戦場のガゼルアイン 少年兵トマ=アデライドの選択。

たゆ

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1話 真実

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 牢屋の中で横たわり動かなくなったヤスにいを見て、みんなが鉄格子に縋り口々に叫ぶ。

「早く牢屋の鍵を探さないと……ヤス兄大丈夫だよね……生きてるよね」

 エミリが牢屋の鍵を探そうと右往左往する。僕はそれを手で制し、短銃型の魔導銃マドウガンを腰に吊るしたホルスターから引き抜いた。

「みんな、耳を塞いで」

 密閉空間に轟音が鳴り響く。

「おいトマ、急に魔導銃マドウガンをぶっ放すなよ」
「でも、牢屋は開いたよ」
「開いたっていうより、ただ鍵を壊しただけだろう。後でぜってぇグルーノさんに叱られるよ」
「叱られるだけじゃすまないと思うけど……まずはヤス兄を上に運ぼう」

 ザインと二人で動かなくなったヤス兄の体を持ち上げて運ぶ。口の前に手を翳すと微かに息がある。エミリとアリスは救命箱と食糧を取りに小屋へと戻った。日々死と隣り合わせの戦場にいるのだ、薬や治療道具には事欠かない。
 地下牢で嗅いだ嫌な臭いは、ヤス兄がいた牢屋に置かれた手つかずの食事が腐った臭いだった。最初から腐っていたのか……ヤス兄が手を付けなかったから腐ったのかは分からない。
 何が起きているんだろう、僕は手掛かりを探すため小屋の中の本や書類を手当たり次第開いた。

「トマ、何を探しているんだ?」
「グルノーさんって几帳面だから、ヤス兄のこと日記か何かに書いていないかなって思って……ナゼ牢屋に入れられたのか気になるでしょ。そうだ聞きたいことがあったんだ。ザイン、よくヤス兄を見つけられたね。僕らはこの小屋への出入りは禁じられていたはずだよ、しかも、絨毯で隠された地下室の入口まで見つけるなんて、どんな魔法を使ったの?」
「魔法っておとぎ話かよ……正直、俺自身よく分かっていないんだ。急に頭の中にヤス兄の声がしたと思ったら無意識のうちに扉を開けて小屋の中にいた。地下室への隠し扉の位置は不思議と分かってさ、ボンヤリ頭に浮かんだというか、降りてすぐ地下牢で倒れるヤス兄を見つけたんだ。でも……みんなを呼んでいいか凄く迷ったんだぜ。これはオヤジへの裏切り行為なんじゃないのかって」
「それで中途半端に入口を隠すように絨毯が戻ってたんだ」
「そうだよ、お前らを巻き込んでいいのか迷って……一度は入口を隠したんだ」
「ザインらしいな」

 魔力転換期を迎える前の子供には、稀に不思議なことが起こる。予知夢を見たり、失くしたモノを探し当てたり、目に見えない存在、幽霊や小人を見たりと、大人たちはこの現象を総じて〝妖精の悪戯〟と呼ぶのだが、詳しくは分かっていない。子供の中にある形を持たない魔力が引き起こす現象であるという説が有力ではある。
 これが、魔力に人工遺物アーティファクトを動かすこと以外の使い道もあるんじゃないかと言われるキッカケのひとつだ。

 僕はついに手掛かりを引き当てた。一冊の日記帳を手に取って開く。書かれていた内容を見て胸くそが悪くなる。思ったほどショックを受けていないのは、恐らくそうだろうという予感じみたものがあったからだ。ほんの微かではあるが、僕は稀に少しだけ先の未来を見ることがあるからだ。

