オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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2年生編

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 7月に入ってまだまだ梅雨の真っ只中、定期テストに頭を悩ませる時期が来た。
 しかし今回は朝永と言う強力な専属教師が出来た。朝永の教えは時々何かをすっ飛ばされて飲み込めないこともあったが、何度もやることで概ね理解できた……と思いたい。
 が、英語だけは単語を覚えるのが嫌いでなかなか進みは悪かった。覚えたらいいだけだよ、などと見当違いなアドバイスを貰う羽目にもなり。それが出来ないから苦労しているというのに。単語を10個くらい覚えたら、11個目から初めに覚えていたのがぼんやりとしてしまう俺の脳内を見て欲しいくらいだ。

 今日も放課後に図書室で勉強会。オメガ棟の入り口で待ち合わせているので急いで仕度をして向かうと、必ず朝永は先にいた。この人、本当にいないときはこの寮にすらいないけど、約束となれば俺を待たせることがない。

「お待たせー朝永」
「こんにちは」

 壁に寄りかかっていた朝永は、俺の姿を発見するとゆっくりと俺に向かってきてくれたが、その足が途中で止まった。
 どうしたんだろうと、朝永のそばに駆け寄る。
 切なそうにぎゅーっと眉間に皺を寄せた朝永は鼻と口を手で隠しながら俺の首に顔を寄せた。
 風呂は毎日入っているけどこんな時期だし汗もかく。え、臭い? と不安になって体を引くと、朝永は手ではなく右腕で鼻と口を隠した。

「え、なに」
「発情期。予定、過ぎている。よね?」
「あー、うん」

 片言の朝永は鼻を押さえたまま天井を向いていた。俺と眼を合わせたらヤバイのだろうか。発情期になるとだいたい熱っぽくてだるい感じがするんだけど、今日はまだ何もない。だから体調に変わりはないのだけれどアルファである朝永は俺のフェロモンでも敏感に察知してしまうのだろうか。
 目の前にアルファがいるというのに、俺には危機感と言うものがなかった。アルファ、と言うよりも朝永、という認識が強いのか。

「自分じゃ分からないけど、今日は勉強やめて検査してもらうよ」
「そうして。部屋まで送りたいけど、ちょっとムリかも。ここで見ているから、一人で帰ってくれる? ごめん」
「大丈夫。オメガ棟だし。あ、シャツほしい」
「……ん」

 絶対に俺と視線を合わせまいとする朝永は俺に背を向け、そして着ていたシャツを乱暴に脱いだ。下にTシャツでも着ているかと思いきや、朝永はシャツ1枚だったようで、上半身裸になってしまった。引き締まった腕や腹にどきりとしたけど、朝永は廊下でも気にしていなさそうだった。俺が言うのもなんだけど、1枚しか着ていないなら断っても良かったのに。いや、嬉しいけど。

 朝永はまた鼻を手で覆い、「ん」とぶっきらぼうにシャツを渡してきて思わず苦笑した。俺には発情のしんどさは分かっても、アルファのしんどさまでは分からない。でもこの朝永は見たことがないので少し楽しい。

「ありがとう。……また返せないかもしれないけどいい?」
「うん」

 貰うものも貰ったし、これ以上一緒にいたら朝永もつらいだろうから、さっさと部屋に帰らねば。
 去り際に「もしそうだったなら、今回は隔離部屋に話し行くかも」と言われ、まだ朝永は天井を向いていたため表情は見ることが出来なかったし、俺を見てはいなかったけど「分かったー」と手を振った。

 部屋に戻ったあと、校医に連絡して部屋まで来てもらって血液検査をするとやはり発情期が近いということだった。明日の朝には突入するだろうと言われ、それならと今日から隔離部屋に行くことにした。朝永のシャツを忘れず持ち、そのまま保険医と一緒にオメガ棟の奥通路を通り、隔離棟へ行く。清潔を保たれた室内は割りと快適だ。
 まだ辛くないので手伝い人に電話をしてカップラーメンを届けてもらった。たまにはジャンクなものが食べたくなる。

