オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

文字の大きさ
8 / 72

朝永

しおりを挟む
 
 *

 *




 ブーッとブザーが鳴り、通信が途切れた。
 目の前にある薄暗い窓からは、夜詩人がベッド上で横たわっている姿が見えている。俺のカーディガンを咥えたままで。
 夜詩人がいる隔離部屋からは無駄に大きい鏡にしか見えないが、暗い裏側の閲覧部屋からでは部屋全体が丸見えだ。ここと夜詩人のいる部屋とはマジックミラーと分厚いガラス越しでしかない。通信の切れた今、無防備に裸でゴロゴロとしている夜詩人は俺がこんな近くにいるとも思わないだろう。

 きっと酷い発情中もずっとああやって俺のカーディガンにすがり付いていたと予想できる。カーディガンの話をしたときの夜詩人の焦りようといったら思い出すだけでも笑えた。小動物のようでかわいかった。
 確かにそのまま返すには気が引けるほどボロボロだった。でも俺の匂いが染み付いただけのあんなカーディガンくらい何枚でもあげるのに。

 先ほどの気持ちよさそうな夜詩人の痴態を堪能し、俺自身も勃起していたがここで抜くのも味気ないので我慢することにした。
 俺の声を欲しがり感じまくる姿は本当にかわいかった。何も知らなかっただろう男子学生だったのに、オメガと知らされてから戸惑いも明けぬうちの発情期。それなのに素直に乱れて感じて。後ろをいじる手も拙いものだった。精一杯手を伸ばして感じるところを探しているようで。
 もっと気持ちよくさせてどれだけ乱れるか見てみたい。先ほどは声を我慢していたようだが、好きに喘がせたらどんな声を聞かせてくれるのだろう。そして勝手に濡れてくるあそこに押し入ったらどれほど気持ちいいのだろう。

 オメガはみんな外見がいい人が多い。
 そんな中、夜詩人はそれほど秀でたものを持ってはいない。だが初めて見たときから四方を囲い込みたくなる、どこか無垢なものを感じた。もう校内でどこにいても嫌でも見つけてしまう。五感が研ぎ澄まされたように夜詩人の気配にも敏感になった。昨日、連絡をくれてどうしても気になった。お陰で発情はじめの夜詩人を、他のアルファの前に晒さないことが出来て本当によかった。
 去年からこの学校にいるためたくさんのオメガと会ってはきた。今年入ってきたオメガクラスの人たちを見ても感情が揺れてしまうな、と感じるのは今のところ夜詩人だけだ。男も女も興味がなかった。去年体調を崩し、アルファであると診断され、この学校でオメガに出会ってからは男でも無性にかわいいと思えて困ったものだった。ほとんど年上オメガだったが。だがそれも観察する内に浮わついただけのものと知れた。

 通信時間は終わったがまだ部屋の閲覧時間はある。いやらしい姿を見せていた夜詩人はもう動く気配はなさそうだったが、その場でジッと部屋の中を見ていた。ニ日目でこの程度なら割りと軽い発情期の部類だ。初めてだからこの程度ですみ、この先はもっと酷くなるかもしれないが。
 そういえば一年のオメガ生徒の発情期は何人か閲覧したが、ニ年や三年のオメガの生徒の発情は見たことがなかった。
 勉強のために見てみるのもありか。

「閲覧だけだとあと何分?」

 一緒に夜詩人の痴態を眺めていた椋地は、腕組みをしながら聞いてきた。
 朧気ならやめようと思っていたが、夜詩人の意識がはっきりしていそうだったことと、自慰をし始めたので意地悪心で思わず課金し、通信してしまったけど。残りはあと、

「三分くらいかな」
「ふうん」

 十分十万円。十分を一単位としてこの閲覧部屋が購入できる
 オメガの発情中の隔離部屋を閲覧できる権利だ。
 そして通信付だとさらに一分十万円かかる。これは一分を一単位としての購入となる。
 常に誰かに見られているかもしれないとはオメガたちは知らされていないし、これはアルファだけの閲覧制度だ。
 それをアルファからオメガに教えることもNGとなっている。
 以前惚れ合ったアルファとオメガはこの部屋の制度について相手のオメガに伝えたところそのアルファは強制退学となった。その後も国の権力を使ってアルファにとっては苦痛と感じるなにかを強いられたらしい。あくまで噂のレベルだが。
 他のアルファに見られたくないのならオメガの発情期中の時間をすべてを買い取ればいい、というこの学校の考え方だ。
 まったくオメガにもアルファにも優しくない学校だ。

「名前も知っているんだ」
「ああ、夜詩人ね。かわいいだろ」
「そうだね」

 素直にそうだねと答えた椋地に違和感が残る。
 夜詩人を見に行くと椋地に伝え、それなら一緒に、とここまで来たが。
 未だベッドに横たわる夜詩人を眺め、視線を逸らさない椋地。

「椋地は夜詩人が欲しい?」
「さぁ。どうだろ」
「勃ってるぞ」
「そりゃあね。匂いも思い出したし」

 確かに分からないでもない。
 それにシャワーを浴び終わって部屋に戻ってきたときの夜詩人は、濡れた髪の毛に綺麗な肌を惜しげもなく晒し、ただ一つ真っ黒い首輪だけの姿に眩暈がした。
 首輪を引きちぎってあの白い項に顔を埋めたい。そんな衝動も湧き上がって。
 乱暴なまでのこの衝動は抑えなければならないし、夜詩人に欠片でも見せてもならない。
 怖がられてはおしまいだ。

 そしてまだ俺には家に提出しなければならないことがある。他のオメガ達の個人情報を集めなければならない。
 我ながら面倒な家に生まれたものだと静かに息を吐いた。

 夜詩人を手中に収めてしまえばもう少し気分も落ち着くだろうか。
 硬い真っ白な紙に、真っ黒い色水を浸透させるようにゆっくりと夜詩人に侵蝕していきたい。

しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

処理中です...