加護と呪い ~幼馴染の女の子と異世界に飛ばされたら、変な呪いがセットでした~

くらもろー

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第1章 街

第018話 決まらない男

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…………戦闘が終了した後、フリッツとニールの治療を再開して、軽食を取っていた。

「しかし、ジンはあのラージエイプを一人で圧倒してたのか」
「圧倒って程でも無かったですが……」
「でも無傷だろ?  俺は一発受けただけでボロボロだったよ」

 フリッツは半壊している盾をコンコンと叩いて肩をすくめた。
 僕はカヨの方をチラリと見る。

「フリッツが守ってくれたお陰でみんな助かりました」
「よせよ、パーティーだろ? それに後衛を守るのは俺の役目だ」
「僕にはあの大岩はとても受けきれませんでした……盾で防げるもんなんですね」

 フリッツは首を横に振った。

「いや、直前にディバインシールドを盾に付与していた。やってなかったら吹き飛んでたよ」

 ディバインシールドは防具をごく短時間強化する補助魔法だ。
 強力な攻撃を受けれる反面、使うタイミングが難しいと書いてあった。

「あのタイミングで……よく咄嗟に使えましたね」

「フリッツの詠唱は気持ち悪いくらい早口だからな」
「守ってもらって気持ち悪いって何だよ」

 フリッツは落ちていた小さな魔石をニールに投げつけた。
 セイナはこらっと小さな声で二人を咎める。

「早口は不器用でも練習すれば何とかなる。俺は不器用だからな、そういう努力で実力を埋めないといけない」
「献身的なんですね」
「四男坊だが、一応は騎士の家だからな」

 そう言うとフリッツは立ち上がり、他に落ちている魔石が無いか確認した。

「さてメンバー的には、下層に行っても通用する。だが不測の事態で装備の損傷が激しい。今回はここまでにして帰還したいと思うが、みないいか?」
「ああそうだな。俺はともかくジンの剣はマズい」
「ええ、魔石も十分です。ラージエイプの件も早くギルドに報告した方がいいでしょう」

 僕とカヨも頷いて賛成する。

「ちなみに、下層はどんな魔物がいるのですか?」
「中層のオーガに加えてヤミノテって言うイソギンチャクのような魔物が生息している。天井に張り付いていて、触手で絡め取ってくる厄介な敵だ」
「触手!?」

 触手と聞いて僕は目を輝かせている。

「それってヌルヌルしてますか?」
「ヌルヌル? まあしてると言えばしてるが」

 僕は色々と良からぬ想像をしてしまう。
 視界の端ではカヨが引きつった表情をしている。

「ジン、やめた方がいいぞ。その刃こぼれ武器では触手が切れない。厳しい相手だ」
「くっ……そうですね。 しかし次回は必ず行きましょう! 必ず!」
「わ、わかった。次回は下層を攻略しよう」

 悔しいが仕方ない。次回のお楽しみに取っておこう。


 …………


 帰り仕度を整え、大広間を出る際にカヨが話しかけてきた。

「ねえジン」
「ん?」
「あなたの事、少しカッコいいって思ったけど……」

 彼女は深く、ため息をついた。

「やっぱキモい。ほんとキモいから無理」
「キモい!?」
「触手に何を期待してるのか知らないけど、セイナもあなたに近づきたくないって」
「えぇ!?」

 彼女は言うだけ言って大広間を出て行った。

 キモい……

 自分が招いた事だが、僕はショックのあまり固まってしまった。



  ショックを受けた僕は帰り道で出くわす魔物に矢を外しまくる。
 ニールは「疲れてるんだろう」と気を使ってれたが、カヨは「キモいくらい外すわね」と、追い討ちに余念がなかった。

 無事迷宮を出た頃、辺りは夕闇に染まっていた。

 僕らは日が完全に落ちる前に野営の準備を行った。
 火を起こしてテントを張り、食事を用意する。
 手慣れたもので、殆ど手伝う暇もなく準備が終わった。
 ニールは周囲に鳴子を張るついでに兎を二羽仕留めていた。
 僕もこのくらい出来るようになりたいものである。

 食事は煮込み鍋にパンという非常に手軽で質素な物だが、疲れた体に優しく染み渡った。
 兎肉は鶏肉に似ていた。

 テントは1つしかない為、女性二人に寝てもらい、男三人でムサくるしく焚き火を囲った。

「なあジン、カヨになんて怒られてたんだ?」

 ニールが干し肉を食べなら訪ねてきた。

「脛を蹴られた時ですか?」
「そうそう」

 ワーウルフにトドメを刺すのを躊躇った時だ。

「ちょっと殺すのに躊躇ってしまって……ああいう人の形に近い魔物を殺すのは初めてだったんです」
「なるほどねー」
「それで彼女には「魔物の命よりも僕の方が大事」だと怒られましたよ」
「うん、違いない」

