意味が分かると怖い話まとめ 一気見 【解説付き】

海月

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黒いスーツの男

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終電を逃してしまい、どうにもならず途方に暮れていた。

「どうしよう……どうしよう……」

そんな言葉が自然と口をついて出る。駅前の冷たい風が体にしみる。

帰り道を探そうにも、財布の中身は心もとない。タクシー代どころか、コンビニで温かい飲み物を買う余裕もなかった。

しばらく駅前をうろうろしていると、不意に気配を感じて顔を上げた。

目の前には黒いスーツを着た男が立っている。

いつからそこにいたのか、全く気づかなかった。男は無表情だったが、俺と目が合うと突然驚いたような表情を浮かべ、口を開いた。

「お前さん、この前の……」

「この前の?」

何のことだろう。

俺は必死に記憶を探るが、どうしても思い当たる節がない。男の顔にもまったく見覚えがなかった。薄暗い街灯の下、その表情だけが妙にくっきりと目に焼き付く。

10秒ほどの沈黙が流れる。奇妙な時間だった。冷たい風が吹いているのに、背中にはじんわりと汗が滲む。妙な胸騒ぎがする。男の雰囲気がどこかおかしい。ただならぬものを感じ、俺は身構えた。

「お前さん、この前の……」

男は同じ言葉をもう一度繰り返した。その瞬間、頭の中で何かがはじけるように理解が追いついた。

「この男は危険だ」

と直感が叫ぶ。逃げなければならない。何がどう危険なのかはわからないが、立ち止まっていてはいけない。

「すみません、違います!」

そう言い放つと同時に俺は駆け出した。無我夢中で走った。スーツ姿の男を振り切るため、全速力で。

どれだけ走っただろう。駅からずいぶん離れた人気のない通りにたどり着いたころ、ようやく足を止める。後ろを振り返ると、男の姿はどこにもない。追って来る気配すら感じられない。

「大丈夫……逃げ切れた……」

安堵とともに膝が震える。息が荒く、心臓がバクバクと音を立てていた。ようやく落ち着きを取り戻し、呟く。

「ああ、どうしよう……」

その夜はなんとか近くの公園で一晩を明かし、男のことは忘れようと努めた。

しかし、それから数日後、再び彼と遭遇することになるとは、そのときの俺には知る由もなかった。そしてその再会が、俺の命を終わらせることになったのだ。

全てが終わった後で、俺は思う。「お前さん、この前の」と言われたとき、なぜもっと話を聞かなかったのかと。それが自分にとって何を意味していたのか、深く考えるべきだったのかもしれない。けれども、もう遅い。何もかもが手遅れなのだ。









【解説】
50音順で考えると

「お前さん」→ 「お」の前3 ・・・『い』

「この前の」→ 「こ」の前は ・・・『け』
となり、『逝け』と男が口にしていた。
この男はどうやっても逃げられないであろう…
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