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第4章「ヴェル魔法大会」
第11話「さらば底辺冒険者」
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お風呂から上がって、体を拭いて着替えた。
体を拭いて、下着に着替えたリンが僕の前まで歩いて来た。
「エルクが買ってくれた下着です。似合ってるですか?」
それ、前にもやってサラに殴られたパターンじゃない?
絶対にサラに殴られるよなと思って、チラっとサラを見たけど殴られることは無かった。
「一緒にお風呂に入って裸見られてるのに、今更下着くらいでどうこう言わないわよ」との事だ。
許しが出たのなら問題ない、よね?
下着姿のリンを見てみる。ブラの真ん中に猫の形で穴が空いてて、そこからちょっとだけ見える控えめな胸がセクシーな感じだ。
「うん、とても似合ってて可愛いよ」
普段は頭を撫でると照れ隠しに舌打ちをするリンだけど、素直に「えへへ」と言って喜んでくれている。
彼女の感情に合わせて、尻尾と耳もぴこぴこと動く。ちょっと触ってみたい気持ちもあるけど、確か獣人族の耳や尻尾は家族や恋人といった親しい人にしか触らせないらしい。
なので勝手に触ったり、ちょっと触れただけでも嫌がられるそうだ。リンが嫌がる事をするつもりは無い、もっと仲良くなれたらお願いしてみようかな?
「エルク、似合う?」
この前買ったハートのネックレスを首にかけ、アリアが前かがみになって僕の目線に合わせるようにして聞いてくる。
右手はリンの頭を撫でながら、左手でアリアの頭を撫でる。
「はい、凄く似合ってますよ。なので服を着ましょうか」
ネックレス以外何も身に着けていないアリア。キミ達の後ろで段々不機嫌になってきたサラが睨んでて怖いから、二人とも早く着替えようか。
下着くらいではどうこう言わないけど、裸は流石にダメだよね。
「うん」
「はいです」
その日の夕飯時、サラがいつもより大きな声で「激しい試合で疲れたわ~。本戦出場決めたけど、激しい試合で本当に疲れたわ~」と言っていた。
さっきまでは本戦進出をそんなに喜んでる様子は無かったけど、内心では相当喜んでるみたいだな。予選通過記念パーティでもしてあげるべきだったか。
――女将視点――
「あの、すみません。部屋にお風呂の準備をしていただきたいのですが」
「あいよ。5シルバだよ」
確か、この子のパーティに魔術師のような格好の子が居た気がするけど。普段はお風呂の準備を頼まれることなんてないのに珍しい。
まぁお客さんにも事情があるんだろう。いちいち私が干渉するのはいけないね。
お客さんの部屋に入って、家庭用魔法の火と水を混合して、浴槽にお湯を張る。
普段使った後に洗ってくれてるんだろうね。髪の毛や垢が浴槽に着いた跡がない。よっぽどお風呂が好きと見たよ。
その証拠に、お湯を入れてる間に少年は服を脱ぎ始めてたしね。
私も女なんだからもうちょっと気を使ってほしい気はするけど、この子から見たら私はおばちゃんだから、そういった対象じゃないんだろうね。
まぁ若い男の裸を見れたんだ。私にとっちゃそれでプラスマイナスゼロといった所かな。それじゃごゆっくり。私は扉を閉めて出て行った。
一階に戻るとさっきの子のパーティメンバー――確かサラちゃん――が宿に戻ってきた所だった。
他にももう2人パーティメンバーが居たはずだけど、サラちゃん一人で顔を紅くしてなんだかソワソワしてるけど、どうしたのかしらね?
