『刀神継承録』

幕末の狼

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静かな狂気を孕む夜の稽古

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悠斗と未来は、明璃に連れられて九条家の裏山へ来ていた。

夜の空気は冴え、虫の声すら遠い。
気配だけが研ぎ澄まされるような、奇妙な静寂。

「さて……始めましょうか」

明璃はそう言って振り返る。

街灯もない暗闇なのに、姉貴の姿だけははっきり見えた。
彼女が纏う霊圧は、光源のない闇を押し返しているようだ。

「悠斗。未来ちゃん。
あなたたちの中に眠る“神器”は、反応を始めてる。
ここで制御できるかどうか、試してみましょう」

「し、神器……」

未来は自分のネックレスを胸元で握った。
悠斗もまた、首飾りを指先で触る。

「まずは……私が手本を見せるわ」

明璃は立ち止まり、右手を静かに掲げた。

その指には、いつもの銀の指輪。

「《天断神槍(てんだんしんそう)》——」

空気が震える。

光が、形になる。
風が渦を巻いて押し返される。
その中心で一本の槍が生まれる。

白銀の穂先は天を貫くように鋭く、柄は光脈が脈動して生き物のように輝く。

未来が声を失ったまま呟く「綺麗」

明璃はにっこり笑う

「さて……悠斗、次はあなた」

「俺……?」

「ええ。
あなたの首飾りはすでに覚醒寸前。
少しでも気を抜けば、魔が寄ってくるほどの霊圧よ」

悠斗は息を呑んだ。

今までただの飾りだと思っていたが——
蓮が連れ去られた時、確かに反応していた。

(……どうすればいい……?)

「悠斗、目を閉じて」

明璃の声は穏やかで、どこか母性的だった。

「首飾りに宿る“刃の気配”を感じなさい。
あなたと同じ脈動を持っているはず」

悠斗は指で首飾りに触れた。

冷金属のはずなのに——
“手を引くように温かい”。

(……あ……これ……)

胸の奥で、何かが脈打つ。
呼吸と同期して、熱が溢れる。

カチ…

金属が外れる音がした。

悠斗が目を開けると——
首飾りの紐が光に変わり、形を解いていた。

次の瞬間。

——光が刀身を形づくり始めた。

未来が息を飲む。

「悠斗くん……すご……」

「これが……俺の……刀……」

柄に宿った紋様は明璃の神槍と似ている。
同じ“刀神継承”の系譜である証。

明璃が満足げに頷く。

「ええ。
それがあなたの神器——《霊刀・黎明(れいとう・れいめい)》」

悠斗はその名を聞いた瞬間、刀が小さく震えた気がした。

まるで——
“名を肯定しているように”。

「じゃあ……次は未来ちゃんね」

明璃が未来を見る。

未来は緊張で固まりつつも、一歩踏み出した。

「わ、私も……出来るのかな……」

「大丈夫。
あなたの魔力は純度が高いわ。
むしろ悠斗より素直に反応するかもしれない」

「おい姉貴、そこは俺より上とか言うな!」

「事実よ?」

姉弟の軽い言い合いに、未来の緊張が少しだけほぐれる。

明璃は未来の胸元のネックレスに触れた。

「未来ちゃん。
魔を恐れる必要はない。
あなたは“光”を持ってる。
その証を、解き放ちなさい」

未来は静かに目を閉じた。

ネックレスの中央にある小さな青石に意識を集中させる。

(……お願い……蓮くんを……助けたいの……)

その願いが届いたのか——

青石が、涙のように光を零した。

未来がはっと目を開ける。

ネックレスがふわりと浮き上がり、光糸が形を解き、柄へ、装飾へと変化していく。

——杖が生まれる。

澄んだ水のような透明感を持つ杖。
頂点には光を集める青い宝珠。
その周囲を、淡い魔法陣が旋回している。

「こ、これ……本当に……私の……?」

「ええ。
あなたの神器——《蒼輝杖アクアリウス》よ」

未来は震える手で杖を握った。

杖はまるで彼女を歓迎するように、柔らかな魔力を放つ。

「未来ちゃん、そのまま一つ魔法を」

「うん……!」

未来は宝珠を前にかざし、小さく息を吸った。

「——《光浄波(こうじょうは)》」

光の波が地を走る。

邪気を焼くようにして消し飛ばし、空気がいっきに澄み渡った。

明璃が微笑む。

「……上出来よ。
二人とも、神器を完全に目覚めさせたわね」
悠斗は刀を握りしめた。

未来は杖を胸に抱いた。

「姉貴……俺たち、これで蓮を……」

「ええ。
助けに行く準備ができたわ」

明璃の瞳が、微かに悲しげに揺れた。

「……でも急ぎましょう。
蓮くんは、今この瞬間も“壊されつつある”。」

夜風が揺れた。

訓練を終えた2人の覚醒の影で、
魔界では確実に何かが進んでいた。
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