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第1章「旅立ち」
第6話「帰宅」
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正式に、アリアさん達のパーティに入ることが決まった。
正直一人では不安だった。5年間も引き籠っていたのだ、いきなり冒険者と言われても実感がわかない。
しかも下手をすれば、どんなパーティに入れられるかわかったものではない、そういう意味ではアリアさんの誘いは願ってもいない幸運だったと言える。
「ボウズ、これがおめぇさんの冒険者ギルドカードだ。右手でも左手でも良いからさっさと出せ」
よくわからないが、とりあえず右手を出す。
チャラい職員さんが正方形の石板を取りだし、僕の手とカードをその上に置く。
すると登録完了の文字が浮かび上がり、冒険者カードが一瞬輝き、金色になった。
「オラ、登録完了だ。一応間違っちゃいねぇかカード情報を確認してくれや」
カード情報? とりあえずカードに書いてあることを読めばいいのか?
名前 エルク
年齢 15
職業 勇者
ランク SSS
おお、僕の名前と年齢、今の職とランクが載って……ええええええええええ!?
いきなりランクSSS? おかしくない?
まさか、僕の中に凄い力が眠っており、この石板がそれを見破ったと言うのか!?
なんて夢みたいなことが起こるわけがない、カード情報が間違っているのだろう。
でもちょっとだけ、そうほんのちょっとだけ期待してたりもする。僕の中に特殊な力が眠っている、そんな伝記のような展開を。
「あの、ランクSSSになっているのですが」
「あぁ、勇者はランクSSSが固定なんだ。勇者は冒険者ランクが上がらねぇから、ランクが上げたくなったら他の職で登録するこったな。その場合勇者としての特典が無くなるが」
「勇者の特典、ですか?」
「あぁ、荷物持ちや料理当番なんざ、本来パーティで役割分担すれば良いだけだが、なんでわざわざ分け前が減るってのに勇者なんて入れると思う?」
言われてみれば確かにそうだ。
死と隣り合わせの危険な仕事に、わざわざ足手まといにしかならない勇者を連れていくメリットなんて思い浮かばない。
雑用係だってパーティで分担すれば良い、となると勇者を入れるメリットってなんだ?
僕は少し考えて、性格の悪そうな答えが出て来た。
「パーティの中で『ドベ』を作る為、でしょうか?」
冒険者同士でパーティを組めば職、ランク、その人の実力でどうしても上下関係が出来てしまう。
あらかじめ『ドベ』を作っておくことで、パーティ内の平穏を保つ。そんな感じだろうか?
それでも割に合わない気がするが。
「ボウズ、中々面白れぇ発想じゃねぇか、それも無いとは言えねぇな。まぁもったいぶらず言うと勇者を入れたパーティのみ受けれる依頼や宿で泊まる時の割引きだな。他にも色々あるが大体は依頼関係が多い」
「それって、勇者じゃなきゃダメな理由あるんですか?」
割引きや依頼って、勇者と関係性が無さ過ぎる気がする。
勇者が泊まったところで宿にメリットも無さそうだし、勇者じゃないとこなせない依頼があるわけでもなさそうだし。
「勇者ってのは、国や領主が行っている治安対策みてぇなもんだ。手に職ある連中ならいざ知らず、ボウズみてぇに何もねぇ奴が働きたくても働けない、働けなくて金が無い、そんな連中が盗賊になるのなんてバカでもわかる話だ」
「な、なるほど」
確かにこの辺で野盗が出たという話は全く聞かない。お金があればわざわざ盗みを働く必要もないし。
ゴブリン等を定期的に駆除するための依頼を『勇者の居るパーティ限定』にすれば、実績が欲しい駆け出しのパーティは勇者を入れざる得ない状況になるわけだ。
ん? でも待てよ。
「実際は戦士位強い人が、勇者で登録すれば良いんじゃないですか?」
「別に勇者で登録するのは構わねぇが、ランクは上がらねぇし、『良い年して勇者とか、マジ勇者っすね』と周りから後ろ指さされっぞ」
お、おう。勇者って単語は悪口なのか。
「逆に、何もできないのに勇者以外で登録するのはどうなんですか?」
「それも構わねぇが、無能とパーティを組みたがる奴ぁいねぇぜ」
なるほど、強い人間が勇者の振りをするのも、弱い人間が勇者じゃない振りするのもデメリットばかりで、詐称するメリットはないみたいだ。
「後は冒険者ランクがC以上になってくると大抵勇者がパーティから除名されるから、それまでにパーティの人間に剣術でも魔術でも良いから指南受けて、勇者以外の職で登録できるようにしとけよ」
「なぜCランク以上だと除名されるのですか?」
「まずCランク以上で勇者必須の依頼は来ねぇ。そんで依頼の難易度も考えると勇者なんてお荷物抱えながら依頼をしようなんてバカのするこった」
