剣も魔術も使えぬ勇者

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第5章「エルフの里」

第21話「賢い者」

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(※エルク君のイラストが届きました。11話に挿入&表紙絵を変更しました)


 2日前にジャイルズ先生達を見送り、僕らはエルフの里を調査したが、特に成果は得られなかった。
 とは言え粘っても仕方ない。明日、エルフの里を立とう。
 そう思っていた矢先、サラがフレイヤさんと喧嘩をしたそうだ。

 喧嘩と言っても、サラが一方的に言い負かす形だったらしい。
 今は人族とエルフ族の今後を決める大事な時期だというのに、それが原因で大事になったらどうするつもりなんだ。
 いくらサラが怒りっぽい性格とはいえ、それくらいの分別はつくと思っていたのに。これは流石に注意するべきだな。

「なによ」

「あ、いえ」

 意気揚々と「注意するぞ」とサラの前に立ってみたものの、先手を取られてしまい出鼻を挫かれた。
 思わず目を逸らしてしまう。ダメだ、ここは男らしくビシっと。

「サラ!」

「なによ!」

 ビシッと、何を言おう?
 考えてみたら、喧嘩をしたとは聞いたけど、何が原因かは聞いていない。

 僕を睨んでくるサラを見る。サラは自分に非があると思った時は、いつも喧嘩の後に弱気になる。
 今のサラはどう見ても強気だ。つまり非があるとは思っていない。それなのに注意をしても、サラは納得しないだろう。
 一度、話をちゃんと聞くべきだな。サラからもフレイヤさんからも。

「あ、あの。サラさんを叱らないでやってください」

 そう言ってサラを擁護したのは、エルフの少女だ。
 第三者の視点という事で、彼女から話を聞くことにした。 

 彼女の話によると、書物で調べものをしているサラに、フレイヤさんがまとわりついていたそうだ。
 その時点でサラが怒ったのかと思ったけど、どうやらサラは特に怒るでもなく、対応していたそうだ。
 フレイヤさんはサラに、「エルク君達と一緒にエルフの里に定住しないか」と持ち掛けていたそうだ。
 やんわりと断りつつも、次第に苛つく様子を見せるサラだが、それでも冷静に言い返してたらしい。

わたくしがエルク君のお嫁になって、勿論サラさん、リンさん、アリアさんにも良い相手を見つける。これで完璧ですわ」

 堪えていたサラも、ここで堪忍袋の緒が切れたようだ。
 サラの反対を押し切って、勝手に物事を決めるか。もし僕がそれをやったら、サラは口よりも先に手が出て、しばらくは口をきいてくれないだろうな。
 
「それでも、手は出さなかったんだね」

「当たり前じゃない」 

 喧嘩をしてしまったとはいえ、サラなりに、考えてはくれていたようだ。
 それならサラを注意する必要はないな。一方的に注意をしなくて良かった。
 とはいえ、一応問題にならないよう、今回の件を里長に僕から話しておこう。

「それで、サラはフレイヤさんに何を言ったんですか?」

「……そんなだから、アンタはまともに友達が作れないのよ」

 前言撤回。流石にそれは言い過ぎだ。
 その部分については、サラも思う事があるのだろう。目を逸らし、バツの悪そうな顔で僕の注意を聞いていた。

 ちなみに里長に今回の件を話すと、里長は頭を押さえて謝罪してきた。僕も同じように頭を押さえてサラの発言について謝罪しておいた。


 ☆ ☆ ☆


 部屋に戻り、夜も更けた。
 ドアが開く音がする。ドアを開けコッソリと部屋に入ってきて、中の様子を伺っているようだ。
 多分フレイヤさんだろう。サラと喧嘩をした後に姿を一切見せなかったが、やっと話す決心がついたのか。
 しかし、大丈夫だろうか? また変な事を言ったりして怒らせたりしないよね?

 不安に思い、フレイヤさんの様子を見ようと目を開ける。
 
「んっ……!」

 侵入者は、やはりフレイヤさんだった。
 しかし彼女はサラのベッドに向かわず、何故か僕の方に来ていたようだ。おかげで目が合った。
 驚き声を上げそうになったフレイヤさんが、自分の手で口を押えている。正直僕もビックリした。

「ど、どうしたんですか?」

 出来る限り小声で。

「ちょっと、エルク君に相談があります」

 既に泣く寸前の声だった。
 仕方ない。

「サラ達が起きるかもしれないので、外で良いですか?」

 フレイヤさんは頷き、起き上がった僕の手を握ろうとして、引っ込めた。
 はぁ、サラの一言が相当効いているようだ。
 僕はフレイヤさんの手を握り、外へ向かって歩き始めた。

「それで、どうしたんですか?」

「あ”の”ね”」

 外に出て話し始めると、フレイヤさんはわんわん泣きながら話を始めた。
 嗚咽交じりなせいで所々何を言ってるのか分からない事と、これだけ声が大きいとエルフの人達が起きてこないか気が気ではなかったが、一応フレイヤさんの言いたい事は僕に伝わった。
 内容は昼間サラに言われた事から始まり、友達が上手く作れない事や、ダンディさんも本当は自分の事が嫌いだったんじゃないかという不安の話だった。

わたし、変だから。皆に嫌われてるから、どうしたら良いかわからなくて……」

「大丈夫。フレイヤさんを嫌ってる人なんて居ないですから」

「そんな事ない。変だし、お友達いないし」

「僕はフレイヤさんと友達ですよ」

「でも……でも……」

「それに、フレイヤさんとお友達になりたい人が来てますよ」

「えっ?」

 僕が視線を向けると、フレイヤさんが振り返る。
 その先には、サラが立っていた。起きていたのか、起きて来たのかはわからないけど僕らが気にはなっていたようだ。
 サラには途中から気づいていたが、話しかけるタイミングを待った。そうじゃないと逃げたりしそうだったし。