 スマホの持ち込みは禁止なので、そうやって夜はテレビをみながらダラダラとすごしていたが、やはり次の朝にはちゃんと腹の奥に熱が篭るような発情がやってきた。
 昨日はベッドの上に放り投げていた朝永のシャツも、今では俺の口や鼻を覆っている。下半身がどうにも切なくなり、ベッドに横たわって足をすり寄せて中心に手を伸ばした。昨日も出したばかりたというのにあっという間に射精してしまった。しかしたった一度しか抜いていないというのに体はすっきりとしていて、ここで無限勃起地獄が始まるというのにチンコは萎えたままだし、今すぐ熱を持ちそうな感じもしなかった。
 毎回これくらい体が楽だったら発情期もそれほど苦にならないのだけれど。

 半日に1回ほど抜いてしまえば発情期とは思えないほどの平常ぶりだ。こうなってしまうとスマホが無いとつらい。ゴマせんべいを食べながらソファに座ってテレビをダラダラ見ていると、部屋中にブザー音が響く。
 お、と思い部屋の左角にあるスピーカーに眼を向けた。

「こんばんは」
「こんばんはー朝永。本当に来てくれたんだー」
「うん。……テレビ見ていたの?」
「そうそう、すごい暇だったんだ。煩いかな、消すね」
「いや、大丈夫だけど……」

 ゴマせんべいを一旦テーブルに置き、水を一口飲んだ。

「夜詩人……、発情期なの?」
「うん。そうだよ。あの時はありがとうね、やっぱり発情近かったみたいで。今3日目ってとこだね。そもそもここは発情期のオメガしか泊まれないし」
「そう。声、元気だなーって思って」
「今回軽くてさ、ラッキーだった」
「そうなんだ……。それは、よかった……」
「うん?」

 俺によかったといってくれている割に、朝永の声のトーンは暗かった。スピーカー越しであるためもちろん細かな気持ちの揺れなどは分からない。

「俺のシャツも、今回は役には立たなかったかな」
「ううん、そんなことないよ。今も首に巻いているし。朝永の匂い、いい匂い」

 首に巻きつけたシャツを鼻に持っていき、スーハーと呼吸を凝り返す。本当の脱ぎたてのものをすぐに俺が使ったため、今はまだ匂いが十分残っている。
 一度匂いを嗅いでしまったら、朝永と通信していることも忘れてシャツに没頭してしまった。そしてより強く香りが放つ場所を探す。深く、深く呼吸を繰り返すと胸の中も満たされた。

「夜詩人?」
「……」
「俺の匂い好き? 夜詩人?」
「ハッ! あっ、うん」

 やばい、軽くどっか意識が飛んでいた。いくら軽いとはいえ発情期中、朝永の声を部屋中に轟かせて、朝永の匂いで嗅覚を刺激されたら体も反応してしまう。
 前回の通信時、朝永の声を聞きながらオナニーをしてしまったし、今回は純粋におしゃべりを楽しみたい。せっかくこうやって来てくれたのに。

「夜詩人」
「ん?」
「発情期って、いつも何しているの?」
「なにって、何、ナニ?」
「エロいこととか?」

 そりゃそうでしょ、と言いたいけど口を噤んでしまった。

「俺のこととか、思い出す?」

 発情中はどちらかと言えば無心。エロで頭一杯だけど、思考は停止気味だし、何かを考えている余裕もない。だから記憶が曖昧、というのもある。

「うーん、あまり何も考えていないと思う、けど」
「そうなんだ。残念。俺はいつも夜詩人を思い浮かべているよ」
「え」
「かわいいね、夜詩人」

 一旦落ち着いたのに、朝永のせいでまた欲望がむくむくとわいてきた。下腹部に熱が集まるのを感じる。どくん、どくんと脈が打つように。
 朝永はわざとだ。わざと俺を煽っている。悔しいと思いつつも、手は自然と勃ち上がり始めたものへと伸びた。