ふむ、Cランクになったら僕はパーティからお役御免をもらうわけか。
それまでに剣術か魔術を教えてもらい、勇者以外の職に就くのを目指すわけだな。
それよりも他にもまだ聞きたい事があるけど。
「おうボウズ、別に今すぐ町を出て旅をするわけじゃねぇんだ。俺とおしゃべりするよりも、まず先にやる事があるんじゃねぇのか?」
チャラいおっさんの目線の先、ふと振り返るとアリアさん達が退屈そうな目で僕を見ていた。
いや、アリアさんは退屈そうと言うよりも無表情なだけだ。後ろにいるサラさんは腕を組みながら指をトントンしている、リンさんは目があったら「チッ」と舌打ちされた。
窓の外から夕暮れの景色が見える、もう日が暮れてくる時間か。
愛想笑いを浮かべながら「ごめん、待った?」と聞いてみるものの返事が無い、どうやらご立腹のようだ。確かにパーティを組んで自己紹介もちゃんとしていないのに放置して職員さんとお喋りしていたのは空気が読めていなかったと思う。
ここで彼女たちのご機嫌を何とか取っておかなきゃ、「やっぱりパーティの話は無かったことにしましょ」と言うのは最悪のパターンだ。
冒険者ギルドを後にして、4人で一緒に歩くが皆無言で空気が重い。とりあえず何でもいいから会話に繋げないと、しかしどんな会話が良いだろうか? 困ったぞ。
そもそも今僕たちはどこに向かって歩いているのだろうか? まずはそこの確認からだ、喋ってしまえばなんとかなる、はず。
先頭をずんずんと歩いているサラさんの横まで小走りで近づき、声をかけてみる。
「えっとサラさん、今どこに向かってるのですか?」
「今晩の宿を探すの、遅くなるとどこの宿も取れなくなるから」
宿を探す、と言う事はまだどこも宿を取っていないと言う事か。
宿が取れなければ野宿になる。確か冒険者ギルドに頼めば仮眠室を貸してくれるともチャラい職員が言ってた気がするが、そこではだめなのだろうか?
「冒険者ギルドに頼めば、寝床くらいは貸してもらえるそうですが」
「私はお風呂に入りたいの、お風呂のある宿に泊まりたいの、どこかの誰かのせいで走り回って汗をかいたからね」
「そうなんだ、それは大変だったね」
『どこかの誰か』は、まるで他人事のような返事をするのを聞いて、サラさんの目が吊り上がる。
だが爆発する前に、リンさんがサラさんの裾を掴んで首を横に振る、また言い合って泣かれでもしたらめんどくさい事になるのが目に見えている。
あ、そうだ。
「風呂付の宿、と言うか泊れそうな所なら当てがありますよ?」
ついたのは、慣れ親しんだ我が家のドアの前。
『もう戻ってくることは無いだろう』等と恰好をつけて、朝出て行った我が家だ。
帰ってきた僕に対して父はどんな反応をするだろうか? そもそも家を出てその日に帰って来るなんて気まずい。
色々僕の中で葛藤はあるのだが、後ろで「はよしろ」と言わんばかりの目で睨んでくるサラさんの重圧の方が耐えられない。
意を決してドアを開ける。
「ただいま」
帰宅を知らせる僕の声に、驚くでもなく、父はいつも通りの反応だった。
「おかえり、ところで冒険者ギルドには行ったのか?」
「はい、勇者として登録してきました。それで彼女たちとパーティを組むことになったけど、この時間ではもう宿が無いから、せめて今晩だけでも泊めてもらおうかなと思って」
僕の後ろに居る彼女達を見て、父は目を細め温和な笑みを浮かべ軽く会釈をする、それに釣られて彼女達も軽く頭を下げた。
「ほほう、これは可愛らしいお嬢さん方だ。ところで家に泊まっていくのは構わないが、一ついいか?」
「はい」
パーティを組んだとはいえ、家に年頃の女の子を3人も連れ込もうとしているのだ。父も思うところはあるだろう、一つ屋根の下に男と女だ。間違いが起こらないか心配になるのも仕方がない事だろう。
「なんじゃそのエプロンは?」
ドタバタしていて完全に忘れていたけど、胸に大きなハートで肩にはヒラヒラの付いた可愛らしいエプロンをつけたままだった。
正直一人では不安だった。5年間も引き籠っていたのだ、いきなり冒険者と言われても実感がわかない。
しかも下手をすれば、どんなパーティに入れられるかわかったものではない、そういう意味ではアリアさんの誘いは願ってもいない幸運だったと言える。
「ボウズ、これがおめぇさんの冒険者ギルドカードだ。右手でも左手でも良いからさっさと出せ」
よくわからないが、とりあえず右手を出す。
チャラい職員さんが正方形の石板を取りだし、僕の手とカードをその上に置く。
すると登録完了の文字が浮かび上がり、冒険者カードが一瞬輝き、金色になった。
「オラ、登録完了だ。一応間違っちゃいねぇかカード情報を確認してくれや」
カード情報? とりあえずカードに書いてあることを読めばいいのか?