なんて、私はもう生娘じゃないんだから予想食らいつくさね。若い男と女が一つ屋根の下、しかも普段一緒のパーティメンバーが居ない時に。
だったらやる事なんて一つしかない。
「お風呂のお湯張りしといたよ」
私の言葉に頷きお礼を言ってくる。もしエルクって子だけがお風呂に入りたいだけなら、サラちゃんは首を傾げたはずだ。
じゃあやっぱりそういう事だね、あぁ若いって羨ましいわ。内心ニヤニヤしているが、頑張って顔に出さないようにしなきゃね。
「アンタ。ちょっと上の部屋がドタバタするけど、気にしないで料理続けるんだよ」
厨房で夕飯の仕込みをしている旦那に、遠回しに何があるのか教える。
長い事夫婦をやっているんだから、私のそれだけの言葉で、旦那はこれから何があるかわかったようだね。
「お、おう」
「それじゃあ私は部屋の掃除に行ってくるから」
そう言って私は、コップを片手に部屋の掃除に行くことにした。
「お前は、本当にそういうの好きだねぇ」
そう言ってため息をついてるくせに、コップ片手について来てる辺り、アンタも十分好きものだよ。
お互いニヤケそうな顔を我慢して、厨房から出ると、リンちゃんとアリアちゃんが宿に戻ってきた所だった。
あぁ、あの子達大丈夫かしらね? 二人に隠れてしようとしたのに、彼女達二人戻って来ちゃったじゃないか。
これは修羅場になるね。
大変じゃないか。フフフ。
旦那と隣の部屋で、壁にコップを付けて耳を澄ましてみたけど、どうやら4人で仲良くお風呂に入ったようだね。
確か少年は勇者だったっけ? それなのにあんな可愛い女の子を3人も垂れ込むなんて、やるじゃないか。
お風呂は反対の部屋側にあるから、あまり声が聞こえないけど。それでも「体を手で洗う」とか小さい女の子が一瞬喘いだような声が聞こえて、それなりに楽しめたよ。ごちそうさま。
☆ ☆ ☆
――エルク視点――
昨日は戻って来たアリアとリンが、夕飯を食べている時に「そういえば明日は学園を休みにして、本戦出場祝いに、この前の酒場で祝勝会をする」という事を教えてくれた。
今回もスクール君は冒険者に声をかけたそうだ。冒険者を志す生徒と冒険者が今の内に交流を持ってもらおうというのが建前で、本音は彼がただ色んな女の子を誘いたいだけだ。
結果、前よりも参加人数人が増えて、急遽店の前にもテーブルと椅子が並べられていた。
乾杯の音頭の後に、各自好きにグループを作ってテーブルを囲んでいる。
冒険者と生徒の溝はそこそこ深く、店の右半分の席が学園側の人間で、左半分の席が冒険者といった感じで別れてしまっている。これではせっかく一緒の場に居るのに意味が無い。
そう感じたのも最初だけだった。冒険者のパーティが生徒達に、逆に生徒達が冒険者のパーティに少しづつだけど歩み寄っていた。
そのまま生徒をパーティに勧誘したり、冒険者の人にどこか空きがあるパーティを紹介してもらったり。
そして僕は、何故かグレン達のテーブルに居る。
サラは校長やフルフルさん達と紙に何か書きなぐりながら討論してたから、リン達のテーブルに行こうかなと思っているところをグレンに「ちょっと面かせや」と言われて、半ば強引に連れていかれた。
無理矢理彼らのテーブル卓に着かされたが、一体何なんだ?
はて? 彼らの恨みを買うようなことをした覚えはないけど。四角のテーブルには僕の隣にグレンが対面にはヨルクさんと村人っぽい少年――彼がこのパーティの勇者だそうだ――、右隣には剣士風の男性。
そして左隣にはエリーさんと、ベリトちゃんが座っている。なるほど、十分恨みを買ってるね。
今日のベリトちゃんは白と黒のゴスロリ衣装に、薔薇の刺繍が施された眼帯を付けている。胸にはこれでもかと言わんばかりの詰め物をされて。
「エルク、お前を呼んだ理由なんだけど」
「ごめんなさい」
とにかく謝った。僕の軽率な言動でベリト君がベリトちゃんになってしまったのだから。
もし同じように、彼らのふざけた言動でアリア達が男になってしまったら、僕は許さないだろう。
そう考えると、僕は自分がしでかした事の大きさに気付いた。
「いや、お礼を言おうと思ったんだけど」
え? 怒ってないの?
