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2年生編
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しおりを挟む低く深いため息を漏らしている朝永の心臓からは、尋常じゃない早さの鼓動が伝わり、緊張の度合いも同じく伝わってきた。
「……一生離してやらない」
抱きついたまま、くぐもった声を出す朝永だが、これ前にも聞いたような。またドス暗い朝永発動だろうか。今日って俺の誕生日で、そして番の約束までしためでたい日であるのに。
「これで離されたら困るんだけど」
整髪料をつけているのか、朝永の髪を撫でると少し違和感があった。それでもゆっくりと撫でた。
しばらくそうやって頭を撫でていたが、いきなり電源が入った玩具のように朝永はスッと立ち上がり、そして書類を何枚か持ってきた。ついでにシルバーの光沢が綺麗な紙バッグも。
黒いテーブルに散らされた書類。サインしてくれればいいからと、朝永に言われるがままサインをした。時々住所を書いてみて、すべて書き終わったところで朝永が確認するようにゆっくりと書類に眼を通す。そのあと朝永もその書類たちにペンを走らせた。さっきの暗さはどこへやら、だ。まあこっちの方がいいに決まっているけど。
チラッと覗き見ると朝永が書いているのは番契約申請書で、他にもアルファ認定書、オメガ認定書、首輪管理届けなど色々あった。継直が書いていたものか。それぞれの性の認定書では、のちのち血液検査があるらしい。すでに確定されていても、念のためとのこと。
そして書ききったところで改めて真正面で向き合った。今度は2人とも床に腰を下ろしていた。銀色の紙バッグから出てきたのは同じ色の箱だった。20センチ×20センチで、高さは5センチほどだろうか。なぜか背中がざわついた。
「誕生日プレゼント」
「ありがと……」
わーなんだろーと呟きながらも、どうしても心からの笑顔を作れなかった。渡されたその箱を開けると、どこか懐かしい黒光りする輪が眼に入った。
褒められ待ちの大型犬のような面持ちの朝永は、キラキラと瞳を輝かせていた。部屋の明かりがやけに反射しているなと感じた。
涙などとうに枯れている俺は、これは当たり前のことなのだと冷静に受け取った。番契約後は首輪の管理はアルファがすることになるため、朝永のこれは当然であるが、なんとなく、どうしてか、自分でも不思議だが受け入れ難い。
「……だよね。首輪変えるか、鍵渡すんだもんね」
「そう。管理はアルファに移るからね」
去年のプレゼントである、部屋のオブジェ化しているアレを思い起こす。どうしてかする気にもなれず、でも朝永に申し訳なくて時々手にとっては眺めていた。
今年貰ったこれも、手にしてみた。去年のものよりは少し軽いだろうか。
「軽くなった?」
思ったことを口にすれば、朝永の声は弾んだものとなって返ってきた。
「ああ、分かる? 実はこれ、あのときからずっと軽量化を図っていて、性能はほぼ変わらず、かなりの軽量化に成功したものなんだ。実際来年から販売するものだからまだ表立つのは先だけど、特別にデザインをさらにシンプルに夜詩人用に作ってもらったんだ。これにオメガのフェロモンデータを入れれば、発情期の兆候も分かって、それをアルファ側にも教えてくれるようになっているんだ」
「へー。すごーい」
「今つける? 俺手伝うよ」
「あー、でもこの首輪の鍵部屋にある」
「そう。じゃあ楽しみは後に取っておこう」
「ははっ。楽しみって……」
乾いた笑いでその場を誤魔化す。
「今部屋にある首輪はどうしよう……」
「ああ、あれはもう型落ちしているし、捨ててもいいよ」
「え、捨てんの!?」
「夜詩人にあげたものだもの。夜詩人の自由でいいよ」
なかなかに豪快だ。かなりの大金をはたいたらしい首輪をあっさり捨てていいとは……。確かに今も使わず飾ってあるだけなので、そんなことをしている俺がどうこう言えた義理もないけど。
でも、会社を買い取るのにお金が掛かったと聞いた。今年は首輪を作るだけなら去年ほどお金も掛からなかったのかな。だといいな。あの首輪は初めてのプレゼントとして後生大事に持っていようかな。アレはアレで、いい思い出となりそうだし。
「自由にさせてもらっていいなら取っておくね」
「もう使わないものをなぜ取っておくのかは分からないけど、夜詩人の好きでいいよ」
「お、思い出だよ」
「未使用の首輪に思い入れなどないでしょ」
クスクスと笑われ、なんとなく朝永とこういったものが共感できないのだなと思い、これ以上言うのをやめた。それとも嫌味だったのだろうか。嫌味だったら成功だ。ちょっとグサッと胸に刺さるものがあったから。
「よし、明日この書類を提出してくるよ。夜詩人も一緒に行く?」
「先生に出すだけ?」
「そう。確認で何かしらの質問はされるくらいじゃないかな」
「朝永におまかせしてもいい?」
「いいよ」
番とはいうものの、どこかまだ浮ついただけの気分でそれほど実感はない。明日出されるだろう書類をもう一度眺め、朝永は字もキレイだなーと感心していると、頬にむちゅっとキスをされた。しかし今日はエロい雰囲気を出してもこず、ただただ朝永は俺にぺったりとくっついているだけだった。
虫みたいでかわいかった。
そんなのほほんとした気持ちでいたが、朝永からの質問に我に返った。
「いつ番う?」
「え?」
「え?」
番う?