名前 エルク
年齢 15
職業 勇者
ランク SSS
おお、僕の名前と年齢、今の職とランクが載って……ええええええええええ!?
いきなりランクSSS? おかしくない?
まさか、僕の中に凄い力が眠っており、この石板がそれを見破ったと言うのか!?
なんて夢みたいなことが起こるわけがない、カード情報が間違っているのだろう。
でもちょっとだけ、そうほんのちょっとだけ期待してたりもする。僕の中に特殊な力が眠っている、そんな伝記のような展開を。
「あの、ランクSSSになっているのですが」
「あぁ、勇者はランクSSSが固定なんだ。勇者は冒険者ランクが上がらねぇから、ランクが上げたくなったら他の職で登録するこったな。その場合勇者としての特典が無くなるが」
「勇者の特典、ですか?」
「あぁ、荷物持ちや料理当番なんざ、本来パーティで役割分担すれば良いだけだが、なんでわざわざ分け前が減るってのに勇者なんて入れると思う?」
言われてみれば確かにそうだ。
死と隣り合わせの危険な仕事に、わざわざ足手まといにしかならない勇者を連れていくメリットなんて思い浮かばない。
雑用係だってパーティで分担すれば良い、となると勇者を入れるメリットってなんだ?
僕は少し考えて、性格の悪そうな答えが出て来た。
「パーティの中で『ドベ』を作る為、でしょうか?」
冒険者同士でパーティを組めば職、ランク、その人の実力でどうしても上下関係が出来てしまう。
あらかじめ『ドベ』を作っておくことで、パーティ内の平穏を保つ。そんな感じだろうか?
それでも割に合わない気がするが。
「ボウズ、中々面白れぇ発想じゃねぇか、それも無いとは言えねぇな。まぁもったいぶらず言うと勇者を入れたパーティのみ受けれる依頼や宿で泊まる時の割引きだな。他にも色々あるが大体は依頼関係が多い」
「それって、勇者じゃなきゃダメな理由あるんですか?」
割引きや依頼って、勇者と関係性が無さ過ぎる気がする。
勇者が泊まったところで宿にメリットも無さそうだし、勇者じゃないとこなせない依頼があるわけでもなさそうだし。
「勇者ってのは、国や領主が行っている治安対策みてぇなもんだ。手に職ある連中ならいざ知らず、ボウズみてぇに何もねぇ奴が働きたくても働けない、働けなくて金が無い、そんな連中が盗賊になるのなんてバカでもわかる話だ」
「な、なるほど」
確かにこの辺で野盗が出たという話は全く聞かない。お金があればわざわざ盗みを働く必要もないし。
ゴブリン等を定期的に駆除するための依頼を『勇者の居るパーティ限定』にすれば、実績が欲しい駆け出しのパーティは勇者を入れざる得ない状況になるわけだ。
ん? でも待てよ。
「実際は戦士位強い人が、勇者で登録すれば良いんじゃないですか?」
「別に勇者で登録するのは構わねぇが、ランクは上がらねぇし、『良い年して勇者とか、マジ勇者っすね』と周りから後ろ指さされっぞ」
お、おう。勇者って単語は悪口なのか。
「逆に、何もできないのに勇者以外で登録するのはどうなんですか?」
「それも構わねぇが、無能とパーティを組みたがる奴ぁいねぇぜ」
なるほど、強い人間が勇者の振りをするのも、弱い人間が勇者じゃない振りするのもデメリットばかりで、詐称するメリットはないみたいだ。
「後は冒険者ランクがC以上になってくると大抵勇者がパーティから除名されるから、それまでにパーティの人間に剣術でも魔術でも良いから指南受けて、勇者以外の職で登録できるようにしとけよ」
「なぜCランク以上だと除名されるのですか?」
「まずCランク以上で勇者必須の依頼は来ねぇ。そんで依頼の難易度も考えると勇者なんてお荷物抱えながら依頼をしようなんてバカのするこった」
ふむ、Cランクになったら僕はパーティからお役御免をもらうわけか。
それまでに剣術か魔術を教えてもらい、勇者以外の職に就くのを目指すわけだな。
それよりも他にもまだ聞きたい事があるけど。