「フレイヤさん。ちゃんと自分の気持ちを伝えないと、伝わりませんよ」

「う、うん」

「出来ますか」

 コクンと小さく頷いて返事をしてくれた。

「あっ」

 繋いだ手を離して、軽く頭を撫でる。

「頑張って」

「が、頑張る!」

 頭から手を離すと、フレイヤさんはサラの元へ走って行った。
 さてと、僕は一旦部屋に戻るかな。フレイヤさんの着替えを持ってくる必要があるだろうし。
 僕は部屋に戻った。

「サラの服ってどこに仕舞いました?」

 にゅっと布団から手が2本生えて来た。どちらも同じ方向を差している。
 
「ありがとう」

 二人にお礼を言って、服を取り出し、少ししてから部屋を出た。
 着替えを持っていく。何を話していたかわからないけど、サラもフレイヤさんも落ち着いている様子を見ると大丈夫なようだ。


 ☆ ☆ ☆


 地図を見ながら森を歩く。
 行きでは随分と悩まされた森だが、所々に目印となる大きな岩場や、一際背の高い木があり、地図に書かれた目印の位置を参照にしながら歩けば迷わずに済みそうだ。

「ところで、フレイヤさん良かったのかな?」
   
 僕らが里を出る際に、フレイヤさんの見送りは無かった。
 せっかく仲良くなったのに、別れは確かに辛いけど、辛いからと言ってちゃんと別れを済ませれないのは後悔すると思う。

「やっぱり。もう少し待って、ちゃんと挨拶した方が良かったんじゃないかな?」

「大丈夫よ」

 大丈夫って。
 サラは昨日フレイヤさんと仲良くなったはずなのに、まるで他人事みたいじゃないか。
 アリアとリンもやはり気になるのか、時折エルフの里の方角を振り返っている。

「大丈夫よ。ほら」

 サラがそういうと「おーい」という声が聞こえて来た。
 段々と、木がしなる様な音を立てながら近づいてくる。 

「お待たせ」

 空から、仮面をつけた少女が降ってきた。
 陽気なピエロの顔が描かれた仮面を被った、人族の少女だ。

「ほらね?」 
 
 ほらねって……。
 えっ、もしかしてフレイヤさん?

「耳はどうしたの!?」

 まさか、付いて行くために本当に切ったのか!?

「ん? 耳ならあるよ。ほら」

 あれ?
 普通にエルフ特有の尖った長耳がある。何で僕は今フレイヤさんの耳がわからなかったんだ?

「うん。えっとね。なんかこの仮面には、特殊な魔法が付与されてて、認識を阻害出来るから持っていきなさいって渡されたの」

 へぇ、認識を阻害する仮面か。
 
「それとね。この仮面つけると凄いんだよ。はい」

 仮面を手渡された。
 つけてみて。って事かな。 
 仮面をつけてアリア達を見る。

「えっ……」

 アリア達は僕の方を向いてるが、目線は違う方向を向いている。 
 驚いて仮面を外すと、ちゃんと僕を見ている。

「凄いでしょ!」

 凄い無駄な技術だ。
 フレイヤさんの為に用意したのかな。
 しかし、こんな物まで持って追いかけてきたという事は、フレイヤさんは僕らに同行するつもりなのだろう。
 サラの様子を見る限り、フレイヤさんが来る事がわかっていたようだ。
 それなら教えてくれれば良かったのに。

「ほら、さっさと行くわよ」

 サラが声を上げ、ズンズンと先を歩き始める。
 一筋の風が吹いた。風と遊ぶように、サラのプラチナの髪が揺れる。
 風になびく髪の間からは、チラリと真っ赤になった耳が見えた。 


 ☆ ☆ ☆


 ――ダンディ視点――

「出来れば、ピエロの仮面を一目見たかったですね」

 あまり残念っぽく無い感じで「残念だ」というこの男。ジャイルズと言ったか。
 昔の事を調べるのと、勉強を教える『教師』だったか。

「安心しろ。ピエロの仮面ならエルクがフレイヤ連れて持ってくる。何を調べるか分からんが、頼めば貸してくれるだろう」

「ほほう? どうしてエルク君達が持ってくるとわかるんですか?」

 全く、エルフも人族もひょろがり達は考え過ぎてダメだな。
 好きなら好き。嫌いなら嫌い。分からないなら分からないと素直に言えば良いだけだろう。
 
 あの夜も、こっそりエルクを連れ出すふりをすれば、案の定あいつらは隠れてついて来た。
 わざわざ全員が聞こえる位置に移動するまで待ってから話すのは、とんだ茶番だぞ。まったく。
 そして、私の前でニコニコととぼけた感じで聞いてくるジャイルズ。何となく気付いているんだろうな。
 その上で聞いてくるとは、本当にひょろがり達は茶番が好きなようだ。 

「孫は可愛いからだろう」
 
「そうですね。私も昔はヤンチャでしたが、孫の顔を見たらこんなに丸くなってしまいました。孫の可愛さというのは、まさに魔法ですね」

「……いつから気づいていた?」

「里長が人払いをしておきながら、ダンディ君とフレイヤ君は追い払われる様子が無かった辺りからですかね」

 考えるのが仕事だと言っていただけあって、この男、ちゃんと周りを見ているんだな。

「今回はダンディ君は色々頑張りましたね。偉いですよ」

「あいつらは、バカみたいに考え過ぎだから仕方がない」

 だから、賢い私がちゃんとしてやらないとな。
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