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第5章「エルフの里」
第15話「里をあずかる者」
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里長に案内されながらハウスウッドの中へ入っていく。
ダンディさんが居たエルフの里のハウスウッドと比べると中は華やかだった。
階段や扉はほとんど一緒だけど、そこかしこに様々な調度品が置かれており、壁には絵画や彫刻が置いてある。
思わず立ち止まって見入ってしまう。
「我々は人族と比べると寿命が長いのでな。こんな集落では娯楽も少ないから趣味に没頭する者が多い」
そんな僕を見て、里長のバルドさんはどの作品をどんなエルフが作った物か時折立ち止まっり説明しながら奥へと歩いていく。
一目で凄いと分かる物もあれば、何がどう凄いのかさっぱり分からない物も沢山あった。作品の説明をしながら歩く里長のバルドさんは穏やかというか少し嬉しそうに見える。
「へぇ……」
サラは説明に対して頷いたり、時折首を傾げて質問をしたりしている。
「なるほど」
そう言って無表情で周りの調度品を見ているアリアの頭には「?」が浮かんいた。
凄い事を言ってる気がするけど、何がどう凄いのかサッパリわからない。そんな感じだ。それは僕も一緒なんだけどね。
「リンさん。夕飯は何か食べたい物はございますか?」
「リンは魚が食べたいです!」
「それと肉だな」
「お魚ですか。それでしたら近くの川で取れるので後で一緒に獲りに行きませんか?」
「はいです」
「肉は?」
後ろを歩くリン、ダンディさん、フレイヤさんは調度品に興味すらないようだ。
作品の話なんて全く聞いちゃいない。呑気に夕食の話で盛り上がっている。そんな3人を見て里長がちょっと切なそうな顔になったのは見なかったことにしよう。
「ここじゃ」
しばらく歩いた先にあったドアを開け、中に入っていったバルドさんに続いて入っていく。
中は30人位は入れそうな拓けた空間で、床には毛皮の敷物がいくつか置いてあり、壁に一枚の大きな絵があるだけで、他は何も無い。
部屋の中央で敷物の上に座ったバルドさんに「好きな所に座ってくだされ」と促され、僕らは対面の敷物に座った。
「ふぅむ。何から話したら良いものか……」
と言って腕を組み、首を傾げている。
首を傾げながらチラチラと僕を見てくるので、意図をくみ取っておくべきか。
「それではまず、僕らがここまで来た経緯から、お話させていただいてよろしいでしょうか?」
一応ダンディさん経由で僕らが来た理由や目的は聞いているだろうけど、人伝の伝言では齟齬がどうしても生じる。と言うかダンディさんだから齟齬と言うレベルで済むかわからない。
だからどんな目的なのかわかりかねているので、こちらの出方をうかがうために、あえて僕らから話をさせようとしているのだろう。
本当に何から話せば良いか悩んでるだけの可能性もあるけど。
僕らは冒険者をしている事。通っていた学園のジャイルズ先生から依頼でエルフの里を探し神級魔法の手掛かりが無いか調べに来た事。
道中では迷子になった際にリザードマンタイプの魔族であるペペさん達と出会った事。ペペさん達が居る詰所でダンディさんに出会った事。ダンディさんの案内で筋肉の里に行き、そこでフレイヤさんと出会った事。そしてここまでたどり着いた事を話した。
「なるほどのぅ……」
僕の話を頷きながら一通り聞いたバルドさんは、穏やかな顔で一息ついた。
「それなら里を見て周ると良い。古い物もあるがワシらでは分からないものも沢山ある。もしかしたらそれが手掛かりになるやもしれん」
正直意外だった。
もっと拗れたりするかなと思ったけど、そんな事は無かった。柔軟な思考の持ち主なのだろう。