頭を上げて、グレンを見ると怒っている様子は無く、落ち着いている。
てっきり、ベリト君がベリトちゃんになってしまった原因の僕を責めるとばかり思っていたけど。
「なんていうか、ベリトがこんなんにはなっちまったけど。そのおかげでパーティとしては上手くいくようになったんだ」
こんなん扱いは酷い気がするけど。パーティとしては上手くいくようになったのか。
確かにエリーさんの『気配察知』があれば、いくらか危険を回避できるし、モンスター散策にも向いている。リンと一緒に冒険者をしていたから、その重要性はよくわかる。
でも男性恐怖症の彼女はまともに彼らと喋る事が出来ず、せっかくの能力を持て余していたけど、ベリト君をベリトちゃんにする事により彼女と意思疎通が出来る様になった。
更にヨルクさんとベリトちゃんは中級の魔法がいくつか使えるようになり、グレンも新しい装備に身を包んで、いつもの特攻をしたとしても大きなケガもせずに戦えるようになったわけか。ちなみにグレンの新しい装備はランベルトさんのお下がりだそうだ。
ここ数日で彼らのパーティ事情は、一気に変わっていた。
そして昨日、彼らはついに駆け出し冒険者の難関と言われるキラーファングの討伐に成功したそうだ。
僕の目の前にいる彼らは、もう冒険者ギルドの前で頭を下げて挨拶していた底辺冒険者なんかじゃなく、立派な冒険者だ。
「それで、お前には色々と当たり散らしたりしてたから、謝りたいと思ってさ」
冒険者として、色々焦りを感じていた彼が、かつての仲間バートンさんを僕に重ね、実力が無い癖に仲間に恵まれてリーダーで良い思いをしている事に腹を立てていた。その呪縛を断ち切ることが出来たんだな。
グレンは、憑き物が落ちたような穏やかな表情だった。
「実はお前の事を勘違いしていたんだ。戦闘をサラ達にやらせて、自分は安全な所で見ているだけのゲス野郎だって」
なるほどね、彼の中では、僕は女の子達に戦いを任せて、自分は安全な所に居るクズ野郎だと思っていたみたいだ。
僕自身が「確かにそう思わなくもない」と思ってしまうから、反論できないのが悲しい所かな。
「俺さ、一目見た時からサラに惚れてたんだ。火竜を倒したパーティが居るって聞いて、お前らを見に行った時だったかな。その時のお前ったら『シオンさんに助けてもらったんですよ』なんてヘラヘラしてる情けない姿を見ててなんか腹が立ってさ。お前は俺達に色々してくれたのに、当たり散らして悪かった。すまん!」
そう言って頭を下げるグレン。
ごめん、ちょっと待って。
「えっ? バートンさんを僕に重ねて文句言ってたんじゃないんですか?」
「なんでバートンが出てくるんだ?」
どういう事だ、ヨルクさんを見るけど彼も驚いた表情な所を見るとグレンの本心は知らなかったのだろう。ベリトちゃんも驚いた様子だ。エリーさんは首を傾げて驚いてるベリトちゃんを見ていた。
剣士風の男性と勇者は話が見えないといった感じだ。彼らは元々蚊帳の外の話だしこの際おいておこう。
なるほど、だからグレンは僕に対して、あんな風に当たり散らしていたのか。好きな女の子のために。
まぁグレン達は順調にいってるようだし、僕としてはもう済んだことだ。この調子で行けば、彼らがDランクに上がるのもそう遠くないだろう。
その後もグレンは食事中に何度も謝ったりしてきたけど、僕としてはもう気にしてないから謝らないでほしい。
数日後、彼らは街を出た。
首都行きの護衛依頼があったそうで、魔法大会は最後まで見ないで街を去っていった。
帰らが街を出る時に見送りに行ったら、エリーさんがサラに別れの挨拶で「絶対負けませんから」と謎の宣戦布告して空気が凍っていた。
かつてエリーさんが”そういったお店”で働かされそうになった時、逃げだした彼女をグレンが助けたそうだ。それ以来エリーさんはグレンに惚れている。
だからどれだけ叱られても彼女はパーティを出て行かなかったのだと、そしてそんな彼女の気持ちをグレンは知らないし、助けたのも彼女を追ってた相手がたまたまグレンの肩にぶつかって因縁を付けただけだとか。酒場でトイレに立った際に、僕にその話をしてくれたヨルクさんの顔は相変わらず疲れていた。
エリー→グレン→サラの三角関係に、ベリト君の新たな世界への目覚め。
苦労人のヨルクさんだけど、彼の苦労はまだ終わりそうにないな。
体を拭いて、下着に着替えたリンが僕の前まで歩いて来た。
「エルクが買ってくれた下着です。似合ってるですか?」
それ、前にもやってサラに殴られたパターンじゃない?
