剣も魔術も使えぬ勇者

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第4章「ヴェル魔法大会」

第2話「勇者マスクマン」

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 控え室でマスクとマントを預けて、サラ達の居る客席に慌てて戻る。

「さっきの試合色々酷すぎて、周りが困惑しておったぞ」

 控え室を出た所で、イルナちゃんに声を掛けられ。、僕を待っててくれたのか。
 少し溜め息をつきつつも、満足そうにニカっと笑っている。

「そもそも、あんなナイフ避ける必要もなかろう? 当たっても対して痛くはないはずじゃぞ」

「そうなの?」

「うむ。それに打撃に対しても反応出来たはず、まだ自分の力に対してどこか信頼してないように感じる」

 自分に対して信頼か、確かに力を手に入れてもまだ「これで大丈夫かな?」と不安に思ったりすることはある。
 イルナちゃんは「この大会で勝っていけば、自ずと自信に繋がるじゃろ」と言ってくれてるけど。
 

 ☆ ☆ ☆


「遅かったじゃない。せっかく面白い試合が見れたのに」

「あぁ、うん。ちょっとトイレが混んでてね」

 サラは「ふ~ん」と興味無さそうな声で返事をしながら、僕の席に座り僕の作ったサンドウィッチを頬張っている。僕の席からバスケットごと持っていけば良いのに、他の人にも渡せるようにわざわざ僕の席で食べているようだ。
 代わりにサラの席に座ると、リンが興奮気味に「変な格好したマスクマンが、変な動きをしながら、変な勝ち方したです」と目を輝かせて僕に語っている。その変なマスクマン、僕なんだけどね。
 リンが話してる最中に「ペチン」という音が聞こえた。「またやってるです」とリンが呆れ気味だ。

 音の方を見てみると、目にも止まらぬ速さでサンドウィッチに手を出そうとするアリアに対し、目にも止まらぬ速さで対抗しているサラだった。
 アリアが高速で出した手をサラが全て叩き落しているのだ、いつの間にアリアに対抗できる程に成長していたようだ。
 最初は動きが見えるけど反応出来なかったのが、段々と反応しようと思えば反応出来る事に気付いたとか。
 さっきの試合で、僕もピラの動きは見えていたけど反応出来なかった。もしかして反応しようと思えば、体は動いてくれたんじゃないだろうか?

 歓声が上がったので試合を見てみると、さきほどピラと一緒に居たキツネのような笑みを浮かべる選手が試合に勝っていた。次の僕の対戦相手は彼か。
 彼の名前はアルで、ランベルトさんのメモにも載ってた男だ。
 地剣術と海剣術を扱い、補助魔法で身体能力を上げて、『瞬歩』程じゃないにしても、高速で移動して死角から襲い掛かって来るのを得意戦術としてると書いてあったっけ。
 評価はC+か。

 そしてアリアとサラの攻防も決着がついていた。満足気味にサンドウィッチを頬張るアリアに、悔しそうな顔をしているサラ。

「サラは素直だから、フェイントにすぐ引っかかる」

 サラは素直が一周して、性格は素直じゃない気がするが。勿論本人にそんな事は言えない。
 アリアがサラに対しダメ出しをして、サラがうんうんと頷きながら聞いている。なんだかんだで良いコンビになっている気がする。
 大会を通じてお互いを高め合うために、頻繁に情報交換や模擬線らしきものをやったりしているとか。


 ☆ ☆ ☆


 もうそろそろ僕の試合になる。「ちょっとトイレに行ってくるね」と言い残して控え室へ向かった。
 着替えて控え室に入ると、僕をチラチラ見てくる人はやはり多い。
 だが先ほどの馬鹿にした感じの視線と違い、険しさを感じる。どこか警戒しているような感じだ。
 
 名前を呼ばれ、入場していく。
 僕の恰好に対して怒声は無かったが、応援もない。
 反対側の入場門からはピラと一緒にいた剣士が歩いてくる。キツネのような笑みをしているが、目は笑っていない、獲物を見る目だ。
 