「おうボウズ、別に今すぐ町を出て旅をするわけじゃねぇんだ。俺とおしゃべりするよりも、まず先にやる事があるんじゃねぇのか?」
チャラいおっさんの目線の先、ふと振り返るとアリアさん達が退屈そうな目で僕を見ていた。
いや、アリアさんは退屈そうと言うよりも無表情なだけだ。後ろにいるサラさんは腕を組みながら指をトントンしている、リンさんは目があったら「チッ」と舌打ちされた。
窓の外から夕暮れの景色が見える、もう日が暮れてくる時間か。
愛想笑いを浮かべながら「ごめん、待った?」と聞いてみるものの返事が無い、どうやらご立腹のようだ。確かにパーティを組んで自己紹介もちゃんとしていないのに放置して職員さんとお喋りしていたのは空気が読めていなかったと思う。
ここで彼女たちのご機嫌を何とか取っておかなきゃ、「やっぱりパーティの話は無かったことにしましょ」と言うのは最悪のパターンだ。
冒険者ギルドを後にして、4人で一緒に歩くが皆無言で空気が重い。とりあえず何でもいいから会話に繋げないと、しかしどんな会話が良いだろうか? 困ったぞ。
そもそも今僕たちはどこに向かって歩いているのだろうか? まずはそこの確認からだ、喋ってしまえばなんとかなる、はず。
先頭をずんずんと歩いているサラさんの横まで小走りで近づき、声をかけてみる。
「えっとサラさん、今どこに向かってるのですか?」
「今晩の宿を探すの、遅くなるとどこの宿も取れなくなるから」
宿を探す、と言う事はまだどこも宿を取っていないと言う事か。
宿が取れなければ野宿になる。確か冒険者ギルドに頼めば仮眠室を貸してくれるともチャラい職員が言ってた気がするが、そこではだめなのだろうか?
「冒険者ギルドに頼めば、寝床くらいは貸してもらえるそうですが」
「私はお風呂に入りたいの、お風呂のある宿に泊まりたいの、どこかの誰かのせいで走り回って汗をかいたからね」
「そうなんだ、それは大変だったね」
『どこかの誰か』は、まるで他人事のような返事をするのを聞いて、サラさんの目が吊り上がる。
だが爆発する前に、リンさんがサラさんの裾を掴んで首を横に振る、また言い合って泣かれでもしたらめんどくさい事になるのが目に見えている。
あ、そうだ。
「風呂付の宿、と言うか泊れそうな所なら当てがありますよ?」
ついたのは、慣れ親しんだ我が家のドアの前。
『もう戻ってくることは無いだろう』等と恰好をつけて、朝出て行った我が家だ。
帰ってきた僕に対して父はどんな反応をするだろうか? そもそも家を出てその日に帰って来るなんて気まずい。
色々僕の中で葛藤はあるのだが、後ろで「はよしろ」と言わんばかりの目で睨んでくるサラさんの重圧の方が耐えられない。
意を決してドアを開ける。
「ただいま」
帰宅を知らせる僕の声に、驚くでもなく、父はいつも通りの反応だった。
「おかえり、ところで冒険者ギルドには行ったのか?」
「はい、勇者として登録してきました。それで彼女たちとパーティを組むことになったけど、この時間ではもう宿が無いから、せめて今晩だけでも泊めてもらおうかなと思って」
僕の後ろに居る彼女達を見て、父は目を細め温和な笑みを浮かべ軽く会釈をする、それに釣られて彼女達も軽く頭を下げた。
「ほほう、これは可愛らしいお嬢さん方だ。ところで家に泊まっていくのは構わないが、一ついいか?」
「はい」
パーティを組んだとはいえ、家に年頃の女の子を3人も連れ込もうとしているのだ。父も思うところはあるだろう、一つ屋根の下に男と女だ。間違いが起こらないか心配になるのも仕方がない事だろう。
「なんじゃそのエプロンは?」
ドタバタしていて完全に忘れていたけど、胸に大きなハートで肩にはヒラヒラの付いた可愛らしいエプロンをつけたままだった。
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