「夜詩人」
「……うん」
「会いたい」
「うん」
「申請したら開けてくれる?」

 亀頭をゆるりと撫でていた手を止めた。開ける、とはこの部屋のドアを開けるということだろうか。
 確かに発情中のオメガに対してアルファが隔離部屋に入室許可をもらうための申請をし、学校に受理されたのち、それをオメガが受ければ入室可能となる。それはつまりこの部屋で発情セックスをするということだ。
 発情期のオメガは正常な判断を下せる理性的な脳を持ち合わせていないので、開ける開けないをオメガに任せて大丈夫なのかと疑問だった。しかしアルファ側は普段からの生活態度を厳しくチャックされているため、アルファ側の都合で申請が通らないこともままある、と新堂は話していた。
 避妊必須であるし、アルファは強めの抑制剤を飲まなければいけないらしい。
 ここで金がいるのだが、それはアルファ側のマニュアルであるため、オメガ側は一切知らされていなかった。

「……あ、開けない」
「そう、残念」
「……ごめん」
「いいよ。夜詩人」

 部屋中に反響する、少し掠れた朝永の声。頭の中は俺の名を呼ぶ朝永の声と、匂いで溢れかえっていた。
 眼は閉じたままで開けることが出来ない。
 はあ、はあ、と呼吸も荒くなっていく。

「俺の匂い、直接かいでみたくない?」

 なにその誘惑。
 たった今断ったばかりだというのに、ないことなのに、考えただけで背中がぞくぞくした。目の前に朝永がいたら匂い嗅ぎまくる変態になれる自信がある。

「夜詩人? 大丈夫? ……変な気分なの?」
「……分かんない」
「俺の声で変な気分になってほしいなあ」
「……ん」

 眼を閉じ、シャツに鼻を埋める。朝永に名前を呼ばれるのが好きだ。変な名前だと思っていたけど、自分の名をこの人に呼んでもらって本当に嬉しい。
 シャツから香る朝永の匂いがぐっと強くなったように感じた。感覚が、特に嗅覚が敏感になっているかもしれない。

「夜詩人」
「……ん」

「夜詩人」

「……夜詩人」

 息を殺しながらガチガチになったモノを左手で擦り、そして右手をそろそろと奥まで伸ばした。
 以前も一度だけ指を入れたことがある。通常、自分1人だけのオナニーならここまで使わないが、朝永の声に脳が犯され始めると、どうにも体の奥がたまらなく切ない。満たされないものがあって、どうにもそこを一杯にしたい。すでに愛液で濡れているため、指の一本はすんなりと受け入れる。浅いところを指でぐりっと擦るだけで体が大げさに跳ねた。敏感なところは簡単に俺を官能へと落とす。

「……ともながぁっ」
「声、かわいい。気持ちいいとこ触ってるの?」

 普段ならオナニーしていることなど絶対に言えないが、いつもより症状が軽いといえ今は発情期。好きな人が自分だけに甘い声をくれることに思考が麻痺してしまう。

「ん、ともなが。……呼んで」
「夜詩人。気持ちとこ、届いている? 俺の指で気持ちよくしてあげたい」
「……っ、あ、」
「夜詩人。好きだよ」

 朝永の声が部屋中に反響し、弱いところを数回擦っただけで呆気なく達してしまう。
 精液は腹や腕を汚し、そして体の曲線に沿って垂れてゆく。
 賢者タイムもうっすらとしかこない、だらしなく足を開いたままの姿で指を引き抜き、あとを引く余韻に眼を閉じて呼吸を整えた。

「……ともなが、俺もすき」

 小さく呟いただけの声は、俺の思っている以上に小さいもので、朝永の返事がなかっただけに届かなかったかもしれない。
 でも全力疾走後のような体のだるさ。もう一度言おうとは思えないほど脱力していた。
 だが、俺の予想に反して俺の言葉は朝永に届いていたし、指一本動かす俺の姿をすべて見逃すまいと、ガラス越しで食い入るようにじっと見られていた事だって俺には分からないことだった。
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