剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
150 / 157
第7章「旅の終わり」

第23話「事件の全貌」

しおりを挟む
 ティラさんの家の広い応接間。
 今いるのは僕、アリア、リン、フレイヤ、ダンディさん、レッドさん、父さんとギルド職員さんの2人。
 そしてサラの父であるティラさんだ。サラは今回の事件の重要人物の一人として身柄を拘束されているから、この場には居ない。

「だから、私はサラのために死ぬつもりだった」

 そう言って、ティラさんは昔話を締めた。
 なるほどね。だから僕がティラさんに会いに行った時、わざわざ外に聞こえるような声で脱獄がどうとか言ったわけか。
 そこまで聞こえたら、ゲイルさんも流石に看過出来ないだろうし。

 だから「サラをやろう」とか「リンなら奴隷だから何をしても良い」なんて言ったのも、助けてもらうのが目的じゃなかった。
 僕に嫌悪感を持たせて、自分を見捨てさせるためだったのだろう。

 あそこで自分が死ねば、権力が手に入ったエッダはそれで満足するだろうと。
 実際は、ティラさんが死んだだけでは、終わらそうとしてなかったみたいだけど。

「しかし、ティラさんを殺した後に、なんでサラを捕まえようとしたのでしょうか?」

 家を捨てたら、サラには利用価値がないはずだ。

「……エッダは女好きで有名だ。地下牢の監禁部屋に気に入った女を連れ込んで飼っているという噂がある。実際エッダに嫁いで消息不明になったものは後を絶たない」

 そういえば、フレイヤやレッドさんを捕まえるときに性奴隷コレクションとか言ってたし、サラに関してもそういう目的だったのだろうな。
 確かにサラは見た目は良いからね。うん。見た目は。

「私が話せるのはこれくらいだ。エッダがどう動いていたかの詳細までは分からん」

 ティラさんの言葉の後に、父さんが続いた。

「ならば、ここからは私が話そう」

 父さんが話してくれたのは、事件の全貌だった。
 エッダは、ティラさんがサラを逃がそうとする事には薄々感づいていたようだ。
 明らかにティラさんの父親の代から、パフォーマンスとは違う動きを見せていた事を勘ぐっていたそうで。

 もしサラを嫁に向かえればそれで良し。
 だけど、そう上手くはいかないだろうと「アインに行けば種族関係なく幸せに暮らせる」とウソの噂を流させた。
 リンと共に逃げるのなら、獣人差別のない土地を探すだろうから。こうしてサラの行動を監視しやすくしたのだ。
 実際にその噂を聞いて、僕らはサラと一緒にアインに行ったわけだしね。

 一つ問題があるとすれば、僕らがアインに着くまでに予定より1年遅れた事か。
 僕らは真っ直ぐアインに行かず、イリスでスキールさん達に付き合ってたからだ。

 その後、僕らが付いたのを確認してからアインで暴れ、サラにはサラの父親の仕業と煽る。
 あとはバールまで来て父親をサラに処刑させれば、レイア家の次に権力を持つハイルマン家がこの辺り一帯を治めることが出来るようになる。

 もし計画の途中でサラを見失ったなら、サラに罪を擦り付け、その責任として当主であるティラさんを処刑する。サラに処刑させるよりは危険が伴うが、仕方ないという感じか。
 なんともまぁ、めんどくさい計画だ。下手に殺すことが出来ないのだから仕方ないのか。

「でも、どうやって僕らを監視していたのですか?」

「あぁ、イリスへ向かうための関所があるだろう? あそこにエッダの息がかかった者が何人かいるらしくてな。今詳しく調べている所だ」

 そうだったのか、やけに行列が出来てると思ったけど、もしかしたら一人一人顔を調べられていたのかもしれないな。
 
「だけど、父さんはどうやってそれだけ調べ上げる事が出来たの?」

「あぁ。エルク、お前の親友とやらがほとんど調べ上げてくれたよ」

「親友……スクール君か」

「うむ。彼の情報力は素晴らしいとしか言いようがない。あっという間にエッダ達が拉致した人たちの場所を見つけ出し、それを秘密裏に冒険者達と救出作戦を決行したのだからな」

「えっ? それって大丈夫なの?」

「もし下手をすれば全員殺される危険性があったが、それでも参加して見事救出に成功したおかげで、私達がこうやって国王から書状を頂けたわけだ」

 なるほどね。
 スクール君には、簡単に返しきれない恩が出来てしまったな。
 もし彼に会ったら、お礼を言おう。心から。

「他に、聞きたいことはあるかね?」

「すみません。拉致された中に、ドワーフやホビット族は居ませんでしたか?」 

 先ほどからそわそわしていたレッドさんが、父さんに質問をした。

「キミは、レッド=ツインちゃんだったね。キミの兄弟は全員無事保護したと連絡があったから安心しなさい」

「……ッ!!!」

 何かを言おうとして、何も言えず。彼女は声を上げその場で泣き出した。
 今まで必死に耐えてきたものが、プツリと切れたのだろう。ただただ子供のように泣きじゃくるだけだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...