生徒会書記長さん

梅鉢

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第一章

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18時を過ぎたあたり、部屋のコールがなった。ソファでウトウトしていたようで、読んでいた雑誌が手から落ちていた。

北村だろうと思ってTシャツだけを着替え、カードキーを持ってドアに向かった。

「暇すぎて寝ていたわ」
「俺ももうちょい早く帰られると思ったんだけど、なかなか帰してくれなくて」

疲れたように笑う北村はどこか満足げでもあった。
本当に帰ってきたばかりのようで朝と同じ格好をしていたが、ネクタイを緩め、シャツは第2ボタンまではずしていた。歩きながらシャツの袖をまくりあげるが、そのけだるさがまた色気を増し増しにして彼女を魅了するんだろうな。にくい奴だ。

でもこいつ、彼女がいるってことは。

「北村って童貞じゃないよな?」
「は? なんだよ、いきなり」
「婚約者いるくらいだし」
「あー、まぁ、ね」

なんだか曖昧な返事だった。
俺なんてこんな閉鎖空間で過ごしてきたから童貞まっしぐらだ。中等部のころは逆に処女を喪失しそうになったことがあるけど。持ち前の運動神経でなんとか未然に防いではきたが、笑えない冗談だ。

「いーなー。俺もやってみたい」
「共学だったら、佐野もすぐにやれたかもね」
「寮生活はだめだね、出会いもクソもないわ」
「まぁね」

食堂につくと少し周りがざわついた。
今まではそれほどなかったが、でもこうやって書記長に会計長が一緒にいたらそうなるのも仕方ないのか。松浦や南ほどじゃないが、役職あるだけで騒がれたりしてしまうんだろう。騒ぐのはやはり1年生で、きっと年上に憧れるものもあったりするに違いない。
適当に考えていると北村が空いていたテーブルに移動していた。

「何ぼさっとしてんだよ」
「分かんね」
「お、今日の魚のA定食、カレイの煮つけだ。これにしよう」

座る前にタッチパネルのTOP画面の“今日の定食”を見ただけで決めた北村は、さっさと注文してしまった。
がっつりとした肉が食いたい俺はカツ丼を頼んだ。肉倍増で。

「そういや先週、発注忘れあって明日の1限ちょっと遅刻していくわ」
「へー珍しいね、お前が忘れるなんて」
「いや、田口に頼んでいたんだが、あいつ脳みそにも筋肉詰まっているみたいで……」
「ま、確かにちょっとおっちょこちょいな感じはしたけど」
「素直だからいいんだけどさ」

力なく笑う北村をみて、なんだか苦労していると感じた。俺のスケジュール管理を頼まなくて本当によかった。
俺は本当に出来た補佐をもらって幸せだわ。

「そういや、佐野たちの仕事たまってんの?」
「いーや、特に急ぎはその日に終わらせるようにしてるし」
「ふーん。昨日生徒会室行ったら電気ついててさ、吉岡が1人で仕事していたから。20時くらいだったかな」
「え? 昨日?」
「そう」

昨日は完全に休みのはずだった。だから金曜に余計に仕事をしたはずだし、この前吉岡が帰ってしまった日の分だってその日に片付けて翌日には持ち越さないよう、溜まらないようにしていたのに。

「昨日は休みにしたはずだよな……。俺は頼んだものもないし」
「まぁ、俺も田口が発注忘れを思い出して、それの確認に寄っただけで何をしているかまでは分からなかったけど」

そうだ、昨日といえば早朝のアレがあった。
いつもの吉岡とはまったく違う雰囲気を醸し出していて、唇が切れてその周辺に痣があったんだ。

「吉岡さ、唇の端っこ切れてなかった? その周辺に痣とかあったり」
「いやー……。そこまでよく見ていなかったから分からないな。痣あったのか?」
「いや、分からなきゃいいんだ。こっちの話」

言えないなら聞くなよ、とでも言う様に右の目だけを細められたが、俺はそれを無視してどうでもいい話題を北村に投げた。

ちょっと気になる。
明日の放課後、傷や痣が目立つようだったら聞いてみようかな。

カツ丼が運ばれてきたも手をつけなかった。なぜなら目の前で丁寧に魚の身がほぐされているのを見て俺も魚を食べたくなってしまっていたから。

「北村、カツ一枚上げるから魚くんちょっと頂戴」
「始まった……」

ごめんね、でもちゃんとカツもあげるから。

「佐野さ、本当、心の広い人じゃないと付き合っていけないだろうな」
「俺もそう思うわ」
「女ってなかなか我がままだぞ」
「聖女を探すわ」
「いねーよバカ」

北村がなんだかんだいいつつ、結局俺を甘やかすからこのぬるま湯に慣れてしまったんだ。
だいたいこの学園にいる限り、出会いなんてないだろうに。
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