剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第2章「魔法都市ヴェル」

第19話「デート・オア・アライブ 前編」

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 ――野良猫通りの宿前――

 朝食を食べてから30分位が経っただろうか?
 僕は宿の前で待ちぼうけだ。
 朝食を食べた後に、サラは部屋に戻るなり。

「外で待ってて、すぐ行くから」

 と言ったっきりである。部屋まで戻って呼びに行こうか考えたのだが。

「部屋のドアを開けてはだめです。絶対です」

「開けたら後悔する」

 とアリアとリンに出がけに脅された。
 彼女たちは二人仲良くお出かけのようだ。

「ごめん、待った?」

 そろそろ部屋に呼びに行こうか悩んでいたタイミングでサラが来た。

「そんな事無いよ。女の子は色々と準備がかかるから仕方ないよね」

 そんな歯が浮くようなセリフを吐きながら笑顔で振り返る。
 スクール君から教えてもらった、女の子が遅刻してきた時の返し方だ。
 後はここで普段と違う部分を見つけて「今日は●●なんだ、可愛いね」と言えば100点満点らしいが。
 うん、普段と何が違うかサッパリわからない。

「どうしたの? アンタなんかいつもと違くない?」

 怪訝な表情に変わっていくサラ。
 やばい、ごまかさないと。

「今日は杖じゃなくて、鞄なんだ、可愛いね」

「あぁん!?」

 サラの顔が、一気にチンピラみたいな顔に変わっていく。
 女の子の扱い方というのは、どうやら今の僕には荷が重いようだ。
 チンピラみたいな顔を崩し、深くため息を吐く。

「どうせアイツに変な入れ知恵されたんでしょ」

 アイツ、と言うのはスクール君の事だろう。
 名前を出したくないからアイツと言っているんだろうな。

「あー……うん、実はそうなんだ」

「はいはい。バカ言ってないで、さっさと行くわよ」

「あ、はい」

 ちょっと地雷を踏んだが、最近のそっけない態度と比べれば全然マシだ。
 僕の前を素通りして、先を歩く彼女の隣まで小走りで駆けていく。


 ☆ ☆ ☆


 一件目のお店に到着した。

「いらっしゃいませ」

 お店に入るとスレンダーな獣人族の女性店員さんが、にこやかに声をかけて来てくれる。
 ネコっぽい耳としっぽが生えているが、リンと同じ種族にしては身長が高い。
 リンが僕の胸元位に対し、この店員さんは僕と同じか、それよりもちょっと高い感じだ。

「本日はどのようなお召し物をお探しでしょうか?」

 店内を見渡すと、基本は僕らと変わらないような服が所狭しと置いてあるが、どれも耳や尻尾が出せるようにデザインされている。
 「へー」と言いながら見渡す僕ら。

「あー、はいはい」

店員さんがにこやかな笑みから、ニヤっとした感じの笑みに変わっていく。

「お客様、こちらの商品はいかがでしょうか?」

 僕らの前を歩き、店員さんが勧めてきた商品は、獣人っぽい耳と尻尾だった。
 もちろん本物ではなく、作り物の。

「初めて獣人プレイをなさるのには、色や種類も豊富でうってつけございます。もし耳や尻尾が動くものをお探しでしたら少々値は張りますが、こちらのような品もございますが」

 耳の種類は種族ごとに合わせてあるのか、ピンとなってるものから垂れているものまで様々だ。
 だが僕らの探してるものとは全く違う。サラがちょっと欲しそうな顔をしているけど。
 そもそも獣人プレイってなに!?

「あの……獣人族の友達へプレゼントするための服を買いに来たのですが」

「あぁ、これは申し訳ありません。てっきりカップルと勘違いしちゃいました。テヘッ」

 そういう関係じゃないので。
 と言うか店員さん慣れた様子でオススメしてきたけど、もしかしてカップルでこれを買いに来るお客さんが多いのか……
 店員さんのカップル発言に取り乱すかと思ったけど、サラは意外と冷静だった。
 
 いや違う。耳と尻尾に夢中になっていただけだ。
 欲しいおもちゃを夢中で見ている子供のようになっている。
 僕と店員さんの視線に気づいたのか、顔を赤らめ「おほほほ」と笑ってごまかそうとしている。
 本当に「おほほほ」と言う人初めて見た。

「リンと同じような耳と尻尾を買っていく?」

「えっ……別に欲しいわけじゃないし」

 そう言いつつも、目線の先には猫耳と尻尾がある。形はリンの耳と尻尾に似ている。
 耳としっぽにはピンクのリボンと鈴が付いていて、可愛らしいデザインだ。
 サラが付けたら可愛いと思うし、ちょっと見てみたいな。

「お金は余裕ありますし、ついでに買っても大丈夫ですよ?」

「だから欲しいわけじゃないってば!」

「サラが付けたら、リンもお揃いだって喜ぶと思いますよ?」

「うっ……」

 よし、もうひと息だな。

「こちらの商品はただ今キャンペーンで2セット買うと、もう1セットついてきます」

「ふぅん。それじゃあ買うわ」

 サラとアリア、そして僕の分の3つを買う事になった。
 何で僕まで!?