絶対にサラに殴られるよなと思って、チラっとサラを見たけど殴られることは無かった。
「一緒にお風呂に入って裸見られてるのに、今更下着くらいでどうこう言わないわよ」との事だ。
許しが出たのなら問題ない、よね?
下着姿のリンを見てみる。ブラの真ん中に猫の形で穴が空いてて、そこからちょっとだけ見える控えめな胸がセクシーな感じだ。
「うん、とても似合ってて可愛いよ」
普段は頭を撫でると照れ隠しに舌打ちをするリンだけど、素直に「えへへ」と言って喜んでくれている。
彼女の感情に合わせて、尻尾と耳もぴこぴこと動く。ちょっと触ってみたい気持ちもあるけど、確か獣人族の耳や尻尾は家族や恋人といった親しい人にしか触らせないらしい。
なので勝手に触ったり、ちょっと触れただけでも嫌がられるそうだ。リンが嫌がる事をするつもりは無い、もっと仲良くなれたらお願いしてみようかな?
「エルク、似合う?」
この前買ったハートのネックレスを首にかけ、アリアが前かがみになって僕の目線に合わせるようにして聞いてくる。
右手はリンの頭を撫でながら、左手でアリアの頭を撫でる。
「はい、凄く似合ってますよ。なので服を着ましょうか」
ネックレス以外何も身に着けていないアリア。キミ達の後ろで段々不機嫌になってきたサラが睨んでて怖いから、二人とも早く着替えようか。
下着くらいではどうこう言わないけど、裸は流石にダメだよね。
「うん」
「はいです」
その日の夕飯時、サラがいつもより大きな声で「激しい試合で疲れたわ~。本戦出場決めたけど、激しい試合で本当に疲れたわ~」と言っていた。
さっきまでは本戦進出をそんなに喜んでる様子は無かったけど、内心では相当喜んでるみたいだな。予選通過記念パーティでもしてあげるべきだったか。
――女将視点――
「あの、すみません。部屋にお風呂の準備をしていただきたいのですが」
「あいよ。5シルバだよ」
確か、この子のパーティに魔術師のような格好の子が居た気がするけど。普段はお風呂の準備を頼まれることなんてないのに珍しい。
まぁお客さんにも事情があるんだろう。いちいち私が干渉するのはいけないね。
お客さんの部屋に入って、家庭用魔法の火と水を混合して、浴槽にお湯を張る。
普段使った後に洗ってくれてるんだろうね。髪の毛や垢が浴槽に着いた跡がない。よっぽどお風呂が好きと見たよ。
その証拠に、お湯を入れてる間に少年は服を脱ぎ始めてたしね。
私も女なんだからもうちょっと気を使ってほしい気はするけど、この子から見たら私はおばちゃんだから、そういった対象じゃないんだろうね。
まぁ若い男の裸を見れたんだ。私にとっちゃそれでプラスマイナスゼロといった所かな。それじゃごゆっくり。私は扉を閉めて出て行った。
一階に戻るとさっきの子のパーティメンバー――確かサラちゃん――が宿に戻ってきた所だった。
他にももう2人パーティメンバーが居たはずだけど、サラちゃん一人で顔を紅くしてなんだかソワソワしてるけど、どうしたのかしらね?
