探偵と猫

幕末の狼

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鍵のかかった足音

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午前6時半
黒崎トオルが寝ぼけ眼でコーヒーを淹れていると、
タイガーが窓辺で尻尾をピンと立てた

「……タイガー、また何か匂うの?」

「血の匂いがするにゃー」

その直後
事務所のドアが叩き割れんばかりにノックされた。

「た、探偵さん!! 隣のマンションで……殺人が……!」

被害者は 会社員・松永慎二(35)。
倒れた状態で発見されたが、玄関も窓も全て 内側から施錠 されていた。

つまり――
密室

刑事の村岡が腕を組んで言う。

「現場には被害者以外の足跡は無し、鍵もチェーンも閉まっていた、第三者の侵入は不可能だ」

「つまり自殺の可能性も……?」

タイガーはすかさず鳴いた

「にゃ、にゃっ!自殺じゃないにゃー、凶器の角度がおかしいにゃー」

「タイガーが、“角度が不自然”だと言っています!」

「なんだそれは……また猫の推理か?」

タイガーは被害者の足元を嗅ぎ、次に玄関へ走り、さらにキッチンへ駆けていく。

「なるほどにゃー」

「タイガー、何か見つけたか?」
 
「靴底の跡が二種類あるにゃ。」

トオルは即座にひらめく。

「靴が……二足分?」

「だが現場には一足しかないぞ」

タイガーが玄関マットを引っかく。

マットをめくると――
うっすらと “別の靴底” の跡 が残っていた。

「犯人は“被害者の靴を履いて”歩いたんだ!」

「なるほど……外部犯だな。だが密室はどうやって?」

タイガーはキッチンの換気扇の前に座り込む。

「ここが決め手にゃー」

換気扇の蓋部分には、ほこりが不自然に取れた跡。

トオルはすぐに気づいた。

「換気扇……ここ、外から手が届くんだ!」

「まさか……!」

「犯人は細い棒のようなもので、
換気扇の“外側”からこの鍵を引っ掛けて閉めたんです!」

「凶器で使われた棒なら完璧にゃー」

凶器は長細い鉄の棒、先端には油のような黒い汚れが残っていた。

「換気扇の油、間違いない……
犯人は換気扇を利用して“外から鍵を閉めて”密室を作った!」
この部屋は最近、
被害者と「ある人物」が金銭トラブルで揉めていたという。

その人物――
松永の同僚・田辺

村岡刑事が呼び出すと、田辺は青ざめて震えていた。

「ぼ、僕はやってない……!」

トオルが言う前に、タイガーがにゃっと鳴いた。

「この人、靴が新しいにゃ、履き替えた証拠にゃー」

「あなた、靴を急に買い替えましたね?」

「な……なんでそれを……」

「古い靴には、302号室の床ワックスがついていたはず。
だから捨てた」

田辺の顔がゆっくり崩れていく。

「……ちがうんだ……金を返せと言われて……突き飛ばしたら……床に頭を……!」

事故死に近いが、隠蔽のために密室を作り上げたのだ。

村岡刑事は手錠をゆっくり取り出した。
外に出ると、タイガーが欠伸をひとつ。

「今日の推理は簡単だったにゃー」

「いや、換気扇は気づけなかったよ……ありがとう。」

「じゃあ帰ったら、秋刀魚を焼くにゃー」

「……奮発して大きいやつ買ってあげる」

朝の風が吹き抜ける中、
ポンコツ探偵と天才猫は、
またひとつ難事件を解決した。
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