 フリッツも神妙な面持ちで尋ねてきた。

「じゃあ当然、人を殺した事も無いわけだ」
「ええ、そうですね」
「そうか。確かに人を殺すのは抵抗がある。だが誰にでも大切な命と、そうでない命がある。いざという時は、優先順位を決めて割り切り、人を殺せ。じゃないと大切な命を守れなかった時に後悔するぞ」

 殺せ
 なかなか重い事をサラッと言うなぁ……

「ちなみに、俺もフリッツもセイナも人を殺した事がある」
「え?」

 ニールの言葉に、さらに重い展開になる。
 僕は困惑した。

「小さい頃、俺とセイナは人攫いにあってな……逃げる為に油断した奴の首にナイフを突き立てた。それが初めての殺し」
「……」
「セイナも一緒だ。あいつが人攫いから奪ったナイフは麻痺毒が塗ってあったみたいで、セイナはそれを人攫いの腹に突き立てた。そいつは苦しみながら死んでいったよ」
「それは……」
「セイナはまだ夢に出るって言ってたな」

 元の世界では無縁の、重い話だ……

「俺の方はそんな話じゃなくて、騎士として領地を荒らす野党を討伐してた。それだけだ」

 それだけだというフリッツ。
 僕の価値観では、そうさらっと流せる話題でもないので非常に怖い。

「僕の国は平和だったので……そう言うことは滅多にありませんでしたね……」
「そうか……まあここでも頻繁にあるとは言えないが、覚悟はしておいた方がいい」
「……そうですね」


 重い空気の中、ニールが話題を変えてきた。


「ところでカヨの事を姫って言ってたけど、カヨはお前の国のお姫さんなのか?」
「う!?  そ、そうですね」

 まあ、本人がお姫様になりたいとか言ってたしいっか。

「じゃあジンは腕の立つ下僕として二人だけで旅を?」
「そんな所です」
「もしかして駆け落ち?」

 あんなのと駆け落ちなんてたら命がいくつあっても足りないのでは?
 不死身の加護でも無いと無理だろうな。

「いえそう言うわけでは……」

 しかしニール師匠は少し下世話だな。

「カヨには内緒ですが……彼女は末席王族の第13王女でキモい大臣との縁談が上がっていたのです。不憫に思った彼女の母はほとぼりが冷めるまで旅に出す事にしました。見聞を広めるという名目で」
「なるほど……」
「僕は彼女の母の家に仕えていた下僕ですが、その旅に「神様の悪戯」で巻き込まれました。そんな所です」

 第13王女は確か虚偽の神フェイルの奴が言ってたな。

 丁度いいからそういう設定でいこう。
 そうしよう。
 僕は嘘に嘘を塗り固める事にした。

「巻き込まれたのか……ジンも大変だな」
「ええ、全く」


 …………


 結局女性二人とは見張りを交代せず、男三人で一晩中盛り上がってしまった。


 フリッツが貴族との見合いを断り続けてるのは、探索や冒険者業で生きていきたいからだそうだ。

 ただ今度王族と縁談があるかもしれないと言っていた。
 はたから見る分には中々面白そうな話である。

 ニールはスニーキングの真髄を語ってくれた。
 呼吸は勿論の事、心音を操作する方法を教えてくれたけど全く実践できなかった。

 この世界は風呂を覗くのに心臓止める覚悟が必要なようだ。
 心臓止める事失敗して覗きが露見すると、僕はカヨに心臓を止められるのだろうか?
 中々笑えない話だ。

 帰りの馬車で男三人ともぐっすりだったが、ニールはセイナに膝枕してもらっていた。
 ああ、そう言う関係なら早く言って欲しかったな。
 セイナは少し顔を赤くして優しい表情をしていた。

 しかし、こんな可愛い恋人がいるのに、彼は僕と一緒に風呂を覗こうとするのか。
 男とは業の深い生き物なんだな……


 …………


 ギルドに戻って報告書をまとめ、フリッツが受付のフィーナに提出した。

「北壁の迷宮の中層にラージエイプが出現したのですね?」
「ええ、毛並みが赤い個体でした。これがその魔石です」
「確かにラージエイプの魔石に見えますが……少し色が濃いですね」

 フィーナはルーペで魔石をまじまじと観察している。

「それで報告書によるとジンさん一人で討伐したのですか?」

 フィーナは僕の方を向いて質問した。

「ええ、そうですね。 ちょっとカヨの魔法でダメージがあったみたいですが」
「その……具体的にどうやって討伐したのですか?」
「いや、剣で切ってとしか……」

 具体的にと言われても剣で切った事実しか無いのである。
 一応一発魔法を入れたけど時間稼ぎ程度だし。

「ラージエイプ討伐は投石を防ぎながら魔法を撃ち込むか、囲んで背後から斬りつけるのですが……」
「そうですね……相手が嫌がるまで、まずはひたすら手を斬りつけました。嫌がって距離を取ったところで鼻を斬り飛ばし、怯んだ隙に両脚を斬りました。後はひたすら死角に回って攻撃した感じでしょうか」

 カヨが後ろでボソっと呟いた。

「ジンってやらしい攻撃が得意なんだよねぇ。性格もやらしいし……」
「うっ……悪かったな……」

 地味に傷つくからやめてほしい。
 特に性格の方。自覚あるけど。




 報告が終わり魔石の清算をするが、順番待ちのためしばらく時間が掛かるとの事。
 その間に壊れた武器を新調するために武器工房へ行く事にした。

 フリッツは壊れた盾をカウンターに置き、店主であるダリルに見せた。

「これは派手に壊したなぁ。修理は無理だぞ」
「ええ、今回の探索でまとまったお金が入りそうなので新調します」
「そうかそうか毎度あり。同じ盾にするか?」
「新しく入った二人ならもっと強い魔物を相手できそうなので、あの盾でお願いします」

 フリッツが指差した盾は何やらカッコいい模様が彫られていた。
 ちょっと厨二っぽい感じがする。
 値段も高いし興味本位で聞いてみた。

「この模様、何か意味があるんですか?」
「模様によって盾が魔道具として機能するんだ。魔石を使ってディバインシールドの効果を相当強化するからな」

 なんとオシャレではなく実用性を重視した模様だった。
 そう思うと途端にカッコよく見えるから不思議だ。
 僕も急に盾が欲しくなったが使いこなせないだろうか思いとどまる。
 それよりもまずは武器だ。

 フリッツの買い物が終わり、僕は折れた剣をカウンターに置いた。

「おい、一日で折る奴がいるか。何をやったんだ」

 ダリルは不機嫌に尋ねてきた。
 安物とは言え、オーダー品を直ぐに壊されたのだから仕方ない。

「すみません。石を弾いたら折れてしまいました」
「石を弾く?」
「ラージエイプという魔物と戦ってたら、どうしても投石を避けれなくて」
「はー……」

 ダリルは深くため息を吐く。
 そしてリーダーであるフリッツの方を向いて口を開く。

「お前ら組んだ初日に北壁の最下層まで行ったのか?」
「いえ、中層で赤いラージエイプに遭遇したのです。 俺の盾もそいつに壊されました」
「中層で?」
「正確には中層の大広間で遭遇しました。フィーナさんには報告済みです」

 ダリルはそれを聞いて手を上げて謝った。

「ああ、アクシデントか。それなら仕方ない。疑って悪かった。慎重なお前らしくないと思ったんだ」

 そして折れた剣を手に取り、刃こぼれを確認していた。

「ジンはこれでラージエイプを? 石を弾いたとは言え、かなり痛んでるな」
「硬い手を相当斬りつけましたからね。それ以外、攻撃手段がありませんでした」
「お前は捌く事に専念して、攻撃は後ろに任せても良かったんじゃないか?」
「いえ、分断されてしまったので僕一人で戦いました」
「……無茶苦茶だな」

 ダリルは鼻で笑った。何処と無く嬉しそうだ。

「俺も昔は剣一本で無茶苦茶したもんだ」

 僕は仕方なく一人で戦ったのに、若気の至りみたいに言われるのは心外である。
 でもここで突っ込むのも無粋だし説教が増えそうなのでやめておいておこう。

「ダリルさん。取り敢えず似たような剣を新調したいのですが」
「んー……そうだなぁ……同じサイズで拵える事もできるが、もう少し長い武器の方がいいんじゃないか?」
「どうしてですか?」
「多分、魔物相手にする時にしっかり切り込めてないだろ」

 まさしくその通りだった。
 相当踏み込んで振り切らないと必殺の一撃にならなかった。

「刃の減りが何度も浅く切り込んでる感じだ。あと、お前の練度は高いと思うが刃筋が結構ずれてるように見える」
「凄いですね。その通りです」

 剣を真っ直ぐ垂直に立てて切る事を刃筋を通すと言う。
 だが竹刀には刃筋なんてない。
 動きながら斬るとどうしても刃筋が斜めになってしまう。

 実際の刀剣を扱うなら、僕はそのあたりの改善もしなければならない。

 ダリルは女が絡むとだらしない親父なのに、剣に関しては素晴らしく理解があり尊敬できる。

 目測が当たったダリルは気分よく笑い、埃を被った古く細長い木箱を取り出した。

「そこで、この骨董品を在庫処分しようと思ってな」

 木箱の中には、まさしく日本刀としか言えない拵えの刀が入っていた。
 鞘から抜いて刀身を見る。刃文は無く、錆が浮いていて若干の刃こぼれがある。
 見れば見るほど日本刀だった。

 ただ僕が知る日本刀よりも長かった。

 カヨが後ろから声をかけてきた。

「これ、打刀じゃなくて太刀じゃない?」
「太刀っていうと?」
「詳しくは知らないけど、居合の先生が竹刀くらいの長さを打刀って言ってて、それよりも長いのは太刀と言ってたわ」

 そういえばカヨは高校に入って居合もやってるって言ってたな。
 思い起こせば魔剣の振り方は剣道の振り方とは違ってた気がする。

 ダリルは何かを探していた。

「やっぱり値札ないな……何分、骨董品として眠ってたもんだ。いつからあったかも知らねぇ」

 僕は初めて持つ太刀に見惚れていた。
 店に飾ってあるゴテゴテしたデカい剣も悪くないけど、やはりこの洗練された日本刀は格段にカッコいい。

 が、いかんせん重い。
 重心も普段と違いかなり先の方にある。慣れるまで振りにくいと思う。

「気に入ったなら前の剣と同じ値段で売ってやるぞ」
「ぜひお願いします」

「多分だが、その剣はこの辺の剣とは研ぎ方が違う。俺も研ぎ方を知らないから研ぐ魔道具を使った方がいい」
「研ぐ魔道具?」
「シャープネスっていう魔法を持続させる魔道具だ。つまり維持管理費がかかるという事だ」

 くそ、こっちは借金生活送っているというのに……。
 しかも地味に刀よりもこの魔道具の方が高い。

 僕が迷っているとカヨが刀を持って魔法を唱えた。

「刀匠と石と鋼と火の結晶よ!その技を再現せよ! シャープネス!」

 刀が薄い光に包まれ、サビが落ちて刃こぼれが修繕されていく。
 刀身は美しく鏡面のように光を反射した。
 カヨさん便利だなぁ……

「これでいいかしら?」
「嬢ちゃん、よくこんなマイナー魔法を習得してたな……鍛冶屋でも使える奴は少ないぞ」
「ふふん」

 カヨは満足気に鼻を鳴らした。
 彼女は刀を鞘に収めて僕の方を向いた。

「今度は折らないように気を付けなさい」
「ああ、分かったよ」

 ん? あれ?
 勢いで言ったけど、カヨを守るために刀剣1号は犠牲になってしまったのではないだろうか。
 なぜ僕は注意されたんだろうか。



 …………



 会計を済ませてギルドに戻ると魔石の清算が終わっていた。
 清算金額は一人頭12万ルーブルになる。
 生活費にいくらかかかるとしても、あと2回ほどこなせば借金生活が終わる。

 返済の目処が立って僕の心は軽くなった。

 その後、宿に一度荷物を置いて、シャワーを浴びて着替えた後に皆でギルドの食堂で打ち上げをやるという流れになった。

 リーダーのフリッツが音頭を取る。

「無事生還できた事にかんぱーい!」
「「「かんぱーい」」」

 豪華というよりもワイルドな料理がテーブルに並んでいく。
 食事のマナーがよく分からないので、僕としてもこちらの方が気軽で楽しめる。

 出発の前はワイン一杯だけだったが、今はみんな楽しそうに杯を空けている。
 フリッツとセイナは普段と変わらないがニールはちょっとフラフラしているようだ。

 僕は自分の限界を知らないので二杯飲んだ所で辞めておいた。

「あ、ジンが水飲んでる!」

 カヨが少し据わった目で絡んできた。
 間違いない、コイツはめんどくさい奴だ。

「カヨ姫、お酒は嗜む程度でお願いします」
「下僕の癖に生意気ね」
「姫の癖にお淑やかさが足りませんね」
「何ですって!」

 机をドンっと叩く。

「この下僕には教育が必要よ! 表に出なさい!」

 そうイキり散らし、彼女は立ち上がった。
 が、ストっとまた席に座った。

「……目が……回る」
「ああ! やっぱりぃ!?」
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