なんて、私はもう生娘じゃないんだから予想食らいつくさね。若い男と女が一つ屋根の下、しかも普段一緒のパーティメンバーが居ない時に。
だったらやる事なんて一つしかない。
「お風呂のお湯張りしといたよ」
私の言葉に頷きお礼を言ってくる。もしエルクって子だけがお風呂に入りたいだけなら、サラちゃんは首を傾げたはずだ。
じゃあやっぱりそういう事だね、あぁ若いって羨ましいわ。内心ニヤニヤしているが、頑張って顔に出さないようにしなきゃね。
「アンタ。ちょっと上の部屋がドタバタするけど、気にしないで料理続けるんだよ」
厨房で夕飯の仕込みをしている旦那に、遠回しに何があるのか教える。
長い事夫婦をやっているんだから、私のそれだけの言葉で、旦那はこれから何があるかわかったようだね。
「お、おう」
「それじゃあ私は部屋の掃除に行ってくるから」
そう言って私は、コップを片手に部屋の掃除に行くことにした。
「お前は、本当にそういうの好きだねぇ」
そう言ってため息をついてるくせに、コップ片手について来てる辺り、アンタも十分好きものだよ。
お互いニヤケそうな顔を我慢して、厨房から出ると、リンちゃんとアリアちゃんが宿に戻ってきた所だった。
あぁ、あの子達大丈夫かしらね? 二人に隠れてしようとしたのに、彼女達二人戻って来ちゃったじゃないか。
これは修羅場になるね。
大変じゃないか。フフフ。
旦那と隣の部屋で、壁にコップを付けて耳を澄ましてみたけど、どうやら4人で仲良くお風呂に入ったようだね。
確か少年は勇者だったっけ? それなのにあんな可愛い女の子を3人も垂れ込むなんて、やるじゃないか。
お風呂は反対の部屋側にあるから、あまり声が聞こえないけど。それでも「体を手で洗う」とか小さい女の子が一瞬喘いだような声が聞こえて、それなりに楽しめたよ。ごちそうさま。
☆ ☆ ☆
――エルク視点――
昨日は戻って来たアリアとリンが、夕飯を食べている時に「そういえば明日は学園を休みにして、本戦出場祝いに、この前の酒場で祝勝会をする」という事を教えてくれた。
今回もスクール君は冒険者に声をかけたそうだ。冒険者を志す生徒と冒険者が今の内に交流を持ってもらおうというのが建前で、本音は彼がただ色んな女の子を誘いたいだけだ。
結果、前よりも参加人数人が増えて、急遽店の前にもテーブルと椅子が並べられていた。
乾杯の音頭の後に、各自好きにグループを作ってテーブルを囲んでいる。
冒険者と生徒の溝はそこそこ深く、店の右半分の席が学園側の人間で、左半分の席が冒険者といった感じで別れてしまっている。これではせっかく一緒の場に居るのに意味が無い。
そう感じたのも最初だけだった。冒険者のパーティが生徒達に、逆に生徒達が冒険者のパーティに少しづつだけど歩み寄っていた。
そのまま生徒をパーティに勧誘したり、冒険者の人にどこか空きがあるパーティを紹介してもらったり。
そして僕は、何故かグレン達のテーブルに居る。
サラは校長やフルフルさん達と紙に何か書きなぐりながら討論してたから、リン達のテーブルに行こうかなと思っているところをグレンに「ちょっと面かせや」と言われて、半ば強引に連れていかれた。
無理矢理彼らのテーブル卓に着かされたが、一体何なんだ?
はて? 彼らの恨みを買うようなことをした覚えはないけど。四角のテーブルには僕の隣にグレンが対面にはヨルクさんと村人っぽい少年――彼がこのパーティの勇者だそうだ――、右隣には剣士風の男性。
そして左隣にはエリーさんと、ベリトちゃんが座っている。なるほど、十分恨みを買ってるね。
今日のベリトちゃんは白と黒のゴスロリ衣装に、薔薇の刺繍が施された眼帯を付けている。胸にはこれでもかと言わんばかりの詰め物をされて。
「エルク、お前を呼んだ理由なんだけど」
「ごめんなさい」
とにかく謝った。僕の軽率な言動でベリト君がベリトちゃんになってしまったのだから。
もし同じように、彼らのふざけた言動でアリア達が男になってしまったら、僕は許さないだろう。
そう考えると、僕は自分がしでかした事の大きさに気付いた。
「いや、お礼を言おうと思ったんだけど」
え? 怒ってないの?
