オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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 地元は風が強くても雪が積もりに積もる。いつもなら肌寒い厳しい冬なはずが、ここはそれほど雪も降らず風も吹かない。
 冷たいだけの空気がピンと張り巡らされていて、地元にいるより自然と背筋が伸びた。

 ただ、校舎は体を冷やすことのないようにとどこでも暖房を付けまくりのため、暖房疲れで顔だけが火照っているときは窓を開けて顔を外に覗かせる。時折、枯れ木についた雫が太陽に照らされてキラキラと輝かせていてキレイだった。そんな外気が肌に触れ、とても気持ちが良かった。外の空気は学園内の雰囲気とは、体を取り巻く空気と真逆でとても新鮮だ。
 初めてのここの冬は案外悪くない。鉄格子が付いた窓を開けても空気が澄んでいるから、わけの分からない、腹の底に澱んでいるものも浄化してくれそうだった。




 この学園のアルファは国内の国立を除く約半数以上の大学の受験をパスできるらしい。面接一本でOKなのだと。金さえあればなんでも出きると言われている様な気がしないでもない。
 だから卒業式もどこよりも早く、ニ月中旬に行われる。
 部屋に染み付いた三年アルファの匂い取りや壁紙の張り替えなどがあるらしく三月はずっと開放するとのことだった。その空いた部屋に新一年生がやってくるという仕組み。

 知らなかったが、アルファはオメガどころか他のアルファの匂いも敏感な人が一定数いるとのこと。オメガにもアルファにも敏感だなんて、好きじゃない匂いのときは大変そうだ。

 そして卒業が近くなってさらに塞ぎこみ始めた継直と過ごしつつ、朝永とも穏やかな時間を過ごした。

 継直はいつも先輩とご飯を食べる。それはもう楽しそうに。どうみても付き合っているだろ、ってくらいニ人の世界。
 卒業が近いというのになんの進展もないのは先輩と離れたときの継直の様子を見ればだいたい分かる。
 先輩もなにを考えているのやら。そして継直もいつも言いたいこと言えているくせに先輩には何も言えないんだろうか。
 もしかして言ってみてダメだったのか。いや、それなら楽しそうにニ人でご飯を食べるはずもないか。

 考えないようにしていたが、どんよりした継直を見ているとついつい思考が動き始める。回らない頭だし解決策は何一つ考えられないけど。

 しかしそれも他人がいくら考えたって仕方のないことだと再確認できたのは継直に笑顔が戻ってからだ。
 先輩から番契約をしたいと言われたと、満面の笑みで、なんなら嬉しさで涙まで浮かべて伝えられた。
 まず一番に感じたのは安心。人のメンタルの波に左右されてしまいそうになるため、正直ホッとした。
 あとは先輩に幸せにしてもらえたらいい。不幸を味わっているからこそ、継直には絶対に幸せになってもらいたい。


 契約の為に、まだ発情期のない継直に再検査を予定された。1番のこともあり、継直は今にも倒れそうな顔色で再検査をしたが、結果はオメガ。ホルモン値は低いが心配のない範囲内であるため、単純に体のつくりがまだ発情に追いついていないのでは、ということだった。正月に十六歳になったばかりということもあり、それほど心配するものではないと、結果の紙を俺に見せながら継直はまた涙ながらに語った。

 オメガでよかった、と泣く継直を見てぼんやりと視界が揺れた。眼で見ているものがいきなり遠くなった。

 別にオメガになりたかった人生ではない。まだ十五年しか生きていなかった。なりたいものだって夢だってまだなかった。中学の職業体験のとき、両親はこれから見つけていけばいいと言ってくれた。
 何かの特技や人より秀でた能力があったわけでもない。父みたいにどこかの会社に入って、日々すごす。そんなもんだと思っていた。俺の人生はそんなもんだと。
 オメガになる人生など選択肢には一ミリも入ってはいなかった。きっと継直だってそうだったはずだ。でもたった一年足らずでオメガで良かったと涙を流せるまでになった。性別としては男同士でも第二の性では異性同士。
 一年前なら理解できない感情だと思う。

 この短期間で俺も変わった。
 朝永と出会えてよかったと思える。オメガ判定をもらってここへ来なければ朝永とは絶対に会えていない。むしろすれ違うことすらできないだろう。
 朝永と出会う前ならいいけど、もう出会ってしまった。今離れられるかと問われたらどうか……。

「……とっ。夜詩人ってば!」

 名前を呼ばれ、意識が覚醒する。
 目の前には心配そうにする継直が顔を近づけてきていた。

「聞いてたー?」
「あー、……ごめん、ちょっと考え事してた」
「ほんと、いつもボーっとしてるよね。俺さ、発情期ないからちょっとお試しで古渓さんの薬飲んでみようかと思って」
「……へー。……えっ!?」
「反応遅くね」
「薬!?」