ハテナしかない俺に、朝永が体を離して顔を覗き込んできた。
「番わないの?」
“番う”ということは、つまりオメガの発情中にアルファとセックスをし、項を噛むということだ。
項を噛む。当たり前のことだが、それにはまず発情中にセックスをするということが前提にある。
半そで半ズボンで富士山登るぞーってくらい俺の中では未知のものなのだが。
「番うよ。でもいつと言われたら……。うーん、いつなんだろうね?」
「まだ実感湧かない? 俺も少し舞い上がっているからな。夜詩人がいいと言ってくれるまで待ってもいいよ。ここまで来たならどこまでも夜詩人に合わせるよ。夜詩人がとても大切だから。ムリはさせたくない」
なんて大人な発言だ……。この人本当に俺よりも生まれが遅いのだろうか。親の顔が見てみたいものだ。いや、番契約となればそのうち見ることになるかもしれないけど、うーん、今から余計な緊張などしていられない。
今は置いておこう。
でも俺だってエロいことに興味がないわけではない。むしろ発情中なんてエロ特化だ。まだ使う予定もなかった孔に指を入れちゃって興奮するくらいスケベ脳。
朝永と別にセックスしたっていいわけだけど、あの発情中の俺を見られるとなると、とてもじゃないけど恥ずかしくてやった後に朝永の顔をまともに見られる気がしない。と言うことは初めてはお互いノーマルのときにするのが一番になるのか。
そうだ、今、17歳の俺が番ってしまったらこの学校から出て行かなければならないんじゃなかったか。それは困る。
「番うことに関しては、俺はこの学校を卒業したいから卒業後に番いたいなーなんて」
「そうか。違うところに一緒に行ってもいいかなと思っていたんだけど、夜詩人はこの学校を卒業したいんだね」
朝永も俺と一緒にこの学校から去ることを考えていたことに驚いた。
俺と番うことさえ出来ればもう用無しなのか。確かにここはアルファに優しくなくて年度初めにかなりの寄付金がいるわけだけど。
「うーん。この学校が好きかどうかと聞かれたら、好きとは答えづらいんだけどさ。ヤなことしてくる人もいるし、変なこと言う人もいるし、外に出られないこの生活だってうんざりもしているんだけど……。でもここでしか出会えなかった人もいたわけだし、卒業まで一緒に過ごせたらいいなと思うんだ。かなり特殊な環境ではあるけど、首に噛み痕つけて新しい環境……、というのも怖いかな……」
「うん、分かった。13番ともいい友人になれたしね。一緒にここを卒業しようか」
「ありがとう」
嬉しくて今度は俺が朝永に抱きついた。
ほっぺたを朝永の肩にすりすりし、あのときの継直の言葉を思い出した。オメガで良かった、と。俺もそう思う。朝永がアルファであるなら、出会えたことに本当に感謝しかない。
「朝永、もし来年度の寄付金に困ったら、いつでも俺に声を掛けてね」
抱きついたままうっとりとし、思いついたことをそのまま口にすると、朝永の体がガチッと固まった。時々あるな、これ。どうしたんだろうと体を離そうとした時、首根っこを掴まれ、無理やり引き離された。そこには口元に笑みを乗せているが、眼が据わっている朝永がいた。
まったりといい感じの雰囲気だったのに、なんだ、俺はまた何かしたのか。分からなくてパチパチと何度か瞬きをしてしまった。
「ありがとう。でも、俺は学費や寄付金が払えないほど甲斐性なしに見えるのかな」
「いや、だって、ここの寄付金ってすごいお金かかるよね」
「そりゃあね。それだけお金払っても価値のある出会いがあると思っているし、進学も有利だ」
「あ、そうなんだ。なんかごめんね。別に深い意味はないんだ」
「あったら困る」
でも許す、と朝永はちゅっと口付けてきた。
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