頭を上げて、グレンを見ると怒っている様子は無く、落ち着いている。
てっきり、ベリト君がベリトちゃんになってしまった原因の僕を責めるとばかり思っていたけど。
「なんていうか、ベリトがこんなんにはなっちまったけど。そのおかげでパーティとしては上手くいくようになったんだ」
こんなん扱いは酷い気がするけど。パーティとしては上手くいくようになったのか。
確かにエリーさんの『気配察知』があれば、いくらか危険を回避できるし、モンスター散策にも向いている。リンと一緒に冒険者をしていたから、その重要性はよくわかる。
でも男性恐怖症の彼女はまともに彼らと喋る事が出来ず、せっかくの能力を持て余していたけど、ベリト君をベリトちゃんにする事により彼女と意思疎通が出来る様になった。
更にヨルクさんとベリトちゃんは中級の魔法がいくつか使えるようになり、グレンも新しい装備に身を包んで、いつもの特攻をしたとしても大きなケガもせずに戦えるようになったわけか。ちなみにグレンの新しい装備はランベルトさんのお下がりだそうだ。
ここ数日で彼らのパーティ事情は、一気に変わっていた。
そして昨日、彼らはついに駆け出し冒険者の難関と言われるキラーファングの討伐に成功したそうだ。
僕の目の前にいる彼らは、もう冒険者ギルドの前で頭を下げて挨拶していた底辺冒険者なんかじゃなく、立派な冒険者だ。
「それで、お前には色々と当たり散らしたりしてたから、謝りたいと思ってさ」
冒険者として、色々焦りを感じていた彼が、かつての仲間バートンさんを僕に重ね、実力が無い癖に仲間に恵まれてリーダーで良い思いをしている事に腹を立てていた。その呪縛を断ち切ることが出来たんだな。
グレンは、憑き物が落ちたような穏やかな表情だった。
「実はお前の事を勘違いしていたんだ。戦闘をサラ達にやらせて、自分は安全な所で見ているだけのゲス野郎だって」
なるほどね、彼の中では、僕は女の子達に戦いを任せて、自分は安全な所に居るクズ野郎だと思っていたみたいだ。
僕自身が「確かにそう思わなくもない」と思ってしまうから、反論できないのが悲しい所かな。
「俺さ、一目見た時からサラに惚れてたんだ。火竜を倒したパーティが居るって聞いて、お前らを見に行った時だったかな。その時のお前ったら『シオンさんに助けてもらったんですよ』なんてヘラヘラしてる情けない姿を見ててなんか腹が立ってさ。お前は俺達に色々してくれたのに、当たり散らして悪かった。すまん!」
そう言って頭を下げるグレン。
ごめん、ちょっと待って。
「えっ? バートンさんを僕に重ねて文句言ってたんじゃないんですか?」
「なんでバートンが出てくるんだ?」
どういう事だ、ヨルクさんを見るけど彼も驚いた表情な所を見るとグレンの本心は知らなかったのだろう。ベリトちゃんも驚いた様子だ。エリーさんは首を傾げて驚いてるベリトちゃんを見ていた。
剣士風の男性と勇者は話が見えないといった感じだ。彼らは元々蚊帳の外の話だしこの際おいておこう。
なるほど、だからグレンは僕に対して、あんな風に当たり散らしていたのか。好きな女の子のために。
まぁグレン達は順調にいってるようだし、僕としてはもう済んだことだ。この調子で行けば、彼らがDランクに上がるのもそう遠くないだろう。
その後もグレンは食事中に何度も謝ったりしてきたけど、僕としてはもう気にしてないから謝らないでほしい。
数日後、彼らは街を出た。
首都行きの護衛依頼があったそうで、魔法大会は最後まで見ないで街を去っていった。
帰らが街を出る時に見送りに行ったら、エリーさんがサラに別れの挨拶で「絶対負けませんから」と謎の宣戦布告して空気が凍っていた。
かつてエリーさんが”そういったお店”で働かされそうになった時、逃げだした彼女をグレンが助けたそうだ。それ以来エリーさんはグレンに惚れている。
だからどれだけ叱られても彼女はパーティを出て行かなかったのだと、そしてそんな彼女の気持ちをグレンは知らないし、助けたのも彼女を追ってた相手がたまたまグレンの肩にぶつかって因縁を付けただけだとか。酒場でトイレに立った際に、僕にその話をしてくれたヨルクさんの顔は相変わらず疲れていた。
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