剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
21 / 157
第2章「魔法都市ヴェル」

第1話「想定外」

しおりを挟む
 ゴロゴロ、ガタガタ、僕達を乗せて馬車が走っていく。
 5年間引き籠り、無職だった僕は冒険者になり、今は護衛の依頼で魔法都市ヴェルまで同行している。
 冒険者になったと言っても僕の職業は『勇者』、仕事は料理、洗濯、荷物持ち。
 そして、パーティの応援だ! 騎士のスキルは両手持ち! 僕の仕事は太鼓持ち! ってか。

「コールドボルト」

 魔法都市ヴェルへ向かう途中、馬車を止めて休憩していたところ、ゴブリンの群れに遭遇した。
 氷の矢を飛ばす水の初級魔法コールドボルトで、ゴブリンの群れを少女が一掃する。彼女の名前はサラ。
 紫がかった綺麗なプラチナの長い髪、透き通るような赤い瞳、ややツリ目ガチだが整った可愛らしい顔つきをしている、背丈は僕と大して変わらない。
 全体的に黒を基調としたノースリーブの服にアームウォーマー、ミニスカートにハイソックス、手には黒い杖を持っている、杖の先には大きな赤い魔石が植え付けられている。

「流石サラさん! 魔法を打てば百発百中っすね!」

「エルク! それはやらないでって前に言ったでしょ!」

 サラに、勇者のスキル『覇王』 ―とにかく大声で褒めちぎる― を使ったのだが、怒られてしまった。
 元々彼女には「もう二度とやらないでね」と言われてたから、怒られるのも仕方ない。だがこれは護衛の依頼の依頼主からの要望でもあったのだ。

「勇者さんって、パーティではどんな事してるんですか?」

 休憩中にそんなこと聞かれた直後のタイミングでゴブリンの群れと遭遇したのだ、やらないわけにはいかない。
 顔を真っ赤にしながら怒るサラ。僕は「ごめんごめん」と謝りながら両手を上げる、無条件降伏のポーズだ。

 不意に僕の服がクイクイと引っ張られる。 僕の服を引っ張ってる主、彼女の名はアリア。
 ブラウンの長髪、ブラウンの瞳、丈の短い青いサーコートにショートパンツ姿で腰には剣を携えている。
 立たせたら胸元まではあろうカイトシールド、戦闘時には腕に装着するが、それ以外の時は背負っている。
 パーティの前衛を担当している聖騎士パラディンだ。

 なおも服を引っ張るアリア、無表情で無言だが言いたいことは何かわかる。

「ご飯」

 お腹を鳴らしながら、僕に催促してくるが、そのためにはまず、怒っているサラをどうにかしないといけない。

「サラ、今からお昼を作ろうと思うんだけど、手伝ってもらえるかな?」

 料理が好きなのだろうが腕前は壊滅的な彼女にとって、わかりきったご機嫌取りであったとしても、乗らざるを得ない提案だ。

「次やったら、フロストダイバーでアンタの首から下を、氷漬けにするからね」

 フロストダイバー、狙った対象を氷漬けにする水の上級魔法か。
 怖いな。流石にそこまではやらないとは思うけど、それに近い事はされそうだ。
 苦笑いを浮かべながら、昼食の準備を始める。

「『覇王』はアリア辺りにやれば良かったのに、エルクはバカです」

 僕の背後から皮肉を言ってくる少女。見た目12歳前後に見えるが、実際は僕やサラと同い年の獣人の少女リン。 
 金色の髪、ショートカットで前髪は綺麗に真横に揃えられている、エメラルドグリーンの瞳。
 黒と赤を貴重にしたドレス……ゴシックロリータと言う服装だろうか?頭には獣人族の耳を隠すためか、ボンネットをかぶっている。

 今にもため息をつきそうな目で僕を見てくる。

「そうだね、次はリンでやってみようかな」

 そう言って僕はリンの頭を撫でる。リンの頭の位置は丁度撫でやすい位置にあるから、たまに無意識に撫でてしまう時がある。

「チッ」

 軽い舌打ち。別に怒っているわけじゃなく、リンの照れ隠しだ、とはサラの言だ。
 たまにやり過ぎて、本気っぽい舌打ちも貰ったりするけど、今のは多分大丈夫な方の舌打ちだ。

