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第二章
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しおりを挟むあれから校舎内での小さな喧嘩が3件あったくらいで何事もなく過ごした。
もちろんそのくらいだったら風紀だけで十分なため俺たち待機組みの出番などなかった。
ミスコンの締め切りギリギリになってまた朝日山に入れたのだが、やっぱり二ノ瀬クラスがいるとなると優勝は難しいだろうな。
発表の時間になり、気になっているからかそわそわしてしまっていたのか北村が体育館にいっていいと言ってくれた。
まじ、いいの。
「気になるんだろ」
「うー、ん。そうね、ちょっとみたいかも」
「いいよ、何もないと思うし」
「ありがとー」
やはりミーハーだった俺。
こういった祭りごとも嫌いじゃないしな。
いそいそと席を立つが同時に後ろからも席を立つ音が聞こえた。
初めての学祭だ、味わっておくといいさ、吉岡も。
廊下に出ると色々な男の臭いですでに充満されていて少し気分が悪くなる。
体育館のざわつきは今日一番だ。
「吉岡は誰だと思う?」
「見当もつきません」
「だよな。でもミスターは南で決まりかな」
「副会長に入れたんですか?」
「入れるわけないじゃん。さっき見ていたろ、投票したとき。朝日山しか入れないってか、ミスターなんてムカつくだけだし」
「そうですか」
体育館のステージとは反対の壁に向かう。皆前に集まっているからこの辺で眺めようと思う。
歩いている途中、
「あ、書記長だ」
「6位の人だ」
「ミス佐野チャンだ」
なんだかんだと俺をイラッとさせるのが皆うまいわ。
どすどすと音がするくらい大げさに歩くと皆目を逸らしてくれてちょうどよかった。
体育館の壁に寄りかかって腕を組んだ。
吉岡も俺の横でステージを見ている。
このくらいざわつきがあって、今から起こることを待っているという名目があると、この吉岡との沈黙も決して苦しくない。
まぁ、心地いいわけでもないが。
パッと体育館の照明すべてが落とされ、あたりは真っ暗闇となった。
光っているのは非常口の案内板だけ。
少しずつざわつきがなくなっていき、左右上からステージにスポットライトが当てられてみんなステージに注目し始める。
『あ、……あーテステス。マ、マ、マイクテスト中』
放送からは聞きなれた声がしたが、あまりにも緊張しているのか言葉がすらすら出ていないこの感じに笑ってしまった。
まさか田口が司会進行役になっているとは思わなかった。てことは他のやつらは2位以内に入っているということだ。
ドンマイ二ノ瀬。
『て、てす!』
ひど過ぎるだろ。
注目していた生徒達からのブーイングも酷い。
「あはは、田口って、あがり症なんだな」
俺は声を出して笑って、隣に笑顔を向ければ薄明かりに照らされていた吉岡の横顔が。
鼻筋は通っていて、唇や顎のラインも綺麗だな。
そんなことを思っているとこっちに振り向いて、視線が絡み合う。
ステージ側の顔は少しだけ光が当たっていたけど、反対側は影を作っていてあまり見えないが暗闇の中オレンジに照らされている吉岡がぼんやりと浮かんで幻想的で綺麗だった。
いつものくせで気づかないうちにじっと見てしまっていた。
だから吉岡の顔が近づいてきてもただ見とれていた。綺麗だな、こいつ、って。
「逃げないんですね」
え?
と、言葉にする前に唇が重なった。
キスをされていることより、気になったのは吉岡のあの綺麗な顔で、でも近すぎて表情が分からない。
ゆっくりと離れていくもんだから、ああ、またこいつの顔が見られる、と思ったけどこいつ今俺にキスしやがった。
この幻想的な光の中でどこか夢心地でいたが、事実をようやく把握した。
また、普段見せないような柔らかい笑顔を向けてくるものだから俺は本当に現実なんだろうかと疑ってしまう。
俺のファーストキッスをどうしてくれるんだこいつは。
そして今頃やってくるドキドキはどうしてくれるんだ。なぜときめかなきゃならん。
バクバクと煩い心臓を悟られたくなくて努めて冷静に声を掛けた。
「何すんだよ」
「キスですけど」
笑顔から打って変わってあの涼しい顔に戻った吉岡は右の眉だけを上げてなんでもないように言う。
「ダメでした?」
「いや、ダメだろ……なんなのお前」
「したかったからしたんですが」
「したかったから……?」
「佐野さん綺麗だったんで」
「……あそ」
「あ、もしかして初めてでした? だったらすみません」
「んなわけないし!」
即否定したが俺のファーストキッス。
でもそんなことを知られてしまった日には恥ずかしくて生きていけん。しかも『綺麗』とか俺と同じこと思っていたみたいだし。
しかも吉岡は初めてじゃないのかよ、余裕綽々な態度が腹立つ。
じわじわと熱くなってきた顔はきっと赤いはずだが、オレンジの薄明かりでよかった。ばれずに済みそうだ。
「……お前、こんなこと誰にでもしてんの? そんな真面目そうな顔してさ……」
恥ずかしさを紛らわしたいのと、ちょっと嫌味を言いたかった。俺ばかりが振り回されて面白くない。
「そうそうできないでしょ。男相手に」
呆れを含んだ、そして砕けた言い方に少しイラッとしてしまう。
吉岡はステージを向いたままだったから、俺だってずっとステージを見たままだ。
「俺男なんだけど」
「知っていますけど」
「じゃあなんで俺に」
「したかったから、だけじゃダメなんですか?」
「……もういい」
毎度これだ。質問を質問で返される。
こいつと話をしているとなんだか堂々巡りだ。
いつまでも俺の行き着きたいところへは行かないだろう。
“たかがキスくらいで騒ぐな”とでも言われているようで嫌だった。
“男のくせにキスくらいで騒ぐな”と。
吉岡に綺麗と言われたのが思いのほか嬉しかったが、嬉しいなんてことを思うのは俺がやっぱりおかしいせいなんだろう。
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