あの絶望を感じて下を向いているところ悪いんですが、助かる方法を思い付いたので、みんな僕についてきてください」

 〝生意気な奴だと思った〟トマはそう言うと、俺たちの返事を聞かずに歩き出した。作戦時、大人である監督者たちは、兵士子供たちを戦場に降ろすと安全圏まで後退する。ここにいるのは、俺たち第百五十三小隊と二つの小隊だ。そんなトマの独りよがりの行動に、他の小隊の、特に年上の兵士たちが文句を言うが、トマは聞く耳持たず歩き続ける。
 この時、既に二つの小隊とはぐれてしまっていた。
 文句を言う者は多いが、他に良い考えも浮かばない。それ以上に生き残ることを諦めていた人が多いんだろう、誰もがトマの後を追った……目視で確認できないが、敵は包囲網を組みじわじわと俺たちを追い込んでいる。
 トマが立ち止まると急に砂の中を掘りはじめた。誰しもが、それを見てついに気が狂ったと匙を投げる。

「今日は勘が冴えてます。生きてる小遺跡を見つけるなんてラッキーですよ」

 トマの一言に、誰もが言葉を失った。小遺跡――古代人たちが砂漠に残した小さな休憩所のことを指す、その多くが今は砂漠の砂に埋まり。遺跡以上に発見は難しいとされている。
 それをトマは、さもこの場所にあると知っていたかのように進んで掘り当てたのだ。俺たちは奇跡を目にした。

「息は問題ないかな……恐らく夜には砂嵐が来ます。この中でやり過ごしましょう、さあ早く」

 小遺跡は、それ自体が人工遺物アーティファクトであり、中に入った瞬間暗かった部屋は明かりを帯びて光り出した。その時のことを鮮明に覚えている。そこにいた全員がトマのことを化け物を見るような目で見ていたのだ。そりゃそうだ。こんな広大な砂漠の中から、古代人が作った数十人入れば窮屈になる小さな物置シェルターを探し当てたのだから、人間業とは思えない。
 しかもトマの宣言通り、その夜砂嵐が来た。中にはトマに言い伝えに登場する天使や悪魔の姿に重ねる人もいたりと、何か気味の悪い物を見るような視線を大勢から向けられた。
 当のトマは、そんな視線を向けられても気にした様子も無く俺たちと話しているが……。

 砂嵐が止み、俺たちは外に出た。元々この砂漠は俺たち千の蜘蛛にとって庭だ。ややあって現れた巡回部隊に俺たちは拾われた。
 途中ではぐれた二小隊は、全員の死体は見つかっていないものの、半数の死体が確認されたことから全滅として処理された。
 その後も俺たちは、生死の綱渡りをする戦場で、トマ=アデライドの起こす奇跡に助けられた。噂は広がり第百五十三小隊と一緒になった小隊は、何か起こる度、トマに意見を求めるようになった。

 眠れねー……依然として目を開かないヤスにいと、泣きつかれて眠るポコル以外は、シーツにくるまったまま起きているのだろう。度々エミリとアリスのひそひそ話が聞こえてくる。
 昨日トマは言った。ヤス兄が起きたらあの日記に書かれていたことが真実なのか訊ねると、これからどうするつもりなんだと聞いたら〝僕は逃げるけど……〟と言い、〝残りたい人がいたら、ロープで縛るから僕に襲われたことにしほしい〟と飄飄と答えた。
 あの日記を読んで残りたいと思う奴はいないだろう。十五歳になれば男は殺されるか良くて奴隷……女は慰み者にされた後も、生きるために様々な男に身を捧げる。本人が望んでするならそれも良い……しかし、そこには一切の自由が無いのだ。最悪な人生が待っているのだ。力があるなら他の小隊の奴らも救いたい。

「なートマ起きてるか?」
「うん……起きてるよ、もうすぐ寝るけど……」
「俺ら逃げ切れるかな……相手は軍隊とも遣り合う奴らだぜ」
「どうだろうね、ここから出ることは出来るんじゃないかな」
「行く当てはあるのか?」
「地図があったから、未開の遺跡がこの近くにも幾つかあるみたいなんだ」
「未開って、遺跡の大半は罠と化け物共の住処だぜ……それに俺たちには人工遺物アーティファクトを動かすための聖痕が無いんだぞ」
「ああ、それはなんとかなるよ……強制解放装置オーバードライブを探すし、遺跡も……僕は運が良いから当たりを引くよ……もう眠いや……おやすみなさい」

 そう言うと、本当に寝てしまったんだろう。トマからはスヤスヤと規則正しい寝息が聞こえてきた。遺跡――多くの人工遺物アーティファクトが眠る古代人が残した宝物殿の総称だ。古代人が何のためにこんなものを残したのかは分からない。ただ、宝物殿には〝ハズレ〟も多い。中に入ったら人工遺物アーティファクトがひとつも無く罠だらけだったとか、怪物どもが詰め込まれていた。なんて話もよく聞く、未開の遺跡は開けるのすら命懸けなのだ。
 人工遺物アーティファクトの詰まった遺跡を見つけるのは、数千単位の人の犠牲がつきものだとさえ言われている。それを……こいつは……。確かにトマなら一発で当たりを引きそうだ。
 それに強制解放装置オーバードライブを使うのは簡単じゃない……十五歳未満の未成熟な子供に無理矢理聖痕を発現させる唯一の手段、稀に遺跡から見つかる大型人工遺物アーティファクトだ。それ自身が遺跡の一部のため運び出すことは出来ず、使うには遺跡に潜らなければならない。
 恐らく孤児で無理矢理試したんだろうが、強制解放装置オーバードライブには激痛が伴う、聖痕が浮かび上がる前に耐えられずに死んでしまうことがほとんどだと聞いたこともある。

 トマ……お前は何を考えているんだよ。
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