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朝永3
しおりを挟む晒した犯人はあっさりと判明した。
あっさりすぎて面白くもなかったが、手間がかからずにすんだことはよかったと言えるのか。
1番とそれなりに親交のあった三年のオメガの生徒、3―6番が絡んでいた。ただ、その人はすでに三年のアルファと番契約を済ませていて、その番であるアルファの友人アルファらが廊下に名前を貼ったとのことだった。
なぜ番契約したアルファではなく、その友人達なのかは、どうやら番のアルファにはバカなことをするなと断られたらしい。まっとうなアルファが番で良かったなと思う反面、そんなオメガでいいのかと先輩アルファを不憫に感じた。
そしてその晒したアルファは何人かのアルファの生徒と一緒に騒ぎながら、それこそ面白おかしく目立ちながら貼ったため、見物者もいたことからすぐに犯人が判明したわけだった。
三年オメガにコンタクトを取るのではなく、一番まっとうな番のアルファに話を通せば、すぐに馬鹿なことをしでかした自分のオメガと一緒に話し合いの場を提示してきた。
生憎、俺は寮にはいないため、PC上での話し合いだ。
瞼が腫れ、いかにも泣きはらしたという顔でいた三年オメガ。
理由を聞けば、番のアルファが合間に謝罪を入れながら話してくれた。
なぜその三年のオメガがそんな行動に移ったのかは、“北原”に嫌がらせをしたかっただけのようだった。
ニ年のときに兄にふられてしまったから、その弟のお気に入りと言われていたオメガに嫌がらせをしたらスッキリするかなと思って。ニ人の名前の情報も金がかかるなら買わなかったけど、タダだったから魔が差して、と。
そんな単純な理由で。
晒したアルファ達も、どうやら北原を快く思っていない連中だったらしい。俺の姿を見て、ネームプレートを見て舌打ちをするような奴らだ。報復は覚悟の上でのことだろう。すぐ上の兄に報告して兄にケリをつけてもらうことにした。
そして3―6番。
自分の下らない私怨だけであんなことが出きる精神をお持ちなのだ。多少何があったって壊れはしないのだろう。
罵詈雑言を心ゆくまで言いたかったが、先輩アルファがあまりにも謝罪をしながら土下座を繰り返すから(途中で何度も画面から消える)、少しの嫌味でとどめておいた。
そんな品性もないオメガが番で先輩は将来大丈夫なのでしょうかと心配もしてあげた。それについては先輩は項垂れ、三年のオメガは声を上げて泣いた。泣き声が大きすぎて音が割れる。「泣きたいのはこっちだ。煩い」と言ったら今度はオメガが画面から消えた。
先輩が3―6番の頭を無理やり押さえつけて謝罪をさせていた。「自分がされて嫌なことはするな!」と先輩が激昂していて。
幼稚園で教えられる内容をここで聞くことになるとは。
この先輩がついていれば大丈夫だろうか。しっかりと躾し直してもらいたい。
「先輩だけの鎖に繋いでニ度と放し飼いにしないで下さい」
「申し訳なかった。一年生のオメガのニ人は大丈夫だったんだろうか?」
「知らないんですか? 結構な騒ぎでしたよ。一人はボロボロにされて有名になっていましたけど。責任もって晒された彼らを最後まで見てみたらどうですか。どうなったのかを。なんならそこのオメガの方で再現してみましょうか? どこまで再現できるかは家族関係にもよりますけど」
「……本当に申し訳ない。ニ度とこんなことがおきないよう、しっかりと見張っておく。あと、そのオメガの生徒にも俺も出来るだけフォローしたいのだが、いいだろうか」
画面越しではあるが、この先輩はとても真摯に対応しようとしているのが分かる。が、どこか鈍そうだ。
「今さらどうにもならないでしょ。それよりはもうニ度とこんなことにならないようお願いしたいですね」
「分かった。また何かあったら教えてもらえると助かる」
「分からないかな。何かあったら遅いんだよ。何かあったらそのときこそ……。まぁ、先輩が見張っていればいいだけです。その頭の悪い番をよく飼い慣らしておいてください」
面倒になって一方的に言いたいことを言って通信を切った。
ああ、話だけしかしていないのに何だか疲れた。
1番についても簡単に処理できた。
こちらもほぼ何もしていないも同然だった。
