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2年生編
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しおりを挟む今回の発情期もまた、前回同様軽くて発情期と呼べるようなものではなかった。それでも一応発情期に突入なので継直に連絡はした。
やはり軽い症状しかないそれは、また4日もすれば隔離部屋から出ることができた。
4日ぶりのスマホには朝永と継直から。どうやら継直は俺から遅れること1日、無事に発情期が来たらしい。服薬のお蔭ではあるけれど。
朝永はお昼の約束が1件入っていたが、その後は『発情期なんだね』と着てから何も無い。なのでまずは朝永に連絡をした。しかし朝永は外出中だという。13番がまだ隔離部屋にいることを伝えると、明日の朝には帰るから、今日は部屋に篭る事と何度も念を押される。
仕方ないので部屋を掃除し、こんな時のための非常食であるカップラーメンを棚から今日の気分に沿った味を探した。こってりしたものが食べたくて背油ものにする。
3分を待っている間、体育すわりをしてぼーっと部屋を眺める。本棚の上には黒光りする輪が二つ仲良くならんでいた。
なんとなく、もういいんじゃないか、という気が起こる。何がと問われれば、はっきりしたことは俺にも分からないけど、としか答えられない。
新しく仲間入りしたそれを手に取る。軽い。俺が今しているものよりも軽いらしい。
朝永は明日の朝には来ると言う。
ふーっと一つ息をはいて首輪をカップラーメンの横に置いた。ただ眺めていただけなのに、いつの間にか5分以上が経っていた。
*
朝の7時前に朝永から連絡があった。いつものようにオメガ棟の入り口で待っているから一緒に食事をしようというものだった。今日は学校もあるので、早めの連絡はありがたかった。
整容のため洗面所へ向かう。鏡の前には見慣れない首輪をした自分がいた。顔を洗い、眼も覚めたところでオメガ棟の入り口へと向かった。
朝永の後姿に、いつものように「おはよう」と声を掛けた。笑顔で振り返った朝永は、挨拶をする前に表情を消した。見たことが無いくらい怖いくらい真剣な眼差しが俺の首に刺さっていた。
お、もう気が付いたんだ、すごい、と声に出そうかと言うとき、目が回るほどの力強さで朝永に引き寄せられ、そして抱きしめられた。俺に体重をかけてくるものだから、少しずつ後ずさりして壁に寄りかかった。
「はぁー。噛みたい。好き。噛みたい、噛みたい」
「……えー、と……」
耳に朝永の興奮した息が掛かる。そのたびに首や肩から背中にかけてぞわぞわとして落ち着かない。
朝永の肩越しにこちらを気にする生徒がちらほらと見えた。恥ずかしくて、でも抵抗しても解けることの出来ない抱擁。皺のない白いシャツの肩口におでこを預けた。
腹には少し気になる異物を感じたが、これもどうしたらいいか分からなくて腰を引いてみたが、その倍の力で腰を抱かれた。異物はさらに硬さを増しているようだったが、大丈夫なんだろうか。
「……食堂行ける?」
「うん。行くよ。大丈夫」
「には、思えないけど……」
「そのうち治まるから」
とてもそうは思えなかったけど、朝永がそう言うから俺も余計な刺激はしないでおこうと決めた。
ただ朝永の匂いに、腕に包まれながら、そして腹に異物を感じながら穏やかに呼吸を繰り返す。眼を閉じると朝永だけの世界となった。耳の裏や首筋に不穏な動きをしている口があるが、噛んだところでどうにもならないので好きにさせた。あまりにねちねちと攻められたときはさすがに脇腹を叩いた。
そこで発見した。朝永にすっぽり包まれているということは、体格差があるということか。5センチくらいしか変わりないと思っていたけど、いつの間にか首を伸ばさないと朝永の肩に顎が乗らなくなっていた。チンコの位置も俺と全然違うし。
「朝永大きくなった?」
「うん。ほら」
腹にぐりぐりと下腹部を押し付けられて思わず焦る。まだ硬いし。
「そっちじゃないよ! 身長だよ!」
「ああ、身長ね。伸びているよ、順調に。16だし成長期」
そうか。朝永はまだまだ成長期か。俺は発情期が来た段階で成長もストップしてしまったみたいだからちょっと羨ましい。今でベータの平均くらいだが、175センチくらいが憧れだった。
オメガ棟の入り口で抱き合ったまま、しばらくどうでもいい話をしていると、朝永も落ち着いてきたようだった。
「鍵は持ってる?」
「部屋だ。あとで渡すね」
「アプリでも施錠させてもらうね」
「うん」
体を離した朝永はスマホを取り出し、首輪の繋ぎ目を写真に納め、操作を始めた。しばらくすると首輪からピピッと小さく電子音が鳴った。そして朝永のスマホからも同じ音が。
「施錠完了」
満足そうに微笑んだ朝永は、ゆっくりと首輪を撫でた。