 アレだけ嫌悪丸だしにして捨てていたのにどういう風の吹き回しか。
 どういうわけかそんな俺を見て笑う継直。

「先輩も知っててさ。というか、先輩の友達も持ってるんだって。あれって単なるオメガのホルモン剤みたいで体に害はないっていうし」
「いやー、えー……。うーん、でも薬って怖くない?」
「先輩が問題ないって言うし」
「あー、そう……」

 大好きな先輩の言うことだもんな。俺が何言ってもダメだろう。それはもう先輩のせいであるし、好きにさせることにした。

 それから番契約についてつらつらと説明された。
 原則項を噛むのは禁止で、双方の同意で学校に申し出せば番うことも可能、くらいしか頭に入っていない。
 俺と朝永は同学年であるため多分違う形になるかもしれないが、継直の話も一応頭に入れておくことにした。朝永に番になってと言われた訳でもないので気が早いかもしれないけど。

 まずは学校に番契約を行うという申請。そして受理されてから学校から契約書を渡される。その後両家に報告。契約書の保証人の欄には両家から一人ずつ名前を記入してもらう。
 以前も思ったが、家より学校に先に連絡しなければならない理由が今一つ理解できないでいる。が、これだって、以前朝永が言っていたようにココはそういうものなのだと割り切らねばならない。

 そして継直達の場合は、先輩は十八歳すぎているがまだ継直が十六歳ということと、継直がオメガのため首輪の管理が入ってくる。鍵は原則アルファが持つ。なんなら首輪もアルファが用意したものに付け替えてもいいとのこと。
 ここで「おや?」と、朝永からもらった誕生日プレゼントを思い出した。
 もしかしてこのためのものだったのだろうか。という事は時期がきたら、いつかはしなきゃならないのだろうか。だから朝永も今は強く言ってこないとか……?
 いや、俺たちは同学年。その心配事はちょっと置いておこう。俺はあの首輪はしたくない。

 番契約をしてしまえば、双方十八歳以上になった時点で番うことができる。番契約書から番証に変更されるため、そこでもまた何かしらの情報を記入して届けを出さなければならない。
 話を聞いているだけで面倒くさい。これ全部先輩がしてくれるらしいし、俺も朝永がしてくれないかなと、甘い期待をしてしまう。
 番う約束すらしてなくとも、妄想は無限大。膨らんで、膨らんだまま萎むことを知らない。

「別に十八歳じゃなくても番えるらしいけど、そうするとこの学校から出て行かなきゃならないらしくてさ」
「へー」
「マニュアルに書いてたわ。最後らへん」
「あー、あの小さい文字の羅列のとこか。あんなん読まないわ」
「俺は別に学校やめても良いんだけど、先輩が高校くらい出ておきなさい、って」
「ふーん」
「年上アルファとの番契約はだいたいこんな感じでアルファがオメガを高校へ留まらせておくらしいよ」
「心配じゃないのかな。オメガを置いていくって。それにアルファだって違う誰かを好きになるってことはないのかな」

 ただ、なんとなく、そう、ただなんとなく発した言葉。継直の反応はすごかった。

「あの先輩がそんなことするわけないじゃん! オメガだよ、俺っ」
「あー、いや、継直もさ、周りアルファだらけじゃん……」
「ここのアルファなんてバカばっかじゃん! まともと思えたのは先輩と北原くらいだよ!」
「あー、うん。ごめん。そうだね」
「先輩や北原が浮気するとでも思ってんの!? 俺だってないよ! 夜詩人はするってこと!?」
「ううん、ほんとゴメン。そんなことするわけないよね」
「二度と言わないでよ!」

 ふんふんと鼻を鳴らして興奮する継直をこれ以上刺激しないよう口を噤む。
 うーん、確かに継直に言った言葉を反省した。浮気、ってことになるのか。
 いや、まてよ。俺たちの関係はなんだ。継直は番契約をする。俺は朝永が好き。朝永も俺が好き。だがそれだけだ。もうちょいなにか欲しいというのは欲張りか。

「夜詩人のせいで気分悪くなったから、申請書でも書くわ」

 頭に音符を乗せ、継直がクリアファイルから三枚ほど書類をテーブルに出した。
 継直の“オメガ認定書”と先輩の“アルファ認定書”とこれからのニ人のための“番契約申請書”。
 すでに先輩の欄は記入済みだった。

 このニ人はもう目に見える形で繋がるのだ。それは国も認める確かな形で。
 嬉しそうに名前を記入する継直を見て、あの地獄のような夏休みを経て元気になれたねと嬉しくもあったが、どこか寂しくもあった。

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