せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月

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第1章

6

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夫人が見せてくれた出資の書類は、結果から言えば怪しいものではなかった。
ただ特記条項があって、それに当てはまる場合は配当が遅くなる記載がかなり分かりずらかった。夫人の記憶によれば、口頭での説明もなかったらしい。

「なるほど。きちんと特記事項について説明がなかったのは相手の落ち度ですが、契約書自体におかしなところはありません。状況から考えても、一週間以内には配当があるはずです。ーーーとはいえ、出資は預金とは違います。元本が保証されているものではありませんし、グリンデル伯爵にきちんとお話された方が良いと思います。特に今回は、夫人の希望と言うより、ご実家のための出資だったわけですから」

契約書の説明を終えて若輩者からの進言をすれば、夫人はホッとした顔で頷いてくれた。元々夫婦仲の良いことで有名なお二人だ。きっとこれまでも隠しておくことに罪悪感があったのだろう。

「そうね、リディアの言う通りだわ。最初からきちんと説明して入れば主人も分かってくれてでしょうし、私もこんなに悩まなくてもよかったのかもね。それと、女性もお金についてもう少し学ぶべきね」

「でも、あまり歓迎はされませんよ?」

小さく肩をすくめてお茶目に笑う夫人に、私は苦笑する。
文化レベルが低くないこの国でも女性が学ぶべきとされるのは文学や芸術、歴史についてだ。化学や物理も敬遠されるけれど、経済や経理に至っては詳しいとバレれば白い目で見られてしまう。淑女が金勘定をするなんて下品、と言うことなのだろう。私個人としては生きるためには結構重要な学問だと思うのだけど、それは前世の記憶があるせいかもしれない。

とりあえずその日はそのままお暇して。数日後に夫人から無事に出資金が戻ったとお礼の連絡をもらって万事解決のつもりだったのに、そうはいかなった。

『きちんとこれまでの経緯を夫に話して、理解してもらえた。夫が是非ともお礼を言いたいと言っているので、お茶会の当日に少し早く来てもらえないだろうか』

無事解決を喜ぶグリンデル夫人からの手紙。その最後に書かれた言葉に、私は思わず額を抑えた。
女性同士のやりとりならまだしも、家格が上のグリンデル伯爵直々のご招待を断るのは階級社会である社交界では絶対のタブーだ。そして今、私は薔薇の見事なお庭で夫人と母と三人でお茶を飲んでいる。
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