加護と呪い ~幼馴染の女の子と異世界に飛ばされたら、変な呪いがセットでした~

くらもろー

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第1章 街

第084話 闇の中で

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 僕とケディが戻ると、丁度毛布に包まっていたカヨが目を覚ましていた。
 彼女は怠慢な動きで擦りながら、起きあがる。
 それに気づいたセイナが暖かい飲み物を差しだした。

「どうぞ、暖まりますよ」

「ありがと……私、どのくらい寝てた?」

「1時間ほどですよ」

「……もう大丈夫よ、急ぎましょう」

 カヨはグイっと男らしく一気飲みして、口を拭った。
 急いでいるにしても、もう少し仕草があるだろう。

「カヨ姫、はしたないですよ」

「うっさい、早く街に帰ってアンタの顔面殴らせろ」

 僕の軽口に彼女も軽口で返し、顔面を殴るシャドーを見せた。
 鋭い踏み込みにキレの良い右ストレート、大丈夫なようだ。

 あと、街に戻ると同時に僕は少し行方をくらまそうと思う。


 荷物をまとめ、再出発する。僕らは地図に従い山頂の出口を目指した。

 僕も少し休憩できたのもあって、肉体的にも精神的にも疲れをあまり感じていない。
 装備も欠けてないし、残りの矢も十分ある。



 ーーそれから3時間程歩き、もうすぐ出口のはずだ。

 しかし、どうも様子がおかしい。

「魔物、全く出なかったわね」

 後ろからカヨが話しかけてきた。
 彼女の言った通り、魔物に全く遭遇しなかった。
 だから思ったよりも早く迷宮を抜けれそうだし、僕らの消耗も無い。
 ありがたい事だと思うのだが……

「……いや、そうでもないぞ」

 僕が地面を照らして指差すと足跡があった。
 石畳に赤黒いブーツの形。この血痕は足を引き摺りながら曲がり角まで続いている。

 ……凄いホラーな絵面で今すぐ引き返したい気分だ。

「もしかして怖い? 怖いなら私が行くけど」

 コイツ、どんだけ肝が座ってるんだろうか。

「カヨ、違いますよ。こういう時はしがみ付いて怖がらないと。 ジンも怖がってないで男を見せるチャンスですよ」

 残念なセイナさん、怖いものは怖いですよ。
 って言うかコレが怖くないってどんな神経してるんだよ。

「よ、よしここは年長者の俺が……」

 完全にビビっているケディ。
 そう、普通はそういう反応だ。

「まあ、待ってください。誰かが罠にかかって血痕が残ってるのかもしれないですから、僕が行きますよ」

 カヨに小声であっそと言われた気がするが、それは置いておこう。

 息を深く吐いて、集中する。
 見た限り罠の類は無い。

 ゆっくりと曲がり角から先を覗くと、少し広い通路の真ん中に倒れてる人がいた。
 それも4人、身なりからして迷宮探索者か冒険者だろう。
 倒れているそれぞれの場所で血溜まりができている。

 助け……いや、胸を注視してもピクリとも動いていない。
 遺体である可能性が高い。

 周りに動いている物も無い、この空間には遺体だけだろう。

「カヨ、周りを見ててくれ、人が倒れてるけど……恐らく死体だと思うけど……確認してくる」

「あれは……」

 覗き見たケディがポツリと呟き、死体の一体に近付いていく。

「クソ! やっぱりそうか……」

「ケディさん?」

 ケディは目元を押さえて天を仰いでいた。
 必死に涙を堪えているように見える。

「コイツは俺達とパーティーを組んでいた奴だ。ニールと一緒に逃げたと思ってたんだが……」

「じゃあ師匠も……!?」

 鼓動が早くなり、急いで他の遺体を確認する……が、他の遺体はニールではなかった。
 ケディのパーティーメンバーもその一名だけだった。

 全ての遺体は無数の刺し傷があった。切り傷や打撲の類は無い。
 そしてこの遺体達は……

「ねえジン、この人達はあの時見たフィラカスじゃない?」

「ああ、僕もそう思う」

 大広間でチラリと見た、魔石を渡していたフィラカス達だった。
 少し開いている目蓋からは、特徴である白く濁った瞳が見える。

「という事は、帝国じゃない誰かにやられたという事? 魔物とか?」

「分からないな……でもこんな傷を付ける魔物なんているんだろうか?」

 出口は近いが、新手の魔物がいるとしたら警戒を強めないといけない。

「遺体の処理は……残念ですがまた今度にしましょう。今は先を急いだ方がいいです」

 セイナの提案ももっともだ。
 ケディも残念な顔をしているが頷いている。

「じゃあ先を……」

 僕が立ち上がり奥を向いた時、若干の違和感があった。



 暗い奥で影が動いた気がする……



 凝視した瞬間、僕のかなり横を高速でなにかが飛来する。

「アゥ!?」

 後ろから悲鳴が聞こえ、振り返ると助けた女性の一人の足に矢が刺さっていた。

「敵しゅ……ッ!?」

 叫ぶ瞬間、加護の力が危険を知らせる。
 ゾワリとする不快な感覚は頭部のど真ん中。

 ーーシュ!

 ーーガキン!

 顔面に飛んできた矢を左の手甲で防ぎ、腕に鈍い振動が走る

 ーーシュ!!

 考える間も無く次の攻撃が来る。

「ーープロテクショ……!?」

 詠唱を止めるように、セイナに矢が飛来する。

 ーーカッ!

 その矢はセイナに刺さる寸前でカヨが切り落としていた。

「ジンは前を向いて!」

「ーープロテクションウォール!」

 ケディがセイナをフォローする様に防御魔法を展開した。
 敵はそれを察知してか、一旦が攻撃が止む。

 闇を凝視するが、変化がない。
 通路の曲がり角から射抜かれたと思うが、かなり距離がある。

 僕が防いだ矢にはベットリと血が付着していた。
 僕の血ではない……これは一度使って獲物に刺さった矢を抜いて、再度使いまわしてるものだ。

 ……フィラカス達の刺し傷はもしかして、この矢で付けられたものか?

「大丈夫だ、防御魔法はしっかり張れてる。セイナは今のうちに彼女の治療をしてやってくれ」

「後ろはケディさんに任せます。僕とカヨは前に行きます」

「反撃するわ……疾風よ!吹き飛ばせ!ウインドボルト!」

 曲がり角向けてカヨは風の下級魔法を撃ち込んだ。
 風の塊が石壁をえぐりながら炸裂していた。

 これで敵は角で出待ちもできないだろう。

 即座に走り込んで壁に張りつき、通路の奥を確認した。

 そこは迷宮の出口。

 星空が広がり、冷たい夜風が頬を撫でる。

 迷宮を抜けた事に安堵したが、敵が見当たらない。

「ジン!!」

 カヨの声と同時に危険を予知した。

 脳天への攻撃……上から!?

「くっ!」

 ーーシュ!

 壁を蹴って転がりながら攻撃を回避する。

 見上げた天井には小さな窪みに器用に足をかけ、黒装束の敵が次の矢を番いていた。
 深々と被っているフードで顔は見えない。

「ハッ!」

 横にいたカヨが刀を振るい、風の塊が飛び出る。魔刀半月による先程吸収した魔法だ。
 その攻撃を軽やかに交わしながら、僕に矢を射る。
 曲芸のような技、僕よりも遥かに高い弓に技量だ。

 ……それに、この動き、弓の構え方は……

 ーーガン!……ガン!……ガン!

 強引に前に駆けながら、連続で飛んでくる矢を手甲で防ぐ。
 左腕がかなり痺れている。

「火炎よ焼き払え!ファイアーボルト!」

「……ッ!?」

 背後からカヨが魔法を放つ、敵は僕に気を取られ過ぎている。
 直径1メートルほどの巨大な火球。直撃すれば即死だろう。

 敵は外套を焼かれながらも、なんとか横に避けていた。

「ッフ!」

 大きく跳び避けた隙に、短く息を吐き深く踏み込む。
 今度は僕の太刀の一線。

 これもスウェーバックで回避される。
 フードを掠めるだけだった。



 ……いや、わかってる。
 僕は確かめたかった。

 矢を拾った時から嫌な予感があった。
 だからワザとフードを狙ったんだ。首を落とす事も出来るタイミングだった。


 はらりとめくれ落ちたフードから、茶色い短髪によく知る顔が見える。


「師匠……何で……?」

 零れ落ちた僕の問いに、ニールは少し口を動かした。
 でも、声は出ていない。

 再び、彼は僕に向けて弓を構える。


「クソッ!!」


 ニールの瞳は……白く濁っていた。
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