そして2人手を繋いで食堂まで歩いた。恥ずかしかったが朝永が離してくれなかったのだ。
いつもの食堂に足を踏み入れ、朝永と空いているテーブルを探そうと立ち止まったところでそこかしこであったザワめきが一瞬で静まり返った。
誰もこちらを見ているわけでもないのに、どういうわけかこの部屋全部から注目されているような、居心地の悪さを感じた。何事だ。朝永の手をぎゅっと握って視線をさまよわせるが、誰とも視線が合わない。むしろあからさまに顔を背けているような。
静まりかえっていた室内もぽつぽつと話し声が聞こえ、いつもの、とまではいかないが少しずつざわめきを取り戻し始めた。だが俺は居心地が悪いままだ。
朝永はなんでもないようで、朝から天ぷらを頼んでいた。とてもじゃないけど揚げ物なんて喉を通らないため、ざる蕎麦を頼んだ。お膳を持って空いている席に座る。誰もこちらを見ていないが、それでも意識はむけれらている感じは消えていない。
「ね、ねぇ……。さっき俺たち注目されたよね?」
「そう? キミがかわいいからかな」
シレッとアホなことを抜かす朝永に心底呆れそうになった。だが自分の声の大きさも気になり、朝永にしか聞こえないよう前のめりになって小声で話しかけた。
「本気で言ってるんだけど」
「俺も本気なんだけどな」
「さっき俺たちが入って来た時、一瞬静まりかえったじゃん」
「そうだね。やっと俺たちが番として公認になれたと思うと嬉しい限りだよ」
「なんか話がそれるなー」
「そう?」
釈然としないまま蕎麦をすすった。朝永は理由を知っているんじゃないかと勘ぐってしまう。でも教えてくれないやつだ。
「朝永くん、先輩、一緒にいい?」
腰を屈めて、お膳を持った永匡クンがぬっと顔を突き出してきた。
もう少し朝永を問い詰めたかったが、話は中断だ。
「おはよー。どうぞ」
「おはようございます。ありがとうございますー」
いそいそと朝永の隣に座る永匡くん。かなりの大型犬が朝永に懐いているみたいでかわいい。この2人は年子のためほとんどセットで育てられたらしく、兄弟のなかでも一番仲がいいとのことだった。
しばらく俺を避けるようにしていた永匡くんだったが、番契約をしてしばらくしたあとからまた前のように話しかけてくれるようになった。
そしてちょこちょこ俺たちのところに来てくれるようになった。俺としては朝永の家族と仲良くなっておきたいからいつでも大歓迎をアピールしている。が、朝永は違うらしい。
「おまえねぇ、俺たちのところに来過ぎだろう」
「だって、同室もいなくなったし、仲良かったやつもいなくなったしさー。まぁ、他にも仲いい奴はいるけど」
「へー、今年の1年生アルファは結構辞めた人多いの?」
何も考えずに発した言葉に、永匡くんの笑顔がさらに深まった。だがそれについての返答はなかった。
「先輩、首輪変えたんだね」
永匡くんは笑顔のまま顎を上げ、ちょんちょんと、自分の首を人差し指で触った。見えた首筋の影がきれいで、朝永とも似ていたため一瞬ドキリとしてしまう。
「え、あ、お、うん」
「どもりすぎでしょ。朝永くんからのプレゼント?」
「うん」
「へー、おめでとう、朝永くん」
にこにこ顔の永匡くんが祝っても、朝永はスルーしたままで。朝永は永匡くんがいると口数が少なくなる。用事があればこそ話もするけれど、どうでもいいような会話はしてこない。これも兄としての何かがあるのだろうか。兄弟仲いいところを見たい俺としてはちょっとつまらない。
「俺も誰かいい人できたら朝永くんにお願いしようかな。家族割りできる?」
「3割引きな」
「半額にしてよ」
「そこに金を出せないなら初めから番なんて探すなよ」
「まあ、そうだね。その辺が気にならなくなるんだろうね。きっと。金には変えられないものなんでしょ」
「来年に期待なんだろ」
「あー、そうなんだよね。はぁ、どうなんだろ、それも」
「今年は大人しく勉強でもしていろ」
「そうするわ。それにこの先何が起こってもいいように朝永くんみたいに手伝いでも始めようかな」
つまらない、と思った矢先に繰り広げられた兄弟の会話。口を動かしつつも、2人の内容に釘付けだった。後半はぼんやりとした会話であまり意味の分からないものだったが、2人はしっかりと通じ合っていたので思わずにやけてしまう。
そしていつの間にか周りの雰囲気にも気にならなくなっていて、俺たちが注目されていることすら忘れてしまっていた。それくらい永匡くんが1人賑やかにしてくれた。俺が単純というのもあるけど。
しかし、数日後、まったく関わったことのない1年オメガが眼の前に現れ、「崎田を返してください」と言われたときには何のことだと困惑するだけだった。
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