6 / 112
第一章
4
しおりを挟む長かった期末テストも無事終え、本格的に仕事が手につきそうだ。
テスト期間中はあまり記憶がない。北村に勉強を教えてもらうがちょっと時間が足りなくて、後半の教科は勘で解いた。
でもそれも終わり、長い夏休みとともに生徒会の仕事が待っている。
嫌いじゃないし、やりがいもあるから少し楽しみでもある。
テストが終わったころ、前書記と入れ違う形で吉岡が俺の前の部屋に越してきた。前任者達は俺達の1階上の3階、“OB階”へと部屋を引っ越していった。
生徒会だけがいる第4寮棟2階の奥の部屋から会長、副会長、会計、書記と部屋が並び、廊下を挟んでその前の部屋がそれぞれの補佐が住むことになっていた。
会長補佐の青木や金髪美人の二ノ瀬、重量級の田口には度々廊下で出会うことがあったが、吉岡には会うことがなかった。外見は真面目だけど中身は違って不思議なんだろうか。外見と中身のギャップが激しい生徒がいるのはこの学園ではよくあることだったからそれほど気にならないでいた。
吉岡は“よく働く男”。そんな第一印象だった。
寮での生活はよく分からないが、生徒会の仕事があればちゃんと仕事をしに生徒会室に来ていた。口数も少なく、淡々とこなし、そこは外見通りまじめだった。
この前まで俺が座っていたデスクに吉岡が座って文章を作成している。去年の体育祭の競技ルールにプラスで、反省点を反映させたものをお願いした。とりあえず適当でいいからと。
俺は俺で、吉岡が作ったものを確認しながら月1で行われる定例会の議事録を作成していた。定例会から1週間経ってしまっていて、松浦に催促されてようやく気がついたくらいだ。だから吉岡がしっかりものだととても嬉しいのだが、俺の期待を裏切らず、吉岡はとってもしっかりしていた。顔合わせのときに「記憶力はいい」と話していたが、本当にその通りで吉岡は一度言ったことは忘れないやつだった。
だからこっそり連絡先を交換し、俺のスケジュールの管理をお願いした。北村も俺の面倒を見てくれはするが、これから田口を育てていくのに余計な仕事を増やしてもかわいそうだと思って。吉岡はかわいそうじゃないのかと言われればかわいそうだが、俺の補佐なのが運のつき。来年の修行のためだ、我慢してもらおう。
顧問の土屋や松浦にもお前にしてはいいのを選んだなと褒められた。土屋は分かるが松浦はタメだ。上から目線がムカついたが頭や口で勝てるわけもないので黙っておいた。
お盆も過ぎて、そろそろ2学期が見えてくる、そんなときだった。珍しく吉岡がミスを連発していた。変換ミスから記入漏れ、大事なところでは日付を間違えていたり。
1日でこんなにミスがあることが本当に珍しく、これで今日は何度目になるのか吉岡に書類を返した。
「5行目変換ミス。もしかして具合悪いのか? 無理しないで帰ってもいいよ」
無言で書類を受け取った吉岡は目を細め、書類を確認するよう視線を落とす。すぐに「本当だ、すみませんでした」と返ってきたが、俺の質問には答えなかった。
「吉岡、調子悪いんなら帰っていいぞ」
少し離れた席から、会長の松浦が顔も上げずに言った。
俺達の会話はずっと聞こえていたはずだから、今日のミス連発もみんな知っている。いつもと違う吉岡の様子に松浦も声を掛けずにいられなかったようだ。
「もういいよ、あと俺やるし。帰って寝といたほういいよ」
「……すみません」
今度は素直に頭を下げ、席を立ち上がった。
もともと口数が多いほうでもなかったが、今日はしゃべるのも億劫なのか口調が暗かった。きっと何かあったのかもしれないし、体調が悪いだけかもしれない。あれだけミスをしたのだから。
俺の仕事の急ぎのものを片付けてから吉岡のものをやろうと思っていると、パソコンの上から金髪がひょっこりと動いた。
「佐野さん、俺も手伝いましょうか? 吉岡の仕事」
「ああ、ありがとう、でも大丈夫だと思う」
「何かあったら言ってください」
「んーありがとー」
二ノ瀬にふわりと笑顔を向けられ、俺も笑顔で返す。
こんな長身のべっぴんさん、彼女は大変だろうな。
今年の補佐達はみんな一生懸命だ。外見は様々であるが、それぞれ個性を持ちながら自分なりに生徒会の仕事を頑張っている。特に二ノ瀬や田口は雰囲気もよく、美女と野獣ではあるが二人がいるとなんだか和んでしまう。
ただ二ノ瀬は南の軽口だけには厳しかったが。
困ったのは松浦とその補佐、青木の二人だった。時々静かに喧嘩をしているのか険悪なムードを放っているときがあった。そんなとき知らないふりをするのが一番だが、もうちょっと大人になってもらいたいものだと北村は言っていた。
自分の仕事もあらかた片付け、吉岡の席に移動する。PCの画面にある作成途中の文書と机に上がっていた資料を確認する。すると資料の下からスマートフォンが出てきた。
これはさすがに大事だろう。
「田口ー、吉岡がスマホ忘れてるから、帰るとき持っていってよ」
「あ、はい」
顔を上げて目の前にいる田口に上からスマホを渡す。
ごつい手におさめられたスマホがやけに小さく見えた。
「吉岡って部屋にいないこと多いんすよねー。あ、でも今は具合悪いからいるか」
田口がそう言って、俺は顔を上げたが田口は下を向いていた。独り言だったのか、誰の反応を待つわけでもなくキーボードをたたく音が聞こえ、俺もまた、画面に視線を戻した。
部屋にいないってことは友人のところでも行くのか。ああ見えて実は友人が多かったり。ああ見えてって、幼稚舎からいるんじゃ友人の1人2人くらいはいるだろう。俺は吉岡をどう思っていたんだと苦笑した。
11
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる