剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
126 / 157
第6章「宗教都市イリス」

第20話「芽生え」

しおりを挟む
 ゾフィさんの出産から1ヶ月。
 別れは唐突だった。
 宿に戻ると、スキールさんが「話があるんだ」と言って僕らを部屋に招いた。

「ギルドがアタシ達の仕事を斡旋してくれてね。片田舎の集落で農業を営みながら、モンスターが出たら集落を守る用心棒みたいな仕事だ」

 教えてくれた場所は、ここからそこそこ遠い。
 冒険者ギルドから遠い村や集落だと、依頼を出す頃には全てが終わってましたなんてことはままある。だから冒険者を在中させ、普段は農業をしてもらい、緊急時には村を守ってもらう用心棒みたいな依頼はたまにある。。
 実はこの手の依頼は人気が高い。何故なら冒険者はそもそも仕事が無いから冒険者になってる人が多い。
 そんな冒険者も、この依頼を受ければ住む場所とまともな仕事を貰えるのだ。住民と信頼関係を結び、集落や村を治める者に認められればそのまま移住だって許される。冒険者が夢見る、命の危険のない安定した職だ。
 だからこそ、冒険者ギルドは送り出す人材を慎重に協議を重ねる。
 もし住民とトラブルを起こせばその話は無くなる。風の噂でその話が他の村や集落に伝われば依頼が減る。依頼が減れば冒険者達は去って行く。金の切れ目が縁の切れ目だ。

 後から知った話だけど、この依頼は冒険者ギルドが集落に頼み込んで取ってきたものらしい。
 集落もあまりいい顔をしなかったそうだけど、スキールさんの名前を聞いたら態度が軟化し、むしろ歓迎されたそうだ。

「ちなみに、いつ発つんですか?」

「2、3日中には街を出る予定だ。本当はゾフィの体を考えるともう少ししてからにしたいが、これ以上冷え込めば移動するだけでも危険になるからな」

 スキールさんはチラリと視線を赤ちゃんに向けた。
 ゾフィさんの腕の中でスヤスヤと眠っている赤子、確かにこれ以上冷え込めば移動だけでも命がけになってしまうだろう。
 
「エルク。お前には世話になった」

「そんな事」

「そんな事あるさ。お前のおかげでこうしてゾフィと家族になれたんだ。あの時お前に相談して、応援してもらえなければゾフィは離れて行っていただろうな。だからお礼を言わせてくれ。ありがとう」

「いえ、僕らも色々とお二人には学ばせて頂きました。子供を産むことがどれだけ大変だという事か」

 実際、ゾフィさんの出産を目の当たりにしてから、フレイヤさんは「エルク君との子供が欲しい」なんて言わなくなった。その話題すら出そうとしない。それだけの物を見たのだろうな。良い経験になったと思う。
 僕はスキールさんと握手を交わし、笑いあった。

「そういえば、ケリィさんはどうするんですか?」

「私もゾフィ達について行くことにしました。向こうでは女性が少ないそうなので、私が行ったら喜ばれると言われたけど。全くそんなわけないのにね」

 そう言ってケリィさんは自分のお腹を叩くが、前と違いお腹は出ていない。
 ゾフィさんのつわりが酷くなった頃から、彼女は甘いもの、というか匂いが濃いものは口にしなくなった。ゾフィさんを気遣ってのことだ。
 食べるのが好きと言っていた彼女だが、食べる量が減り、僕らと依頼に出て歩くうちに段々と痩せていった。
 サラやアリアのようにスレンダーではないが、痩せてぶかぶかになってしまった服と、スカートの合間から見られるムチムチな足からは色気が感じられるほどだ。
 ゾフィさんの妊娠にオロオロするスキールさんに喝を入れるうちに、彼女も一皮向けたようで、出会った頃のおどおどした様子はなく、今は胸を張っている。
 今の彼女なら、集落に行けばきっとモテるに違いない。

「大丈夫ですよ、ケリィさん美人ですし」

「お世辞でも嬉しいけど、あまり女性にそういう事言ってはダメですよ。他の子達が嫉妬しちゃいますからね」

「他の子が嫉妬?」

 アリア達を見る。
 アリアは無表情だし、サラとリンは半眼で見てるし、フレイヤさんは仮面被ってるからわからないけど、別に普段通りな気がする。

「嫉妬してる?」

「あぁ?」

「ごめん、何でもない」

 嫉妬じゃなく、威嚇じゃないか。
 側から見たら、これが嫉妬に見えるのだろう。きっと。
 そんな僕らの様子を、ケリィさんはクスクスと笑って見ていた。

 それから2日後。ゾフィさん達は旅立って行った。


 ☆ ☆ ☆


 ゾフィさん達を見送り、僕らは宿に戻ってきた。
 部屋の中は静まり返っている。

「急に静かになったわね」

「そうだね」

 数日前までは、昼夜お構いなく泣き続けるアンリと、その対応に追われたスキールさん達の慌てた声が24時間聞こえ続けたというのに、今は誰かが部屋の前を通る際に床が軋むような音が聞こえてくる程度だ。

「そういえばアンリを抱っこする時のサラは、面白かったね」 

「面白かったって、だって落としそうで怖いじゃないっ!」

 アンリを抱っこしたサラは微動だにせず固まっていたっけ。変に動かしたらどうしよう。落としたらどうしよう。
 アンリを抱っこしてオロオロするサラの顔には、そう書いてあった。
 指をさして笑っていたフレイヤさんも、アンリを抱っこするなり同じ反応をしていたけど。