「そこに居るんじゃろ? お客人方を案内してあげなさい」
穏やかな顔から、少し呆れたような顔になったバルドさんが扉に顔を向けてそう言うと、その瞬間に「バンッ」といった感じで扉が開け広げられて、エルフの女の子たちがキャーキャー言いながら入ってきた。
どうやら盗み聞きをしていたようだ。バルドさんにはバレバレだったようだが。
明らかに聞こえるように溜息を吐くバルドさんに対して、見て見ぬ振りをしているのか、それともテンションが上がって本当に気づいていないのか、彼女達はなおもキャーキャー言いながら僕らの前まで来て手を引いてくる。
グイグイと来られてちょっと困惑気味のサラとフレイヤさん。リンとアリアは特に気にしていないのか手を引かれるままに立ち上がる。
ダンディさんの所には誰も寄ってこないのはちょっと可哀想な気もしたけど、本人はあまり気にして無いようだ。筋肉を見せつけるポーズをしてきたので目をそらして見ないふりをしておいた。そういう事するから避けられるんじゃないのかなぁ。口には出さないけど。
エルフの里の里長バルドさんから正式に許可もいただいたし、神級魔法の調査をしようかな。
そう思って立ち上がると、肩をポンポンと叩かれた。叩いた主はバルドさんだ。
「ところでエルク君。あの絵はワシが描いたのだが、どうかね?」
どうかね? と言われても。
「良い絵ですね」
としか言いようがない。
馬にまたがった騎士と、それに対立するように剣や杖を構えている人達の絵だった。よく見ると全員種族が違う。
「ふむふむ。それで?」
僕の肩に手を置いたまま、バルドさんは眉を潜めている。
何が言いたいのだろうか? 答えに詰まっているとダンディさんがバルドさんの後ろに周り、僕の視界に入る場所でグッと拳を握って腰を下ろしてるのが見えた。あぁ、なるほど。
「バルドさんの絵、マジ芸術っす!」
「ほほぅ」
一気にバルドさんの顔が崩れ、目や口がだらしなく垂れている。褒めてもらいたかったわけね。
ダンディさんから話を聞いているとは言ったけど、何をどう話したのか何となく想像がついた。
「そうじゃろう、そうじゃろう。特にここは……」
褒められて嬉しいのか作品について一つ一つ細かく説明され、そのたびに褒めた。
「話が長くなりそうだから、ここはエルクに任せて私達は案内に行こうか」
そう言ってダンディさんが部屋を出ると、サラ達はその後に続いて部屋から出ていった。
ハウスウッドの中は僕の『覇王』が木霊していた。
☆ ☆ ☆
「特にこの色使いが」
「……ふむ。そろそろ良いかのう」
僕の前に手を出され『覇王』が中断させられる。
先ほどまで褒められてデレっとしていた顔が、急にキリッとした顔になっている。
「さて、他の者は居なくなった。本題を話すとしようかのう」
そう言って先ほどと同じ場所に腰を下ろすバルドさん。僕もその後に続き、先ほどと同じ対面に座った。
「実の所を言うとな。ワシはお主らを里に入れる事も、この場所を知られることも反対なのだが」
殺気すら感じる険しい顔だった。
出会ってから先ほどまでのひょうひょうとした態度とは、うって変わっていた。
下手な事を言えば命は無い。そう思えるほどだ。
僕を射殺さんばかりの目で見つめられ、ゴクリと生唾を飲む。一気に喉が渇いていく感覚を覚える。
何か言わないといけないが、上手く声が出ない。何度も口を開こうとしては開けずにいた。
「あぁ、すまない。脅すつもりはなかったんじゃが、気づかぬうちに気が立っていたようだ」
そう言ってバルドさんは自分の顔をパンパンと何度か叩き、少々ぎこちないが笑顔を作ってくれた。
明らかな作り笑顔ではあるが、それでも幾分僕の気持ちは落ち着けた。
「里の者達をあずかる身であるから、どうしても危険に関して過敏になってしまってな。すまなかった」