「先ほどは弟分がお世話になったね。デビュー戦なのに浮かれているから無様な負け方をするんだ、そう思わないかい?」

 そう言って手で口元を抑えているが、やはり目は笑っていない。言葉とは裏腹に怒りを感じる。
 口は悪いが仲間思いなんだろうな、嫌いなタイプじゃない。だからと言って負けてあげるつもりはないけど。
  
「お互いがリングに上がりました、それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」

「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」

 開始とともに、凄い速度で僕に迫って来る。
 『混沌』の効果なのか、高速で走って来る彼の動きがちゃんと見える。あっという間に僕の背後を取り剣を振り上げているが、彼に合わせて振り向きつつ軽くバックステップ。
 一瞬で距離を離し、お互いの開始位置を交換する形になった。

「へぇ、反応出来るんだ。それじゃあ更に速度をあげてみようかな」

 言い終わる前に彼は動いていた。
 『瞬歩』に近い速度で僕の背後を取ろうとするも、その動きをギリギリで回避しながら、リングを縦横無尽に動き回る。
 段々と慣れていく感じがした。彼の動きは確かに速いが、それは直線的な物だ。
 真っ直ぐに向かってくるのだから、動き出した瞬間が見えれば回避するのは難しい事じゃない。

 これならイケル、そう思った矢先だった。彼の動きを見て左にステップをしてかわすつもりだった、しかし彼は動いてなかったのだ。やられた、フェイントだ。
 僕がステップで移動している方向へ、彼は一瞬で距離を詰めてくる。剣を振り上げる彼の姿が見える、着地が間に合わない。
 高速で動いてるはずが、少しゆっくりに見える。もしかしたら今なら反応しようと思えば反応出来るんじゃないだろうか?
 致命傷を避けるために、とりあえず腕でガードだ。ナイフが当たっても今なら痛くない位強化されたこの体なら、受けれるはず。
 一瞬チクリとした痛みが左腕にあった。剣を受け止めた腕は、切断されるどころか表面をちょっと切った程度のキズにしかなっていない。

「えっ?」

「えっ?」

 彼も驚いたが、僕も驚いていた。流石にこのレベルの剣戟を、本当に腕でガード出来るとは思いもしなかったから。
 お互いに目があった。彼が「なんでお前も驚いてるの?」と言った困惑の表情が見える。

「今じゃ!」

 完全に時が止まっていたのを、イルナちゃんの声で我に返る。
 慌てて殴ってみた、反応が遅れた彼のみぞおちにクリーンヒット。そのまま吹き飛び、場外を超えて壁にぶち当たり気絶していた。

「どんな体をしていたら剣を腕でガード出来るんだ!? 奇抜な格好で目立つだけじゃない、実力を見せつけた勇者マスクマンの勝利です」

 遅れて歓声があがる。「さっきはバカにして悪かったな!」「勇者マスクマン最高!」と言った感じで一回戦とは打って変わって、掌を返したような歓声だ。悪い気はしないけどね。


 ☆ ☆ ☆


「傷口を見せてください。そのまま客席に戻ればサラさん達に、勇者マスクマンと同じ場所にキズが出来ているのを不審に思われると思います」

 控室には今度はフルフルさんが来てくれていた。何度もイルナちゃんと戻れば不審がられるから、事情を知っているフルフルさんが代わりに来てくれたのだろう。
 幸い傷は浅く、フルフルさんの治療魔法で傷跡すら残らなかった。
 お礼を言うと、フルフルさんは笑顔で「イルナ様が嬉しそうにしてるお姿が見れるのが、私も嬉しいので」と言ってくれた、本当にイルナちゃんは愛されてるな。

 その後の試合は難なく勝ち進めた。
 と言うのも連続で相手が魔術師だったからだ。『混沌』を使った僕に魔法は通じない、僕の目の前で魔法が全て消えるからだ。
 一応腕を振り上げたりして魔法をかき消した振りはしている。そうじゃないと怪しまれるしね。
 と言っても奇抜な格好のおかげで『混沌』に対しては、そこまで怪しまれているような感じはしない。変な格好をしている奴が変な力を使っている。でも変な奴だから変なのが普通か、みたいな感じだ。