「エルクは初めてなのに、ちゃんと抱っこ出来てたね」

「サラとフレイヤが不器用過ぎるだけです」

「そんな事ないし! わ、私もちゃんと抱っこ出来たもん!」

 軽口を言い合ってみたものの、すぐに沈黙してしまう。
 アンリが生まれる前からいろんな人達が押しかけ、バタバタと騒がしかった反動だろう。
 こう湿っぽい雰囲気は苦手だな。
 そうだ。宿にいる他の冒険者も誘って酒場にでも行って盛り上がろう。
 それが良い。

「エルク。アイン行きの船は雪が降る間は出ないそうよ」

「あ、うん」

 提案しようとした矢先、サラが今後の話をし始めた。

「だから2ヶ月はここで足止め。雪のやむ3ヶ月後の乗車券を明日買っておくわ」

「わかった」

 3ヶ月後か。所持金はまだまだ余裕がある。
 適当に依頼をこなせばお金の不安はない。
 乗車券も、サラから聞いた限りではそこまで高いものではないし、大丈夫だろう。

 アインに行ったらどうするか?
 街並みはどんなのだろうか?
 僕らはそんな事を話して盛り上がった。


 ☆ ☆ ☆


 食事を終え、風呂から上がってサッパリした。
 このあと特にする事もないし、ベッドに横たわって今後の事を考える。
 もしアインでサラ達と別れたら、僕は何をしようか?

 このまま冒険者を続けるのも悪くないし、どこか働き口が無いか探すのも悪くない。
 なんならアインで仕事を見つけて、フレイヤさんが言うように皆で一緒に暮らすというのも、案外悪くないんじゃないかと思えてきた。
 アリアとフレイヤさんはどうしたいだろうか?
 そもそも2人は目的が無く、付いてきただけのような感じだし。
 となると、僕が冒険者を辞めたら、2人はどうするんだろう?
 冒険者を辞めても、なんだか付いてきそうな気がするな……

「エルク」

「おわっ」

 考え事をしていたからか、アリアの接近に気付かず、思わず素っ頓狂な声を上げてベッドから落ちてしまった。

「大丈夫?」

「大丈夫、ヘーキだよ」

 アリアの差し出した手を握り、起き上がる。

「どうしたの?」

「前にエルクが『僕の子供欲しい?』と聞いてきたでしょ?」

「えっと……あ、うん」

 確か半年くらい前だっけ。
 ゾフィさんの気持ちが知りたくて、そんな事を口走った気がする。
 しかし。そんな前の事よく覚えてたな。

「その事、ずっと考えてた」

「えっ、ずっとって、半年近くずっと?」

 僕の問いかけに、アリアはうんと頷いた。

「私。エルクが好き」

「えっ」

 一瞬ドキっとしたけど、アリアの事だ。サラも好き、リンも好き、フレイヤさんも好き。別に異性としてではない。

「ありがとう。僕もアリアが好きだよ」

 そう言って頭を撫でるが、アリアの様子がなんとなくだがいつもと違うように感じる。
 無表情だからわかりづらいけど、いつもとはやっぱり違う。何か言いたげだ。
 頭を撫でるのをやめ、アリアの目を見た。

「ゾフィは妊娠して大変そうなのに、どこか嬉しそうだった。出産する時も大変だったのに、凄く幸せそうにしてた」

「そうだね」

「ゾフィがスキールに言ってる好きと、私がエルクに言ってる好きは違うとサラには言われたけど、正直わからない」

「うん」

「エルクを見てると胸がドキドキするし、頭を撫でられても胸がドキドキする。これが私の好きって気持ちだと思う」

「アンタ……それって」

 胸がドキドキか。
 「もしかしてアリアは動悸が激しい子なのかな?」とジョークを飛ばして誤魔化したいが、後ろで腕を組み睨みつけるサラが怖くてとてもじゃないがそんな事言える雰囲気ではない。
 
「そ、そうなのかなぁ?」

 我ながらなんとも情けない返事だと思った。
 
「もしエルクが子供が欲しいなら。私は良いよ。エルクとの子供が欲しい」

「アリア、泣いているの?」

 アリアはいつもの無表情で、涙を流していた。
 自分でもなぜ涙が出るのか分かっていない様子だ。
 そうだな。ここは僕がちゃんとしないと。
 アリアにビシッと言おう。
 
「アリ」

「おやすみなさい」

 抱きしめようと伸ばした僕の手は空を切り、自分で自分を抱く形になっている。
 当のアリアは、さっさと自分のベッドに潜り込んでいる。

「アリアさん?」

「なに?」

「えっ? 終わり?」

「うん」

 そのままアリアは規則的な寝息を立て、寝てしまった。
 そっかー、終わりかー。
 アリアは恋を知った。だけれど相変わらずのマイペースのようだ。伝えるだけ伝えておやすみって……。

「うっわ、だっさ」

「アリアもアリアですが、エルクもエルクです」

「エルク君のヘタレ」

 三者三様に僕を罵ってベッドに入ってしまった。酷くない?
 その日、僕は枕を濡らして寝る事になった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...