深々と頭を下げられた。
「いえ。バルドさん程ではないですが、そのお気持ちはわかります」
パーティのリーダーをやっていて、もし自分のミスで誰かがケガをしたら、死んでしまったらなんてことは考えた事がいくらでもある。自分だけじゃなく周りに迷惑をかけてしまうんだ。慎重になってしまうのも仕方ないと思う。
かつてエルフを追いやった人間が来たというのだから、その心中は計り知れないだろう。
「やはり、僕らは迷惑だったでしょうか?」
もし本当に迷惑だというなら、出て行った方が良いだろう。
ジャイルズ先生には申し訳ないけど。
「迷惑、というわけでは無いのじゃが……里の者達は歓迎しているようではあるからのう。ただ、もしお主たちがこの場所の事を触れ回ったらと懸念していてな」
この里には貴重なシルクが大量にある。
そしてエルフは男女ともに見た目が美しい人達ばかりだ。僕の知識が正しければエルフ達はこの美しい状態を100年~200年は保つ。となると奴隷商人からも狙われるのが分かり切っている。
もし僕がエルフの里の事を触れ回れば彼らを狙う人間が後を絶たないだろう。
彼らエルフがどれだけの戦闘能力があるか分からないが、例えダンディさんくらい強かったとしても圧倒的な人数差で来られればひとたまりもないだろう。
里長の立場としては、捨て置けるような問題じゃないだろう。
「正直、もしこの里の状況を人族の悪い考えを持った人たちに知られたら危険だとは思います」
「ほう……」
「なので、僕はジャイルズ先生に報告する際にエルフの里の事は言わないようにお願いしようと思っています。勿論ここの場所についても教えないつもりです」
本心で言っているけど、言ってる自分が軽い言葉だなと思えるくらい滑稽に感じる。
もし立場が逆だったら信じられるかと言われたら、信じるのは難しい。
「それで、見返りはシルクでよろしいか? 確か人族の間では大変貴重な物だったはずじゃろう」
「いえ。見返りは結構です。あえて言うなら神級魔法の手掛かりとなりそうなものがあったら教えて頂きたいくらいでしょうか?」
「見返りはいらぬと?」
困惑の表情で返された。まぁそうだよね。
普通だったらここで見返りとして何らかの要求をするんだろうけど。
「もしここで見返りとしてシルクを貰ったとして、それを街で売れば怪しまれますよ。もしかしたら森の中で何かあったんじゃないかって」
「う、うむ。そう言われてみればそうじゃのう」
「それに、僕は父からそんなお金の儲け方は身を滅ぼすだけだと教えられていますので」
今回の件で里長を脅してエルフの里に通い、シルクを物々交換で手に入れたのちに街で売ってお金に変える。
それをすれば多分簡単に稼ぐ事は出来るだろう。でもそれをやったら僕は二度と父に顔を合わせられないと思う。父のような人を笑顔にする商人になりたかった。だからそんな商売は出来ない。
「信用してくれと言うのは難しい話かもしれませんが、お願いします」
僕はそう言って頭を下げる。
「わかった。エルク君。キミを信用しよう」
バルドさんは僕の目を見て頷き。そして溜息をついた。
「見つかった時点でワシらに出来る選択肢は少ない。もしここでキミ達を殺して口封じをしたとしても、キミの依頼者や魔族の者達がキミを探してやってくるだろう。そうなれば取り返しがつかないじゃろう。だからワシにはキミが悪い奴じゃない事を祈るしかないんじゃよ」
誰かに言いふらすつもりは無いし、ジャイルズ先生にも今回の件は言わないようにお願いするつもりだ。
だけどその事をいくらバルドさんに説明しても、そうしてくれるとありがたい程度にしか思われないだろう。当然だ。出会ったばかりの人間を信頼する方がおかしい。
「ッ……! バルドさんの期待に応えれるように出来る限り頑張ります」