「良かったわね、お揃いでリンが喜ぶ姿が見れるわよ」

「あ、はい……」

 腕を組み、ふふ~んと鼻で笑いながらドヤ顔をしているが、内心は相当嬉しいのだろう。耳まで真っ赤にしている。
 少しギクシャクしてた僕らの会話も自然に戻って来たし、これはこれで良しとしよう。

「それと、友達に買う服なのですが」

 店員さんにリンの身長と普段来ている服を伝えて、似たような服を探してもらう。

「そういえば、リンって普段からゴシック? みたいな服着てるけど、ああいう服が好きで合ってる?」

「そうね、本人が言うには『可愛さと機能性を兼ね備えた最高の暗殺服です』とか言ってたわ」

「暗殺って」

「そうですね。暗殺者向けのゴシックロリィタ衣装ですと、サイズが合うものはこちらになります」

「えっ、あるの!?」

「はい、色々なお客様が来店しますので」

 色々の幅が広過ぎやしないでしょうか。
 そもそも普通の服屋で暗殺者向けの衣装が置いてあるってどうなんだろう?

「今は平和ですからね。ただのファッションなだけなので大丈夫ですよ。服なんて元をただせばチェック柄は死に装束とか色々ありますし」

 へー、そうなんだ。
 店員さんが大丈夫と言うのだから、きっと大丈夫なのだろう。

「リンは赤や黒っぽい色が多いから、白色のなんてどうかな?」

「返り血が目立つって言いそうね」

 返り血って、心配する所がおかしい気がする。

「あー、でも確かにモンスター退治する時には着づらいから、他のが良いのかな」

「別に街中で着るようにすれば良いだけでしょ。しばらくは学園にも通うわけだし」

「そうだね。それじゃあこれを一着買って行こうか」

「うん。あっ、ちょっと待って。他にも色々あるから見てみましょう」

 サラは同じような服を見ては首を傾げている。
 両手にそれぞれ持って見比べたりとあれこれしているが、僕には何がどう違うのかあまり差がわからないから、正直どれも同じにしか見えない。

 ここでスクール君の言葉を思い出そう。
 女の子は基本服を買うときは凄く時間がかかる、ここで下手に「どれも一緒じゃん?」なんて言った日には、その日のデートが失敗になる可能性が高い。
 わからなくても、何か聞かれたらとりあえず「僕もそう思うよ!」と答えていれば9割は何とかなると言ってたし、その作戦で行こう。
 結局、選ぶのにそれから一時間以上かかった。サラの「こっちのが良いと思うんだけどどう思う?」に対しては「僕もそう思うよ!」作戦で何とか切り抜ける事は出来た。
 これは事前にスクール君から教えてもらっていなかったら「どれも一緒じゃん?」と答えてサラを怒らせていただろうな。

 サラが選んだのは、ノースリーブの白いゴシックドレスにフリルがこれでもかと着けられており、腰回りに黒いコルセットを装着するタイプだ。スカートまで真っ白で服から少女らしさのオーラが出ている。
 胸元と腕には、先ほど買った猫耳や尻尾と同じようなピンクのリボンが付けられていて、可愛いと思う反面「汚れが目立ちやすいから、洗うの大変だろうな」なんて考えていた。
 この衣装を着たリンを想像する、凄く可愛い。
 うんうん、喜んでくれると良いな。

「エルク、やっぱアンタロリコンじゃないよね?」

 衣装を見て頷く僕に、ジトーっといった感じでサラが僕を見てくる。

「違うよ!」

「そのリンちゃんという方は特徴聞く限り多分白猫族ですから、身長は大人になっても変わらないと思うのでご安心を!」

「安心の意味がわからない!」

「お買い上げ、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 店員さんブレないなぁ。
 そういえば今日は何件か回ろうと思っていたのに、一件目でいきなり終わらせてしまった。
 どうしようか。サラとの関係は幾分か修復できたとは思うけど、もう少し色々回りたい。
 ここ最近はパーティの皆は、学園の色んなグループに引っ張りだこだったから、宿以外でまともに会話もしてなかったし。
 このまま一旦宿に戻って荷物を置いてから、サラをお昼に誘おうか?

「そういえばお客様。そちらの衣装はノースリーブなのですが、その下着とかは宜しかったでしょうか?」

「下着?」

 どういう事だろうか? サラは「あっ」と言った感じで何か察したようだけど。

「はい。その、肩ひもとかが見えてしまいますので」

「そう言えばあの子、そもそも持ってなかったわ」

「ええ、そうだったのですか!? それでしたら、獣人向けのランジェリーショップが近くにあるので、そちらで購入してみてはいかがでしょうか?」

「そうね。エルク、付き合いなさい」

「うん。いいよ」

 このまま帰るのは勿体ないと思っていた所だし丁度良いや。
 それじゃあリンの為にランジェリーと言うのも一緒に選ぼう。
 この時僕は、店員さんかサラにランジェリーが何かちゃんと聞いておくべきだったと、すぐに後悔することになる。
 いや、多分聞いても教えてくれなかっただろう。僕が頷くと、二人はニタァと笑っていたのだから。
 サラと買い物が続けられる事に浮かれていた僕は、二人の笑みを疑問にすら思わなかった。
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