「ねー何を見つけたの?」

 そう聞くエミリに向かって、読みかけの日記帳を放り投げた。

「ちょっとトマ、レディに向かって本を投げるなんて……もっと相応しい渡し方があると思うんだけど」
「ごめん、次から気を付けるよ。ポコルには見せないでね」

 僕の言葉を理解したのだろう、エミリ、アリス、ザインの順番に日記帳を回し読んだ。ポコルは大好きなヤス兄の横で泣き疲れたのか眠っている。三人の顔に影が差す。
 日記帳に書かれていたのは、魔導銃マドウガンを扱うことが出来なくなった……戦えなくなった少年兵と少女兵の末路だ。
 卒業を迎えた少年兵は、最後の晩餐とでも言うんだろうか、監督者と二人で卒業祝いを兼ねた豪華な食事をする。その中には強力な睡眠薬が入っているのだが、男はその後地下牢に放り込まれ奴隷としての買い手を待つことになる。少し前だと鉱山行きが多かったそうだけど、最近は金にすらならないと愚痴が書いてあった。僕らの所有権は、各部隊の監督者にあり、僕らを売った金はそのまま懐にしまってもいいようだ。
 ちょっとした臨時ボーナスというワケか……。
 女は、そのままベッドに運ばれて毎日飽きるまで犯される。飽きた後も娼館行きが待っている。ただ、最近では、新しい遊びが監督者の中で流行っているようで、少女には卒業の一年前にその真実が告げられる。人工遺物アーティファクトの力なのか、少女はそれを周囲に告げられないまま一人悩みを抱えたまま生きる。
 卒業を待つ少女が、魔導銃マドウガンで自分の頭を吹き飛ばす事件が何度もあったと噂を聞いたが、これのせいだろう。

 男は、牢屋の中で真実を聞くことになる。
『夢を語る大人になりかけた少年たちに、悪夢のような現実を告げた瞬間に見せる表情は、年代物のブドウ酒ワインにも勝る』と、グルノーは綴っていた。

「なんだよ、これ……俺たちは騙されていたのかよ」

 ザインが怒鳴りながら日記帳を床に叩きつけた。その音でポコルが目を覚ます。

「ザイン落ち着け、ポコルが起きちゃっただろう……ごめんね、大きな音を立ててしまって」
「でもよ……トマ、これってあんまりじゃないか、俺たちは十五歳になればこの戦場から解放されると信じて、千の蜘蛛のみんなのために戦ってきたんだ……あんまりだよ……こんなのあんまりだ」

 ザインの両目から大粒の涙がこぼれ落ちる。釣られてエミリ……アリス……意味も分からず僕らを見つめるポコルまでもが泣きはじめた。僕は、みんなが泣いている間も一人本棚にある本の中身を調べ続けた。
 必要な本や書類を重ねていく。

「お前って本当に何があってもブレないんだな」

 泣き止んだザインが、恥ずかしそうに僕のそばに来た。僕は無言で一冊の本を渡す。

「不意打ちは日記だけじゃないのかよ、これ以上は俺の精神がもたないぞ!また泣くぞ!」

 日記の衝撃が抜けきらない状態で、僕に渡された本を手にするザインの目は泳いでいた。これ以上の真実を知りたくないと怯えるように揺れる瞳。ザインだけでなく、エミリとアリスもあからさまに嫌そうな顔をする。僕は意地悪をするつもりはないのだが、僕の口から内容を伝えることにした。

「僕たち少年兵や少女兵は、全員が全員戦災孤児ってわけでもないみたいなんだ」
「どういう意味だ?」
「戦災孤児も無限じゃない。小さな町や村を襲って親を殺し子供を攫って兵士に仕立てることも多いって書いてある。こうなると、僕らが尊敬するオヤジって人が本当にいるかどうかも怪しくなるね」

 僕がザインに渡したのは、千の蜘蛛の監督者に配られる教本のようなものだ。
 ポコルは僕の言葉の意味が分からないと首を傾げるが、三人の顔色は明らかに悪い。戦災孤児である自分たちに居場所をくれた千の蜘蛛が、実は親を殺して自分たちを攫っただけの、最低の人攫い集団かもしれないと告げたのだ。三人の心が穏やかなはずがない、今頃嵐が吹き荒れているだろう。壊れる寸前かもしれない。
 砂嵐が止むのに、後三~四日はかかる。それまでグルノーは帰って来ないと、僕にある未知の力が少しだけ先の未来を告げた。何より……ヤス兄が起きないことには僕らはここから動けないのだから。
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