 昼食の準備、町を出る際に護衛依頼を出した商店の主から、餞別に貰ったウインナーを焼いている。
 ある程度日が経ってしまい、店に出せなくなった物だから、悪くなる前にすぐに食べてくれと言われたので、町を出た初日目のお昼のオカズにするつもりだ。

 ウインナーを焼くのをサラに任せてみたが、ちょっと色が付いただけでオロオロしながら「ねぇ大丈夫? まだ大丈夫?」としている姿が微笑ましい。
 良い感じに焼けてきたウインナーの匂いに釣られて、アリアがじーっと見ている。待てを命じられた大型犬のようだ。
 サラがビクビクしながらウインナーを裏返し、それに合わせてアリアも顔が動いている。

「きゃー、可愛い。 普段からこういう服着るの?」

 リンはと言うと、護衛依頼の対象者、4人の女性に絡まれて困り顔だ。
 依頼者でもあるから下手な事が出来ず、もはやなすがままになっている。
 時折こっちに助けの視線を感じるが、初対面の女の子達の集団に入り込めるほどの勇気はない。

 彼女たちは針子―衣類を作る人の事―らしく、職業的な意味でもリンが気になって仕方ないらしい。
 たまにサラやアリアにも服についてあれこれ聞いたりしている。特にアリアは鎧も着ているから、鎧の上から着たりする服を考えるために、身体中を良く触られている。

 本人は気にしてないのか無表情だが、せめて僕の前では辞めて欲しい。胸とかを触っているのをたまたま目撃してしまい、目撃している僕をサラが目撃してビンタを貰う場面もあった。流石に理不尽だ。


 ☆ ☆ ☆


 旅自体は順調だった。出てくるモンスターもゴブリン程度で、馬車を止めるまでもなく、サラが遠くから魔法で次々と倒してくれる。

 アリアが御者をして、その隣で僕が彼女が暇をしないように話をしたり聞いたりする。リンが周りを警戒し、何かあればサラが魔法で迎撃している。

 そして道具屋で買った魔力式簡易シャワーだが、大いに役立つ事になった。
 女性としては身なりを綺麗にしておきたいのだろう。初日目の夜に魔力式簡易シャワーを使っているサラを見て、依頼主の女性たちが「お金を支払うから自分達にも使わせてくれ」とせがんできたそうだ。

 悪くない金額を貰えたそうだが良い事はそこじゃなく、リンの裸を見られ獣人だとばれたのだが、彼女たちは依然リンに対して態度を変えなかったそうだ。
 人見知りのような態度を取っていたリンが、少しだけ彼女たちに対して心を開いたようだ。


 ☆ ☆ ☆


 問題が起きたのは3日目の、お昼になろうかと言う時間だった。
 リンが空を見て「逃げるです!」と大声でいきなり叫んだ。

「リン、どうしたの? ……大きな、鳥?」

 空を飛ぶ、大きな鳥。
 いや、大きいってレベルじゃない。大きすぎる!
 そんな得体の知れない生き物が、こちらに向かってまっすぐ飛んでくるのだ!

 その生き物が目の前に、ズシン、と地響きをたて舞い降りた、生き物の周りには砂煙が舞う。
 その衝撃で僕らの馬車は転倒し、外に投げ出される。

 少し離れたところで、僕らを心配する彼女たちに向かい叫ぶ。

「危険です! 先に行ってください! 大丈夫です、後で向かいますから!」

 僕の声が聞こえたのかわからないが、彼女たちが乗った馬車は走っていく。
 その彼女たちを追おうとする生物。

「コールドボルト」

 サラのコールドボルトが巨大生物の顔にむけて放たれる。よし、注意が完全にこっちに向かった。
 これで彼女たちは逃げ切れるはずだ。

 アリアとリンは……大丈夫だ。 馬車から飛び出た際に軽い擦り傷などはしたようだけど、大きなケガはまだ誰もしていない。

 それでも今の状況は最悪だ、出来る事なら目を合わしたくないが、僕らの目の前にいる生物を見る。
 それは身の丈5メートルはあるであろう、正真正銘のドラゴン『火龍』だ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...