明治期に三人、昭和初期に一人のオメガを輩出し、番ったアルファの家のお蔭で繁栄していた1番の家。あの頃はオメガもアルファも今より人口の一パーセント近くはいたらしいこともあり、珍しいものでもなかったらしいが。
しかし、そんな1番の家もここ近年はアルファの家の代替わりもあってその恩恵も薄れ始めていた。
数年前、一族から何十年ぶりかのオメガ判定が出てからフィーバーしていたが今年の7月にそれは脆くも崩れ去った。1番が家に帰る前からすでに家の中はお通夜ムードだったようだ。
1億円ももちろん返却しなければならない。学園で使用した金額以外のすべてを。久しぶりのオメガの子供で、降って沸いた一億。中途半端な成金のような考え方の両親は一億のほとんどを使っていたらしい。確かに一億くらいなら買い物をしただけで消え去ってしまうくらいの金額だ。
原則無利子であるが、返す見込みがまったく無い場合は最終手段で財産の差し押さえもある。機関のトップは政府が絡んではいるが、あの歪んだ学園を見ても明らかなようにほぼあの機関は政府と切り離された独自のものだと思ってもいいだろう。絶対に回収に掛かるはずだ。
1番の父母は学園に対して怒り狂っているという。判定は嘘だ、オメガで間違いないと。そう叫びながらも1番が帰ってきたなら働きに出し、借金を払わせると意気込んでいる。恐ろしい。
あの親にしてこの子ありなのか。
1番がニ人の名前をタダで渡していたのは意外だった。売っていれば少しは楽が出来たのに。
金のことよりも自分が学園から消えてしまう前に手っ取り早く、確実に晒してほしかったんだろうと推測した。どうしても晒したかったのだろう。
これ以上、この家の何かを眼にも耳にもしたくないので調べることも報復もすべてを打ち切った。
この汚いものを触った手で夜詩人に触るのも嫌だったから。
それに何もしなくても勝手に落ちて行くだろうから。
そして夏休み前からすすめていたことがある。
夜詩人への誕生日プレゼント。
人へ贈るプレゼントを用意するのがこれほど高揚することだなんて思ってもみなかった。
鼻歌交じりの計画は、専門家を交えて行った。何度も話し合い、メールを送り合い、納得するものが出来そうだった。
できるのはどうやら十月上旬。ギリギリだ。
その頃は、兄の結婚で、もう一度お嫁さん側で盛大にお披露目があるから、その帰りにでも俺が直接受け取れるよう調整していこう。
ああ、出来上がりが楽しみだ。
夜詩人の笑顔を思い浮かべながらデザインの最終チェックをした。
はずなのに、夜詩人の顔は笑顔から何故かイき顔に変化していきニヤニヤしてしまう。
こんなことが何度もあった。欲求不満か。
*
二学期に入り、古渓が余計なことを夜詩人に吹き込んだ。それから時々俺に対して何か言いたそうにすることが増えた。夜詩人の無傷に俺が絡んだことも知っているかもしれない。ばれない方が気を使われなくていいなと考えただけで、別にばれても構わなかった。
でも夜詩人から何かを聞かれない限り俺からはなにも言わない。自分のオメガ一人守れなくてどうやって番になると言うのだ。守られたくないと思うのなら思えばいい。俺が守りたいだけなのだから。
もう少ししたらまた海外に飛ばなければならない。辛い。飛ぶ前に夜詩人を堪能しなければと、夜詩人を呼び出した。
薄暗い非常階段の踊場。下から吹き上がる生暖かい風が夜詩人の髪の毛を揺らした。
抱き締めるとベータの平均に近い体型のため、俺の腕の中にスッポリとおさまってくれるわけではない。
居心地よさそうに俺に抱き締められていた夜詩人。それをいいことに夜詩人の項をしつこく舐めた。時々非難の声が聞こえるしなんなら地味な抵抗もし始めてくる。
いや? と聞けば
そうじゃないけど……と言葉を濁し。
これもまぁ、いつも通り。項に何かされるのはまったく慣れないらしい。
もう発情期のような匂いはしないが、項を目の前にするとあの場面、あの匂いもよみがえるようだった。
匂いを探ろうと無意識に鼻を鳴らした。そこでぶつかる無機質な黒いチタン製の憎たらしいあいつ。邪魔な首輪も噛んでやる。本当に邪魔だ。憎い。
思い切り噛んでやるが、毎回負けるのは俺の歯だ。学習能力が無さすぎる。
夜詩人には気付かれないよう息を吐き、耳たぶに鼻を寄せた。
ああ、発情期を共にしたい。
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