剣も魔術も使えぬ勇者

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第6章「宗教都市イリス」

第5話「宗教都市イリス」

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 宗教都市イリス。
 元は港町としてソコソコ栄えていた場所だが、ドワーフとの交易により急速に発展し、都市にまでなった街だ。
 入り口から見た街並みは、なんというか、こう、雑だ。物凄く雑だ。
 普通なら、街の出入り口には乗り合い用の馬車や道具屋。
 中央に進むに従い酒場や宿、そして居住区になる。どの街に行ってもこの並びは基本的には変わらない。
 それがこの街と来たら、入り口からいきなり宿屋って、しかも一泊80シルバと地味に高い。

 軽く見渡すが、どの建物も高さや材質といった物が、何から何までバラバラだ。これでは景観も何もあったものじゃない。
 もし「なぜそこに建てたのか?」と尋ねたら、「そこに建てたかったから」という返事が来そうだ。

 そして極めつけはイリス教の総本山、イリス大聖堂。
 総本山というからには、街の真ん中か奥にドーンと構えていると思いきや、中央から結構右にずれた場所に建てられていた。

 イリス教の信者の人はこの街を見て「イリス様の深い愛情があるが故に成せる所業」とか言うらしいけど、ここまで来ると愛が深いんじゃなくてずぼらなだけにしか見えない。

「流石にこれはどうかと思うわ」

  サラが引きつった笑みを浮かべて言った。
 どうやら、サラも僕と同じ感想のようだ。節操のない街並みを見て「ないわ~」と繰り返している。

 さてと、入り口で立ち止まっていても仕方がない。
 まずは馬車の返却。そしたら宿を決めてから冒険者ギルドに向かいたい所だけど。
 馬車の返却はあらかじめ返却する場所がわかっていたから問題なく返却が済んだ。
 問題は宿だ。

 宿を決める以前に、宿がどこにあるのかがわからない。
 普通の街なら居住区の近くに宿屋が立ち並んでいるけど、この街ではその法則は全く宛にならない。そもそも居住区すらまともにあるのか怪しい。
 かと言って、建物を一件一件見て周っていたら日が暮れる。
 でも適当に宿を決めようものなら「高い」「お風呂が無い」などとサラが怒りだすのは目に見えているし。
 そう考えると、入り口にあった宿の宿泊費が強気だったのも頷ける。

 そんな風に立ち止まって考えている僕の背中を、ちょんちょんと誰かがつついてくる。
 僕をつついて来た主に振り返る。

「アリア。なにかな?」

 いつもの無表情で、僕を見るアリア。

「お腹空いた」

「あんたねぇ」

 アリアが予想通りの言葉を発した。
 そんなアリアに、サラは呆れて小言を言っているけど、言われた本人はいつもの如くどこ吹く風といった様子だ。

「うん。アリアの言う通りお腹が空いたし、お昼にしよう」

 サラが何か言いたげな目で僕を見てくる。このままでは絡まれるのは目に見えているから、お昼にしたい理由を説明しておくかな。

「このまま闇雲に宿を探しても見つからないよ。それならどこかで料理を頼んで、その際にお店の人にどこか良い宿が無いか聞いたほうが早いと思うんだ」

「なるほどね。そういう理由なら私も賛成だわ。だけどさ……」

 そう言ってサラは街を見渡してため息をつく。
 そもそもどこにどんなお店があるか分からないのだから、結局は一件一件見て周らないといけない事には変わりがない。多分そう考えているんだろうな。

「大丈夫。僕に考えがある」


 ☆ ☆ ☆


 港の方まで移動した。
 予想通り。辺りには屋台が立ち並んでいた。
 屋台で売られている商品は、港で取れた新鮮な魚介類を煮たり焼いたりと、簡単な加工をした食べ物ばかりだ。
 すぐに仕入れてすぐに販売できるこの場所ならと思ったけど、正直ここの街並みを見ると「そんなの関係ねぇ!」と言わんばかりだから、屋台があるか少々不安ではあった。

「今はそこまでお金が無いわけじゃないから。好きな物を買って来ていいよ」

 アリアとリンは待てを命じられた犬の如く「ご飯早く」と僕を見てくるので、ヨシをした。
 二人が決めた屋台で僕も適当に注文をして、屋台の主にこの辺の宿事情を尋ねてみた。

「宿か。えっと、どうだったかなぁ」

 屋台の主。見た感じは40代の男性だ。
 彼は顎に手をやり、記憶を探っている仕草をしているが、目線はチラチラと僕の財布を見ている。

「……お代まだでしたね」

 僕はそう言って、アリア達が頼んだ料理の代金を一割増しで支払う。
 金額を見て満足したのか、屋台の主は早言にどの辺りにどんな宿があるのか次々と教えてくれた。

「ありがとうございやした。また何かあればいつでもどうぞ」

 まったく、現金な人だな。
 教えられた場所を見て周ると、屋台の主の情報通りの宿があった。
 料金やお風呂の有無まですべて情報通りだった。どうやら口から出まかせではないようだ。おかげで思ったよりもすんなりとお風呂付の良い宿が確保できた。
 しかし、また何かあれば……ねぇ。確かにこんな街だから、またお世話になる可能性はありそうだ。
 

 ☆ ☆ ☆


 宿を確保したので次は冒険者ギルドだ。
 掲示板に張り出されている依頼を見る。討伐から日常生活の手助けまで、国が変わっても内容はたいして変わらない。
 あえて言うならゴブリン討伐の依頼が少ない事か。
 国境からイリスまでに遭遇したモンスターは、基本群れるモンスターばかりだった。高い繁殖力で群れるゴブリンとしては、同じように群れで生活するモンスターとは相性が悪い。
 なのでこの辺りでは、他のモンスターに生存競争で勝てないので、ほぼ生息していないのだろう。その代わり、ブラウンジャッカルの討伐依頼が多い。

「あっ、これなんて良いかも」

 僕が選んだ依頼は、ブラウンジャッカルの討伐。
 ガルズ王国で言うところの、ゴブリン退治と同じランクの仕事だから本来はFやEランク相当の仕事なはずだけど、Dランクの討伐依頼で出されている。報酬もそれなりだ。
 というのも、そこら辺に居るブラウンジャッカルではなく、山に住みついたブラウンジャッカルの集団が麓の農村を荒らして回っているので、これを出来るだけ早く退治して欲しいという内容だからだ。

 同じ討伐内容でも、緊急性が高い場合はランクや報酬が上がったりもする。
 アリア達は現在冒険者ランクがDに上がっているから、これなら適性ランクだしまずはこの辺の勝手をしるのに丁度良いだろう。
 僕らは受付で依頼を受けた。出発は明日の朝で良いとの事。なので今日はもう宿に帰ろう。本当はまだまだ見回りたい気持ちもあるけど、旅を終えたばかりだしゆっくりした気持ちの方が強かった。

 それに、僕ら以外にも同じ依頼を受けたパーティと共同の依頼だから、疲れを残して迷惑をかけるわけにもいかない。
 アリア達に確認すると、特に反対の意見は無かったので、僕らは宿に戻ることにした。

 翌日。
 冒険者ギルドに入るや否や、職員さんが僕らの元まで走ってきた。

「すみません。他のパーティの方なのですが、昨日の内に向かってしまったので、急いで追いかけていただいても宜しいでしょうか?」

 僕が「わかりました」と返事をすると、職員さんは申し訳なさそうな顔で「ギルドで馬の手配をしてあるので、使ってください」と言って頭を下げた。
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