腹の上の奴隷紋

梅鉢

文字の大きさ
11 / 12

11

しおりを挟む
 それからヴィネは以前同様、ヨリの手を取っては魔力を流し始めた。それからはふわふわと気持ちよく、夢うつつであったように思う。全身をゆっくりと巡る優しげな温かさはヨリを溶かし、実際、力が抜けてヴィネに抱きかかえられていた。今日のはどことなく母親の胎内とはこんな感じではないのだろうか。そう思えるくらい緩やかなものに体を覆われていたようだった。

「ふむ。以前なかった違和感はあるけど、それが何かは分からない」

 ぼんやりとする頭の中、ふっと体中の温かさが消えた。

「ごめん。もう少し強くさせて」
「うん」

 またアレが味わえるのなら、とヴィネに寄りかかりながら手を差し出した。
 しかし「強く」と言ったのは温かさだと思っていたのに、指先から流れてきたものは弱い電流のようなものだった。
 電流刑も受けたことはあるためそれほど衝撃はなかったが、先ほどまでと違って気持ちよさが一切ない。

「あの、……これ」

 ビリビリしたものがゆっくりと肉の中を這いずり回るような感覚は気持ち悪さを覚えた。しかし「嫌だ」という一言が喉で詰まって出てこられない。

「少し我慢して」

 繋がれた手を引っ込めようとするがきつく握られて逆に引っ張られた。

「もう少し、もう少し」

 気持ちの悪い微量の電流が指から腕を通り、肩から体全体を巡る。それが項に通ったとき、鋭い焼けるような痛みに襲われた。あの老人魔術師のときと同じような痛み。折檻中は声を出すことを禁止されているため、癖でこのときも声を出さずに全身で仰け反った。
 同時にヴィネと繋がれていた手にもバリッと激しい音と共に痛みが走った。手は離れ、ヴィネに寄りかかっていたが勢いでその場に倒れこんだ。
 指先はジンジンと痛んだが、それより項の痛みがなくなってホッとした。

 なんだって項ばかりに痛みが出るのか不思議だった。肩で息をして起き上がると、ヴィネの姿が見当たらなかった。
 今の衝撃で一人どこかに行ってしまったのだろうか。こんなところに一人で置いていかれても納屋にどうやって帰ればいいのだと恐ろしくなった。

「いて、いてて……あのジジイ……」
「ヴィネ!」

 いないと思ったヴィネはベッド脇の壁まで飛ばされていた。数メートルも飛ばされていることにも驚き、手の痛みを無視してヴィネのもとに這って行った。

 痛みに声を出していたのに無表情で壁にもたれたまま、ヨリが近づいてくるのを待ち、ヴィネは言った。

「僕はキミに名前を教えてないはずだけど、どこで知ったの?」

 老人魔術師の話から水色ローブの魔術師がヴィネだと、きっとそうだろうと思っていたが、確かに本人からは聞いていなかった。
 鋭い瞳で射抜かれ、嘘など通じないことを知るが、なんとなくあのことは言ってはいけない気がした。

「他の魔術師が、あなたの事をそう呼んでいたのを影で聞いていたから……」

 まったくの嘘でもない、本当のことも混じっている。他の魔術師である黒色魔術師がそう呼んでいたんだから。
 視線を合わせながら言えた。
 それに対しては「ふーん」と一言だけ返事をしただけだった。

「それならキミの名前を教えてよ」
「……名はヨリ」
「普通の名前だ。奴隷なのに」
「ふ、普通? でも名字はないです」
「奴隷だものね」

 その言い方がどういったものを含んでいるのかは分かりかねるが、意地悪なものには聞こえなかったから不思議だった。

「僕は明日には王宮へ帰る」

 先ほども聞いた話だ。
 壁から背を離し、ヴィネの目の前に座り込むヨリの腕を取った。
 ヨリはいつも人の顔色を窺って生きてきたが、ヴィネの表情は読み取れないでいた。

「どうしてこんなにキミが気になるかは結局分からなかった。ただうまく混ざることは出来ているから相性はいいのだと思う。違和感を探ることも無理やりできそうだけど師匠がそれを許さないらしい。でも、もうキミを知ってしまったから、僕は忘れるとこは出来ないと思う。ここへもそうそう来られない。だから……」

 ずっと、何の感情ものせていなかったヴィネ。少しだけ切なく目を細めて「だから、キミの体に僕の痕を残させて」と言われたら、それがどんなものかも知らないのに断ることなんて出来なかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

惚れ薬をもらったけど使う相手がいない

おもちDX
BL
シュエは仕事帰り、自称魔女から惚れ薬を貰う。しかしシュエには恋人も、惚れさせたい相手もいなかった。魔女に脅されたので仕方なく惚れ薬を一夜の相手に使おうとしたが、誤って天敵のグラースに魔法がかかってしまった! グラースはいつもシュエの行動に文句をつけてくる嫌味な男だ。そんな男に家まで連れて帰られ、シュエは枷で手足を拘束された。想像の斜め上の行くグラースの行動は、誰を想ったものなのか?なんとか魔法が解ける前に逃げようとするシュエだが…… いけすかない騎士 × 口の悪い遊び人の薬師 魔法のない世界で唯一の魔法(惚れ薬)を手に入れ、振り回された二人がすったもんだするお話。短編です。 拙作『惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら』と同じ世界観ですが、読んでいなくても全く問題ありません。独立したお話です。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...