 僕の最後の試合はピラやアルと一緒に居た、筋肉ダルマの男だった。
 名前はウッディー、ちょっと可愛らしい名前だ。
 ランベルトさんのメモでは、実力的にはアルを二回りほど成長させた感じらしいが、ちょっとオツムが足りていないと書かれていた選手だ。だけど評価はB、油断は出来ない。

 試合開始とともに彼は僕の方へ歩いてきて「正々堂々と、純粋な力比べで勝負だ」と言ってお互いの両手で掴みあい手四つ状態にさせられた。明らかに体格差があるのに、正々堂々って……
 純粋な力比べでは僕が負けていた。うん、純粋な力比べではね。
 『混沌』発動中は僕の掌から精気を吸い取る状態になっている。数秒もしない内にウッディーさんはみるみる力が弱っていき、よろけた所をぐるんと回して場外に投げ飛ばした。

 こうして僕は、2次予選へ駒を進めた。


 ☆ ☆ ☆


 控室を出た際に、サラとバッタリ出くわしてしまった。

「ねぇ、エルクちょっと良い?」

 いや、待っていた感じか。もしかして正体がバレてしまったのだろうか?

「なんであんな変な格好で、参加してるの?」

 もしかしなくてもバレバレだったようだ。
 確かに勇者マスクマンが出ている時に僕が居なければ怪しむのは当然か。下手に隠せば不信に繋がるかもしれないけど、正直に全部話すわけにもいかないし。

「あの格好は理由があって、今は言えないけど。今度ちゃんと話すから待ってて貰って良いかな?」

「わかったわ」

「そうだよね、でもどうしても言えない理由が。って、えっ?」

「だから、待っててあげるって言ってるの」

 少し呆れ気味に、半眼で僕を見つめている。
 聞かなくても良いの? いや、聞かれても答えれないんだけどさ。

「別に秘密の一つや二つくらい誰だってあるでしょ。今は言えないなら無理に聞かないから」

 聞き分けが良くて助かる。

「もしかして、アリアやリンにもばれてたりします?」

「アリアは何も考えてないだろうし、リンはマスクマンをキラキラした目で見てたから、多分気づいてないんじゃない?」

 そっか、他の人にばれてないなら一安心だ。
 イルナちゃん達の名前が出てこないって事は、彼女達が協力者と言う事にも気づいているのだろう。


 ☆ ☆ ☆


 観客席に戻ると、サラはまたアリアと組み手と言う名の争奪戦を行っていた。
 僕がオヤツに焼いてきたクッキーを、取り合いしているようだ。
 予選最後の試合が始まっているのに、そっちには興味が無いと言わんばかりだ。

「エルク、エルク。ちょっと良いですか?」

 隣に座るリンが、僕の方のすり寄ってきて、片手で声が漏れないようにしながら、小声で話しかけてきた。その姿が可愛らしいので頭を撫でてみたが無反応だ。

「どうしたの?」

 リンに合わせるように小声で答える。
 リンは争奪戦を繰り広げてる二人をチラチラと見ながら。

「さっきのマスクとマント。今度貸して欲しいです」

「えっ?」

 思わず普通に声が出た。
 シーッと僕の口に指を当てて、もう一度争奪戦をしている二人を見ていたが、こちらには気づいて無い様子にホッと息をついていた。

「ごめんごめん。リンは正体に気付いてたの?」

「はい、エルクの気配ですぐに気づいたです」

 気配って……そっか、バレバレだったのか。

「大丈夫です。サラとアリアはずっとあの調子で、多分気づいてないはずです」

 サラにはもうばれてるんだけどね!

「そっか。うん、いいよ。洗ったら貸してあげるね。でも来週の二次予選でまた使うからそれまでには返してね」

「はいです」

 ちなみにアリアとサラの争奪戦は、シオンさんが介入することにより更に熾烈を極め。最後はイルナちゃんとフルフルさんの説教で争いの幕を閉じた。
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