だから今の僕に言えるのは、それが精いっぱいだった。
「それではエルク君にも里の案内をしようかのう」
そう言って立ち上がった里長の後に続き、僕は部屋から出た。
ダンディさんが居たエルフの里のハウスウッドと比べると中は華やかだった。
階段や扉はほとんど一緒だけど、そこかしこに様々な調度品が置かれており、壁には絵画や彫刻が置いてある。
思わず立ち止まって見入ってしまう。
「我々は人族と比べると寿命が長いのでな。こんな集落では娯楽も少ないから趣味に没頭する者が多い」
そんな僕を見て、里長のバルドさんはどの作品をどんなエルフが作った物か時折立ち止まっり説明しながら奥へと歩いていく。
一目で凄いと分かる物もあれば、何がどう凄いのかさっぱり分からない物も沢山あった。作品の説明をしながら歩く里長のバルドさんは穏やかというか少し嬉しそうに見える。
「へぇ……」
サラは説明に対して頷いたり、時折首を傾げて質問をしたりしている。
「なるほど」
そう言って無表情で周りの調度品を見ているアリアの頭には「?」が浮かんいた。
凄い事を言ってる気がするけど、何がどう凄いのかサッパリわからない。そんな感じだ。それは僕も一緒なんだけどね。
「リンさん。夕飯は何か食べたい物はございますか?」
「リンは魚が食べたいです!」
「それと肉だな」
「お魚ですか。それでしたら近くの川で取れるので後で一緒に獲りに行きませんか?」
「はいです」
「肉は?」
後ろを歩くリン、ダンディさん、フレイヤさんは調度品に興味すらないようだ。
作品の話なんて全く聞いちゃいない。呑気に夕食の話で盛り上がっている。そんな3人を見て里長がちょっと切なそうな顔になったのは見なかったことにしよう。
「ここじゃ」
しばらく歩いた先にあったドアを開け、中に入っていったバルドさんに続いて入っていく。
中は30人位は入れそうな拓けた空間で、床には毛皮の敷物がいくつか置いてあり、壁に一枚の大きな絵があるだけで、他は何も無い。
部屋の中央で敷物の上に座ったバルドさんに「好きな所に座ってくだされ」と促され、僕らは対面の敷物に座った。
「ふぅむ。何から話したら良いものか……」
と言って腕を組み、首を傾げている。
首を傾げながらチラチラと僕を見てくるので、意図をくみ取っておくべきか。
「それではまず、僕らがここまで来た経緯から、お話させていただいてよろしいでしょうか?」
一応ダンディさん経由で僕らが来た理由や目的は聞いているだろうけど、人伝の伝言では齟齬がどうしても生じる。と言うかダンディさんだから齟齬と言うレベルで済むかわからない。
だからどんな目的なのかわかりかねているので、こちらの出方をうかがうために、あえて僕らから話をさせようとしているのだろう。
本当に何から話せば良いか悩んでるだけの可能性もあるけど。
僕らは冒険者をしている事。通っていた学園のジャイルズ先生から依頼でエルフの里を探し神級魔法の手掛かりが無いか調べに来た事。
道中では迷子になった際にリザードマンタイプの魔族であるペペさん達と出会った事。ペペさん達が居る詰所でダンディさんに出会った事。ダンディさんの案内で筋肉の里に行き、そこでフレイヤさんと出会った事。そしてここまでたどり着いた事を話した。
「なるほどのぅ……」
僕の話を頷きながら一通り聞いたバルドさんは、穏やかな顔で一息ついた。
「それなら里を見て周ると良い。古い物もあるがワシらでは分からないものも沢山ある。もしかしたらそれが手掛かりになるやもしれん」
正直意外だった。
もっと拗れたりするかなと思ったけど、そんな事は無かった。柔軟な思考の持ち主なのだろう。
「そこに居るんじゃろ? お客人方を案内してあげなさい」
