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第二章
3
しおりを挟むまだ半分しか食べていない南にかまわず、ご馳走様と手を合わせる。
席を立とうとすると「ええー酷くなーい」と非難の声が。
「だって俺食べたし」
「俺まだ半分あるんだけど」
「待つ義理なくね?」
「佐野ってそんな冷たい男だっけ」
俺も二ノ瀬に感化されてきたのだろうか。南に対しては以前より遠慮ない気がする。
「そういや、佐野って吉岡と仲良しなわけ?」
「ん? 別に仲良くもないけど」
「それでも一緒にご飯食べようとしたのか」
「いや、南と食べるよりいいかなって」
「ほんと酷くない?」
「お前の方がいつも俺に対して酷いと思うけど」
「そう? ふふふ」
楽しそうに笑って、南は指でトントンと俺がいたテーブルを叩いた。座れってことか。
どうせ部屋に帰ってもやることないし、ちょっとくらい南に付き合うか。変わりになにか奢ってもらおう。
「じゃープリンパフェ奢ってよ。そしたらいるわ」
「そんなんでいいの? 安い男だね」
金持ちの癖にケチな母親に育てられたから、奢ってもらえりゃなんだっていいや。
席に座りなおしてパフェを注文する。
南は綺麗なしぐさでゆっくりとハンバーグを口に運んでいて、ああ、やっぱりこいつは育ちがいいんだろうなと感じさせられた。
伏せられた眼も長い睫毛が影を作っていて綺麗だった。
アレだけ適当な生活を送っているのに肌にはにきびの一つもない。
どうなっているんだこいつ。
頬杖をついて南をまじまじと観察していると、それに気がついた南はニヤリと口角を上げた。
「何見とれてんのー」
「別に。いや、でも見とれてたんかな」
「やけに素直だね」
「南は俺にしゃべんなきゃいいっていうけど、そっくりそのままお返ししたい感じ」
「素直でかわいいと思ったけど撤回するわ」
それでも南は楽しそうで。
俺も運ばれてきたパフェを前にニコニコだ。
「あー甘いのうめー」
幸せだなー。単純だと思うけど食べているときが一番幸せだだわ。こうも楽しみがないんじゃ。
無趣味ってつらい。
「そういえば、この前に下界に行ったとき、吉岡みたいなのがいたんだよね~」
「ん? 体育祭の後、俺と廊下で会った日?」
「そう。でも髪型も違うし、めがねもしてないし、かなり柄の悪い連中と大勢でいたから確証もないけど」
「違うんじゃね」
「でもあの集団の中、1人だけ姿勢がよくて目立ってたんだよね。しかも俺って顔の覚えいいから髪形変えたくらいじゃ人を間違わないんだけどさー。まぁ、違うのかな」
確かに南は人の顔を覚えるのが得意で、だからモテルってのもあると思う。
吉岡が街でガラの悪い連中といたというのも、なんだが似合わない話だが、でも吉岡には殴りだこや唇を切っていたことがある。
二ノ瀬は格闘技や武道をやっているが吉岡の名前を見たことがないといった。
だから喧嘩で出来たたこじゃないかな、とも。俺が見たときも髪形は違っていたしめがねもしていなかった。
この話、色々一致するんじゃないのか。
考え込んでいる俺を気にするでもなく、さらに南は続けた。
「ほとんどのやつらがスキンヘッドで、みんな黒い上下のスウェットやら黒いTシャツとかきていたからかなり目立ってたなー。あんなのが近くにいたら一般人は避けるわ」
なにやら本当にガラが悪そうだ。
これは午前0時くらいの駅前での話だという。
そんな時間にウロウロしているお前も決してガラがいいとはいえないぞ。育ちがいいだけに勿体ないやつだ。
でも吉岡はあの日、夏だというのにグレーの長袖パーカーにくたびれたデニム姿で、全身黒ではなかった。
今の南の話は本当だろうが、それが吉岡本人なのかは5分5分かな。
本人に聞けば手っ取り早いが、なんだか聞きづらい。あの、早朝に出会ったときの吉岡の態度を思い出すと、吉岡は聞かれたくないだろうと思った。
いきなり目の前に何かが伸びてきて、びっくりして顔を上げた。
伸びてきたのは南の手で、俺の前髪を一度すくい上げてから離した。
「お前すごい顔してる。嵌まってんの?」
「嵌まってる? 何に?」
「うん? ふふふ。知らずに嵌まってるのか。いいんじゃない、佐野もたまにはこういうこともないと」
意味の分からないことを呟いて、南は立ちあがった。ちょっと待て、俺はまだパフェを食べ終えていない。
「おい、お前、さっきと逆じゃね?」
「ん? ああ、佐野はまだ食べてたんだ。でも俺これから用事あるから」
ムカつく~~!
さっき俺が帰ろうとしたら酷いとかほざいていたのに南は涼しい顔してさっさと帰ってしまった。
二度と一緒に2人で食べるもんかと誓った。
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