穏やかな顔から、少し呆れたような顔になったバルドさんが扉に顔を向けてそう言うと、その瞬間に「バンッ」といった感じで扉が開け広げられて、エルフの女の子たちがキャーキャー言いながら入ってきた。
どうやら盗み聞きをしていたようだ。バルドさんにはバレバレだったようだが。
明らかに聞こえるように溜息を吐くバルドさんに対して、見て見ぬ振りをしているのか、それともテンションが上がって本当に気づいていないのか、彼女達はなおもキャーキャー言いながら僕らの前まで来て手を引いてくる。
グイグイと来られてちょっと困惑気味のサラとフレイヤさん。リンとアリアは特に気にしていないのか手を引かれるままに立ち上がる。
ダンディさんの所には誰も寄ってこないのはちょっと可哀想な気もしたけど、本人はあまり気にして無いようだ。筋肉を見せつけるポーズをしてきたので目をそらして見ないふりをしておいた。そういう事するから避けられるんじゃないのかなぁ。口には出さないけど。
エルフの里の里長バルドさんから正式に許可もいただいたし、神級魔法の調査をしようかな。
そう思って立ち上がると、肩をポンポンと叩かれた。叩いた主はバルドさんだ。
「ところでエルク君。あの絵はワシが描いたのだが、どうかね?」
どうかね? と言われても。
「良い絵ですね」
としか言いようがない。
馬にまたがった騎士と、それに対立するように剣や杖を構えている人達の絵だった。よく見ると全員種族が違う。
「ふむふむ。それで?」
僕の肩に手を置いたまま、バルドさんは眉を潜めている。
何が言いたいのだろうか? 答えに詰まっているとダンディさんがバルドさんの後ろに周り、僕の視界に入る場所でグッと拳を握って腰を下ろしてるのが見えた。あぁ、なるほど。
「バルドさんの絵、マジ芸術っす!」
「ほほぅ」
一気にバルドさんの顔が崩れ、目や口がだらしなく垂れている。褒めてもらいたかったわけね。
ダンディさんから話を聞いているとは言ったけど、何をどう話したのか何となく想像がついた。
「そうじゃろう、そうじゃろう。特にここは……」
褒められて嬉しいのか作品について一つ一つ細かく説明され、そのたびに褒めた。
「話が長くなりそうだから、ここはエルクに任せて私達は案内に行こうか」
そう言ってダンディさんが部屋を出ると、サラ達はその後に続いて部屋から出ていった。
ハウスウッドの中は僕の『覇王』が木霊していた。
☆ ☆ ☆
「特にこの色使いが」
「……ふむ。そろそろ良いかのう」
僕の前に手を出され『覇王』が中断させられる。
先ほどまで褒められてデレっとしていた顔が、急にキリッとした顔になっている。
「さて、他の者は居なくなった。本題を話すとしようかのう」
そう言って先ほどと同じ場所に腰を下ろすバルドさん。僕もその後に続き、先ほどと同じ対面に座った。
「実の所を言うとな。ワシはお主らを里に入れる事も、この場所を知られることも反対なのだが」
殺気すら感じる険しい顔だった。
出会ってから先ほどまでのひょうひょうとした態度とは、うって変わっていた。
下手な事を言えば命は無い。そう思えるほどだ。
僕を射殺さんばかりの目で見つめられ、ゴクリと生唾を飲む。一気に喉が渇いていく感覚を覚える。
何か言わないといけないが、上手く声が出ない。何度も口を開こうとしては開けずにいた。
「あぁ、すまない。脅すつもりはなかったんじゃが、気づかぬうちに気が立っていたようだ」
そう言ってバルドさんは自分の顔をパンパンと何度か叩き、少々ぎこちないが笑顔を作ってくれた。
明らかな作り笑顔ではあるが、それでも幾分僕の気持ちは落ち着けた。
「里の者達をあずかる身であるから、どうしても危険に関して過敏になってしまってな。すまなかった」
深々と頭を下げられた。
「いえ。バルドさん程ではないですが、そのお気持ちはわかります」
パーティのリーダーをやっていて、もし自分のミスで誰かがケガをしたら、死んでしまったらなんてことは考えた事がいくらでもある。自分だけじゃなく周りに迷惑をかけてしまうんだ。慎重になってしまうのも仕方ないと思う。
かつてエルフを追いやった人間が来たというのだから、その心中は計り知れないだろう。
「やはり、僕らは迷惑だったでしょうか?」
もし本当に迷惑だというなら、出て行った方が良いだろう。
ジャイルズ先生には申し訳ないけど。
「迷惑、というわけでは無いのじゃが……里の者達は歓迎しているようではあるからのう。ただ、もしお主たちがこの場所の事を触れ回ったらと懸念していてな」
この里には貴重なシルクが大量にある。
そしてエルフは男女ともに見た目が美しい人達ばかりだ。僕の知識が正しければエルフ達はこの美しい状態を100年~200年は保つ。となると奴隷商人からも狙われるのが分かり切っている。
もし僕がエルフの里の事を触れ回れば彼らを狙う人間が後を絶たないだろう。
彼らエルフがどれだけの戦闘能力があるか分からないが、例えダンディさんくらい強かったとしても圧倒的な人数差で来られればひとたまりもないだろう。
里長の立場としては、捨て置けるような問題じゃないだろう。
「正直、もしこの里の状況を人族の悪い考えを持った人たちに知られたら危険だとは思います」
「ほう……」
「なので、僕はジャイルズ先生に報告する際にエルフの里の事は言わないようにお願いしようと思っています。勿論ここの場所についても教えないつもりです」
本心で言っているけど、言ってる自分が軽い言葉だなと思えるくらい滑稽に感じる。
もし立場が逆だったら信じられるかと言われたら、信じるのは難しい。
「それで、見返りはシルクでよろしいか? 確か人族の間では大変貴重な物だったはずじゃろう」
「いえ。見返りは結構です。あえて言うなら神級魔法の手掛かりとなりそうなものがあったら教えて頂きたいくらいでしょうか?」
「見返りはいらぬと?」
困惑の表情で返された。まぁそうだよね。
普通だったらここで見返りとして何らかの要求をするんだろうけど。
「もしここで見返りとしてシルクを貰ったとして、それを街で売れば怪しまれますよ。もしかしたら森の中で何かあったんじゃないかって」
「う、うむ。そう言われてみればそうじゃのう」
「それに、僕は父からそんなお金の儲け方は身を滅ぼすだけだと教えられていますので」
今回の件で里長を脅してエルフの里に通い、シルクを物々交換で手に入れたのちに街で売ってお金に変える。
それをすれば多分簡単に稼ぐ事は出来るだろう。でもそれをやったら僕は二度と父に顔を合わせられないと思う。父のような人を笑顔にする商人になりたかった。だからそんな商売は出来ない。
「信用してくれと言うのは難しい話かもしれませんが、お願いします」
僕はそう言って頭を下げる。
「わかった。エルク君。キミを信用しよう」
バルドさんは僕の目を見て頷き。そして溜息をついた。
「見つかった時点でワシらに出来る選択肢は少ない。もしここでキミ達を殺して口封じをしたとしても、キミの依頼者や魔族の者達がキミを探してやってくるだろう。そうなれば取り返しがつかないじゃろう。だからワシにはキミが悪い奴じゃない事を祈るしかないんじゃよ」
誰かに言いふらすつもりは無いし、ジャイルズ先生にも今回の件は言わないようにお願いするつもりだ。
だけどその事をいくらバルドさんに説明しても、そうしてくれるとありがたい程度にしか思われないだろう。当然だ。出会ったばかりの人間を信頼する方がおかしい。
「ッ……! バルドさんの期待に応えれるように出来る限り頑張ります」
だから今の僕に言えるのは、それが精いっぱいだった。
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